生産性向上のカギは教育にあり

ミカール・ルイス・ベルグ氏(以下、ベルグ):ノルウェーの生産性が高いのは、北海油田があって石油がたくさん採れる。人口が少ないところで生産をものすごく高いお金に変えるからですね。

でも、今後どうしていくかということです。ノルウェーもいつまでもオフショアと北海油田をオイル、ガスに変えることができない。今は石油価格が非常に下がっているので、多くの企業が生き残るためにはチェンジしないとダメなんです。

ノルウェーの人口は650万人しかいないので、国内市場を見るよりも、初めからインターナショナルな市場を目指さないとダメだということで、柔軟性を持っていないとやっていけないんですね。

なので、今ノルウェーでは生産性がキーワードとなっています。1970年代以降、北海油田が開発されて女性も働き始めて給料も高くなったんですけど、今の人件費が高いなかで、みんな新しい業界を新設して機会を開発しないとダメってことで。

常に生産性を上げるために努力しているなか、一番カギとなっているのはもしかすると教育かもしれません。人件費が高い国では、工場とかモノを作るだけではなくて、教育と研究から生まれるアイデアを応援しないとダメだと思うんです。

情報共有のあり方そのものを変える

北浦正行氏(以下、北浦):ありがとうございました。林さんはいかがですか? リクルートさんは働き方改革がだいぶ進んでいらっしゃいますけれど、まだまだ課題があると思うんですね。

どんなところがリモートワークの課題としてあるのか、あるいはこんなところをもっと考えていきたいということを、ICT利用なども含めてお話いただければと思います。

林宏昌氏(以下、林):課題はいっぱいあります。それを1個1個、日々改善しながらやっていく、そういう積み重ねのやり方で進めています。今、僕らがやらないといけないと思っているのは、情報共有のあり方そのものを変えていくということです。

会議の中身を見ていくと、情報共有の会議というのがけっこう多いんですね。上長に今やっている仕事の進捗を共有するとか。あるいはプロジェクトの状況を仲間にシェアするということがあるんですけれど。

それを少なくしていくためには、それぞれのフロアで個人のPC、あるいはiPad、そういう端末のなかに情報があった状態のものをすべてクラウド化し、みんなが見れるようにしておくことがすごく大事だろうなと。

あるプロジェクトについて今どんなコミュニケーションがされているのかとか。あるいは部下の資料の出来具合はどうなのかということが、上長が気になったらいつでも見れるようにして、わざわざその都度報告をしていくやり方を変えていくべきじゃないかなと。

クラウドにデータを集約し、情報を可視化

そうしておかないと、(リモートワークをしていく上では)マネジメント側はずっと不安なんですよね。「あの仕事はどうなってるんだろうか」と対面で聞けない。あるいは顔色を見ながらアドバイスするみたいな、匠の技みたいなものがあるんですけど、そこができないとなると、みんなが今どんなコミュニケーションをしているのか、情報のアップデートが常にオンタイムでわかるというかたちにしておかないと、マネジメント側も不安ですよね。

そのために説明のためのミーティングがまた増えるという構造になってしまっては、リモートワークをしている価値が半減してしまうので。いかにふだんからパワーをかけずに情報共有していくのかということが次の課題かと思っています。

まさにそこはITを活用して、情報共有のあり方を変える。ミーティングについては、基本的には発散型で、ホワイトボードに書きなぐりながらするようなクリエイティブなものだけを対面でやるという方向に向けていけないだろうかと思っています。

北浦:その場合、クラウドは有効ですか?

:有効です。それがないと、それぞれの人のPCに全部情報がバラバラに入っているということになるので。これまで経営者やマネジメントの人たちが、「あの情報はどうなってるんだ?」と人に聞いて、その人が自分のパソコンのなかから情報をまとめて伝えていくということがあったんですけど、そういうデータが全部一元になっているので、気になったら自分でそれを開けてみて、見ればいいという感覚です。

わずらわしい切り替えをなくす集約型ツール

北浦:いかにクラウドを活用していくか、クラウドワークですね。それを作っていくというのが1つポイントだと思いますが、牧野さんはどう考えていらっしゃいますか?

牧野正幸氏(以下、牧野):当社の場合は、まさにそのための製品を販売している会社です。今、当社の製品は9割がデータアプライズアグリケーションと言われている業務のシステムとか、スプレッドシートとか、コラボレーションツールというものです。

今まではツールに連結性がなくてバラバラだったと思うんです。例えば、(Googleやエクセルなどの)スプレッドシートに入れながら、こっちでコラボレーションツールでチャットしたり。

あとはもちろん業務で使うツールとはまったく連結していないので、ある画面について話す時には、スクリーンショットを撮って貼りつけて「ここがこうなってるけどこれでいいのか?」みたいな話をやっていたんですけれど。

今の当社の製品では完全にそれを一体化して、どの画面上からでもいきなりチャットが始まって、当然同じ画面を見ながら仲間や上司からアドバイスをもらったり、議論したりできる。

私もけっこう使っています。これは笑い話ですが、昼間はそれなりにほかのことをやったりしてるんですけど、土日も仕事することが多いんです。

朝一番に、その(ワークスの製品である「HUE」の)スプレッドシートの業務画面に、チャットで「これ、処理終わってないけど、こうやってやらないといけないんじゃないの、どうするの?」みたいなことをポンポン投げておくと、だいたい夜帰ってくるとパーンと答えが返ってきているんですけれど、返ってこないと「答えが返ってきてないじゃないか。なにやってるんだ」みたいな(笑)。

そういう業務のやり方で、5分、10分ぐらいですぐに返してこなくても、自分の空いている時間にパッパッと返してというのがすごく業務効率がいいなと思います。

人工知能を使ったツールが人間の仕事を助ける

クラウドがあれば全員リモートで働けるという気持ちはやはりあるので、そういう意味ではICTが担う部分というのは、とくにコラボレーションツールと言われているものと業務ツールが合体していると、そこに関しては飛躍的に業務効率が上がると思いますし、リモートワークも進むと思いますね。

北浦:そこができないと、人間がロボットに負けちゃうんですよね。

牧野:とくに知識ベースのところはそうですね。たぶん今のチャットのデータは、どんどん溜めていくことになるんですよね。これから先、リクルートさんとかの社内チャットのデータがどんどん溜まっていくと思うんですが、人工知能がそれをどんどん学習して、作業に詰まっている人がいると、過去の状況から考えてこういう点を注意しなければならないというのをサジェストしてくるようになる。そうなるのは、もうここ1~2年内だと思いますね。

例えば、年末調整の担当者に対して、「あなたの前任の人はこの頃に年末調整の用紙をみんなに配ってましたけど、もうそろそろやらなくていいんですか?」みたいな単純なことから、決算処理の前になると必ず毎回「この週にこれをやってますが、今年はやらなくていいんですか?」と言うとか。

チャット情報だけじゃなく会議の情報なんかも文字化されて人工知能が認識し始めると、本当に劇的に変わっていくんじゃないかなと思います。

北浦:ありがとうございます。会議はやはりムダな時間と言われることが多いですから、会議を劇的に減らすというのが大事ですね。

日本の強さを活かしたフレックスを

最後にみなさん方から、今日の話を受けて、一言ずつお話をいただきたいと思っております。とくに日本の生産性を上げないといけないということで、こういったことを今後考えていきたいというところ、今までの話と重複するところもあるかと思いますが、順番にお話をいただければと思います。

ベルグ:おっしゃるとおり、ツールが必要となるんですね。できるだけ情報をオープンにして、瞬時にアクセスできることがすごく大事だと思います。あとは同じ仕事を2回しないようにして生産性を上げること。そういうシステムができることは重要だと思いますね。それが普及すると、日本の生産性がぐっと上がっていくでしょうね。

ノルウェーの学生さんで日本に留学したいという希望は年々増えていますし、もうすぐ卒業する若い学生さんたちが修学旅行で日本に来て、日本にすごく興味を持っています。ノルウェーは小さな国で、いつも外を見て、ほかの国のいいところだけを取ることができています。日本と比較するとノルウェーのフレックスタイム制は極端かもしれませんけれど、徐々に日本の強さを活かしたフレックス、日本の働き方や社会に合ったフレックスを入れていくと、ますます働きやすい環境になると思います。

あとはノルウェーでもそうなんですが、今の日本のいちばんの課題は、女性がしっかり働ける環境にしておかないとダメだと思います。大学や大学院の学生は、成績も男性よりいいと思いますし、働く能力もすごく持っていますね。これはもっと活かしたいものです。

それから、留学経験をして帰ってきた学生さんはすごく貴重で、大きな手がかりとなると思うんです。ワーホリでノルウェーに行ったり、カナダへ行ったり、どこかの国へ行って戻って来た人。別に遊びとしてではなくて、世の中をもう少し広く知っている人として評価していけると、すごくフレックスタイム制とか柔軟性をより取り入れることができるかなと思います。

「まずやってみること」が大切

北浦:ありがとうございました。先ほども言われたように、女性の活躍というのがやっぱりノルウェーの生産性向上の1つのきっかけになるということですけれど、日本もまさにそういう状況ですので、そういう意味では学ぶことが多いんじゃないかなと思います。林さんはいかがですか?

:そうですね。「まずやってみる」ということを日本全体として進めていけないだろうかということを思っています。働き方とかダイバーシティというテーマは、一人ひとりが持っている答えが違うので、それをみんなでディスカッションしてなにか統一的なものにしていこうということ自体に無理がある。とにかくみんなでやってみて、その一つひとつについてなにがよくてなにが悪いのかということを出してみる。

僕らがやってみた感覚だと、悪いことについても乗り越えていけないテーマはないです。やってみたら、「こんな問題が起こるんだ」というのはあるんですけれど、それはITのあり方とか、業務フローの設計を変えることでけっこう乗り越えていけるのかなと思っています。

各企業がさんざんリスクをディスカッションするのではなくて、まずやってみるということができないかと思っています。あと、女性のテーマというのはまさにそのとおりだと思っているんですけれど、僕らも在宅勤務があった時って、女性はなかなか活用しづらいというのがありました。ほかの人たちはふつうに会社にいて、自分が子育てをしているから家で勤務しているということが特権的だとか。

あるいは会社の人たちは当たり前にリモートワークをしていないので、リモートの人だけのためにテレビ会議を設定しないといけないということや、もしくはあとで「その会議どうだったの?」と個別でヒアリングしなければいけないということがあったんですけれど。

もうみんなが当たり前にリモートで、会議のメンバーのうち半分は会社にいないんだということになれば、いない理由が育児なのか、なにか別の理由なのかは関係ないですよね。最初にリモートを始めた頃は、「今日はどこで仕事してるの?」と聞いてたんですけど、だんだんそういうことも興味がなくなっていくので、そういうかたちで進んでいけたらいいなと思っています。

子供と一緒に働ける環境を作る、新しいチャレンジ

北浦:ありがとうございます。日本の教育は、問題が1つあったら答えを1つにするという教育をずっとやってきているんですね。それは非常に重要なダイバーシティの考え方につながっているんだなと思いました。大事な言葉だと思います。牧野さんはいかがですか?

牧野:我々はリモートワークをぜひ推進していこうと考える反面、女性の活用ということもあり、子供を育てながら仕事をするという時に、例えば在宅で女性か男性どちらか1人が家にいて、子供を見ながら仕事するというのは、意外とすごく無理があるという声もあってですね。

子供から目が離せないので、子供が寝ている間しか仕事ができないって話になっちゃうんです。そこで我々が今1つ考えていることとして、この9月、10月に会社内に託児所をオープンするんですけれど、その託児所のそばにオフィス環境を作って、絶えず見に行ける状況を作る。

自分が仕事に集中している時はちゃんと保育士さんが見てくれている、かといって永遠に会わないんじゃなくて、手が空いた時には自分で見に行って、一緒にごはんを食べたりすることができて。ある一定の時間、限られたエリアだけは安全な机とかにしておいて、子供と一緒に働いてもいいですよって状況も作れればいいと思います。

在宅の場合は、子供の面倒を誰が見るかという問題があります。社内託児所の場合は逆に通勤はしなきゃいけないですけど、これも1つの働き方ですよね。リモートワークと同じで、その場所がどこになるかという違いなだけで、子供と一緒に働ける環境を作るのも1つの答えなのかなと思いながら試してみようかなと思っています。

改革の過程で考えていくことが必要

北浦:ありがとうございます。これも貴重なご提案ですね。社内託児所もそうですが、サテライトオフィスを活用するという方法もありますね。最近おもしろい例で、保育園の上にサテライトオフィスを作るということがあります。

たしかに保育園も作らなければいけないし、サテライトオフィスも一緒に作ったらいいんじゃないのという議論があって。まさにおっしゃられるような、配慮の仕方が大事だということですよね。仕事からも接近するし、生活からも接近するというところで、リモートワークをうまく成り立たせようという考えだと思います。

大変いろんなアイデアが出てまいりまして、だんだん収集がつかなくなりましたが、最後に私から一言だけ申し上げたいと思います。

日本の場合は、やはりどうしても人間関係と集団心理がすごく働くので、古い言葉で言いますと、日本の会社・集団組織はまずは「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」というのがあって、そこから生まれるんだと。そういうリレーションを作るところから入るのが大きかったと思います。

そのリレーションによる効用は非常にあるわけで、ある種のリスクヘッジ、例えばなにかあっても決定的なケンカにはならないとか、仕事でしくじってもまたやり直しを認めてくれるとか、そういうよさがあったんですが、それがいともすると「生ぬるい」みたいになってしまうんです。

それが日本の職場の風土の特徴なんでしょうが、そういったものを今回のリモートワークを使って、1つ決定的な挑戦をして見直していく。その時に日本的なよさというものを残すかということについては、またすぐ議論が出るんですが、それよりもまず改革をしていって、そのなかで考えていくということをしないとどうもなかなか進み難いなというのが今日の議論だったかと思います。

「まずやってみる」。そういうことが1つの提言だったのかなと思います。

それから最後にもう1つ、ノルウェーの秘密については何回も出ましたが、その前に「教育」じゃないかと思います。非常にリカレント(教育)も進んでいる国で、こんなうらやましい国はないんですけども。それがノルウェーの生産性の高さを作っている。そういう意味では、日本の学校教育、教育制度そのものも実際は大きな問題で、そういうことも含めて生産性の問題を考えないといけないんだと思いました。

今日の議論は短い時間ではありましたが、そういったところがみなさん方に少しでも伝わったとすれば幸いだと思います。