科学技術の集大成、ヒト型ロボット

ハンク・グリーン氏:私たちは新たな次元への扉を開き、進もうとしています。目にするもの、耳にするものだけではなく、心の次元へと。不思議の世界、ロボット工学の不思議な世界へと誘ってくれるのです……。準備はいいですか? さあ、SciShowの始まりです!

シンガポールの南洋理工大学の科学者たちは、先日「ナディーン」を開発しました。柔らかな肌に本物の髪の毛を持ち、唇は言葉を紡いでいるかのように動くのに、そこからではなくどこからか聞こえる神秘的で響き渡る声で話す、接客係のロボットです。

それは握手をするような動作をし、あなた自身やあなたの会話を記憶し、喜びや悲しみを体で表したりもします。

ナディーンは素早く反応するリアルタイム・センサーや最先端の人工知能、AIを備え付けた精巧なモーターを搭載する次世代型のヒト型タイプのロボットで、科学技術の集大成とも言えるロボットです。

人々がナディーンを目にしたら、薄気味悪さを感じてしまうこともあるでしょうね。私だってそう感じてしまいます。まあ、それは置いておいて、ナディーンの働きについて話しを進めましょう。

アイコンタクトやボディランゲージが可能

2015年の6月に日本で売り出されたトモダチロボット、ペッパーのように、ナディーンには顔認識ソフトに繋がれているカメラが備え付けられています。   そのカメラはナディーンに顔のどこを見るべきかを教え、ユーザーとのアイコンタクトの実現を可能にしています。また、口の形や目つきなどの違いを認識させることで、ユーザーの顔つきを認識させる情報をAIに与えています。

こんな顔をしてもカメラは顔というものを認識するのでしょうか?

ほかにもユーザーの接近度やボディランゲージを追うカメラもあります。いくつかのボディランゲージは情報としてAIに送られ、その情報はナディーンの腕や上半身の動きを担っている、ロボット・モーターを制御しているプログラムへと送られます。

あなたがナディーンに手を差し出すと反射的に握手をするという動作を取ったり、頼んだ書類を持って来てくれたり、机の上から頼んだものを手渡してくれるという動作をしてくれるのはそのおかげなのです。

学習するAIが搭載されている

ナディーンのAIはあなたも話したことのある、MicrosoftのCortanaやAppleのSiriのような働きをします。そうです、あなたの電話や人間型ロボット接客係にはナディーンのAIのようなAIが備え付けられているのです。

それらAIのプログラムは大量の情報をやりくりできる大容量のサーバーをフル稼働させ続けます。電話だろうがナディーンだろうがね。しかも、ワイヤーに繋がれているわけではありません。すべて個々で行っているのです。

それらのプログラムには、言葉や話し方をわからせるためのソフトウェアが含まれています。誰かと話したことや、誰かが話したことはすべて記録として残されます。

過去に与えられた情報を照らし合わせ、よりよい答えを導きだすという、とんでもなく複雑にプログラミングされたアルゴリズムがAIには含まれていて、Siriやナディーンのように学習するAIをかたち作っているのです。

しかし、言葉にはあまりにもたくさんの表現方法があります。プログラマーがAIにあなたが言うことを予測し、返答する方法をいちいち教え込ますというのはとても大変な作業です。

ですので、AIにすべてをプログラミングするのではなく、AIに蓄えられた膨大な情報の中から鍵となる言葉や文脈を探し出し、あなたが望む答えを引き出させるようにしているのです。

ナディーンの肌触りは?

さて、ナディーンの柔らかく敏感な肌は人間が触れることに対する反応を見るためのものでしょうか。

南洋理工大学の科学者たちはその点に関する技術をまだ開示してはいません。ですが、最新鋭のロボットからその働きを知ることができます。

通常、とても柔軟で薄いゴムの膜は、2枚の平行する電極シートの間に挟まれています。

それぞれの電極にはゴムの膜の向かい合う側に対となる電極を持っています。それら電極は対毎に電極の間に溜められた微電荷を発生させます。

あなたが人工皮膚に触れると、その皮膚は圧縮します。つまり、ゴム膜が薄くなり、電荷をあまり溜めなくなります。

それぞれの対の電荷にどれくらいの電極があるのかという情報はプログラムに、皮膚のどこがどのように触られたのかを探るみちしるべを作るプログラムに供給されます。ロボットのAIはその情報をもとに何処を触られた時はどう反応すれば良いのかを決めるのです。

こういったことから分かるように、ナディーンはあらゆる技術の集大成なのです。AI、ロボット工学、コンピュータ、感圧性のある電子式の皮膚、などの。では、薄気味悪く感じてしまう要因は一体どこにあるのしょうか。

ナディーンの一挙手一投足があなたに不快感を与えているのだとしたら、それは「不気味の谷現象」と呼ばれる感情反応をあなたが示していることにほかなりません。

問題は「不気味の谷現象」

不気味の谷現象は、機械的というよりはむしろ人間に近い外観を持ったものに対して起る人間の感情反応で、人間がより感情を表しやすい対象であることから起こる反応です。

まるで命を持っているかのような存在であるにも関わらず、少しだけなにか違和感がある。そんな対象物を相手にすると、私たちの感情は落ち込み、対象物を気味悪いものと感じてしまうのです。

人工人間が人間に近ければ近いほど、私たちそのからくりを探ろうとし、頭頂皮質のスイッチを入れるのです。

頭頂皮質は脳の視覚処理室に運動皮質と繋がっていいます。脳が人だと認識するなにかを見れば、それを人であるとの認識を、筋肉系へと伝達します。

それは進化した作用で、私たちが物事を学ぶ上で大いに役立っている作用です。この作用のおかげで、私たちはなにかを見たり、なにかをしたり、という動作を無意識に行うことができるのです。

では、ナディーンのような存在を目にした時はどうでしょうか。

ナディーンは人っぽい外見をしていますので、頭頂皮質が人として認識しようとしますが、見た目とは裏腹に人間的ではない動きをするものですから、私たちの筋肉には人としての認識は伝わりません。

ナディーンは本質的に私たちの視覚野を騙すことはできますが、運動皮質はごまかせず、頭頂皮質はそれらの影響を受けます。つまり、なにがおかしいかはわからないのに、なにかおかしいと感じる。そのもやもやした感じがなにかしらの恐怖を感じさせることに繋がるのです。

ロボットの受付係に食べられるかもしれない? そうかもしれない? ヤバそうなら、逃げるが勝ちってね。

ナディーンが最先端のロボットであることは間違いないでしょう。だからといって、私たち人間の接待係に取って代わる日が早々に来ることはないでしょう。不気味の谷現象の解決がされない限りは。