仕事より野球優先の熱血オヤジ

──星様の生い立ちについて教えていただけますか?

星知也氏(以下、星):一般的な家庭環境でした。ごくごく普通のサラリーマン家庭で育ちました。

強いて言うのなら、父親が少年野球の監督をやっていまして、その練習日が木曜日になったために、仕事より野球を優先して会社を辞めました。普通は野球で会社を辞めないと思います(笑)。そういう意味では、少し判断基準が通常の人とは違う父親だったのかもしれません。

父は野球が好きだったというよりは、子供たちに教えるのが好きだったのかもしれません。もともとは子供があまり好きではない人だったらしいのですが、実際子供が生まれてからは、我が子がかわいくなり、それに伴って他の子もかわいいと思うようになったようですね。

少年野球チームを自分でつくって、朝から晩まで子供を預かって野球を教えるというくらい子供が好きになったのではないでしょうか。

“経営者の今”に活きる両親の教え

──そのような父親から教えられたことはありますか?

:私は2歳と4歳の娘がいるのですが、父親が昔私に言っていたことと同じことを2人の娘にも言っています。子供になにかを暗唱させるんですよ(笑)。

例えば、「ミネラルウォーター」と子供がうまく言えないときに、何度も「言ってごらん」と言わせています。

そのように、父親にやらされたことを今の自分の子供にやっていますが、私にとって父親の最初の記憶がそれです。何のためにやっているかぜんぜん意味はわからないのです(笑)。

また父親は、まずはなんでも自分でやってみる人でした。昔はそのような人が多かったのかもしれませんが。

私は北海道出身なのですが、例えば庭の雪囲いなども普通なら庭師を呼んでやると思いますが、雪が降る前に自分で気の枝に藁を巻いてやっていました。

車のタイヤ交換も車屋さんにお願いせずに、自分でなんとかしていました。ほかにも家の前を芝生からアスファルトにするときも、ホームセンターでコンクリートを買ってきて、自分でやっていました。

ほとんど未経験のことだったと思うのですが、なんでもかんでも人任せにせずに、「俺にもできるだろう」と、とりあえずやってみる人でした。そのような父親をずっと見て育ってきたので、今の私をつくりあげている1つの要素だと思います。

──星さんの小中学生時代のお話も教えていただけますか?

:高校時代にアルバイトとして、新聞配達をずっとやっていました。親には「月に5千円おこずかいを貰うか、新聞配達でそれ以上貰うかどっちがいい?」と聞かれ、新聞配達を選びました。

当時私は野球部でしたので、毎朝4時に起きて新聞配達して、6時から朝練に行っていました。朝起こしてくれたり、母親がすごくサポートしてくれました。

そのおかげで辛い新聞配達をずっと続けることができました。結果論かもしれませんが、お金を稼ぐ大切さを伝えたかったらしいです。母親の意図したことかわかりませんが、自分の中でお金を稼ぐ大変さを知ることができました。

「うるる」は一枚岩の組織──社長として心がけていること

──うるるさんは私から見ると、組織が一枚岩になっており、社員が星さんのことをとても慕っているという印象を持っているのですが、星さんのリーダーシップに対する考えなどをお聞かせいただけますか?

:ないですよ。ないですよ(笑)。

──うるるの社員の方々から「星さんは本当に仕事を任せきってくれる」という声をよく聞くのですが。

:それは僕自身に大した能力がないからだと思います。僕がスーパーマンでなんでもできるのであれば、任せないで自分でやりますよ。

しかし、失敗してもいい仕事なのか、失敗したら会社が傾いて潰れてしまう仕事なのか、という見極めはしています。それらをしっかり見極めた上で仕事を任せています。

組織の規模を大きくしていきたいという目標があるため、社員に任せきったほうがいいと思っています。例えば、将来的に社員が10万人の組織になった場合、社長には社長の仕事があるため、自分ですべての仕事をこなすのは不可能です。

仕事を任せられた人が活躍するような会社でないと、組織は大きくはならないと考えています。

私自身心掛けていることは、社員に楽しく働いてもらうことです。せっかく「うるる」という会社に携わって「うるる」という会社の夢に自分の夢を置き換えて頑張るわけじゃないですか。

会社に入って頑張らないような人は面接で落としているため、基本みんな頑張ると思います。

そのため、会社に入った社員を絶対に楽しませようと心掛けています。その楽しむということは、やりがいや働きがいを得ることだと思っており、それを得るためには何をしたらいいかをすごく意識しています。

例えば、一緒に働く人、チームメートとの絆やつながりがあれば、感動を共感でき、辛いことも共感できます。共感もやりがいにつながってくると思っています。

その共感を得るための環境は、社内が兄弟みたいな関係を築くことであり、兄弟みたいな関係とは、コミュニケーションが少なくてもわかり合える関係だと考えています。

例えば、「ちょっと遠い」という表現の「ちょっと」は1キロなのか100メートルなのかは初対面の人同士では理解できないと思います。生まれ育った環境が一緒だった人同士であれば、その「ちょっと」を理解することができると思います。

その環境づくりのために、弊社では仕事以外で人が交わる時間をすごく大切にしています。今から生活を共にして生きていく環境をつくるのは不可能に近いため、それを擬似的につくって、言葉が少なくても通じ合える関係になることが、結果として会社の中に共感とやりがいが生まれているのかもしれません。

「会社にくることが一番楽しい」環境づくり

──会社に家族、兄弟のような状況を作り出すために、どのようなことを行っていますか?

:オフィス作りに関しても、キッチンと呼ばれる共有スペースを作り、社員同士がコミュニケーションをとりやすい環境にしていることや、土日などの仕事外の時間で社員と一緒に旅行などをしています。クラブ活動のようなものも社内に30くらいあります。

一方で、「会社は会社」「早く仕事を終わらせて社外で楽しいことしたい」と考えている人はいると思うのですが、私の考えは逆で「会社にくることが一番楽しいじゃん」と思っています。

そのため、「すごくドライに10時から19時まできっちり働いて、あとはシャットダウン」みたいな考えの人は私とは合わないので面接で必ず落とします。ミスマッチを防ぎたいと思っているからです。

うちの会社にはドライな人はいなくて、情熱を持って仕事をとにかく楽しくしていきたいと思っている人が多いと思います。

「自分の考え方を否定し、多様な価値観を受け入れる」

──うるるさんの社員と話をしていると、みなさん情熱的で人間臭さを感じますし、社員同士の距離も近いように感じていました。

:自分を否定することも大事であると思います。先ほど、ドライな人はうちの会社には合わないと言いましたが、世の中にはそのような働き方をしている人もいて、それはそれで尊重はしています。

私は、学生時代に超体育会系である野球部に所属しておりました。そのため、組織を作るとどうしても体育会系の組織になってしまいます。

しかし、IT企業をつくるとエンジニアを採用して、評価する必要が出てきます。私はエンジニアの人たちと生きてきた世界が違うので、私のモノサシだけで彼らを評価すると誰も残らなくなると思います。

優秀なエンジニアであればあるほど、私のモノサシでは評価しきれない部分があるため、とにかく自分の考えを否定することは大切にしています。そのような意味では私の考えに凝り固まらずにフラットであるようにしています。

「嘘をつかない。悪いことはしない」

──昨年(2015年)、大きな資金調達を実施され、これから人も増やしていくと聞いていますが、星さんの考え方を維持させつつ、組織を拡大していくための課題はなんでしょうか?

:私自身にとっても初めての体験なので、日々状況を見ながら、気づきを得て行動に移していこうと思っています。過去の反省から得た判断材料などは正直何もないので、そうしていくしかないと思っています。

私の美学なのですが、実態より大きく見せようとはしません。実際は火の車なのにユーザーやメディアにはうまくいっているように見せるのも1つの経営手法かもしれませんが、私は嫌いでやりたくはないです。正直メディアに出るのもあまり好きではありません。

そのため、うるるは「嘘をつかない。悪いことはしない」というのをモットーにしています。実態より大きく見せることは、ものによっては犯罪ではないかもしれませんが、嘘で悪いことなのでやりたくはないです。

逆にいろいろ言って何もやらないより、あんまり口には出さずとも言ったことは絶対にやるヤツのほうがカッコいいと思います。

オーストラリアで形成されたアイデンティと社名の由来

──「嘘をつかない。悪いことはしない」と会社のHPにも記載されていました。このモットーの背景について教えていただけますか?

:私は、自分で掲げた目標は達成しないと気が済まない性格だと思っています。エピソードとしては、10代のうちにインドかエジプトに行こうという目標を立てて、実際に19歳のときに、インド行きのチケットを買って行きました。

正直、インドに目的があったわけではありませんが、行くという目標を達成することに意味がありました。当時、この目標を立てて達成したという実績が今の自分をつくっている1つである気がします。

また社名の由来になっている「うるる(ULURU)」についてですが、オーストラリアはワーキングホリデーで行きました。若者が海外に出て働く機会を与えるためにワーキングホリデー用のビザができたので、それを活用して1年間行ってきました。基本的には遊びでした(笑)。

とくに目的はなかったものの、オーストラリアに1年間ワーキングホリデーで行って良かったと思っています。その1年間で貴重な経験をしたり、人に出会ったりすることで自分のアイデンティティが形成されました。

周りの人間が大学で成長するところを、私の場合はオーストラリアのワーキングホリデーで成長しました。

オーストラリアには見所がたくさんあるものの、エアーズロックを見たときはすごくパワーを感じました。そのパワーを感じるのは原住民であるアボリジニの聖地であることからだと思いました。

そのパワーが何かを言葉で説明するのは難しいのですが、エアーズロックを見たときに、360度地平線の中に巨大な岩が浮かび上がってくるんです。遠くから一本道を歩いてきてエアーズロックを目の前にしたときの迫力に、なにか見えないパワーを感じました。

エアーズロックを見たときに感動を感じることができたのは、そのとき一緒にいた仲間と感動を共有することができたからだと気づきました。

インド旅行は1人で行ったのでうれしいことがあったり、辛いことがあったりしても、誰とも共感できなく、辛かったです。

感動はすばらしい景色や体験を仲間と共有することによって起きるということを知りました。「うるる」を社名にした背景には、そのような感動を仲間と共有していきたいという思いがあったからです。

──御社の組織を見ていてすごく「感動を仲間と共有していく」ということが体現されていて、一枚岩になっているのを感じます。

:エアーズロックはオーストラリアの中心に位置しているため、「地球のへそ」と呼ばれています。「世界の中心で愛を叫ぶ」はエアーズロックのことを言っているんです。弊社も「世界の中心でサービスを提供していこう」という意味合いも込められています。

──創業からどのような危機があって、どのように乗り越えてきたのでしょうか。

:創業2ヶ月後にキャッシュアウトしそうになったということはありましたが、前金にしてなんとかなりました。実際やってみたら9割が前金で、やればできると思いました。

いろんなことが起こりましたが、創業メンバーや役員と一心同体になって、仲間と一緒に乗り越えてきただけです。大きく見せることもなく、とにかくありのままを仲間に伝えてきました。

うるるが求める人物像

──うるるさんで働く魅力や求める人物像について教えてください。

:うるるの今のフェーズは、まだまだ組織も事業も完成されていないため、あらゆるジャンルの仕事をすることができるということです。

逆に、1つのことしかできない人より、いろいろなことに取り組める人、そしてそのことに対してやりがいを感じることができる人が求められています。

例えば、「SEOはプロフェッショナルで誰にも負けないけど、それ以外はやらない」という人よりも「SEOもやるけど、必要なら営業も経理もやるよ」という人です。

先ほど話した私の父親みたいな人ですね。「やったことがないからできません」とは言わずになんでもやってみるという人、まずはやってみることに対してワクワクする人はうちの会社に合っています。

弊社の人事権は各事業部が持っており、採用は各事業部次第であるため、私にあまり採用権限はありません。もちろん最終面接はしますが、スキルの部分は各事業部に任せているため私は聞きません。

私は、仕事に対して嘘をつかず、ずるいことをせず、誤魔化さず、仕事をする人であるか、またどれだけ伸びしろを感じることができるかどうかということを判断します。

その伸びしろとは、素直さや変なプライドを持っていないかということです。例え能力がなかったとしても、愚直に取り組み、やりがいを持つことができれば、誰でも成長できると思います。別にパソコンを使ったことがない人でも、使えるようになるのでいいと思っています。

そのため、どんなに優秀な人であっても、私が「この人はうちの会社に合わない」と判断した場合は落とすかもしれません。うちの会社との相性を重視してジャッジします。

──大胆な人事異動をされる会社という印象もありますが、未経験でもやる気のある人はどんどん異動させるということですか。

:誰がやるのが一番いいかという話です。「この現状でこの部署をこうしていきたいんだけど、誰が一番いいかな」とフラットに考えた結果、大胆な人事異動をしたりしました。CTOの人だからずっとCTOであり続ける必要性は感じていません。

──貴重なお話ありがとうございました。