産業用ドローン時代の幕開け

司会者:お待たせいたしました。続きましてSession2「産業用ドローン時代の幕開け ドローンが開拓する新たなB2B市場」を開始させていただきます。モデレーターはアクセンチュア株式会社取締役会長、程近智さまにお務めいただきます。お願いいたします。

(会場拍手)

パネリストは3D Robotics CEO、DIY Drones 創設者、クリス・アンダーソンさま。千葉市長、熊谷俊人さま。千葉大学特別教授、株式会社自律制御システム研究所代表取締役社長、野波健蔵さま。それでは、程さま、よろしくお願いいたします。

程近智氏(以下、程):それでは、医療に続いて非常にイノベーションが今進んでいるドローンの領域のセッションを始めたいと思います。

みなさん、すでにドローンという言葉を何百回、何千回聞いてる方もいらっしゃると思います。振り返ると、2014年頃からそういった言葉が聞かれるようになったんですけれども。2015年、日本は「ドローン元年」ではなかったかなと思います。

新聞紙上等だけではなく、みなさん記憶にもあると思いますが、首相官邸にドローンが墜落したというような事件もありました。そこから社会的な認知も高まってきて、技術的イノベーションも進みました。

世界的にみると同時並行で、消費者にとってのドローンの活用、一般的にいうと「ホビー市場」とか「BtoC市場」と言われてますけれども、そういった市場が今、非常に伸びてます。

それと同時に、最近では産業用、BtoBの領域に対しても、ドローンを活用することによって飛躍的なイノベーションの1つのツール、または大事なコアテクノロジーになるのではないかというような視点が出てきています。

今年は、日本だけでなく世界的にBtoBマーケット、産業の領域でいろんな応用結果が出てくるのではないかなと思います。

日本を代表するドローンの第一人者・野波氏

今日は、そんななか最前線でものづくりを行っている、日本を代表するドローンの第一人者である、野波先生からお話を5分、7分ぐらいお聞きしたいなと思います。よろしくお願いいたします。

野波健蔵氏(以下、野波):それでは、自己紹介を兼ねてお話をさせていただきます。私の経歴がここに出ております。

私自身がドローンの研究を始めるきっかけになったのは、実は私はアメリカに2年ほどいたわけですけれど、1985年から1988年にかけてNASAに2年ちょっといました。

NASAでは、ヘリコプターの研究をしておりました。当時はまだまだコンピューターのレベルが低かったのはご承知のとおりですが、パイロットがコンピューターでアシストされたかたちで飛行させる。そういう有人ヘリコプターの研究開発をNASAでやっておりました。

それを見て「これはおもしろい!」ということで、私自身はロボットや制御が専門だったものですから、「これを研究テーマに選ぼう」と。

でも、ヘリコプターの制御というものを、実際にやるためには、まずオートパイロットから作らなければいけないということで。当時のコンピューターのレベルからすると、すぐはできない。そのため、日本に戻ってきてから、その機をずっと待っておりました。

そして、1998年にスタートしたのが実情でございます。あとで出てまいりますけれども、私どもは1998年にオートパイロットをまず作り始めまして、2001年に完成しました。

ラジコンヘリコプターというシングルヘリコプターの15キロぐらいの機体に3キロのオートパイロット。今、なんと30グラムですけれども。当時は3キロという100倍重いものを載せて、全備重量18キロで飛行して、日本で初めて自律飛行に成功しました。

このオートパイロットと飛行技術は、私、アメリカに行って発表もしまして、世界でいろいろ評価をいただいたわけです。そこで得た特許を日本とアメリカに特許出願いたしまして、すぐ成立しました。

大学発ベンチャー「自律制御システム研究所」

その技術を使って、2013年11月1日に「株式会社自律制御システム研究所」という大学発ベンチャーを立ち上げました。

新聞等でご存知かもしれませんが、UTEC(University of Tokyo Edge Capital)、東京大学エッジキャピタルさん、それから楽天さんから出資をいただきまして、7億2千万円出資をいただきました。その半分を資本金にいたしまして、このように今4億7200万円。

今、私ども従業員も40数名おります。ドローンベンチャーというのは今、世界中でどんどん誕生しておりますけれども、日本では資本金と従業員数ではトップだと思います。

技術も私たちはトップだと思っておりまして、事実、オートパイロットを製造できる技術は、日本広しといえども、私どものところだけです。自律制御システム研究所、略してACSLと呼んでおります。

ここにございますように、私自身は1998年からずっといろんなドローンの開発をしてまいりました。

今はドローンという言葉がもう定着しておりますが、当時はUAVという言葉で広く知られていました。シングルロータ、これで私ども日本で最初の成功をしたということです。

それから2010年のParrotのARドローンというのが、「ドローンブームに火をつけた」と一般に言われております。2013年にDJI社が制作したPhantomが大ヒットして、それがドローン時代到来ということで話題になったわけです。

空の産業革命を早く実現したい

先ほどモデレーターからお話がありましたとおり、いよいよこれから産業用ドローン、私どもが一番注目しているのは、空の産業革命です。それはなにかといいますと物流革命をしたいということです。

「ラスト10マイル」「ラスト1マイル」とよく言われるんですけれども、日本の場合、この両方ですね。物流の拠点から集積場まで大きなドローンで飛行して、効率よく荷物を運んで。でも、コストは下げて、かつ、サービスは向上させる。

この流れで、空の産業革命を早く実現したい。できれば、世界初の空の産業革命をこの日本で、しかも東京のすぐそばの千葉の場所でやりたいということです。これは今、安倍首相、内閣府をはじめ、いろんな方にご支援をいただいております。

次に熊谷市長からお話があるかと思いますけれども、これを実現したいと思っておりますので、ぜひご注目いただいきたいということでございます。

そして、ここにありますように、2001年に、オートパイロットの完成。そして、同じ2001年に、それを搭載した無人ヘリコプターの自律飛行に初めて成功したと。

精度も30センチほどのホバリング精度でございまして、アメリカ、ヨーロッパでも同じように開発されていましたけれども、私どものレベルはかなりいいというところで評価をいただきました。

今、DJIの社長をしているFrank Wang(フランク・ワン)という方なんですけれども、彼は香港科技大で、私も香港科技大に何度も行きました。彼の指導教官が、実は今の大株主になっているんですが、その彼と私がだいたい同じぐらいの年齢で、よく話をします。

今のベンチャーのドローン業界、たぶんだいたい今8,000億円とか7,000億円と言われてますけれども、もうすぐ1兆円になろうとしております。そこの70パーセントのシェアを持ってるのが、中国DJI社の社長Frank Wangです。彼は36歳です。

その彼を見初めて出資した指導教官がやはり素晴らしいですね。ぜひ日本もそういう意味でベンチャーをどんどん育成していかなきゃいけないなと、私も思っております。

それで2010年に、ここにありますように、オリジナルのマルチコプターと言われる6枚羽のドローンを完成させました。

奇しくも2011年3月11日。大震災が起こって、そのあと原発事故がありました。その時、私どもは一番北の岩手県の宮古市からずっと福島県まで、約2,000キロをこの私どものオリジナルのドローンをもって空撮をしました。

そこで撮ったデータが今、国会図書館のアーカイブに残ってるんですけれども、そういうことで、ドローンの素晴らしさを身をもって体験した1人でございます。

産学官で連携する「ミニサーベイヤーコンソーシアム」

もう1つ私どもの強み、特徴は、この自律制御研究所40数名で、この業務をやってるわけではありません。ここにありますように、「ミニサーベイヤーコンソーシアム」というコンソーシアムを作っています。研究組合を作っておりまして、産学官でやっております。現在220機関、これはすごい、いわゆるサポーターでございます。

このようにさまざまな委員会を作りまして、今ほぼ全国を網羅するかたちでできております。北海道から沖縄まで各地域部会ができていまして、この日本初の産業を大きく育て、とくに信頼性・耐久性・安全性を育てて、それで世界に打って出ようと。

実はこのセッションの前に、クリス・アンダーソンといろいろと話をいたしまして、日米で連携をしようということで、彼も同意していただきました。これから日本とアメリカで強い連携をしながら、産業ドローンを世界をリードする産業にしていきたい。

インターネットが出てきた時にも、みなさんご存知のように「こんなの本当に役に立つのかな?」と(思われていた)。あれが1995年ですよ。それから20年で世界が変わってしまったのと同じように、「ドローンで物を運ぶってそんなの無理でしょう」と、みなさん思っておられると思うんですが、間違いなく、これが今、世界を変えます。

インターネットが普及するのに10年ちょっとかかりましたけれども、おそらく2020年頃には劇的に私たちのライフスタイル、社会システムが変わると思います。それを私は今すごく感じておりまして。そういう意味で今日の……。

:すいません、先生。

野波:そろそろ終わります。

:熱意のあるお話なんですけど、ほかの方もいるので。

野波:すいません。こういうかたちでものづくりと販売を全部コンソーシアムでやって、みんなでwin-winでやろうということでございます。以上です。

:後ほどまだ時間がありますので、ありがとうござました、先生。

(会場拍手)

都心部における可能性を模索する

次に非常に重要なのが、実際それを実証できる、テストベッド、フィールドとかいろんな言葉がありますが、やはり、住民、国民あっての世界の中で、自治体の役割が、こういった先端的な取り組みを進めるにあたって大事だと思うんです。

そこで日本をリードされている千葉市の熊谷市長からお話をうかがいたいと思います。よろしくお願いいたします。

熊谷俊人氏(以下、熊谷):みなさん、こんにちは。千葉市長の熊谷でございます。新経済サミットにご招待をいただきまして、誠にありがとうございます。

私、7年前に市長に就任いたしましたけれども、私自身が情報通信産業出身ということもあって、自治体のなかでICTであったり、さまざまな技術を活用して、新しい行政と住民の関係性のなかで、どういうふうに住民のみなさま方の市民満足度を向上したり、また産業の育成に繋げられるか、そうしたことを考えてまいりました。

今、国家戦略特区のなかで、ドローンに関して、野波教授にも参画をいただきながら、実証実験に向けた取り組みを進めているところであります。

私たち千葉市ですけれども、ドローンに関しましては、今、山間部などでもさまざまな実験が日本では行われていますが、なんといってもビジネスに乗っていかなければないだろうというなかで、私たちは都心部における可能性を模索する。

そのなかで私たちの幕張新都心という、さまざまな分野において、ドローンの実験に適した立地特性を活かして、実証実験に私どもが取り組んでいきたい。そう考えています。

ちなみに我々、幕張新都心、ほかの新都心との比較のなかでよく出てきますのは「住民がかなり住んでいる」というところです。この「ベイタウン」という地区、これが当時最先端の町並みとして作られまして、ここに2万5千人住んでいます。

そして、後ほどご説明しますが、この「若葉住宅地区」という、幕張新都心最後の大型開発のなかで1万人以上が住む街がこれからできようとしている。そういうタイミングで私たちは実証実験を行おうとしています。

ドローンによる宅配への取り組み

そういったなかで、ドローンに関しては、水平と垂直での活用の可能性があると考えています。

そのなかで楽天さんやいろんな物流・EC関係の企業が、この千葉の湾岸には倉庫、物流拠点を構えていらっしゃいますので、そこから海上を通して、先ほどご紹介した住宅地区への輸送というのも可能性としてありえると思ってます。

また、この垂直の部分で言えば、これからできあがる若葉住宅地区やベイタウンに対して、その近くまで、荷物をトラック等で輸送したあとに、ラストそれぞれのご家庭に対して、垂直で輸送するということも、我々としては実証実験をしたいと考えています。

率先して実証実験のフィールドを用意

また、そのなかで、今、私ども国家戦略特区の提出した資料の中にも書かせていただいてますけれども、テレビ電話等の情報通信機器を使って、遠隔での診療および服薬指導のなかで、医療医薬品や要指導医薬品も輸送をしていきたい。

そういう複合的なもので、高齢者の方々にもご納得いただけるような取組みをしていきたいと考えています。

ちなみに、先ほどご紹介した若葉住宅地区は、これだけの広大な敷地に対して、1万人の街がこれから15年かけて供給をされる。首都圏での最大クラスの住宅開発が行われます。

そのなかに46階建ての超高層マンションが3棟できあがってまいります。この超高層マンションの設計の段階で、できる限りドローンの実証実験のなかで得られた、住宅側での対応が必要なものを極力設計段階に盛り込み、ドローンでの宅配をしやすい住宅を作ることもできるのではないかと考えています。

そういうなかで、先般3月24日に、国家戦略特区の会議におきまして、「千葉市ドローン宅配等分科会」を国に作っていただきました。国と、千葉市と、そして野波先生や民間事業者の方々と一緒になって、これから実証実験、そしてまた必要な法制度であったり規制改革を行っていくということになっております。

そのなかで、来週月曜にさっそくこの分科会の会議に合わせるかたちで、デモンストレーションを実施いたします。ベイタウンのなかの実際の住宅に対して、公園から垂直的な輸送を試みるということ。

それから、イオンの本社が幕張新都心にありまして、イオンモール幕張新都心という旗艦店もございます。そこから公園まで輸送していくという実証実験、併せて2つ実施をいたします。

また、我々はできる限り、ドローン関係の産業と研究機関も集積したいと考えております。我々の千葉市の企業立地の補助制度のなかにも、ドローン関連産業を対象に、この4月より追加しております。

こういうかたちでできる限り、ドローンに関して、行政としても率先して実証実験のフィールドを用意するということ。

そして、それに併せて、私たちはプライバシーの問題、安全の問題、それを住民のみなさんと一緒に話をしながら、どこのポイントが日本における基準点なのか。そして、それに従って、条例等で法的な整備も併せて行っていきたいと考えております。ご清聴いただきまして、ありがとうございました。

(会場拍手)

地球を測る方法としてのドローンに注目

:ありがとうございます。先ほどの野波先生は、本当に産学のロールモデルですけれども。今回の取り組みは産学、それに官と民が一緒になってやる、非常にこれから明るい未来がそこで開けるのではないかなと思います。

そんななか、目を海外に向けて、今日はクリス・アンダーソンさんにいらしていただいています。クリスは私もいつも読んでいた『WIRED』の元編集長でありまして、今は3D RoboticsのCEOということで、海外、グローバル、とくにアメリカの話をおうかがいしたいと思います。よろしくお願いいたします。

クリス・アンダーソン氏(以下、アンダーソン):ご紹介ありがとうございます。英語でお話をさせていただきます。ヘッドフォンをつけていただく必要があるかもしれません。

今回、教授および市長とともに登壇の機会をいただき、たいへん光栄に思います。ドローンのワクワクできるような夢について語ることができ、非常にうれしく思っております。

先ほど、さまざまなエキサイティングな展開のお話がありましたが、とくに配達に関しては、先進的な政策とテクノロジーの組み合わせというのはほかに類を見ないものだと思います。

それでは、いったいなぜ我々がドローンというものを追求しているのかということですが、実は私が関心を持っているのはドローンそのものではなく、データなのです。ドローンは空の上のセンサーとなり、これによって地球を測ることができるわけです。

我々がやっているのはこういうことです。ボタンを押して世界を計測し、そして管理する。この写真のなかにはドローンは写っておりません。写っているのは世界です。

過去20年のあいだ、インターネットは人々のデジタルな行動を計測してきました。クリックとか、キーパンチとか、クッキーなどを計測し、デジタルな生活というものを測り、管理してきました。

しかし、世界というのは主にアナログで、物質的なものです。そして、この物質的な世界を測るために、デジタルな世界を測定するのと同じくらい有効な方法はまだ開拓されてていないわけです。

インターネットを応用し、インターネットの力を物質的な領域にまで拡張する。そうして集まったデータに過去20年間集積した処理能力を活用することによって、地球を分析する。

これを環境、農業、建築などにおいても活かすことができれば、インターネットのポテンシャルをこれまでの想像を超えるほどに大きく伸ばすことができると信じております。

ドローンは地球用3次元スキャナーになる

それでは、すこしビデオをお見せしたいと思います。携帯でボタンを押せば、ドローンというものは飛ぶわけです。そして、こういうような映像を撮ります。そして、こうしたモデルが誕生します。

このモデルを使って、好きなものを計測することができます。例えば、高さのグラデーションをつけて寸法を測るということもできます。

Webブラウザや携帯電話を管理するかのごとく、この図にあるような建築現場あるいは鉱山などを非常に精度高く管理することができます。クリック1つです。電話を取り出します。そして、画面を1タップし、10分待つ。

するとどうでしょうか、3次元のこのような地図がスキャンされ、そしてなんでも分析ができます。物量から、植物の健康状態まで、管理することができます。クラウドを通じて、スマホですべてが見えます。まるで魔法のようです。

地球用の3次元スキャナー機能と言っていいかもしれません。これがクリック1つでできてしまう。技術的には非常に複雑なのですが、我々はこのテクノロジーを簡素化することによって、革新を起こしたいと思っております。

ドローンは歴史が始まって以来、もっとも賢いテクノロジーになる

さて、我々が提供しているドローンの一例で、これは「SOLO」と呼ばれているものです。こちらは消費者向けドローンで、700ドルで販売されています。

これは、おそらく自動車以外のコンシューマーデバイスのなかで、最も複雑なつくりだと言っていいかもしれません。先ほど野波教授からお話があったような、さまざまなテクノロジーが搭載されています。32個のセンサー、LINUXプロセッサーやコンピュータービジョンのプロセッサーも含む14のプロセッサー、長距離ワイヤレスブロードバンド、LOCは250万にのぼります。

電話にもつながる、クラウドにもつながる。これを今や百貨店で買える時代です。コンシューマデバイスとして、ビデオ用に買われています。

しかしながら、この同じデバイス、ソフトウェアを変えれば産業用になるわけです。地球の3次元スキャナになります。

ちょうど同じようなことが過去にも起こりました。iPhoneです。最初は電話でした。それがAppStoreに発展し、そして、革新・革命が起きました。

このドローンはまさに同じ流れをたどることになると思います。見かけはおもちゃのようですが、歴史上もっとも賢いテクノロジーになると思います。スマートフォンのテクノロジーが内部に搭載され、なおかつ、外部とはクラウドテクノロジーでつながることができるのです。まさにIoTの世界、ビッグデータの世界です。

我々の時代のさまざまな最新テクノロジーのトレンドを組み合わせて、地球の計測、スキャニングができるというビジョンです。

さまざまなものとつながったドローン

さて、10年前と今、なにが違うんでしょうか? ドローンはもはや、単体のみで機能するデバイスではありません。ドローンは今や、インターネット接続デバイスです。ドローンこそがIoTであり、クラウドともつながっています。

つまり、ドローンによってインターネットのセンサーが物質世界へ送り出され、インターネットが持つ知能がデバイスに組み込まれることになります。この知能というのは、クラウドベースのAI、マシーンラーニング、ビッグデータなどが含まれています。

また、デバイスに搭載されているコンピュータビジョンやセンサー機能などの最先端ロボティクスも関わっています。単独でなにか技術を発展させるのに比べ、この複数技術の組み合わせこそが、まさに強力なのです。

ドローンが話題になっているのには、2つ理由があります。1つ目は、スマホがあるからこそドローンが簡単に使えるようになりました。スマホとドローンには同じテクノロジー、センサーやGPS、カメラ、無線スタックなど、同じタイプのものが使われています。それから、インターネットにつながっているということ。インターネットのおかげで、ドローンは単体で機能するよりもずっとスマートなものになりました。

では、地球を計測する時の方法についてちょっと考えてみていただきたいと思います。 衛星を使って、宇宙から地球を見ることもできる。地面からの目線で自動車などからストリートビューを撮影することもできる。そして、空にはドローンです。それぞれ利点があります。

衛星の場合、雲がない時には広範囲だけれども低解像度なデータを得ることができます。一方でストリートビューは解像度は高い、しかしながら道路からの目線には限界がある。では、ドローンはいかがでしょうか? 衛星と同じくらいの範囲をカバーでき、ストリートビューと同等な解像度が可能です。両方のいいとこ取りということになります。

ですから、ドローンは地球を管理するという意味で、宇宙からと地上から、両方の視点を組み合わせることができる、最善の方法と言えます。

今まで測れなかったものが測れるように

では、ドローンの目を通すと農場がどのように見えるか、ここで見てみましょう。上の方の黒い円状のもの、人間の目からはこのように見えます。左下、こちらはドローンが見た姿になります。ドローンの目を通すと、畑の作物が一部枯れ始めている、そして一部は健康であるということがわかります。

日本ではそうではないかもしれませんが、アメリカではこのような円形の畑が一般的です。自動回転する巨大なパイプから伸びるスプリンクラーで水をまく灌漑(かんがい)方式を採用しているためです。

このシステムを使って、畑のなかの場所ごとに散布する薬品の量を変えることができます。これは何十年も前から可能だったのですが、今までは裏付けとなるデータが存在しませんでした。作物に農薬を撒くための、いわばインクジェットのような技術はあっても、どこに撒けばよいかわかるスキャナー的役割のものがなかったのです。

そこで役に立つのがドローンで、どの場所に農薬を使うべきか、あるいは使うべきでないか、を教えてくれます。作物、食品、ひいては環境に影響を及ぼす農薬使用の全体量を、ボタン1つで減らすことができるのです。

これと同じような仕組みのことを指して、医療の世界では「パーソナル化された医療」と言われています。農業の世界では、「精密農業(precision agriculture)」。そして、ロボティクスの世界では「ループを閉じる(closing the loop)」と言います。

つまり、きめ細かく計測してデータを収集・解析し、その結果をもとに次の方策を練る手法です。センサーやデータを駆使して管理し、それに対する反応をさらに情報として活かす、スマートなやり方です。

コスト削減にもドローンは役立つ

さらに、ドローンのコストはほかと比較すると非常に安価です。こちらの図は、地球を計測するのにかかるコストをまとめたものです。有人の方法はコストが高くなりますので、パイロットが動かす飛行機やドローンはお金がかかります。

一方で、人が介在しない衛星や自律型のドローンは、安いです。無人化することで、大幅にコストを下げることができるのです。

ドローン自体の値段も下がってきた。そして、データもタダ同然ということで、こういったものを使うことによって、これまでコストが原因で測れなかったものが測れるようになります。

私は“宇宙の時代”に育ちました。衛星によって、初めて地球の姿を見ることができました。先ほど、地球観測についてお話をしましたが、今、我々はドローンが衛星に取って代わる時代に入ろうとしています。ドローンこそが今後の地球観測の主流を占めることになるのです。

確かに、衛星の役割はまだ続き、飛行機も残ります。しかしながら、主流となるのはドローンです。現状の空には、操縦者がいないために飛行しているものがなにもない状態かもしれませんが、今後は、空もからっぽの状態ではなくなります。

ドローンは東京上空を飛ばないとしても、農地や建築現場の上空に、あるいは荷物のデリバリー用として飛ぶことになるでしょう。

ドローンは、必要に応じて飛ばすことのできる、簡便で、安く、そして安全なものなのです。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)