非連続な経営判断の重要性--セブンイレブンの事例

司会:ではここから、ディスカッションに入っていきたいと思います。

先ほど須藤さんから、「KPI1.0」から「KPI2.0」に変わっていくと、経営者の視点で物事を決めていくことがやりにくくなってくるというお話がありました。

こういったデータドリブンでMilitary Affairsが変わっていってる時代の中で、経営者の役割も変わってるんじゃないかなと思ったんですけども、データドリブンにやっていく、KPI2.0の世界を狙っていく中で、経営者にとって重要な役割はどう変わっていくのかということをおうかがいしたいと思います。

須藤憲司氏(以下、須藤):要は、連続的な成長の意思決定や経営のディスカッションは、正直言ってほとんど意味がなくなってきてるんですね。

だから、今の延長線上のオペレーショナル・エクセレンスを追求していくというのは、こういうやり方ですごい活きるなと思いました。

ただ一方で、非連続な経営判断の重要性が上がっていますよね。何か新しいこと、まったくデータが溜まってないことに対する意思決定や考え方というのは、やっぱりすごく違うと思ってまして、そこが本当に大きなポイントじゃないかなと思っています。

参考になるかどうかわからないですけど、僕がいつも勉強になると思っているのは、例えば日本のセブンイレブンがアメリカのセブンイレブンを立て直すときに、結局何をやったかというと、もともとデータ経由で商品の選定をすごくちゃんとやってるんだけど、一番大事だったのは結局クリンネスで、店舗の清掃をめちゃくちゃ頑張ったという話をうかがったことがあります。

要は、店舗がきれいになると来るお客さんの層が変わって、売れる商品が変わって、売上が上がると。

逆に店舗が汚かったときは、そうじゃない人たちがいっぱい来て、買われる商品もぜんぜん違っていて、だから“Garbage in, Garbage out”(注:ゴミを入れればゴミが出てくる=間違ったデータを入れれば、間違った結果が出てくるということ)みたいな感じだと思うんですけど、経営ってそういうことなんじゃないかなと思ってまして。

そのデータの中に何を入れるかという意思決定とか、さっきの非連続に近いと思うんですけど、そこの箱にないものを、どうやって入手して、取り込んでいくかというのが、すごい大事な意思決定なんじゃないかなと思っています。

経営者と現場担当者の役割

司会:オペレーショナル・エクセレンス、継続的な改善というのは、仕組みだったりデータドリブン文化が醸成された組織の現場が勝手にやると。だから、経営者はデータがないときに何をやるかを決めるのが大事だと。

須藤:そうですね。ただそれも残念なことに、現場のほうがデータを持っている状態だと、「それぜんぜん数値悪いと思います」みたいなことをピシャッと言われるんで、意外と大変なんですけど(笑)。

司会:それは、本質的にはありがたいんですか?

須藤:やっぱりありがたいですよ。ここにいらっしゃる皆さんは、経営に携わってる方々ばかりだと思うんですけど。

経営者が「こうだよね、ああだよね」と言うことに対して、正しい意見が入ってくるかどうかはすごく重要だと思ってまして、やりにくいけど、そこは本当にありがたいですね。

司会:天沼さんはいかがでしょうか? 経営者の役割があれば。現場と経営の逆転とまでは言わないですが。

天沼聰氏(以下、天沼):確かにそうだなと思って、勉強になるなと思って聞いてたんですけど。やっぱり非連続というところにつながるかと思うんですけど、経営者として私個人は、大きく向かう方向性が絶対ブレないようにというところは常に意識をしています。

例えば、エアークローゼットという、我々が今動いている法人格が人としていろんな多重人格を持つようには周りの方から見られたくないと思うんですね。

法人格の脳は、1つの方向を向いているべきだと思うので、その方向を指し示すというところと、方向を指し示したら、あとの細かい部分に関しては、やっぱり現場のほうがより知ってますし、データもわかっているので。

経営者は、どちらかというと現場が動ける環境をつくることに徹底的に意識を注ぐのがいいのかなと思います。

司会:なるほど。お二人の話に共通してあったのが、担当者を置かれていると。おそらく、そういう人を置くことによって、組織全体でそういった非コア業務にかけてる時間が減るというところだと思うんですけども。

データドリブンの文化の醸成だったり、アクショナブルなデータを担保したりということをやっていく上でも、専任の担当者は重要なんじゃないかなと思います。

データ専任の担当者を置くメリット

お二人はどういった思いで、あるいはどういった実態を見て、専任者を置かなきゃいけなくて、またその人に「あなたの役割はこうですよ」というのを、どのようにやっていったかということをおうかがいできればと思います。

須藤:うちの場合は、従業員が6人ぐらいで、エンジニアが4名、営業1名、あと僕みたいな状態からDomoさんと契約させてもらって、まずはそのデータを突っ込むところをやってもらいますと。

そのあとに2、3名増えて、8〜9名ぐらいの体制になったときに、データ専任の人を1人置きました。そもそも置かないと、その進捗もよくわかんないんですよね。

なので、最小ユニットとして回していくために必要だったのは、例えば、それぐらいの規模になってくると、必ずバックオフィスの人が必要になりますよね。

営業がいて、開発がいて……という最初の役割の中に、データを扱う人が1人いたという感覚です。それがないと、会社全体のマネジメントがそもそもできないと。

水嶋:天沼さんのところはいかがでしょうか。

天沼聰氏(以下、天沼):近しい規模感なのかなというのは、今まさに思っていて、(従業員が)10人に近付いてきたときに、どうしても日々サービスを作っていくというところに注力をしてしまって、振り返ってKPIを管理するということになかなか手が回っていなかったんですよね。

なので、そこに対して数字を見ていきたいという思いで、Domoさんの導入を検討したというのが一番最初の部分です。

今1人で見ているメンバーは、私の直下でデータを抽出する部分と、全社のプロジェクト管理をするところを両面見ています。

導入するときに、ラーニングコストは下げたかったので、全グループの担当それぞれに、そのカードを作る方法や、仮説を立てなきゃいけないとか、カードを作るときに考えなきゃいけないことを伝えました。

一つひとつの内容を伝えるよりも、今の我々の組織の強さだと、1人に集約をして、まずはそのデータをどうやって活用するのかというのを実践して、見ていくということに注力をしたいなというところでした。

私から須藤さんに質問なんですけど、先ほどからおうかがいしてて、(自分の意見の)85パーセントは却下されるみたいなお話があったと思うんですけど、すごいなと思ってて……。

組織のメンバーがデータの見方を理解するというところは、使い方はすごく簡単そうに聞こえるんですけども、(実際には)間違ったデータを見たり、そもそもデータを見る癖が、ある人ない人といっぱいいる中で、組織の役員会議が全体的にデータドリブンになっていることは我々の目指す姿だなと思っていました。

たぶん過去にいろいろあったと思うんですけど、メンバーにはどう伝えていったんですか?

優秀な暴れ馬社員を束ねる組織づくり

須藤:よくいろんなセッションとかで、組織の文化づくりとか、風土づくりという話がいろいろあると思うんですけど。僕が大事だと思うのは、採用なんですよね。

採用=文化だと思うし、採用=風土だと思ってるので、「そもそも、そういうデータが重要であると思ってる人を入れてますか?」というのはあるかなと。

Kaizenの場合は、最初のときからそうだったんですけど、自分より優秀なやつを採りたいということで、そもそも「言うことを聞かない人を採る」という文化が見事に花開いてまして(笑)。なので、言うことを聞かない人がたくさん集まってるかもしれません。

逆に、言うことを聞かないので、データが大事なんですよね。要はすごく優秀で、すごく意志が強い人たちをどうやって束ねていくかというと、唯一無二の方法がデータだったので、そういう人たちを採用してデータで話すと。

司会:ある意味、須藤さんの思いがデータに止められてしまうのと同じように、暴れ馬的な優秀な人たちを止めるのもデータであると。

須藤:そうですね。

天沼:我々もすごくパッションが強いメンバーというのがいて、そうすると、暴れ馬的な人じゃないにしても、共通言語が必要だなというのを感じてて。その共通言語がデータだったというところですね。

そこで、「お客さんの反応がこう出てる」というところが、データとして示される場合と、その「いやいや、センスではこうだと思う」というところに対して共通で判断できるというか、そこはすごく近いなと思います。

センスや勘の良さもデータに表れる

須藤:やっぱりセンスとか勘とかよく言うじゃないですか? でも、たぶんそれもデータで表せるはずなんですよね。センスが良ければデータに跳ね返ってくるはずだし。「そもそもお前、センスなくね?」みたいなのも、データでわかると思うので(笑)。

司会:先ほどのプレゼンテーションで天沼さんがおっしゃってたのは、新しいカードのリクエストがあったときに、その仮説と検証方法とネクストアクションを示せという……要は、「示せなければカード作らないよ」ということだと思うんですけど。

それも、クリエイティビティがあって、何か新しい発想をして、「センスないんじゃないの?」と思ったとしても、その仮説と検証方法と次のアクションを示してくれたら、「ダサそうだけど、いっぺんやらせてみようか」となるんですかね。

天沼:ちゃんと考え方としてのレールが乗ってれば、もちろん出すのでいいと思います。それはやれると思うんですけど、これをずっと続けるかというと、まったくそうじゃないと思っていて。組織の状態と、そのデータドリブンの取り組みに対する理解度次第かなと思っています。

そこは我々、まだまだメンバーに浸透しきっていないので、まずはなぜ我々がデータを見るということを(浸透させていこうと)。アクションにつながらないデータを見てもしょうがないというのは、本当にその通りだと思います。そこを見てしまいがちだったりするところを、徹底的に見ないという癖を付けたいなと思いました。

須藤:うちは逆に、そんなもの止めもしないですね。「どうぞ、見たければ見れば?」みたいな。それも結局数字で跳ね返ってくるので。

結局は「やっぱりこれ見ても意味ないね」という自浄作用が働くと思っています。だから、そこに対してはあまり止めないですね。データが水道の水のようにひねれば出るとなれば、自ずと取捨選択しますよね? 水をガブガブいつまでも飲まないですよね?

司会:それは要するに、先行指標とかアクティビティの精度を見ていくものは自由に見ていけばいいけども、最終的にはその結果指標、売上やKPIで結果が出るから、ご自由にどうぞって感じなんですか?

須藤:そうですね。こういうデータを見るときにすごい大事なのは、KPIそのものの作り方だと思うんですよ。要はその……遅行指標って言うんですかね? 結果指標みたいのがあって、その前に先行指標があって、みんなその先行指標をあれこれ試行錯誤しながら追うと思うんですよね。

それで、先行指標が正しい先行指標であれば、もうそれでいいわけじゃないですか。だからすごい大事なのって、その結果指標と先行指標がちゃんとリンクしてるかというチェックは、経営者としてやらなきゃいけないと思うんですけど、先行指標そのものが合ってるんだったら、もう後は何でもいいからこの数字を上げればいいじゃない? みたいな考え方ですね。

1人が見るカードの量とその目的

司会:なるほど、わかりました。時間もあれなんで、そろそろ会場からの質問に移りたいと思います。Twitterで「一人ひとりが見るカードの量の目安はありますか?」という質問をいただいてます。いかがでしょうか?

天沼:今は各グループでカードを見る数がある程度決まっているので、最大でも20ぐらいです。基本的にはKPIを多く作ってもあまり意味がないと思っているので。

1人が見られる、アクションにつながるという意味では、短期的にはもっともっと少なくて、5枚とかを意識して動くぐらいなのかなと思っています。

水嶋:須藤さんはいかがですか?

須藤:うちはカードが異常に作られていて何百とあるんですけど、それぞれの部署で見てるカードが違うので、1個の部署の1人が見てるのは2、3個だと思います。

水嶋:まあ合わせれば2、3個から、頑張って20個ぐらいという感じ。

天沼:全体で見たらそうですね。ただ、アクションにつなげるという意味では、短期的にはマックスでも5個を並行して回せるぐらいの感じですね。

司会:「一人ひとりが見るカードの量の目安はありますか?」という質問。もしかしたら、ご質問いただいた方は、見られる量の限界数という……そういうことでよろしいですか?

質問者1:なにかその数に根拠があるのかなと。

天沼:アクションしていて、結果を見てもらいたいので。そうすると、あまり長期的な部分は個人では関係なくて、その人が持ってるアクションに対してどうだというのを見るのに、持って5個ぐらいのプロジェクトかなという目安ですね。

須藤:うちは根拠よりも経験則ですね。結果的に20個とか見てるチームあったんですけど、そのチームがどうだったかというと、今は結局1個しか見てないんですよね(笑)。

司会:作って並べてるけど、結局これだよと(笑)。

須藤:それしか見てないから、「結局そうなんだよね」みたいな。要は、あれこれ言いたくなるんだけど、一番逃げちゃいけないというか一番効くやつ。

ボラティリティーがでかくて、自分たちがコントロールできて……というのに集約されていくので。いずれそうなるんじゃないかなと思うので、「たくさん見たければどうぞ」みたいな。

司会:なるほど、わかりました。

天沼:あとはたぶん、カードを見るときの目的もいくつかあって、1つはチームとしてのKPIとして見るとき。これは本当に数が少なくていいと思っています。2、3個とかに絞って見るという意味で。

もう1つ、先ほどのアクションにつなげるというところでは仮説があって、それを一時的に見ているパートというのも、わりと多く発生するんですね。そういうカードのほうが、数がものすごく増えていってるんですけど。なので、見なくなるカードもすごく多く出てきて、そこは目的が違うのかなとは思います。見なくなるカードの管理ってどうされてますか?

須藤:僕らは、ただひたすら見てます(笑)。アーカイブしていってるかな。健康診断とに似てますね。尿酸値だけとりあえず見て。尿酸値がやばいと「あれ? けっこうやばいかも」と言って、ほかの「癌は……」とかいろいろ見出すみたいな。

天沼:そうすると一時的に、どれぐらい運動してるかみたいなものを見出すじゃないですか。でも、これをずっと追うかといったら、追わないものかもしれない?

須藤:たぶん会社のフェーズによって変わるんだと思うんですよね。僕らみたいなBtoBのサービスをやってる会社だと、たぶん最初って新規獲得とかをパーッと見てくるんですけど、ミドルステージぐらいだとChurn Rate(解約率)を見ていくと思うので。

KPIの変化に合わせた組織のあり方

司会:ありがとうございます。ほかにご質問ございますか? じゃあ、そちらの方お願いします。マイクお持ちしますので、少しお待ちください。

質問者2:質問が2つありまして、1つは須藤さんの「KPIを見てればいいだろう」という話がとてもおもしろいと思ったんですが、データドリブンで、データを見られる人が増える、場合によっては横の組織が見えるとなったときに、一般的にはKPIと言われていたものが変わってくるんじゃないかなと思いまして。

今後データドリブンでKPIの作り方も含めて変わってくるという次に、組織のあり方が変わってくるかもしれないという部分で、感じられることがあればおうかがいしたいです。

もう1つはデリバリーの話で、データが見られない人に、いかに見られるようになってもらおうかという話があるんですが、オペレーションにどう組み込むかというところでなにか工夫があればお願いします。

須藤:たぶんその2つともに共通してると思うんですけど、KPI1.0と2.0の置き方の変化が、すごいあるなと思ってまして。要は、これまでのやり方って、部署の置き方とか全部そうだと思うんですけど、組織自体がウォーターフォール的だと思うんですよね。

企画があって、工場が作って、営業が販売して、マーケティングがなんとかするみたいな。そこにそれぞれKPIがあって、このバトンを受け渡していけば事業としてうまくいくでしょうというやり方だと思うんですけど。

デジタルの事業とか顧客体験となった瞬間に、KPIのあり方そのものが変わってきてるというのはすごい感じてるところで。要は、ウォーターフォールじゃないんですよね。

たぶんその中心にUXを置いて、例えばその工場が生産するときに、たぶんデフォルト率とか稼働率とかを通常見てると思うんですけど、「デフォルト率と稼働率って顧客体験にどう影響してるの?」という言葉に変えないといけないと思っています。

生産の現場とか、マーケティングの現場とか、営業の現場が、お客さんの顧客体験について、どういう数字を置いていて、どういうふうに向かわせるかというふうにやらないと。

例えば営業だけ見させても、「それってお客さんにとってどうなんだっけ?」というのが問われる時代なんじゃないかと思っています。

なので、組織の切り方も「本当にウォーターフォール的であるべきなのか」というのも最近すごく感じてますし、その指標自体がウォーターフォール的に置いていいのかというのが、すごくあるので。

要は、その最終エンドカスタマーとかユーザーとか、顧客の体験そのものを、「どうやって定量的に計りましょうか」みたいな。たぶん今日はLaunch PadとかでNPSとかが出てたと思うんですけど。

なんでもいいんですけど、結局なにか数字を取れるものに、もう1回置き換えていく作業が必要になって、そうすると組織のあり方そのものも、「実は変わらなきゃいけないのかもしれないね」みたいなことが、今感じてることです。

じゃあ、「当社としてどうですか?」と言われると、別にそんなに変わってないですね。営業は営業だし。ただ、見てる数字は売上じゃないところでも、みんな持っているので、そういうふうになってくるのかなと。

要は、営業という組織そのものの動き方が変わったり、開発という組織そのものの動き方が変わったりみたいなことが起き得るんじゃないかなというのが、僕の感覚ですね。

天沼:すごい共感なんですけども、やっぱり中心にUXを置いてるというところ。先ほども須藤さんが言ってましたけど。

我々もやっぱり、サービスを提供する上で、感動する顧客体験をいかに生んでいけるのかというところが一番重要だなと思っています。

組織分けはわりと一般的な組織分けをしていて、ただその中で、私が毎週全員の会議をやってるんですけども、そこでカードをバーッと並べで、それぞれの数字の共有をしたりというところを動いてるんですけども、その中で常に言ってるのは1つだけです。

その「各グループ、KPIをちゃんと達成して、役割分担をして、最速で動こう」というのに加えて、1つだけ伝えてるのが、「全員が責任持つのがUXだ」というところを常に共通の認識として持っていて、「UXに関わるなにかしらの改善であれば、どのグループからどのグループに対してでも提案して良い」というのは常に言っています。

そのときに必ずカードも一緒に出てきて、「こういうデータがあるので、UXがこうなっていくんじゃないか」というのに対して、「このアクションをやれば、この数字がこう変わります」というところまで出てくると、すごい(会社の)データドリブンが進化してきたかなみたいなことを最近は感じます。

司会:ありがとうございます。まだまだお話を聞きたいところなんですけど、ちょっと時間ということで。もう一度パネリストのお二人に大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)