ソニーは若手を育てていく意識が強かった

柳内啓司氏(以下、やなぎー):まず、いろいろおうかがいしたいと思ってるんですけど。僕自身も会社員だったりするんで、会社員時代から起業にいたるまでのお話がいろいろあると思うんですけど、会社員時代はソニーにいらっしゃったんですよね?

椎木隆太氏(以下、隆太):そうですね。10年半いましたね。めっちゃ楽しかったです。

やなぎー:めっちゃ楽しかった?

隆太:めっちゃ楽しかったですね。本当に「世界のソニー」で、僕は半分ぐらいは海外に……、5年間ぐらいは海外に駐在してたんですけど。本当に2〜3年で辞めようと思ってたんですよ。起業することがやりたくてしょうがなかったことなので、まさか会社に10年もいるなんて、もう想定外でしたけど。いや、本当楽しかったですね。

やなぎー:なるほど。

隆太:やっぱりすごい会社ですよ。

やなぎー:ソニーでは、どんなことをされてたんですか?

隆太:僕は海外なら全部ですね。製品を企画、売る。例えば、ショールームを作る。ソニーを紹介するイベントをやる。テレビコマーシャルを作る。マーケティングですよね、販売マーケティング。それから、修理。それから、政府との交渉。

やなぎー:じゃあ、本当もう全部ですね。

隆太:そうです。僕、ハノイの支社長というか、ベトナムの首都でトップやってたんで。しかも日本人は僕だけなので。だから、政府との交渉とか。

やなぎー:じゃあ、もう経営者に本当近いぐらいの。

隆太:いや、もう本当経営ですね。完全に日本人ゼロから、スタッフもゼロから、ソニーの売上もゼロから1人で行って、社員雇って。それで、販売店を確保するとか、車買ってとか、ソニーの請求書とかも作ったりとか。本当にゼロからですよ。会社と同じですね。

DaiGo氏(以下、DaiGo):へえー! ふつうの人と違うルートですね、完全に。

隆太:そうですね。

やなぎー:ふつうの会社員とは、また違うかもしれないですね。

DaiGo:けっこう部署とかに何年かいなくちゃいけない人なんかは、全部網羅するのにどんだけ時間かかるんだというか、ほぼ不可能だったりするじゃないですか。それができるというのは、逆にあとにつながっていくのかなと。

隆太:そうですね。

やなぎー:ふつうは大企業は分業というか。

隆太:やっぱりソニーは、若い人にチャンスを与えようとか、生まれもった海外人材はいないという考えで。何しろ「体験させないと育たない」という考えなんでしょうね。だから、未熟な我々でもどんどん海外に送って、もう経験積ますしかないんだというところで。若手を育てていくという意識が強かったですね。

だから、海外人材はめちゃくちゃ数いるんですよ、ソニーは。なんかあそこで立ち上げるぞといった時に、「行けーっ!」と言ってパラシュートで落として。「3年間でなんとかしてこい!」と言って。

DaiGo:パラシュートですか(笑)。

やなぎー:けっこうワイルドですね。

隆太:ワイルドですよ。だからもう、僕たちがチェックされたのは、たぶん胃腸の強さとか。3年間、こいつ生きのびるだろうかぐらいの。

(一同笑)

やなぎー:なんか軍隊の検査みたいですね(笑)。

隆太:本当にそんな感じですよ。

DaiGo:ハノイの環境にたえられるだろうかと(笑)。

隆太:あと精神的に図太いか、図々しいか、生意気かとか、そんなところですよ。

DaiGo:へえー。

やなぎー:なるほど。

隆太:でも、それがソニーの余裕は感じますよね。

やなぎー:まあ、先行投資ですもんね。

隆太:そうなんですよ。

やなぎー:最初はきっと赤字になるような話ですもんね。

海外進出がうまくいかない理由は、海外人材の薄さ

隆太:だから今、ベンチャー企業の僕たちが海外に行って「よし! 来月からは中国だ!」と言っても、海外人材なんていないわけですよ、社内に。

やなぎー:DLE、今の社長の会社に。

隆太: DLEにはいないんですよね。だから、やっぱり海外に出れる会社というのは、それなりにちゃんと種まいて水を与えて、育てたうえで海外という段階を踏んでいる。「海外行きたい!」と言って「誰が行くんだ?」というところから始まっちゃうベンチャーとは違う。

僕たちより大きいベンチャー、いろいろ有能な人集めてチャレンジしてますけど、でもやっぱり、それでもうまくいかないのは、海外人材の薄さだと思いますけどね。

やなぎー:それが、ソニーにはあったわけですね。

隆太:ソニーは分厚かったですね。

やなぎー:じゃあ、起業するならソニーがいいかもしれないというのも、あるかもしれないですね(笑)。

隆太:海外向けに起業するなら、いいと思いますね。

やなぎー:なるほどね。

DaiGo:けっこうギラギラしてる人、多いもんな。このまえ京都であった会で、元ソニーの出井(伸之)さんにお会いしましたけど、酔っぱらっても目がギラギラしてるんですよね。

(一同笑)

やなぎー:あの人、けっこうなお年ですよね。

隆太:70才すぎてね。

DaiGo:もう、すごかったですね、あの人、目力が。たしか、あの人イギリスとかですよね? 大学とかから向こうに行ってるんですよね?

隆太:フランスに駐在してたんですとかね。

DaiGo:フランスか。

新宿で生まれたシティガール

やなぎー:海外にソニーでいらしたころ、里佳さんはもう生まれてたんですか?

椎木里佳氏(以下、里佳):生まれてないです。

やなぎー:まだ生まれてないんですね。

里佳:はい。

隆太:でも、仕込みは……。

里佳:ねえ、本当にやめて!

やなぎー:仕込みは(笑)。

里佳:本当にやめて!

隆太:ベトナム仕込みなんです。

里佳:うるさい、もう!

隆太:東京生まれで、「私、イケてるんじゃないの」くらいのこと思ってると思いますけど、ベトナム仕込みですから。

やなぎー:あー、なるほど!

DaiGo:(笑)。

やなぎー:これ、笑っていいのかなあ(笑)。

DaiGo:ニコニコ的にはバカウケしてますよ(笑)。

里佳:生まれたのは新宿です。

やなぎー:あ、シティガールだと?

里佳:はい。

DaiGo:新宿というのも、なかなか微妙な感じもしますね(笑)。

(一同笑)

やなぎー:世田谷とかだと、またアレですけど。

DaiGo:「世田谷とかだとアレですけど」(笑)。

隆太:まあ、ベトナムで仕込んだから、新宿ぐらいがちょうどいいんじゃない。

DaiGo・やなぎー:(笑)。

やなぎー:いい町ですよね、新宿もね。

隆太:いい町です。

やなぎー:そうなんですね。じゃあ、戻ってこられてから、里佳さんが生まれてという感じなんですね。

隆太・里佳:です。

漫画家が最強のビジネスモデル

やなぎー:戻ってきた時には、まだ辞められてないんですか?

隆太:ぜんぜん辞めてないですよ。

やなぎー:じゃあ、ソニーから「戻ってこい」と言われて。

隆太:いや、「戻らせてくれ」と言いました。

やなぎー:「戻らせてくれ」とおっしゃって、そこで……。

隆太:そこで初めてソニー・ピクチャーズ経営の会社、今のアニプレックスという会社で、アニメを学ぶことになったんですよ。

やなぎー:そこがアニメとの出会いというか?

隆太:そうですね。知識がないまま入って、『ポケモン』すら知らなかったですからね。

DaiGo:ずっと向こうに行ってるわけですもんね。

隆太:そうなんです。ベトナムにいたから、日本の情報なんてNHKの国際放送ぐらいしかなくて。だから、びっくりしましたね。「日本のアニメは、こんなすげーんだ!」と。おもしろかったです。だから、ソニーはいろいろあるなと思いつつ、でも「ビジネスのネタ、やっと見つけた!」と思いましたね、最後の4〜5年は。

やなぎー:じゃあ、アニメで自分のビジネスをやっていけるんじゃないかみたいなことも、うっすらと思われ出したんですか?

隆太:そうですね。そこで思いましたね。アニメでというか、やっぱりITビジネスというか、いずれにしてもコンテンツを扱う権利のビジネスでやっていこうと。それで実際に起業した時は、やっぱり漫画コンテンツで、権利物を扱うというところでやろうと思っていきましたからね。

やなぎー:本にも、「漫画家が最強のビジネスモデルなんじゃないか」と書かれてましたけど。

隆太:そうですね。紙とえんぴつで何百億も生むのは、すごくないですか? 個人が。

DaiGo:たしかにそうですね。

隆太:クリエイティブだけで。

やなぎー:たしかに。

DaiGo:個人ですもんね、たしかに。

隆太:夢があるというか。ジャパンドリームがあるとしたら、漫画家じゃないかと、当時は思ってましたね。

DaiGo:『鷹の爪』なんかは、それでいったら相当、そのなかでもとくに……。なんて言うんですか、コストパフォーマンスがいいというか、そういう話とか出てましたけど。

隆太:そうですね、はい。だから『鷹の爪』を生み出すのには、やはり漫画から学んで。ああいう軽くて、でも儲かる。

やなぎー:アップサイドがすごい。

隆太:アップサイドがすごいというところ。「それはなんだろう?」と思った時に、漫画家さんと組むのが一番いいんだけど。でも、漫画家さんはもう権利がおいしいのわかってるから、権利手放さないので。

やなぎー:そうですね。

隆太:権利手放してくれる状況はどういう状況だろうとなった時に、まだ業界がないところに……。そういう、もうこの業界は会社に権利が帰属して、スタッフが作ってるような。それで、作ってくれたスタッフと会社が一体化して攻め込むのが、新しいビジネスモデルになるんじゃないかというところでやりましたね。

やなぎー:そこで、DLEの今のかたちを作ったと。

隆太:そうですね。そこで、はい。

やなぎー:なるほど。

子供が2人いる状態で社長をクビになる

DaiGo:『鷹の爪』は、ほとんど1人ですもんね。ほとんど1人というか……。

隆太:そうですね、本当に。FROGMANというクリエイターがいるんですけれども、その出会いが会社の……。2005年に出会ったんですね、僕2001年に起業したんですけど。その4年間はやっぱり、もうどうしていいかわかんなかったですね。

やなぎー:どうしていいか?

隆太:生きていけてましたけど。でも子供も、長男がいて里佳がいて。

やなぎー:ああ、もう里佳さん。

隆太:2人いる状態で、起業したんで。それで、絶対勝てると思ってたんで、余裕で「俺、すげー成功するよな」と思って起業して。

DaiGo・やなぎー:(笑)。

隆太:そしたらいきなり……、本にも書いてあるんですけど、追い出されちゃったので。もう収入がない状態で、子供が2人いる。けっこうな家賃も、そこそこ高いところに住んでたんで。「これ、どうなっちゃうんだろう?」と思って。そこでなんとか生きのびてきたのが、その4年間でしたね。余裕なかったですね。

DaiGo:あれですよね。「パパ、自分の会社をクビになる」というやつでしたっけ?(笑)。そこのくだりですよね。

やなぎー:そうですよね。

隆太:まさか自分がクビになるなんて思わないじゃないですか。

DaiGo:まあ、そうですよね。

隆太:DaiGoさん、自分の会社クビになるとは思わないでしょ?

DaiGo:まあ、そうですね。クビにしたら、クビに……。えっ、クビにする?

(一同笑)

隆太:クビにできるのは、自分だけじゃないですか? 自分の会社は。

DaiGo:ふつうに考えたら。

隆太:引退時期がいつか考えて社長は自分をクビにする。僕もそういうものだと考えてたんですけど。20パーセントの筆頭株主で、社長もやって、その当時は無敵だと思っちゃったんですよね。

DaiGo:その状況でも、そんなことがありえるんですね。

隆太:まあ、80パーセントは他人がもってるわけですから。

DaiGo:まあ、そこは。

隆太:結託されて、「あいつ、なんだよ!」と言われると、まったくもって勝ち目ないですね。

DaiGo:まあ、それはそうですね。たしかに。

楽しそうに仕事をする父の姿を見ていた

やなぎー:里佳さんは、その当時は覚えてたりするんですか?

里佳:当時、覚えてますよ。たしか2歳ぐらいの時に、父が起業したんですけど。その時、物心ついて4歳とか3歳とかぐらいの時に、気づいたら家でずっと仕事してたんで。すごい接する時間も多かったので。しかも、すごい楽しそうにしてたんですよ。

たぶんその時、追い出された時ぐらいだと思うんですけど、ぜんぜんふつうにハッピーな感じでやってたんで、「家でこうやっていっぱいめんどうみてくれるし、すごい楽しそうだし、お仕事いいな」と、その時にばくぜんと思ったんですよ。

やなぎー:働いているお父さんを近くで、間近で見てたんですね。

里佳:近くで見てて、すごい楽しそうというイメージが、幼稚園ぐらいの時につきましたね。

やなぎー:「楽しそう」と、おっしゃってますけど?

隆太:いや、やっぱり楽しいは楽しいんですよね。仕事がつらいとか思ったことがないんですけど。でも、それはなんのことをやってても、やっぱり前向きな人はそうじゃないですか。だから、それは目の前のことに対してすごく楽しかったですけど。ただ、どこに向かってんだろうとか、ばくぜんとした恐怖ですかね。

DaiGo・やなぎー:あー。

隆太:あと、失ったものへの恐怖は、ずっとついてましたね。ようするにソニーの一番出世のポジションにいた自分が、かっこつけたわけじゃないんですけど、「いや、そんなの関係ないんだ。俺は辞めて大成功するんだから」と思って。それで辞めたら、もういきなりプータローになって。「一番出世のあの席、もったいなかったんじゃないか」という恐怖ですよね。

DaiGo・やなぎー:へー!

隆太:その恐怖が、怖かったです。