Googleとの戦いを見据えた経営体制

──電気自動車などもこのままではGoogleの独壇場になってしまう可能性がありますね。

村上憲郎氏(以下、村上):社員から「Googleと組むことはあるのですか?」という質問をたまにいただくのですが、私は手を組む可能性よりも、Googleと戦う可能性のほうが大きいと考えています。

Apple、Amazon、Googleに代表される企業などは、そのうちコンペティターとして立ち塞がってくる可能性も視野に入れ、それに対して拮抗できるようIoTにおいて日本を代表する企業を目指そうと社員の方々には伝えています。

──エナリスの経営のなかで、今後変わっていくこと、これまでと変わらないことはなんでしょうか。また村上流の経営についても教えてください。

村上:みなさまのご存知の通り、あのような問題を起こしてしまい、先ほども言及いたしましたが、再発防止に務めるとともに、コーポレートガバナンスに関しても、今まで以上に目を向けて整備を行っていきたいと感じています。

取締役の機能を強化するとともに、社外取締役を増員、また経営監視委員会を設置することで、社内外両面から会社を見ていく体制をとっていきます。

特設注意銘柄に指定を受けているので、エナリスをここから解消させていくことは株主の方々に対する最大の責務だと感じ、それを粛々とやっていく所存です。

今回、勇み足を起こしたのは、電源開発事業です。現在仕掛かっている案件についてはきっちり調査して仕掛残高や棚卸資産などを着実とキャッシュに換えていくことで財務体質を強化するという意味合いにおいてやり続けます。しかし、新規に取り組むことはないでしょう。

一方で、(エナリス代表取締役)渡部(健)さんが取り組んでいる電力システムの改革のなかで、しっかりと需給バランスを微調整していきます。

また、経営についてわかりやすいお話をすると、エナリスはなぜかドレスコードが厳しく設定されていました。ですが、スーツが仕事をするのではないと私は考えています。

就任時の挨拶で私、「夏は短パンにアロハで仕事するからね(笑)」と言いました。ドレスコードのような堅苦しいことはなしにして、それが象徴するなにかというものを社員には感じとってほしいと思っています。

現場主導型の村上メソッド

──社員のやる気を引き出していく村上様ならではの手法はありますか。

村上:基本的に、そこの部門をおやりになっている方々の実力が、この会社の実力なんですね。だから、「どうしましょう?」というふうに聞かれても、「そんなのがわかるんだったら、社長なんかやっていないよ、現場やっているよ」というね。

最終的な意思決定の責任は経営陣にありますが、少なくとも一つひとつの業務をこなしていくことに関しては、現場主導型です。

現場が一番知恵を持っているべきだと思っていますね。現場が、「A案とB案で迷っているのですが」と相談を受けた場合、「あなたはどっちだと思うのですか?」と私は聞きます。

そして、「A案だと思うのですが」と現場が言うのであれば、それはもうA案です。その応答に象徴されるように、自分が任されていることを感じてもらいたいですね。

社員の方々が、自分の後ろを振り返ったとしても、この担当は自分以外誰もいません。そのような人物として、自分はこの会社の、ここの部門に携わっているということを日々感じてほしいと思っています。

──実際に社長に就任してみて感じた、エナリスの強みはどのあたりですか?

村上:やはり、各部門には知恵者とノウハウを蓄積した人たちがいます。これは強みです。少なくとも電力に関わるところで、いろんな苦労も経験し、失敗もしてきた方々が揃っているので、それなりのノウハウが蓄積してきているということは言えると思います。

とくにオペレーションの部門は強いです。仕組みとして、スケーラブルに完成されています。もしも、これから取引量が増えていった場合も、十分対応できるかたちができ上がっています。この部分は、大したものだと正直思いました。

かつてのDDI、ソフトバンク、ヤフーのような役割を担っていく

 ──今後、エナリスは社会からどのような見られ方をされていきたいとお考えですか?

村上:繰り返しになりますが、電力システム改革というのは、どこかにもし前例を見つけるとしたら、電電公社の民営化のプロセスをどなたも思うことでしょう。

その中で稲盛さんのDDI(現KDDI)のような役割。あるいはソフトバンクの孫さんやヤフーの井上さんが果たしたような、あのような役割を担っていきたいと考えています。

わかりやすくお話ししますと、10年先を見た際に、「そういう会社になったよね」というようなところを目指したいです。

そして、そのような期待をしていただけるように、遅れをとらずに間髪を入れず、着実に施策なり、製品なり、サービスをクリエイトできるような会社になっていきたいと考えています。

今回このような問題を引き起こしてはしまったのですが、そこから立ち直って、次から次へと「お、次はこの手か」のように期待を常にされていきたいです。

電力自由化により、いよいよ来年2016年4月から一般家庭のお客さんの8兆円の市場が開きます。

それは、今までの10兆円規模の我々が行ってきたビジネスの世界とはまた違うノウハウの世界です。

正直、エナリスだけでやれるのかと言うと、首を素直に縦には振れません。そこの部分は様さまざまな面でのパートナーシップを考えています。

電電公社の民営化以来、30年間で起こったことがこれからまた違ったかたちで起こるということで、社員の方々にはエナリスがエナリスのままいくとはお話ししていません、言い切ってしまうとそれは不誠実ですので。

社員に言っているのは、そのようなダイナミックな産業の発展のなかを雄々しく生き延びていこうと、楽しく仕事をしていこうと。

とてつもなく、わくわくするような事柄がこの10年で起こる。そのなかで、エナリスという会社の名前が残っているとありがたいことですが、別に目標にする必要もないと思っています。

「今、あの何とかと言う会社は、1回とんでもないことをしでかした会社なんだ」そのようなことを後々言っていただけるような会社として、社員と一丸となって、役割を果たしていきたいと思っています。

イノベーティブな革新を常に期待されて、結局、10年後の革新的なサービスは「もともとエナリスの時代に連中がこつこつと暖めていたものだよね」ということを言っていただけるような、そのような期待をしていただける会社であり続けたいと思っていますし、社員にも、そのような話をしています。

エナリスの経営課題

──エナリスさんの経営課題について教えてください。

村上:やはり、管理体制については重要課題です。そしてもう1つはBtoCの力ですね。今まで、BtoBが中心でしたので。

BtoCという力を、どう獲得していくかということが課題です。HEMS(Home Energy Management Systemの略。家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム)の分野ですね。

Googleが約3300億円で買収したNestのようなBtoCのスマートデバイスを手がけていくということになると、これは正直言って誰も持ち合わせてはいない専門的なものになるので、どう作り上げていくのかという課題を担っていると思います。

渡部健氏:コンシェルジュというよりも、執事やバトラーサービスのようなものです。

村上:バトラーサービスですね。先ほど申し上げたように、最後に出会う強敵は、Apple、Amazon、Googleですね。

ガジェット、自動車、リモコンなどがブランド、OSを問わずNestのサーモスタットと会話し、連携動作することが可能になる。

村上憲郎氏が語る、エナリスに参画する魅力

──今のエナリスに参画する魅力を教えてください。

村上:会社、事業の立て直しは、ビジネスの専門性を見つけるという意味では、普通の会社で、自分の役割のみを担っているのとは違う意味でさまざまなことが身につくと思います。皮肉ですが。

電力システム改革に携わっている会社としては、極めてユニークなポジションにいるのでお客様は離れないで居てくださっており、新規のお客も獲得できています。

また会社の中では営業なりすべての面で新たな仕組みをどんどん作っていっている段階です。もちろん仕組みに対してのトレーニングも行っています。

このような理由によって、このような手続きになりますという、コンプライアンスや、他の面に関してもさまざまなトレーニングが行われているわけです。

そうすると、「普通知っているでしょう?」という、普通の立派な会社だと、すっとやり過ごしてしまいそうな部分を、懇切丁寧に、「なるほどこのような問題を引き起こした結果、こういうことなのか」のようなことが、とりあえずは1回トレースできます。

このようなチャンスは、なかなか得ることができないので、先ほどから皮肉な状況ではありますけれども、問題を抱えた会社がそこから立ち直って行くというプロセスを経験するということは、得難いものがあると思っています。

──エナリスに参画する未来の仲間にメッセージをお願いします。

村上:この68歳の老人が、これから10年かけてこれだけワクワクして若く話すことができる世界がやってきます。

エナリスに今直接参画できることというのは楽天が、ソフトバンクが、ヤフーが生まれる瞬間に参加できますよという話です。

滅多にないと思います。産業が変わるその現場に、もうすでにとっかかりができている会社に参加していくということはとても貴重な機会だと思います。

──素敵なお話、ありがとうございました。