編集者から打ち切りを宣告! 新人漫画家のお悩み

山田玲司氏(以下、山田):おれ、でも、それ答えたほうがいいと思うんだよね。漫画家の人の相談でしょ?

乙君氏(以下、乙君):まあ、裏バクマンっちゅうことでね。

山田:裏バクマンで、最後締めよっか。

乙君:「ヤングサンデー、相談です。山田先生、初めまして。ナナセと申します。いつもニコ生楽しく拝見しています。岡田さんの回で先生を知り、先生の考え方に衝撃を受けてとても勇気づけられました。すごく心に響きました」。

山田:ありがとう。

乙君:で、まあ、そんなかんじで、「今、自分、崖っぷちにいまして、相談したくて思い切ってメールしました。もし、お時間ありましたら……」ということで、やってますよ、ナナセさん。ご覧になっていただいてるでしょうか。

「私は新人漫画家で女性です。とはいっても、デビューはかなり遅く、今アラフォーです。コミックスを出したんですが売上が芳しくなく、デビューの出版社の担当さんと『あなたの席は雑誌の中にもうない』と、つまり、『打ち切りです』ということをやんわりと言われています。

でも、代原(注:予定した原稿が掲載できない場合に使う、代わりの原稿のこと)なら受け付けてくれます。私は漫画を描いている人が周りに1人もおらず、業界のこともあまりわからず、ただ必死でこの2、3年描いてきました。

その前はほかの方面でも活動していたんですが、体調を崩したりしてすべて失いました。その中で、たった1つだけ残ったものが漫画でした。デビューできたのは、担当さんが気に入って推してくれたからでした。でも、私は売上として、期待に応えられませんでした。

今、自分の実力なさ、甘さ、そして、何よりほかのとても個性の強い作家さんたちの中で抜きん出るような、我の強さみたいなものが出せなかった、押し通せませんでした」、ただ、持ってないとは思ってないと。ただ、押し通せなかったと。

で、「チャンスをものにできなかったという思いに打ちひしがれています。幸い他社さんから1社オファーをいただき、首の皮1枚でつながっているというところです。相談は2つ。

オファーをいただいたところをきっちりやるのは当たり前ですが、ほかにも営業したほうがいいでしょうか? デビュー元の出版社に代原としてしがみつくより、どんどん開拓したほうがいいでしょうか?

また、コミックス売上が失敗したら、挽回は難しいでしょうか? イメージがついて回ってしまうんでしょうか? それとも、難しいけど、なんとか盛り返せるものなのかなあ……」、相談はここまで。

ちゃんとデビューできていることがすごい

山田:うんうん、「全部やろう」ってさきに言われてるんだ(笑)。

乙君:まあ、「日々の自分の才能のなさとか弱さに自分で自分を責めちゃう」と、……はい。で、漫画家さんでアラフォーの女性のナナセさんからですが、漫画家のお二人はこれはどうでしょう?

だろめおん氏(以下、だろめおん):うーん……、ねえ、僕もデビュー遅いっちゃ遅い気もしますけど。

山田:うーん……、そうね。君、だって、うちに8年ぐらいいたんだもんね。

だろめおん:はい。

山田:しかもさ、その前のチーフ、きらたかし。あいつは10年いたしね(笑)。

だろめおん:そうなんですよね。

山田:だからその、吐いて、「おれ、このままどうすんの」みたいな、だから、しょうがないから、「その1部屋やるよ」みたいなね、言ってたしね。「うちの事務所に住めば?」みたいなさ、言ってたね(笑)。みんな、それぐらいギリギリだよね。

だろめおん:うんうん。

山田:だからね、当たり前っちゃ当たり前で、ちゃんと40でデビューできてるってのはすごいんだよ。

乙君:まず、そこはすごいんですよね。

山田:しかも、コミックス出てるっていうのも、なかなかすごいんよね。だから、さっきコメントで出てたけど、40でコミックス出してるだけでも、なかなかすごいよね。

乙君:で、まあ、だから、1つ目はオファーいただいたところをきっちりやるのは当たり前なんだけど、ほかの雑誌とかにどんどんアプローチしていったほうがいいのか、っていうことだよね。

山田:さっき言ったね、我の強さの話なんだけど、我の強さが漫画のおもしろさとつながるとは限らないね。

乙君:あー。

山田:我の弱さで勝負してる人、いるよな。

だろめおん:うん。

山田:あと、情けなさとか、影の薄さとか、あるよね、そういう個性もね。それを我の強さに入れるかどうかは別なんだけど、ただとにかく、グイグイ押していける漫画が描けるかどうか、っていうのが基準ではないよ。要するに、おもしろけりゃいいんだよ。だから、そこのフリーダムっていうのがあって、おもしろけりゃいいっていう。

だからあんまり、これがウケたとか、誰々がこれウケたとか、今は時流がこうだからみたいなのにあんまりこだわらなくて良くて、おもしろけりゃいいっていうところで、「何がおもしろいの?」っていうところで作り始めるっていうのが、まず第一だなと思うんだけどね。

あとは、サービスだよね、サービス。だから、とにかく読む相手を考えるっていうことかな。

乙君:(メールを見ながら)うん、うん。

山田:なんかあるの?

乙君:ううん。……うん、そうでしょうね。

だろめおん:そうでしょうね。

山田:で、あの……。

乙君:……(笑)。

山田:何か言いたいかって思うじゃねーかよ!(笑)

(一同笑)

意外と多い、デビューの遅い漫画家

乙君:そうだよなあと、感心してるわけですけど。

山田:そうそうそう。あと、40歳。おれ、いつも言ってるけど、人生のピークは90歳だと思ってるんで、40歳でデビューって全然関係ないし。あと、水木しげる先生がね、36歳でブレイクっていうのがあって、有名な話だけど、30代の後半ぐらいで水木しげるは世に出るわけなんで。それまで、ひどい目に遭ってるし。

だから、これからだと、40、50で出てくる人たち、いっぱいいるんじゃないかな。あと、『ギャンブルレーサー』の人とかね、あと昔、『ナニワ金融道』の青木さんとかもけっこう遅いよ、デビューが。

だから、年齢で云々とか言うのは、わりとジャンプ主義の若手だけで出てくる雑誌の世界ではそれはあるかもしれないんだけど、全体を通したらぜんぜん違うなっていうのと。あとね、思うのが、漫画って今はすごい過渡期なんで、comicoだよな、おもしれーのな。

だろめおん:まあ、僕の立場だと……(笑)。

山田:君の立場だと言えないけど。

(一同笑)

山田:スマホ漫画時代に突入したっていうのと、スクロール横書きで、横書きの文字で、縦スクロールで上がってって、コマは自在に切っていって、スクロールの早さで物語の読み方を変えられる、みたいな。

っていう漫画が出てきてて、comicoってサイトが人気があって、若い子たちはもう読んでるね、とっくの昔にね。それを本にすることもできるようになってて。これは新しい挑戦なんで、これは今、各社いっせいにスタートで、そこでウワーって入ってる。

そうすると、おれらみたいな、もともと雑誌で掲載されるのを目的として鍛えてきた連中が、わりとそのスキルを奪われちゃうわけ。雑誌用のスキルがなくなっちゃうのね。だから、ご破算になって、もう1回最初からみたいな時代になってきてる。だから、おれ、comicoいいと思うな。

comicoとかで、一発芸でガンガン出すっていうのがいいかなって思うし、あとはなんて言うのかな、マンガボックスとかでもいいし、いろいろ言われているけど、ネットの世界はすごくおもしろくなってきたなっていう気がする。

あと、雑誌がみんな雪崩を打って倒れていくもんだから、もうこの世の終わりか、漫画の終わりか、雑誌の終わりかみたいな気分に編集部にいくとなるんだよ。なんでかっていうと、編集者がそういう空気になるから。だから、今、雑誌にいくと、「おまえ売れんのか?!」みたいなかんじで迎えられる(笑)。

(一同笑)

山田:「そして、おれたちを助けられんのか?! それだけの力を持ってんのか?!」、「知りませーん! あんたたちがいけないんじゃないの……?」みたいなかんじよ(笑)。

(一同爆笑)

山田:そこに入ってって、「君、戦力外だ」って言われてドーンとなっても、君の責任じゃぜんぜんないんで。とっとと置き去りにして、いろんなところに仕掛けていったらいいんじゃないかなって思うなあ。

あとは、だから、さっきも出たけど、全部描けってのも、全ジャンル。だから、おれ、たぶん、恋愛描いたのか、何描いたのかわかんないけど、ノンフィクションとエロは描いてほしいなあ。バトルもやってほしいなあ。

それぐらいで、あとはその間に入ってるんだと思うんだよ、いろいろと。で、それぐらい極端なものをやってみて、見えてくるもの絶対にあるから。あと、自叙伝描いてほしいな。あと、ファンタジーもいいなあ。

乙君:めっちゃある(笑)。

(一同笑)

「こういうの待ってた気がする」と感じる、できたらいいな主義

山田:あるあるある。あと、今言ったやつ、全部描いてみて。で、あとは、もしもボックスを持ってきて、「もしも、なんとかなら、なんとかだ」っていうのを自分で考えてみる。それで、もしもでストーリーを作ってみる。

それから、欲望マックスゲームっていうのがあるじゃん。だから、欲望マックスでなんでもオッケーならば自分は何するか、っていう妄想をするわけ。っていうやつ、ゲームするわけ。

そうすると、いろんなリミッター外れて、自分のもっともリアルな欲望が見えてくるわけ。漫画って欲望産業なんで、読んでる人の欲望と漫画家の欲望が重なって、それが具体化して見えた、それがコンテンツ。

乙君:うん。

山田:それが、跳ねる可能性があるわけ。「これこれ! こういうの読んだことないけど、こういうの待ってた気がする」っていうやつ。もしくは、まるで自分のことが描いてあるような、みたいなやつ(笑)。が、あるんで、それは欲望がけっこうフックになる。

何がしたいか、何がおもしろいか、なんだったらいいな、こんなこといいな、できたらいいな主義ってやつ。で、藤子不二雄スタイルもありなんじゃないかな、と思うなあ。 

で、どうにもなんなくなったときにね、あともう1個あんのがね、人生最後の漫画だと思ったら何描くかっていうやつね。で、人生最後の漫画を描いたらいいんじゃないかな。そのあたり、ズラーっとやったらいいかな。

あと、半径5メートル以内の話だけ描くっていうのもありかな。あんまりファンタジーって、いろいろ飛んだりとかしてると、ダメになる、わけがわかんなくなるんで、昨日今日起こったことだったり、昨日吉野家に行ったらなにがあったみたいな、そんなんでも描けるから。いいんじゃないかなあ。いっくらでもあるでしょ?

あと、人生で一番泣いた日のことを描いてみるとか、人生で一番シリーズみたいなやつも、これだけでも相当描ける。だから、これ全部描いて、10作ぐらい描いて、メニューとして、メニューの一覧表を作ってくんだよ。

で、編集に会ったら、「私、こういうのができます」って。第1弾、ジャカジャン! 第2段、ジャカジャン! いちいち読んでいって「あー、イマイチだな」「イマイチだな」「イマイチでしょ? これもあるんですよ」。

(一同笑)

山田:「イマイチでしょ? これもあるんですよ」、「イマイチでしょ? これもあるんですよ」。そのうち、10個のうち1個ぐらいは、「これ、君、いけんじゃねーの」みたいなのがあるわけ。

だから、その1個だけをもって、それがダメだったらこの世の終わり、っていうのは負担がでかすぎるんで、護国寺に行って泣くみたいなことになるんで。

乙君:(笑)。

山田:なんですよ。そしたら、梶原一騎のお墓に行くっていうのがあるんですけど、それぐらい、とにかくいろいろ仕掛けて全方位で行くっていう、川幅広げてガーって行くっていうかんじで。

それで、漫画ってやっぱりおもしろいよ、やっぱ。だから、漫画家になるのは、すごいおもしろいと思うんで、やってください。

もしくはな、あれだな。もし、女の人なんで恋愛物描くんだったら、私が考える最高の恋愛っていうのを妄想して、どんな相手で自分はどんな人で、そして、どんな恋愛をしてみたいか、どんなエロを感じてみたいかみたいなものを全部描いて、恥ずかし気もなく全部出す。

そして、みんなに楽しんでもらうことができれば、まあ、勝手に売れちゃうよね。ガーって回ってくよね。だから、あんまり何人に1人しか売れないとか、40歳から売れた人はほとんどいないとか、いろいろくだらないこと言うんだけど、関係ない関係ない、それは。どうにでもなるからね。だから、がんばってくださいね。はい。そんなかんじっすかね。