「死ぬほど恐ろしい」は比喩ではない

ハンク・グリーン氏:みなさんのことは驚かせたくありません。だって、もし驚かせてしまったら、はからずもあなたたちを殺してしまうかもしれないので、心配なんです。

実は、「死ぬほど恐ろしい」という言い回しは、ただの比喩というわけではないのです。

おそらく、ほかの動物であれば、恐ろしさのあまり死ぬという現象が起きるということを聞いたり、見たりしたこともあるでしょう。小さな哺乳類や鳥はよく、捕まえられた時のショックで死にます。それは人間でいうところの恐怖による死というものでしょう。

自分はスズメやトガリネズミよりはたくましいと思いたいかもしれませんが、完全に健康な人ですら、あと1回怖がるとゲームオーバーになる可能性があるのです。

ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院の神経科科長であるマーティン・A・サミュエルズは、まったく健康な人が単に恐怖だけで死んだという報告書を多数集めました。

遊園地の過激な乗り物に乗った子ども。

住居侵入や強盗の被害者。

そして、全く致命的ではない自動車事故にあった人などです。

地震や暴動のような大きな精神的衝撃が発生する際には、不可解な心不全の割合が上がることも分かっています。2010年には、ホラー映画を何本も見たインドの学生が実際にショック死しています。この恐怖により誘発される死は、実はストレス心筋症と呼ばれる急性心不全の一種です。

ショック死のメカニズム

家の火事や下着を入れた引き出しの中にいるコブラ、それに銃を持った覆面の男などによってものすごく怖い目にあったとしましょう。

パニックに陥った脳は、すぐに頼りになる闘争・逃避反応を大々的に促進し始めます。

この反応は、反射的もしくは本能的な神経系の機能で、生命を脅かす事態にいきなり直面した時にすごいことになります。

闘争・逃避反応が起きると、腎臓の上にある副腎が、アドレナリンとカテコールアミンという別のストレスホルモンの津波を引き起こし、血圧を高くさせ、心臓をどきどきさせ、筋肉を緊張させます。

要するに、コブラの牙のある小さな顔を殴るか、素早く逃げるように興奮させるのです。進化論的に言えば、それは生き残るためのなかなかいい反応です。でも悪い面もあるんです。

多量のアドレナリンは有毒になり、肺や肝臓、腎臓、そして最も直接的な危険にさらされている心臓をとくに傷つけるのです。

多量のアドレナリンが心臓になだれ込んでいくと、心臓の鼓動の安定を保つ特別な筋肉と神経組織がアドレナリンでいっぱいになります。アドレナリンはこれらの細胞の特殊な受容体を活性化させ、多くのカルシウムイオンを流入させます。そのことが次に、神経細胞と筋細胞を活性化させるのです。

アドレナリンが動脈をふさぐ

これらのイオンのシグナルは一斉に筋組織を収縮させます。もしアドレナリンが増え続けたら、筋組織は弛緩しません。そしてもし弛緩しなかったら、心臓は生き残るのに必要な、安定した律動を取り戻すことができないのです。

この恐怖により誘発された不規則な心臓の律動は、心室細動と呼ばれています。つまり、体中に血液を送り出すのを妨げるような方法で、心臓の心室を震えさせるのです。この調子はずれの収縮は時に、心臓の形を実際にゆがめることもあります。ある一部を膨らませ、ほかの部分をつぶすのです。

この病気を最初に確認した日本の医師たちは、どうやらこの哀れな歪んだ心臓が日本の伝統的なタコを捕る道具と似ていると思ったらしく、壺のような仕掛けにちなんで、この病気を「たこつぼ心筋症」と名付けました。

しかし西洋人の中には、この病気をよりロマンティックな「ブロークンハート(失恋)症候群」という名前で覚えている人もいます。

もしすでに心臓発作の危険にさらされている人ならば、突然の激しい恐怖により、典型的な心臓発作が起きることもあります。

心臓発作が起こると、多量のアドレナリンが動脈の中のねばねばした血小板を不安定にさせ、動脈を完全にふさいでしまうのです。

研究者たちは、不安障害の病歴や未知の遺伝的変異が、アドレナリンの爆弾に対して心臓がどのように反応するかを決める一因かもしれないと調べ始めています。しかし現在のところ、医師は誰が恐怖による突然死の危険がより大きいのかを断言する方法を知りません。

それを発見する日まで、覚えておいてください。もちろん恐怖による死に怯えながら生きたくはないものですが、おじいちゃんをあまりひどく驚かせることについては、考え直したほうがいいかもしれませんよ。