川上副住職が支援する同性結婚式

川上(全龍)隆史氏(以下、川上):先月もTEDトークで同じような話をさせていただいて、結局先生もおっしゃるように、いろいろネガティブに考えちゃうんですよね。

結局行動したほうが楽というのは実際そうで、過去にやってしまったことを悔いたり、未来の起きてないことを逆に心配してしまったり、人間はいろいろ考えちゃうんですけど、結局そればっかり考えていても、今現時点でできること以外、自分のちょっと先の未来の道を決める糧にもなるわけですし、今やってること自体、自分の過去を作っていくことになるので、やっぱり行動というのが重要になってくると思うんですよね。

あんまり過去や未来のことを考え過ぎちゃうと、動けなくなっちゃうし、悩んでるだけで時間が過ぎていくので。それだったら行動に移したほうがいいんじゃないかと。

私もLGBT関係のことで、同性婚の式というのを挙げだして、そのときによく、「何がモチベーションだったんですか?」と聞かれるんですけど、とくにモチベーションはなくて。私がやらない限り、それこそ先生が言うように、1を作らない限り時代は変わらないなと思って始めたところもあるんですけど。

小宮悦子氏(以下、小宮):いい機会なので、そのLGBTの活動について。これはどういう関心から、先生は関わり出したんですか?

川上:関心というか、私はアメリカにずっと住んでいたので、LGBTが普通だったんですよね。ただ2004年に日本に帰ってきて、それがぜんぜん議論にも上がってないし、新聞でも見ない、メディアでも見ないという状態だった。問題解決していくためにはどうしたらいいかというと、まず可視化させることが重要だろうと思いました。

私の立場はとくに保守的に見られるので、保守的なはずの人がこういうことをサポートしてるということになると、どっちにしろ世の中が見るわけです。

可視化されるのに都合のいい人間だったと思ったんで(笑)。じゃあ、やってみようって。そこでどう転ぶかわからないんですけど、可視化されることによって議論が進む、行動が生まれる。

それが前に進むか後ろに進むかというのは、別に私の問題でもないわけですし。とにかくこの動くきっかけというか、行動に移させるきっかけを世の中に与えるのが重要だと思うんですよね。

スマホの情報だけでは人は動けない

小宮:そういう行動の一つひとつが、影響を与えていくという。そして化学反応を起こしていくということですよね。吉岡先生も先ほどああいう(東南アジアの子供の)画像を見せたり、私たちが目にすることのない画像だと申し上げたんですけど、あの子たちを可視化してくださってるわけですよね。

吉岡:まあそうですね。知らないと動けないじゃないですか。これも情報ですからね。後はこの情報をどう処理するかはみなさんの人生のクオリティにかかってるわけで、それは個性ですよね。そこはみなさんにお任せということになると思います。

こういう情報は世の中に腐るほどあって、何に興味を持って何に反応するかは、その人次第ですよね。だけど、こういうのをみなさんにお話するのも僕の役目だと思っていまして。

そうじゃなければ、誰も知らせてくれないじゃないですか。とくにこういう本当に悲惨な人たちの話はテレビでも取り上げにくいし、話してくれる人もいない。僕みたいに長く付き合ってきた人も経時的に見てきた人もほとんどいないわけですからね。

もっというと、国連とか大きな組織は、数になっちゃうじゃないですか。そうすると、1人の人間のストーリーがまったく見えなくなっちゃうんですね。でも、それを構成する一人ひとりには、ちゃんと人生のストーリーがあるんですね。

だからそのストーリーを理解するというのは、実は僕らにとって本当に文学を理解するように、すごく自分の人生に大切なことだと思います。

川上:今おっしゃられたように、数になってしまうとわからないということがあったと思うんですけど、本当に先生の、先ほどのビデオのイメージと似たような個人的な経験って絶対みなさんどこかにあると思うんですよね。

そういうのをもう一度探してみるというのも重要になってくると思うし、人間ってやっぱり個人的な経験がないと動かないと思うんですよね。

それが身近な人に起きてることとか自分に起きてることとか、本当の経験があってこそのモチベーションも湧いてきて、やっぱりこの世の中を改善しないとダメだってなってくるので。それがどんなに小さなことでもいいんですけど、自分の経験の中にどこか繋がることがないかというのが重要になってくると思います。

小宮:情報と経験では大違いということですよね。

川上:情報は情報なので。今の時代、本当にスマホをちょっといじるだけで情報が入ってくるわけですよね。それが五万とあるわけなので、結局1個1個の情報のインパクトは薄れてしまう。結局そういう情報というのは、目と耳からしか入ってこないわけですよね。

スマホの場合は単なる視覚的な情報ですし、テレビを見てたら両方なんですけど、結局人間ってどういう経験がインパクトあるかというと、やっぱり個人の経験。

なぜかというと、人間は目と耳だけから情報を得ているわけじゃなくて、五感ですべての経験をしている。それでどこかに登録してるわけですよね。その登録された情報がどんどん溜まっていって、自我を形成することもあるわけなので。やはりそういう経験はいろんな人の人生のどこかにあるはずなんです。そこを探してもらうということです。

小宮:私も先日、水俣病関係のフォーラムのお手伝いをしまして、あんなに報道していたのに、水俣の地に行ったことがなかったんです。

やっぱり報道していた世界とはまったく違う世界があって、これは自分で行って感じてみなければわからないことなんだと。私たちテレビの報道の仕事は、それをいかに言葉と映像で伝えていくかということに尽きると思います。

そのためには、おっしゃられたように情報だけではダメなんですね。自分がその現場に行って感じてみないと、言葉すら出てこないということがあるんですよね。そういうことをお二方は日々実践してこられてるわけなんですね。

「100人に1人の子供の死に目をつむってきた」

もうそろそろ時間がないので、あらためて吉岡先生に(お聞きしたいのですが)。カンボジアに病院を作ると。吉岡さんはいつも、1日でも早くとおっしゃるんですよね。こうしている間にも子供たちの命が失われてると。

吉岡:その感覚は常にありますね。それは自分のできるベストを尽くすということですけど、今まで目をつむってきたんですよ。目をつむろうと思ったら、いくらでもつむれるじゃないですか。

100人に1人の子供が死んでるという事実に近づかないようにしようと思ったら、誰でもできるんですよね。それが自分の身に降りかかったとき、例えば我が子が心臓病になったり、自分の子供が癌になったり。

僕は医者仲間で、自分の子供を癌で亡くしてる人をいっぱい知っていますから。我が身に降りかかってきたときに初めて目が覚めるということだと思うんですけど。

でも本当に知恵がある者は、その前に気づくじゃないですか。僕は知恵があるわけじゃないですけど、今まで目をつむってきただけに、後悔もあるわけですね。それは自分の弱さじゃないですか。本当に強い人間というのは、組織なんて作らないでも1人でやってますよね。

僕が本当にすごいなと思った人は、1人で障害者の面倒を見てる日本人がいるんですよ。この人すごいなって、僕は敵わないなって思うし、自分の子供が障害児で、朝から晩までずっと面倒見てる親はいっぱいいるじゃないですか。この人たちもすごいなって。だから、本当に思うのは、自分で自分のことをすごいと思ったことないんですよ。

なぜかというと、僕は日本で働いてたじゃないですか。日本で働いてたら、日本で働いてる苦労ってわかってるんですね。それぞれの人で、それぞれの苦労が違うだけで、自分だけ苦労してる、海外でやったから苦労しましたねってよく言われるんですけど、そういう感覚もぜんぜんなくて。自分は自分のやるべきことをやってるという感覚しかないんですね。その中でいつも言うんですけど、僕は自分に甘いんですよ。

小宮:ええ?(笑)

吉岡:本当に自分に甘いんです。それはもうそういうもんなんですね。だからいつも楽なほうを選ぶ性格だから、いつも世の中に監視してもらって、こっちに行かないといけないようにしてるというのが正直なところです。それを今まで世の中も見て見ぬふりしてくれてたんですけど、これじゃあ僕はダメだなと思って。本当にこれをやろうと思っただけなんですよ。

小宮:監視してもらう、これは新しい考え方ですね。自分の活動を見える化して、楽なほうに流れてしまわないように監視してもらうという(笑)。これはなかなかいいアイデアではありますよね。

川上:でもそれをしてもらうことによって、客観視してもらえるというのがあると思うんですね。自分の行動を客観視してもらうというのが人間として一番難しいことだと思うんです。自分の行動を100%客観視は絶対できないので。

周りの人を使うって重要だと思うんですよね。やっぱり先生が何回もおっしゃっているように、自分を認知するためには、周りの人は自分をどう思ってるかとか、人間は相手の反応をみて自分のこと認知してるわけなので。そういうやり方というのは、非常にスマートなやり方だと思います。

カンボジアの医療は最後まで取り残される

小宮:なるほど。なぜカンボジアかというお話がちょっと足りなかったような気がするんですけど。

吉岡:時間の都合でだいぶ省いたんですけど(笑)。ポル・ポト(政権)のときに、40人しか医者が残らなかったんですね。40人しか残らなかったものですから、その後医者が決定的に足りなくなったんですね。それで、1年で医者にしていったわけです。ところが本当に優秀な人は国外に出ていきますから、残ったのは優秀じゃない医者と、その続く人たちですね。

今も医学部の子供や看護学部の子供をたくさん預かってるんですけど、すごく優秀なんですよね。でも、なったらこうなるんだという世界なんです。アジアの中で最後まで医療が取り残されるのはカンボジアです。なぜかというと、人がいないからです。

ミャンマーは人がいるんですね。ですからミャンマーは立ち上がってきますし、ラオスはもうちょっと早く立ち上がってくると思いますけど、カンボジアは僕の勘では最後まで取り残されるし、決定的に他と差がありますね。

ですからここの国の医療を持ち上げるということは、東南アジア全体のボトムアップになると思いますね。またでかいことを言うんですけど、できればここに本当に大学くらいまで作れたらいいなと思ってますね。

小宮:え? 病院だけでなく?

吉岡:そこで研修させればいいわけです。

小宮:お医者さんを育成する大学ですか。

吉岡:そうです。医者と看護婦を作れる大学までいければ一番理想ですね。そこに世界各国の医者たちが指導しに来ると。そうすることによってそこが拠点化して大きくなっていくと。今、日本から出てる病院は、全部富裕層相手の病院なんですよ。

お金持ちは確かに病院にかかれますけど、貧困層と医療者をどう育てていくのかというのが僕の1つのテーマだと思っています。それをどのように思考して、どういう解を出すかというのは、今試行錯誤中ですけど。今僕がお話したことも1つの解になるかなと思いますね。

海外企業が注目する社員の幸福度

小宮:川上さんは今なさってること、これから世の中でやっていきたいことはどんなことですか?

川上:私が今一番取り組んでることというのが、LGBT問題です。日本のLGBTの方々が同等の権利を持てるようにということを中心にやっています。

その1つが結婚問題、同性婚問題というのもありますし。よく結婚は紙切れだけだと言う人もいるんですけど、あの紙切れが相当な権利を持ってるんです。権利を守る効力を持ってるんですね。

(ライフネット生命の)岩瀬(大輔)さんが同性カップルに対して生命保険を使えるようにしたり、そういうものが今まで本当になかったわけです。相続の問題とかそういうときに、あの紙切れが守ってくれるわけですね、配偶者として。

アパートを借りるときに、配偶者同士じゃない場合はなかなか難しいんですけど、そういうところを改善していかない限り、みなさんに同等の権利はないわけです。

それをちょっとでも改善していきたいというのも1つです。先ほどのワンネスという考え方で、社会全体の幸福度を上げない限り、どこかでいびつが生まれるわけなんです。いびつが生まれることによって、こそこから崩壊していく。

蟻の一穴じゃないですけど、やっぱり蟻の穴が土を開くことによって崩壊してしまう。世の中はたぶん脆いものなので、そういうところを極力防いでいきたいというところですね。

LGBT問題もたまたまきっかけがあって、私のお寺にしょっちゅう来るスペイン人の女性カップルが、「ここで結婚式を挙げたい」というところから始めたので、別に取り組もうと思ってなかったんですよ。機会が与えられて、ここに生まれたので、それで動いてみようという感じはあります。

小宮:打ち合わせでうかがったのは、海外の経営者の方の相談に乗られることが多いということですけど、先ほどのリーマンショック以来、ワンネスもそうだし、それから幸福度というものを企業活動にも取り入れると。

川上:人間って幸せなほうがちゃんとできるんですよね。いろんなことがちゃんとできるんです。言ってみれば自分の幸福度を上げるというのは、社会の幸福度を上げることにもなるわけなんです。その幸福度を考えたときに、例えば国連の報告にワールドハピネスレポートというのがあって、ご覧になられた方もけっこういらっしゃると思うんですけど。

お金に関わることって、人間の幸福度の1パーセントくらいなんですよね。そうじゃなくて一番重要になってくるのは、どのくらいの数の人とどのくらい深く繋がれたかが一番重要になってくる。

先ほど申したように、人を幸せにすることが自分を幸せにするって、そこも連携してくるんですよね。やっぱりそういうことを、企業の経営者だけじゃなくて、社員にも教えていくということが重要になってきます。

そういうことをすることによって、会社全体が幸せになってくるわけですね。イギリスのウォーリック大学の研究にもなるんですけど、アンドリュー・オズワルドという教授がいまして、幸福度が高い社員は、幸福度が低い社員に比べて12パーセントくらい生産性が高いんですよね。

結局周りを幸せにするということは自分にも返ってくることだし、それによって社会全体がいいスパイラルに乗っかっていくということなので、そういうことを考えていただいて、幸福度の話を、企業向けにやるんですよ。

人生の最後から逆算して考えてみる

小宮:最後に、会場にいるみなさんにひと言メッセージをお願いしたいのですが。

吉岡:僕は医者になったときは「感謝」だったじゃないですか。僕は感謝というのが宗教的なことじゃなくて、仏教的なことじゃなくて……。大切だと思ってるのは、日本は3万人近く自殺するでしょ。自殺をするときって、視野狭窄を起こしているじゃないですか。自分のことしか考えられない、自分の近未来のことしか考えられない。それは視野狭窄ですよね。

でも僕は、ここに座ってこうするまで、すごくたくさんの人に支えてもらって。ご飯が食べられないときは親に食べさせてもらい、先輩や友達に教えてもらい、いろんな人に支えてもらって、その感謝のことをずっと思い出せれば。人間って人生でやったことばかり覚えてるんですね。

(でも)実は、(人に)やってもらったことのほうがはるかに多くて。そのやってもらったことをずっと覚えてたから、僕はそのことを悟ったときに、打ちのめされましたね。

自分がいかに多くの人に支えられてきたかということを悟ったんですよ。自殺する人というのは感謝の足りない人というんですけど。

小宮:そうですね(笑)。

吉岡:要するに、自分のことしか考えられなくなって、自分を支えてくれた奥さんも、自分を支えてくれた親も、子供たちも、全部断ち切っていくわけじゃないですか。それは、応えてないんですね。

だから苦しいときほど自分を支えてくれた人たちのことを思い出すとか、いろんなことに感謝するというのは、すごく大切。人間にとって感謝の心というのは、実は自分を相対化する心ですね。視点をずっと引き上げてくれる心なので、それは常に持ってたほうがいいと思いました。

川上:やはり最初から言っている、ワンネスという考え方が重要になってくるんですよね。自分と他人を分けるんじゃなくて、自分の行動も他人の行動も相互しあってる。それがあってこそ自分を自覚してるわけであり、存在してるわけであります。自分の行動も多少なりいろんな人の人生にも影響を与えてるわけですよね。

人生を考えるときに、自分の独立した1つのストーリーじゃないわけです。いろんなものが複雑に絡み合ったストーリーなので。

お葬儀の話になるんですが、何人の人が葬儀に来てくれるのかというのを見ちゃうんです。その人となりを知ってるときに「やっぱりこの人はこれくらい来たか」「この人はこれくらいしか来ないか」ってだいたいわかっちゃうんですよね。

やっぱり多くの人が来てくれるって、その人なりにいろんな人たちを幸せにしてきた人たちなんですよね。成績表じゃないですけど、そういうところで最後に出ちゃうんですよね。人間の人生って。だから最後から逆算して考えてみるというのが一番いい生き方だなって思います。

小宮:川上さん、吉岡さん、ありがとうございました。