脳は意思決定したいと思っていない

中野信子氏(以下、中野):今は脳科学がメディアにも世界にも浸透して、それなりの時間が経っています。

それがまだ、マーケティングとか政治とかに本当に活かされているかというと、そうでもないですよね。どちらかといえば興味本位で内容が消費されているような感じで。とくに政治にはあまり活かされてない。

しかし、政治に本当に活かされるようになってしまったら、みなさんどう感じるでしょうね。いい活かし方をしてもらえればいいですけれども。例えば、先ほどお話した選挙の時なんか、意思決定をみなさんは自分でしていると思っていらっしゃると思いますが。

佐々木圭一氏(以下、佐々木):思いますよね。自分でしてないということなんですか? 意思決定を。

中野:そう。意思決定というのは意外に自分ではしていないものですし、自分でしたいと脳は思っていない。

佐々木:例えば、今「水を飲みたい」と思って、自分で選択して飲むということが、そうではない?

中野:これも「自分で選択した」と思わされていたとしたら、どうでしょう?

佐々木:そんなことがあるんですか?

中野:あり得ます。

佐々木:怖い話ですね。

中野:例えば、自分の意思でどこかの党に投票したとみなさん思っているかもしれませんが、もしその党に、無意識に投票させられていたとしたら、どうでしょう? そういうことがこれから起こりえないとは言えません。

すごく有名な例だと、サブリミナルというのが昔、話題になりましたね。

サブリミナルには効果があるのか?

コカ・コーラの例が有名だと思いますけど、おやりになったという方ご自身が自ら「そのデータが十分でなく、一切を後悔している」と告白して、「サブリミナル効かないんじゃん? やっぱり」という認識が一般的になってはきたんです。

しかし、2006年に、ユトレヒト大学の研究チームがリプトンのアイスティーで同じような実験をやったんです。そしたら、実験室という限定的な環境という条件下でではありますが、リプトンのアイスティーの画像を出すということをしたらですね。

佐々木:映像のなかの1コマにアイスティーを紛れ込ませて、目には見えないようだけど、でも脳みそではけっこう見えてたりする。

中野:認知してる。見ていないとみんな思ってるんだけども、脳は確実に認知してる。それは何十ミリ秒とか、それぐらいのごく短い時間だけ提示するんですね、観客に。そうすると、なんと効果があったたんですよ。見せてないものよりも。

佐々木:やっぱり効くんだ。

中野:そうなんです、条件付きではありますが、やっぱり効くんだということがわかりました。

佐々木:それが効くということであれば、これはもう本当に仮定の話ですけど、例えば動画を作って、ある党の名前を、本当にすごく短くてあんまり目では認識できないぐらいの短いものを細かく入れていくということをすると、その党の名前が頭のなかには焼き付いてしまうので。

中野:もうなんてことのない風景、『世界の車窓から』みたいなね、ああいう番組のなかにちらっと30ミリ秒ぐらい小泉進次郎さんの写真が映るとか、そういうことをしておくと、「自民党入れたいよね」という気持ちになったりするかもしれないわけですね。

佐々木:なるほど。

中野:意思決定が自分のものではないということを「サブリミナル」という怖い例を出してご説明しましたが、これ以上にもっと自分の意思決定で行ってない、しかも人間が自分の意思決定をすることを、実は回避したがっているということを示す例というのはいくつもありますね。

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