心を病んでる人単体の話にしてはいけない

山田玲司氏(以下、山田):そして! これですよ。水槽問題なんですよ。幕張問題なんですよ。

乙君:水槽問題?

山田:我が国はランドですね。島国ですね。なんか出れませんね。水槽みたいなもんなんですよ。この国は。それで、水槽っていうので魚を飼ったりしたことがあるひとはよくわかると思うんだけど、中にいる魚って、魚単体が病気を作るんじゃなくて水槽の中で病気が発生するんだよ。

乙君:あー! よく言いますよね、あるある。

山田:よくあるのが水の問題だったりするんだけど、水が流れを作って、ろ過っていうのが行われて、バクテリアっていうのがちゃんと分解してくれて、みたいな。でそれで魚の数っていうのは(水槽の)大きさによってどれくらい入れて良いのかって決まるわけだよ。

それに対する水草の数、日当たりとか。そういう全体のバランスっていうのが整って初めて魚は健康になるんで、魚単体の話をしてもしょうがないんだよ。

これが、患者単体の話。心を病んでる人単体の話にしてはいけないってことで、さっき言ってたジェダイの話とちょっとつながるんだけど、もう結局そこってアレじゃないですか、環境の話じゃないですか。わかりやすいのが水槽の話で。

乙君:あ〜。さすが玲司さんって感じがしますね。

山田:なんでだよ(笑)。

乙君:水槽に例えるんだ、動物園じゃなくてね。

山田『Bバージン』でお馴染みの。

乙君:さかなクンもついてますしね。

山田:そう、さかなクンもその話をしている。それに近い話を。だいたいあとざっくり言わしてもらうとな、この国でなんで心を病むかっていったら、だいたい1パーセントの勝者と、99パーセントの負け犬っていうシステムになってんの。「野球やりたい!」って言った時全員がイチローになれないの。

乙君:まあそうですね。

山田:みんな、「そういう風になったら良いなと思ってました」とかいうそんな人たちばっかりなの、この国は。「夢を語る」とかいうのがまずそこでおかしいんだよ。あと、資本が。お金持ちっていうものはみんなからお金を集めてるっていうか、集中させるってことなので。結局誰かは貧しくなるんだよね。

乙君:そうですね。

他人の幸せが自分の不幸になってしまう

山田:例えば誰かが学校で、良い学校に行くとすると、行けない人が出てくるっていう。つねにこの競争社会で生きてく場合は、他人の幸せが自分の不幸になってしまうってシステムになっている。だからなんとなく「幸せそうな奴がいるとムカつく」っていうふうになる。

これは当たり前なんだけど、システムとして最初からあるなっていうのが俺思ってるな。あと、持続可能な社会システムじゃないの。いつかおかしくなるだろうなこの国って。いつか持続できなくなるだろうなって。

すでにヤバいことになってる、持続可能じゃない不安感みたいなものも1個あるなと。アルプスの少女ハイジって、たぶん10年後もあんな感じじゃん。あんな雰囲気すんじゃん。わかんないけど、ハイジの村が近代化して……みたいなこともあり得るよ。

乙君:マックができて、スタバが来て、ネットが……みたいな。

山田:そうそう。みんなGAP着てるみたいになるかもしんないじゃん。ハイジがGAP……GU着てるみたいな(笑)。おじいさんがインターネットでネット廃人になってるかもしれないし(笑)。

そんなこともあり得るけど、でもまあその、「いつまでもこの幸せが続くよね」「なんかやベえよな」っていう感覚。先送りしてる問題の不安感。

あとはなんだろね、偽善ていうものについて、わかってんだけど。テレビとかで良い事言う人たちがいっぱいいても、わかってるけど、それを見てネットで「チッ」とかネットで言うとか。

表立って良い事言う人に対して「それ根本的にどうなんですか」って言えない空気っていうか。あるよね。何十にもストレスがあって、みたいな。

それでね、これでいいんだ、僕はいいんだ、ナンバーワンになれなくてもいいんだってそういう自分洗脳をずっとしてきた歴史があって、それの限界に来てるかな〜みたいな感じもするんだよねー。

スクールカースト問題

山田:俺は思ったんだけど、学校ってさ、異常なシステムだと思うんだよ。

乙君:来ました。スクールカースト問題。今日ほんっとなんか集大成って感じですね!

山田:ありがとう(笑)。家庭でスター・ウォーズやってんじゃん。学校でバトル・ロワイアルやってるの。だから、戦争から戦争ですわ! そんな毎日送って、「学校行きたくない」って言うに決まってんべって話なの。

そこでなんとなくやり過ごせて、なんとかやりすごせた人ってのが先生ってのになって。一度も社会に出てないうちに先生になるから。

乙君:その問題はある。

山田:これが(ファインディング)ニモ問題です。

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乙君:ニモ問題(笑)。

山田:ニモのお父さん問題です。

乙君:もー、いろんな! ニモ問題の回の解説が。

山田:集大成、総集編(笑)。伏線の回収みたいな。

乙君:ここにつながってたんですね。

山田:そうなの! そうなんだよ。そんで、学校ってなんで1人の話の下手な公務員のね、話を1日6時間も聞かなきゃいけないんだって、この苦行。俺の若い時間を返せって。

だって時計しか見てなかったもん。「終わんないかな」しか考えないでしょそんなもん! そうでしょ、あのなんか、なんで12時になったら嬉しいのっておかしくない!? 1日の半分が終わっちゃうのに。

つまんないからだよ! クソみたいな授業受けるから学問っていうものがつまんなくなっちゃって、君何周もして文学とか日本画とか言い出すじゃん。

時間かかるんだよ、そこに行くまで。学校つまんない=学問つまんないって言ってしまった人たちのなんと多いことか。この人たちが見事なまでに愚民になるわけよ。

この愚民を作るシステム! ……なんかごめんなさい(笑)。俺、江川さんと一緒に「学校嫌いっていうのはマトモな証拠だ」って話で。いいんだよそれで。じゃあね、ブラスバンド部入って、それでやり過ごすって手もあるんだよ。

乙君:なんでブラスバンド部選んだの(笑)。

山田:あのー、『桐島、部活辞めるってよ』でヒーローだったのが素振り辞めない先輩とブラスバンド部の女の子じゃん。あと映画研究部のオタク共じゃん。

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乙君:んー。見てない!

山田:おい!

乙君:流行ってんの基本的に見ない!

山田:お前10万人の中の1人じゃんか!

乙君:あれは流行ってない

山田:流行ってるよ!(笑)

乙君:1億2000万人いて10万人なんてこんなもんすよ!

みんなが「おめでとう」って言ってる時は気を付けろ!

山田:そうすか(笑)。思ったんだけどここでもまたジェダイですわ。やっぱりね、戦中っていうのがあって。学徒出陣ですよ。もう「学校とか行ってる場合じゃないから殺し合い行って来い」って話だったんだよもともとは。ちょい前の戦中派にしてみれば「学校行けるだけありがたい」って話になるんだよ。

乙君:なるほどね。

山田:戦後派はどんなかって言ったら、食えなかったんだよ。「食えるだけでいいじゃねーか」って人たちなんだよ。この人たちだけでシステム作っちゃってんだよ。

だから「学校行けて良かったじゃんお前ら」ってなる。だからなんか知らないけど、幼稚園から小学校入るときに異常な盛り上がりを見せますよね。

乙君:そうなの?

山田:だから「友達100人できるかな」っつって、そんで「ランドセル良かったね」って、あんな重い物持たされて、これから地獄が始まるのに! 大人が全員で洗脳して! 間違った道。

あれ結婚式に似てますよね。「違う〜!」って思うんだよ。あの時の俺はなんで浮かれてたのーー!? みたいな。地獄が始まるのにー! みたいな。だからみんなが「おめでとう」って言ってる時は気を付けろ!

乙君:なるほどね(笑)。気を付けろと。

山田:気を付けろ、危ないぞと。巻き込まれてるぞと(笑)。何かに、ダークサイドに! シスに巻き込まれて「NO〜!」ですからね。

乙君:んー、今日、言いますねえ(笑)。さすが中2魔王って感じですね。

フロンティアがなくなっていく

山田:いいんだよ魔王ですから、みんなが喜んでくれれば。それでですね、「学校に行けるだけマシ」っつって、昭和40年代までは良かったの。学校の思い出もあるし、出てからも……。

俺の世代ギリくらいかな、たぶん金八くらいがギリだと思うんだよ。金八ぐらいまでは学校ってまだ良いものだと信じてたのみんな。どういうことかって言うと、空き地があったんですね、昭和40年代までは。

乙君:あ〜! 風景ね。ドラえもんみたいな。

山田:空き地の存在ってどういうことか分かる?

乙君:あれでしょ、アジールでしょ。

山田:次の世代が活躍する場なんだよ。

乙君:えっ……?

山田:OK?

乙君:ちょと、詳しくどうぞ。

山田:つまり、その空き地の上に楽天とか建っちゃったら、もうネットでは仕事できませんよって話なのよ。

乙君:?

山田:で! その空き地、つまりGoogleとか楽天とかがある前だったら、ネットだったら可能性あったんだよ。小学館と集英社と講談社がある前は、出版にも夢があったんだよ。

乙君:え、あ! そういう意味での空き地ってこと?

山田:そうそう。

乙君:土管があってとかじゃなくて(笑)。フロンティアってことね。

山田:まだ家が建っていないんです。『いただきストリート』を思い出してください。まだ空いてんだよいっぱい! あの時代は。だから学校出てから、パッとしなくても空き地あんだよ。

乙君:あー。

山田:これが段々埋まっていっちゃって、フロンティアがなくなってくんの。この国って。

乙君:はぁ〜。

山田:だから、うまくいってる人の後を追いかけたって上手くいかないんだよ。三木谷がいるんだよそこにはっ! ていう話ですわ。ということがあって、こんなことになっちゃったよねー、そりゃみんな病んじゃうよねー、死にたくなっちゃう。

だってフロンティアないんだから。だからどうしたら良いかっていうと、逃げろっていう話は、この漫画で描いているのは、「生き延びて逃げろ」っていう。

乙君:うん、エスケイプね。

山田:わっかんないだよ、この先巨大なカタストロフが待ってますから。一気に壊れるから、いろんなことが。そうするとまた空き地ができるから。っていうことの繰り返しなんだよ歴史って。

乙君:あー。

山田:だから、その時までなんとか生き長らえろって話なんだよ。だから「おめでとう」とか言われて出陣するなって話なのよ。

乙君:(笑)。

山田:そこを気を付けろよって話ですわ!

乙君:はー、なるほどねー!

山田:もう45分ですよ。

乙君:いやいや、むしろ今日ちょっと……もうね!

山田:(今日は)考えてきた。『アリエネ』回でアワワってなっちゃったから。

乙君:(前回の観覧のときとは)全然違うこの切れ味っちゅうか。

我々はなぜメンヘラになっていったか

:いこうか、このまんま。メンヘラ。我々はなぜメンヘラになってったかっていうのを考えてみたんだけど。俺たちみんなメンヘラなのね。

乙君:んぅ、うん……。

山田:メンヘラクロニクル考えてきたの。いつもの。俺クロニクル大好きなんで。60年代くらいの人たちって、俺も生まれたころだからよくわかってないけど、戦争PTSDなんだよ。

だから戦争でのいろんな意味でのトラウマがあって、リアルに心が壊れてんの、体験として。同時にリアルに希望があるんだよ。生きてたっていう。そこはハッキリしてた。問題は、その後全共闘PTSDになるんだよ。

乙君:全共闘PTSD!

山田:要するに60年代ですな。

乙君:戦争PTSDから全共闘PTSDに。

山田:だから「もう戦争とかしないよ」って言ってたくせに安保とか言いだした時代で、全共闘世代はふざけんなって大騒ぎするんだけど、大挫折するんだよ。大挫折のあとに一気に闇がばーっと広がってくって話なんだけど。

その前後でいうと、けっこうみんな実際キツイんだよ、暮らしも。貧しい人も多いし階層もあって。

寺山修司はメンヘラではなく達観している人?

山田:まあお馴染みのこの話からしようと思って、ばん!

山田:テラヤマですね。これ、『田園に死す』なんだけど知ってっかな。寺山修司って、メンヘラだと思う?

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乙君:これはねー、僕はもうね。

山田:あなた大好きじゃん。

乙君:大好きっていうか、寺山修司はちょっと時間かかっちゃうから言わないんですけど、メンヘラかどうかって言われたら、メンヘラじゃないんですよあの人。

山田:そう!

乙君:そうなんすか? じゃあどうぞ。

山田:なんで?

乙君:なんで? メンヘラとかじゃなくって、最初から達観してる人なんですよあの人。出てきたときから諦めてる人だから、ニヒリストではあるんだけど、こじれて……俺の思うメンヘラではないですね。

そして社会をどうするかってことじゃなくって、どんだけおもしろいことするかって人なんですよ、簡単に言っちゃえば! 寺山修司ってのは。

だからなんだろうな……誰かに執着したりとか、そういうことは一切あの人はないですね。「ああ、良いよ」っていうか、粋っちゃヘンだけど、そういう人です。

山田:寺山修司に関しては何の説明もなくてもこんだけ喋れるんだね(笑)。スター・ウォーズに関しては何も知らないのにね。

乙君:いやあ、非属の才能なんでね。僕はね。

山田:あ、そうすか。この映像もすごいよね。『田園に死す』ってわりと有名だよね。

乙君:うん。

山田:このシーンね。

乙君:これめちゃくちゃ良い。

『書を捨てよ、町へ出よう』は水槽から出る話

山田:良いよね。「書を捨てよ町へ」なんつって。でも結局寺山修司って、俺、園子温と被るんだけど。

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乙君:ほ〜。

山田:だから、自分の体験・トラウマを映像にする人達。映像にする一派の人の、ボスだなって気がするんだよね。この人が青森で感じた絶望、抜け道のないさ、狭い世界。これがなんか、青森の古い家のー出られない。

で、老婆に囲まれている自分。この老婆がイタコっぽいっ感じだったりしてさ、死の世界なんだよね、この人にとっての青森って。

乙君:そうですねー。

山田:この人にとっての田舎って死の世界なんだよ。そのどうにもなんない世界からなんとか抜け出して書を捨てて街に出て新宿で大暴れするってことなんだよね。だから、この人が書いているのはその頃の話なんだよな。閉じ込められた所から脱出するって話で、実は病んでない。病んだような演出してるんだけど。

乙君:だからメンヘラぶってるんですよね、今で言うところの。

山田:実は健全・健康。

乙君:メンヘラっていうかどんどんアートよりにいくっていうか。前衛だったんですよ、つまりは。

山田:そういう型になって。その水槽から出たって話で。これ四畳半みたいなところにいるんだけど、これもともと家なんだよね。2人が閉塞感のある家の中で食事をしてるんだけどその壁がバーンって開けると外が開くっていう。

これラストシーンで、新宿にのど真ん中でやるんだよね。映画の最後のほうでね、暗ーい部屋で2人でちゃぶ台を挟んでいきなりバーンと(開けて)新宿が現れるっていう、ある種時空を越えるっていうのを演劇的に表現してるんだけど。

これも、なんつーの。辛いから上昇っていうか、非常に明るくて実にポジティブだよなと思って。

乙君:その、アレなんですよね。この寺山修司の世界に入ってく奴がメンヘラなんですよね。

山田:あ、そうそう。

乙君:メンヘラホイホイみたいな。前衛っていうのがいつの間にかそういう人らの巣窟になってしまうっていうアレがありますよね。

山田:そう。で、ガロ。その当時のガロですわ。

乙君:ガロきました!

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