人間を脅かす植物たち

マイケル・アランダ氏:植物を見て、「自分を殺そうとしている」などと思う人はおそらくいないでしょう。しかし、実際、植物によって殺されてしまうこともあるのです。

確かに、植物は見た目に綺麗で、食べておいしかったりもします。しかし、進化の過程で、植物内にはいろいろな化学物質が貯められるようになりました。そして、それらの化学物質のなかには、人間の身体に合わないものもあるのです。

そのような場合は、実であれ、種であれ、植物自体であれ、危険なものから身を守ることが大切です。今回のSciShowではこのことを取り上げます。

まず、ディフェンバキアから始めましょう。変わった名前ですが、普通に家庭で栽培されている観葉植物です。育てやすいし、見た目もいいのですが、気をつけないとひどい目にあいます。少しでも食べたりすると、口や喉に水膨れや腫れが起こり、息をしたり、話すのが困難になってしまいます。

口がきけないことを英語でdumbというので、英語ではdumb caneと呼ばれます。樹液も目のような敏感なところにつくと同様の症状を引き起こします。この症状はシュウ酸カルシウムのこまかい結晶が原因です。

この酸は腎臓結石の主要構成物でもあるのですが、結晶が針のように尖った形をしていて、まるで、毒の鍼療法のように消化器官や目の組織に突き刺さるのです。植物学者によると、針には酵素が含まれていて、それが細胞のタンパク質を阻害し、腫れや痛みを一層悪化させるらしいです。

症状は2週間も続くことがあり、気管が詰まれば死に至ることもあります。もっとも、実際の死亡例はごく稀です。でも、どうしてこんな危険なものを家庭で栽培するのでしょうね。

ゴッホも植物の毒に侵されていた?

キツネノテブクロも、人々がなぜか普通に栽培する恐ろしい有毒植物です。

この植物にはジギトキシンが含まれています。トキシンとは毒を意味するので、名前からして有毒であることがわかります。もっとも、少量であれば心臓の薬としても使われます。キツネノテブクロを食べるといろいろな症状が出てきます。吐き気、嘔吐、下痢、それに、頭の混乱、幻覚、不整脈などです。視覚にも影響を与えて、物がぼやけて、黄色っぽく見えることもあります。

ゴッホも、美術史家がいう「黄色の時代」には、ひょっとしてこの症状を経験していたのではないかと考えられています。心臓発作を治療するためジギトキシンの入った薬を処方されていたと考えられるからです。

もちろん、ただ単に黄色が本当に好きだったからかもしれません。ディフェンバキア同様、実際の死亡例は稀です。好んで大量に食べる人はいないでしょうから。でも、量によっては、死ぬことは間違いありません。

オオミフクラギは、東南アジアや太平洋の島々の一部に自生する高さ10メートルくらいの木で、見たところ、ごく普通の木です。しかし、この木の種を1個食べただけでも人間は死んでしまいます。

この木の種にはケルベリンが含まれています。ケルベリンは、ジギトキシンと同じように、心臓の機能に障害を与えます。幸いなことに、誤って種を食べることは普通起こりえないことです。というのは、固い殻に覆われていて、それから種を取り出すのが大変だからです。しかし、万が一、ケルベリン中毒を起こすと、胃に症状が現れ、心臓の鼓動も乱されて、数時間以内に死亡します。

蛇の毒より恐ろしい花

心臓に影響を及ぼす、もう1つの非常に有毒な植物はセイヨウキョウチクトウです。古代ローマの博物学者、大プリニウスは紀元77年に、家畜には致命的だが、毒蛇にかまれたときには解毒剤になると書いています。

はっきり言って、それは間違いで、毒蛇にかまれた時、たまたまそばにセイヨウキョウチクトウが生えていても、食べないようにしてください。蛇の毒の解毒作用はありませんし、食べたら、もっと早く死んでしまうだけです。

セイヨウキョウチクトウにはいろいろな種類の毒が含まれていますが、なかでも強力なのは、オレアンドリンです。やはり、心臓の鼓動を妨害し、事例は少ないですが、最終的に死に至ることもあります。

ほかの症状としては、吐き気、嘔吐、下痢、めまい、意識障害、視力障害などです。そういうわけで、セイヨウキョウチクトウは食べないよう気をつけてください。蛇の毒だけならまだ助かるチャンスは残っているかもしれません。

ここで、「ハリー・ポッターと賢者の石」という本のことを思い出してください。みなさんおそらくご存知でしょう。ハリーが受けた最初の薬のレッスンで、スネイプは彼にモンクスフードとウルフスベインの違いはなにかと尋ねます。そして後でわかるのですが、どちらも結局同じもので、別名がトリカブトなのです。

しかし、本では、その恐ろしい毒性については触れていません。トリカブトはアコニチンという複雑な化学物質を含んでおり、人間の心臓や脳に障害を起こします。

アコニチン中毒の症状は実に悲惨なものです。とくに根や地下茎のこぶを食べたりすると、脱力感、全身の痛み、麻痺、不整脈、血圧低下、吐き気、嘔吐、下痢などが起こります。昔の記録を見ると、死因はトリカブトと書かれていることがよくあります。現在でも、トリカブト中毒で入院する人の約6パーセントは助かりません。

ソクラテスの処刑に使われた毒

ドクニンジンも昔の文献によってよく知られるようになった有毒植物です。とくにソクラテスの処刑のときに、ドクニンジンから抽出した毒を飲まされたことがよく知られています。

しかし、誤って中毒を起こす人もいます。というのは、ドクニンジンは見たところ、アメリカボウフウやセロリやニンジンに似ているからです。ドクニンジンにはいくつかの毒が含まれていて、非常に危険な植物ですが、なかでも毒性が強いのは、コニインです。

炭素原子のリングのうち1つが窒素原子に置き換わり、炭素原子の鎖につながったものです。コニインは神経細胞間の情報伝達を妨害するので、その被害は極めて重大です。めまい、震え、脈拍低下、そして、最終的に麻痺を引き起こします。呼吸を調整する筋肉である横隔膜も麻痺してしまうため命が助かりません。

しかし、現代であれば、毒の威力が衰えるまで、人工呼吸器を装着して呼吸を続けることができるので、大抵の場合ことなきを得ます。ソクラテスはその点では運が悪かったといえますね。

私が今あげている10大有毒植物の中で、おそらく最も誤って口にする可能性が高いのはベラドンナでしょう。なぜなら、素人の目には、ブルーベリーの実のように見えるからです。

でも、ベラドンナは間違っても食べてはいけません。10粒から20粒で大人も死んでしまいます。英語名で死をあらわすdeadlyをつけてdeadly nightshadeというのも頷けます。

ベラドンナにはアトロピンとソラニンという化学物質が含まれています。アトロピンは、確かに薬としても使われますが、ごく微量使われるだけですし、もう1つの毒と一緒に使われることはありません。

これらの2つの化学物質は、人間の体にありとあらゆる害をあたえます。症状もあまりにも多すぎて、いちいちここで言うのはやめておきます。しかし、これらの毒に対し、免疫力をつけることは可能なようです。歴史上よくある話ですが、暗殺者が自分には免疫力をつけておき、毒の入った飲み物を相手と一緒に飲んで、殺人を実行する手口に使われたようです。

しかし、私としては、この実を食べることは絶対にお勧めできません。

その植物を食べた動物のミルクを飲んで死亡

また、トウアズキの実も気をつけないといけません。ただの真っ赤な実で、まったく無害に見えます。しかし、この世で最も危険な毒の1つを持っているのです。しかも、解毒剤はありません。

その毒はアブリンといい、これまで話してきた毒とは違って、タンパク質の1つで、リボソーム不活性化タンパク質と呼ばれています。

これが細胞内に入り込むと、その細胞のリボソームの働きを阻害するのでそのように呼ばれます。細胞はリボソームが必要なのです。タンパク質を作ってくれる大切なものだからです。タンパク質が作れなくなると、細胞は機能を停止します。

この毒はとても強いので、0.1ミリグラムでも大人が死んでしまいます。症状は大抵1日で現れ、吐き気、嘔吐、下痢というお決まりの消化器障害がまず始まりますが、その後で、体内出血や臓器障害が起こり、ほとんどの場合死に至ります。

しかし、毒性があまりにも強いので、それを食べた動物のミルクを飲んだだけで死んでしまうというような植物もあります。このような場合二次中毒と呼ばれます。マルバフジバカマがそのような植物の1つで、毒の混合物であるトリメトルというものを含んでいます。

その名前は英語で「震える」を意味するtrembleからきています。実際に震えの症状が出るからです。体重の0.5パーセントから2パーセントぐらいの量を食べないと死には至らないのですが、白い小さな花を咲かせて茂る雑草で、人が何百グラムも食べるようなことは普通考えられません。

しかし、19世紀に、マルバフジバカマが生育していたアメリカ中西部で大変な問題が起こりました。人々が次々と死んでいったのですが、誰もその理由がわかりませんでした。ようやくわかったことは、彼らの飼っている家畜がものすごい量のマルバフジバカマを食べていたということです。

トリメトルは家畜のミルクに残留し、そのミルクを飲んで人々が死んでいたのです。それで、ミルク病として知られるようになりました。

アブラハム・リンカーンの母親、ナンシー・リンカーンも実は1818年にミルク病で死んでいるのです。ミルク病の原因がマルバフジバカマだと突き止めたのはアンナ・ビィクスビーという医者です。地元のショーニー族インディアンの女性の助けによって発見できたと言われています。人々は家畜の放牧地からマルバフジバカマを除去したので、ミルク病というのは今では聞かれなくなりました。

世界でもっとも危険な木

最後の有毒植物は、「死のりんご」とか「世界で最も危険な木」と呼ばれているものです。そう呼ぶのは多少大げさかもしれませんが、少なくとも信じられないくらいの痛みを引き起こすことは確かです。その木はマンチニールと呼ばれ、その実を食べるのはもちろん、木にちょっと触れるのもいけません。近づくだけでもダメです。

でも、それほど心配する必要はないのです。というのは、アメリカ南部、中央アメリカ、南アメリカでごく稀に見られるだけだからです。

マンチニールにはいろんな種類の毒が含まれていますが、その実態はいまだに解明されていません。ただわかっているのは、木に触れるとやけどのような痛みや炎症が起こるということです。

樹液はとくに有毒で、木の下にいて、雨に少し濡れただけでも、樹液が微量含まれているため、焼けるような痛みを感じ、水膨れができます。木を燃やしたときの煙が目に入っただけでも失明してしまいます。

もし、実を食べたりすると、口、喉、食道がやけどをしたように痛みと炎症を起こして腫れ上がります。

腫れや炎症は危険ですが、実際にそれで死んだという例はほとんどないようです。おそらく、一口噛んだだけで吐き出してしまうからでしょう。それに、木自体が絶滅寸前で、実を手に入れるのが困難だからです。

というわけで、マンチニールの実や樹液の致死量はわかっていません。でも、ここにあげた、ほかの有毒植物と同様もがき苦しんで死に至ることだけは確かです。