現代はダイエットのノウハウで溢れている

  ハンク・グリーン氏:みなさんこんにちは。今日は、食事制限なし、運動なしで、たった1週間のうちに4ポンド~9ポンド(1ポンドは0.45キログラム)体重を落とす方法をご紹介したいと思います。 

秘密はこの特製ピーナッツソースにあります(笑)。 

特許取得済みのこの脂肪燃焼特製ピーナッツソースを、小麦粉トルティーヤにたっぷり塗りつけ、それでアメリカンドッグを包みます。これだけを10日間食べ続けてください。アメリカンドッグのスティックを取り出すことをお忘れなく。これだけを、くどいようですけれど、これだけを10日間食べ続けるのです。 

しばらくすると、あなたは顔と足に心なしかお肉がつき始めたような気がするかもしれません。心配いりません。そんなものはすぐに消え去りますから。そうやって10日間過ごした後は、好きな物をなんでも制限なく食べてください。すると……。

じゃじゃーん! お約束します。あなたもライアン・ゴズリング(俳優)のような腹筋を手に入れていることでしょう! 私もこのシャツの下に隠れている腹筋をみなさんにお見せしたいところなのですが、脱がないというスポンサーとの契約事項があるため、残念ながらお見せすることはできません。 

……ふざけ過ぎましたかね? そう感じた方がいらっしゃったら謝ります。でもこのバカげたお芝居には意味があるんです。現代社会において、痩せるためのノウハウがどれだけ溢れかえっているか、ということをお伝えしたかったのです。

なぜでしょうか。1つは、人々は体型をとても気にしていますから、痩せることをうたい文句にさまざまな商品を売りつけることができるからです。しかし理由はそれだけではありません。もう1つの理由は、近年アメリカ人がどんどん太っていっていること、それもただ太っていっているのではなく、とてつもないスピードで肥満化していっていることです。 

肥満はアメリカだけの問題ではない

ここにアメリカの地図があります。CDC(米疾病対策センター)が肥満に関するデータ収集を始めた1980年代、アメリカ成人の肥満率は約10パーセントでした。 

しかし時間の経過とともに事態は恐ろしく深刻化していきます。

国全体が、とりわけミシシッピ州が……。ミシシッピ州! 一体なにをしたらそんなことになるんだ!? 止まってくれ!   

過去30年の間に、アメリカ人の平均肥満率は、多くの州で30パーセントを急速に超えていきました。

私は誰の気持ちも害するつもりはありません。でも私たちアメリカ人は太っているのです。そして太り続けているのです。この問題はなにもアメリカに限ったことではありません。ものすごいスピートで肥満化している自分たちを自虐的に笑うことが多いアメリカ人ですが、実は世界中の先進国で同じ問題が起きています。

地球の人口は現在70億人ですが、肥満について調査している研究者の多くが、2015年までに23億人が肥満になると予想しています(2012年時点)。なんということでしょう! とんでもない肥満人口です!

肥満問題はなぜ急速に深刻化した?

ここではっきり言っておきますが、減量の必要性について医者たちはあまり声をあげようとしません。なぜなら彼らは、健康食品産業の恩恵を受けているからです。これは私たちにとって実に不幸な現実です。

必要以上の体重をひっさげて生活することは、私たちを不幸な死に追いやります。心臓病やガンといったすでにお馴染みの病気はもちろんのこと、近年は2型糖尿病も爆発的に増加しています。

客観的に言って、太っていることにメリットは少しもありません。しかし疑問が残ります。この肥満問題はどのようにして、そしてなぜ、これほど急速に深刻化したのでしょうか? 

一体なにが起きているのかを見ていきましょう。

肥満に関する研究データが示すところによると、私たちの生活実態は、1日中ただ座ってポーク・クラックリング(豚の皮を油で揚げた食べ物)を食べ続けているようなものだそうです。

私、実は今初めてポーク・クラックリングを口にしました。なぜ今まで食べなかったかって? どうしてこんなもの食べたいと思うんですか? これは食べ物なんかじゃありません!

ごく一部の人たちの生活スタイルのことを指しているのではなく、みんなです! 小さい子ども、お年寄り、お金持ち、貧乏人、アメリカに移住してきたばかりの人、大昔にメイフラワー号で移住してきた祖先をもつ人……みんなそうなんです。

常識的に考えても、科学的に検証しても、肥満の問題が数字のゲームであることは明らかです。つまりそれは、摂取カロリーと消費カロリーのバランスであり、エネルギー保存の法則です。

医者は健康な食生活と運動の重要性を繰り返し強調しますが、これは確かに的を射ています。これらを実践すれば、私たちはごくふつうの健全な体型を維持できるはずなのです。

にも関わらず、買い物カゴのなかをざっと見れば、私たちがいかに不健康な食生活を送っているのかがわかるでしょう。生活習慣を見つめれば、これは私の場合ですが、自分がいかに運動していないかがわかります。私は座っているのが大好きです。

ところが医者たちは、この肥満の問題はただ悪い食生活と運動不足だけに起因しているのではない、と確信し始めています。アメリカに、そして世界全体に、これほど深刻な肥満問題が蔓延している理由はほかにもあるはずなのです。

事実、科学者と医者は、肥満の問題を食生活と運動だけに結び付けてそれを実証しようと何度も試みましたが、そのたびに失敗しています。

例えば、2000年にはこんな実験が行われました。1,700人の子どもたちを40の異なる学校から集めて、彼らを2つのグループに分けました。

子供にとっては残酷だったかもしれませんが、次のような実験が行われたのです。一方のグループには、よりよい体育の授業とよりよい食事が与えられました。もう一方のグループには、少ない体育の授業時間と悪い食事……これはとりわけ悪い食事という意味ではなく、従来通りの食事という意味ですが、それらが与えられました。

学校給食がどんなものだったか覚えていらっしゃる方なら、従来と同じ食事と聞いてそれがなにを意味するか理解できるはずです。決してよいものではありません!

3年後、世界の秀才中の秀才たちが集まり、手に入れうる最高の研究器具を用いて、膨大なお金と時間を費やし、この実験結果を得ようとしましたが、両グループの子どもたちのBMIに違いはみられませんでした。    研究者たちは現在、この爆発的な肥満人口増加の原因を探るために、もっとマクロな視点をもって、人類全体の生活様式の変化や人の遺伝子レベルの変化にまで注目しています。私たちはもう肥満の原因を自身に求める必要はなくなるかもしれません。 

現代人の肥満の原因として考えられる説

  1つ目の原因は、睡眠の不足です。人間の睡眠時間について厳密なデータをとることは難しいのですが、1960年代と比較して、現代人の睡眠時間は一晩につき2時間ほど短くなっていると考えられています。私たちは忙しくなりすぎたのです。

睡眠時間が短くなればなるほど、人のBMIがあがることは多くの研究で実証済みです。私が1日10時間から12時間は寝るように心がけている理由はここにあるんです。

実はこのデータから結論を導き出すことは簡単ではありません。なぜなら、肥満は睡眠障害を引き起こし、人を寝付きにくくさせるからです。つまり、睡眠不足が肥満を引き起こしているのか、それとも肥満が睡眠不足を引き起こしているのか判断するのは難しいのです。

しかし科学者たちは、睡眠の妨げが肥満の引き金になることを裏付けるに十分な研究を行っており、そればかりか、なぜそうなるのかというメカニズムも、少なくとも次の説に関しては解明済みです。

そのメカニズムとは、十分な睡眠がとれないでいると、レプチンとグレリンという体内ホルモンの調子が狂ってしまいます。するとこれらのホルモンは、体が欲しているのは睡眠であるにも関わらず、体に対して「お腹が空いているぞ」というサインを出してしまうのです。    2つ目の原因は温度調節です。すぐにはピンとこないかもしれませんが、私たち人間は温血動物です。生存するのに最適な体温を保つためにエネルギーを消費しています。体温が高くなりすぎても低くなりすぎても私たちは生きていくことができません。

過去30年の間に、室内環境は私たちが理想とするものにどんどん近づいていっています。人類はすばらしい環境コントロールシステムを手に入れました。外が暑い時には室内を涼しく設定し、外が寒い時には室内を暖かく設定することが可能です。

私はなにもこのシステムに反対しているわけではありません。それどころか私はこのシステムが大好きです。家に帰って来た時に、凍えるほど冷えた部屋に足を踏み入れずに済むのですから。しかし、体温を適温に保つために消費されるはずの多くのカロリーは体に残ったままになります。室内がいつも適温に保たれているため、これらのカロリーはもはや使い道がなくなってしまったのです。   3つ目の原因は、多くの人々がタバコをやめたことです。誤解のないように言っておきますが、喫煙は肥満よりもずっとずっと有害です。でもニコチンに食欲抑制の働きがあるのも事実です。

ですからタバコを吸えば、食欲は減ります。もっと悪いことに、かつてタバコを吸っていた人が禁煙をすると、食欲は増します。同じような意味合いで、体重を減らすにはクスリがもってこいだという話を聞いたことがあります。クスリをすれば歯や毛が抜けていきますから、これらを失う分だけ体重は軽くなるという悪い冗談です。

とにかく……私が言いたいのは、タバコには手を出すべきではないということです。もちろんクスリにも。    私たちが太り続けている4つ目の原因は工業用化学品です。私もあなたも、アメリカ人の誰もが、無数の工業用化学品にさらされて日々生活しています。樹脂、溶剤、香料、染料……チキンナゲットはこれらの物質すべてを含みます。私たちは工業用化学品を飲み込み、吸い込み、肌から吸収しているのです。

研究者たちは、実験用マウスを……丸々太った小さなねずみたちには気の毒ですが……キサクロロベンゼンという産業用殺虫剤にさらして実験をしました。その結果これらのマウスは、通常のマウスの半分の量のエサしか与えられなかったにも関わらず、通常のマウスに比べて顕著に体重が増加しました。恐ろしい現実です。 

原因はあなたの母親かもしれない

  ほかに考えられる肥満の原因、それはあなたのお母さんです。残念ながら、あなたは「太りやすさ」というものをもって生まれたのかもしれません。

太り過ぎの女性は太り過ぎの男性をパートナーに選ぶ傾向があります。その結果、その子どもの染色体は太り過ぎの遺伝子ファクターを2つ持つことになります。

また、妊娠中に太り過ぎてしまった女性や、妊娠糖尿病を患った女性から生まれた子どもは、成長してから肥満になる傾向がみられます。

まだあります。あなたがこれから先の人生で肥満になるかどうかの確率は、あなたのお母さんがあなたを産んだ時の年齢に影響されるのです。初産の平均年齢は、1970年は21歳でしたが、2000年には25歳まで上昇しました。女性が子どもを産むのを5年待つごとに、その子どもが肥満になる確率は14パーセント上昇するという奇妙な研究結果さえ報告されています。

なぜそうなるのかをお伝えしたいところですが、まだ誰も解明できていません。

肥満の原因が母親にあるとするもう1つの理由がエピジェネティクスです。お母さん、なにもかもあなたのせいにされてしまってお気の毒です。

このエピジェネティクスについて取り上げた動画も視聴できますので、興味のある方はぜひご覧になってください。この動画を通して、あなたが生まれる前、あなたのご両親があなたに対してなにをしでかしたか、その全容を知ることになるでしょう。

見たらきっと「なんてこった!」となるはずです。多くの人が、自分の遺伝子は自分のものだと思い込んでいるかと思いますが、実は遺伝子によって受け継がれる情報の中には、ゲノムを超越したところからくるものもたくさんあります。

エピジェネティクスという名称はまさにこの「遺伝子の上」を意味します。このエピジェネティクスな遺伝情報は自分のたった1つ前の親世代に作りだされることもあり、それがあなたのゲノムを大幅に書きかえることもありえるのです。

つまり、あなたのお母さんがどのような食生活を送っていたか、タバコを吸っていたか、どれだけのストレスを抱えていたか、などの情報はすべてあなたが肥満になる確率に影響する可能性があるのです。

原因はあなたの母親かもしれない

  そして最後の肥満の原因として腸内細菌が考えられます。私たちの腸内に生息する細菌は驚異的です。私たちは自分の体を、独立した1つの大きな固体のように捉えがちですが、実は共生のエコシステムで成り立っています。

体内に生きる細菌細胞の数は、私たちの体をつくる細胞の数よりも多いそうです。なんだか不思議な気持ちになりませんか?

腸内細菌はとてもパワフルかつ働き者で、摂取した食物を代謝したり、ある特定のビタミンを作りだすのを助けてくれます。痩せている人は肥満の人に比べて、この腸内細菌の量と種類が豊富です。

「それを知ったところでどうすればいいの?」「健康な人の腸から細菌をとってきて、自分の腸に移せとでも言うの?」……実はその通りなんです。しかもその方法はいたってシンプルです。ただし、実際にやってみようと思う人がいるかどうかは別の話ですが。

この方法は「糞便移植」と呼ばれます。その名の通り、つまり……はい。健康な人の便から腸内細菌を取り出して、不健康な人の腸内エコシステムに取り込む方法です。これが効果抜群なのです。この方法によって、非常に深刻な腸内感染から肥満に至るまで、あらゆる問題が解決可能です。    結論をまとめましょう。私が考案した脂肪燃焼特製ピーナッツソースはなんの役にも立ちません。その代わりとなるダイエットの処方箋はこちらです。

1つ、もっと寝ましょう。 

2つ、お母さんが若いうちに、あなたを産んでもらいましょう。 

3つ、生まれる前に次のことをチェックしておきましょう。あなたのお母さんが喫煙していないか、食べ過ぎていないか、痩せた人をパートナに選んでいるか。 

4つ、家では暖房も冷房も使わずにいましょう。お金の節約にもなります。 

5つ、工業用化学品に汚染されていない違う惑星に移住しましょう。 

これらに健康な食生活と適度な運動を付け加えれば、もしかしたらさらなる効果が期待できるかもしれません。