他の芸人の絶望はたかが知れている

西野亮廣氏(以下、西野):でもあれなんですよね……。こんなこと言うと面倒くさいんですけど、たぶん他の芸人さんってあまり絶望を見てないんですよ。

山田玲司氏(以下、山田):いや、ほっしゃんは見てたよ。けっこうなやつ。大江戸線掘ってたもん、あの人。

西野:だから、たかが知れてるんですよ。

山田:おお、きたぁーー! ほっしゃんさん、元気ですかー?(笑)

西野:絶望っていうのは、貧乏するとか、売れないとか、そういうことじゃないですか。そういう絶望ってすごく頑張ったら改善されるじゃないですか。

山田:西野さん、いいですか? 頑張ったら幸せになれます? 人って。

西野:そりゃ多少は……(トンネル)掘ってるところから頑張ったら、ステージはちょっと上がるじゃないですか。だから、「幸福度」ってよく言うじゃないですか。「日本の幸福度は超低い」みたいな。でもそれは当たり前の話で。

幸せなことを感じる瞬間というのは伸び率じゃないですか。昨日から今日までの。要は、昨日95点取って今日96点だったら、あんまり幸福じゃないと思うんですよね。でも、昨日10点取って今日40点取ったら、これはすごい幸せだと思うんですね。

日本は半径50メートルのところにコンビニがあって当たり前の国ですから、もう超ハードルが上がりきってるから、幸福度なんか低くて当たり前で。

それで言うと、掘るところからいったら、もう後は上がる一方じゃないですか。だから、幸せなんじゃないですかね? そういう人って。

だから、そういう人はその類の絶望しか見てないんですよ。貧乏したとか。売れてないとか。そういうのは安いもん。もっと地獄ですよ。僕とかオリラジが見たのって。もう世間の方はぜんぜん理解できないんです。それなんで理解できないか……。

冠番組を持ってもスターにはなれなかった

山田:ああ、それ! 聞きたかった、その話。あなたはどんな絶望を見てきたの?

西田:『はねる(のトびら)』が20歳のときにスタートしたんですよ。それで、「これをゴールデンに上げたら、自分はスターになれるんだな」みたいなところでスタートしたんですね。

たぶん、みんなもそうだと思うんですよ。自分がゴールデン番組にあがりたいだとか、今だったら、ほとんどの芸人さんが冠番組持ちたいだとか、レギュラー番組何本持ちたいとか、たぶんそれをステータスとして、みんなそこを目指してやると思うんですね。

僕は20歳で『はねる』でスタートして、25歳のときに(番組が)ゴールデンに上がったんですよ。それで、視聴率毎週20パーセント超えるんですよ。みんながやりたいような番組あるじゃないですか。冠番組だとか。

のぶみ:今、自慢のとこですよ(笑)。

山田:すっげー至近距離で聞けてるよ、みんな(笑)。

西野:ゴールデンの番組もやって、視聴率も取って、お笑い番組もやって、『おはスタ』もやって、『いいとも!』もやって、グルメ番組もやって、ロケ番組やって、音楽番組やって、ほとんど自分たちの(冠番組を)やって。大阪でコメディも自分たちのやつやって。

だから、みんなが「こうなりたい」という(目指している)ものに25歳のときになったんですよ。なったけど、結局上にいって、スターにはなってなかったんですよ。知名度は上がったし、人気タレントにはなってたけど、スターにはなってなかった。

上にはビートたけしさんがいらっしゃったし、明石家さんまさんがいらっしゃったし、ダウンタウンさんがいらっしゃったし、タモリさんがいらっしゃった。この順番が変わってないなと思って。

「あれ?」と思って。「ここで変えられなかったら、いつ変えんの?」という。瞬間最大風速が吹いてるのに。要は、売れてなかったら言いわけできたんですよ。自分が打席に立ってなかったら、「打てたよ」って言いわけできたんですけど。売れてるし、超追い風吹いてるし、ここでホームラン打ってないということは「あ、俺は打てないやつなんだ」と思って。

それを経験したとき『はねる』がバッて上がってテレビに一番出ているときが一番ガーンと落ちてたときですね。「もうここまでやって時代が変わらない」「じゃあ、後はどの方法で時代を変えたらいいの?」という。

のぶみ:俺、その話を何回か聞くときに、いつも疑問に思うのが、そこまでいって続ければそういうふうに(スターに)なってくるんじゃないのかなという気はしたけどね。

西野:25歳でそれを続けていて、30歳でなんとなく(スターに)なって、40でなんとなくやって……とある程度は続いていたと思うんですけど。

たぶん、芸能界の地図をひっくりかえそうと思ったら、もうこの方法じゃないなという。25歳のあのままじゃ無理だったんですね。いただいてたやつ(仕事)をずっとやってというのは。それはちょっと、絶望でした。

のぶみ:一番にならないことが絶望なの?

西野:僕はそうです。はい。

のぶみ:なんで?

西野:僕はそこをゴールとしてやってるから。だから、売れるというのはぜんぜん興味がなかったし。だから、売れるとか飯食っていくということとか、それをやるんだったら……。

山田:じゃあ、すごい名作だけど売れない絵本って価値ない?

西野:いや、まあそれは自分が決めたらいいと思うんですけど。

山田:あなたにとって。

西野:僕は、そりゃ絵本だったら「これ超いいよ」ってなりますよ。

ただ、入ったときの理由はそこじゃなくて。深夜番組でも、僕は超好きな番組とかありましたし、それは視聴率がぜんぜん関係ないとこでしたけど。そうじゃなくて、元々入ったときの理由は「よーし、一番おもしろくなってやれ!」というところで入ったから。

山田:じゃあ、自分はおもしろくなれないと思ったの?

西野:「ひっくり返してないな」とは思いました。

山田:おもしろい人になれなかったの?

西野:う~ん、そうですね。

山田:じゃあ、泣いた?

西野:泣きはしないですけど。

山田:俺はけっこう泣いたよ。

のぶみ:山田さんの絶望の?

山田:俺はけっこう打ってるよ、絶望のホームランを(笑)。

人気芸人の孤独と絶望は理解されない

のぶみ:たぶん、絶望ってなにか自分がやったことに対して、やったあとに「これやってよかったな」って思ったら成功だろうし。

山田:それが10年後、20年後の場合もあるんだよ。そうすると、そこまでは辛いわけ。全否定されて、社会から「お前、いなくなれ」って言われるような気分で生きてるってやつね。

のぶみ:西野さんの場合は、そのときに他の人が「続けたらいろいろ変わったんじゃないの」とか思ったりもするけど、西野さんの場合はそれを続けることがなかなかできなかったと。

西野:他の人は、たぶんそこを見てないからわからないんだと。端から見たらよくわからないと思います。なんであんな超幸せな瞬間が絶望だったか。お金ももらってるし、女の子にもモテるし、生活もいい。なんでそんなにガーンって落ちることになるのかというのは、よくわからないと思います。

貧乏した人は貧乏している人の気持ちがわかるじゃないですか。ブサイクな人とかチビな人はその気持ちがわかるじゃないですか。それの代弁者みたいな。童貞パンクがすごいバーってなるのは、やっぱり童貞の気持ちが超わかるから行くんだと思うんですけど。

これを経験したやつがいないから。まず、この味方が1人もいないというのがあって。

のぶみ:それはけっこう絶望だね。

西野:このガーンって、今ここで喋ってもわけわかんないと思います。

のぶみ:そうだよね。

西野:それは経験したことないから、ほとんどの人が。だから、やっぱりそれは辛いですよ。貧乏とかのほうがまだそれを応援してやろうという人も増えるし。

のぶみ:「だよなー」がないんだね。

西野:ただ嫌味な。「なんだお前。仕事いっぱいあって、それが絶望? お前むっちゃいいやんけ!」という。もうただただ嫌味なやつになるというのは。それはたぶん僕と(相方しかわからない)。まあ、梶原はその前に失踪してるんでアレなんですけど。

のぶみ:あの人はそれに負けたの?

西野:まあすごいですよ、プレッシャーは。そのときの「味方がいない」というプレッシャーはやっぱり。

なんかわかりやすいコンプレックスがあるっていいじゃないですか? 誰かの代弁者になれるから。僕のコンプレックスはそれなんですけど。誰の代弁もしてないという。

明石家さんま、ビートたけしがスターになれた理由

山田:一番になれないことがコンプレックスってこと?

西野:そのときは……なんだろう? スターになってないなと思って。

山田:それって絶対的な夢だったの、子供のときからの?

西野:そうなんです。僕は小2からお笑いに入って「芸能界で一番になろう」というところでスタートしてて。それで「そうじゃないぞ」というのが。

山田:それって、人気者になってちやほやされたいってこと?

西野:入り口はたぶんそうですね。ちやほやされたかったというのがあって。

のぶみ:さっきコメントにも書いてあったんですけど。逆に、ダウンタウンさんとか、西野さんが思うスターの人たちとか、ビートたけしさんとかは、なぜ上にいってスターになったと思います? 自分になにが足りなかったのかというのって。

山田:絶望したらそれ考えるよね。やっぱね。なにが自分と違うのか。

西野:さんまさんとか、たけしさんとか……。

のぶみ:会った感じで。

西野:会った感じ? 人はわかんないですもん。みんなおもしろいですから。

のぶみ:おもしろいですよね。

西野:一番いいなと思ったのが、さんまさんとか、たけしさんとか、タモリさんとか。もちろんすごい才能を持っていて、すごく努力もされていて。

それを言っちゃうともう話が終わっちゃうから、それじゃないところで考えたときに、テレビが第2希望だったというのがいいなと思ったんですよ。つまり、僕はテレビが第1希望だったのね。

さんまさんとか、みなさん咄家じゃないですか。「芸人のくせにテレビでやがって」みたいな感じで。第2希望のほうが人の話を聞くじゃないですか。

第1希望って気持ちが強すぎるから、あんまり聞く耳を持たないというか。「俺、こうしたいんだ」が強すぎて。

のぶみ:ああ、ちょっとわかるな。

西野:基本的に、第2希望のほうがうまくいかないですか? 仕事とか。

山田:第2希望が絵本なの?

西野:僕は絵本にあんまり興味なくて。

山田:隣に絵本作家がいらしてて。

のぶみ:大失言ですよ、それは。

山田:300冊描かれてる絵本作家が今いらっしゃいますけど。

のぶみ:総長の頃だったら大変なことになる(笑)。

山田:そういうところがおもしろいよね。それは、ナチュラルなんでしょ。それ言っちゃうところは?

西野:絵本はそうです。僕は興味ないので。