イギリス・オランダは子供の人権を第一に優先

おときた駿氏(以下、おときた):(児童養護について)他の国ではどうしてるんだということで、まず先にオランダとイギリスの例を紹介さしていただきたいんですけれども。

我々オランダ、イギリス、ドイツで見てまいりまして、まずオランダとイギリスの例を紹介させていただきたいんですけれども。例えばオランダでもイギリスでも、共通しているのは子供の権利が決定的に重視されているということです。

日本はさきほどお話した通り、親の親権が一番に重視されます。親の意向がそうであれば施設に入れる、親の意向が就職であれば進学はさせない。そういったことが平然と行われているのが残念ながら現状です。

オランダ、イギリスというのはまず、子供の権限を重視します。イギリスでは親権停止、虐待をした親、ネグレクトをした親から親権取り上げちゃうんですね。「あなたは親の資格がない」ということで、親権を剥奪して国が取り上げてしまう。

これが年間6万件にもおよんでます。年間数千件養子縁組をされています。すぐに親権停止して、新しい家庭で子供欲しいって言ってる方、不妊治療の方だとか高齢者の方、あるいは同性カップルの方、そういった方々がたくさんいますから。

経済的にも安定していて精神的にもしっかりしている家庭にどんどん養子縁組をして、子供の利益を最善に考えます。

しかし日本では親権停止は昨年ですと17件。もうお話にならないレベルで非常に少ないんですね。もうどれだけ親の権利が強いのかということで。

イギリスはこうやって権利をストップして新しい家庭に(子供を)送り込むということをしていまして。イギリスでは子供の権利を重視するんだけど、一番大事なのは家族の再統合、インテグレートだということを言っていまして、家庭の教育を徹底すると。

子供を保護した後カウンセリング、薬物依存とかですね、経済困窮になってしまった親が非常に今、多いらしいんですけど。それをもう一度再教育して、子供と暮らせる環境を徹底的に整えて、もう一度家族に戻してあげると。

そのための一時的な保護期間が社会的養護だとう割り切り方をしていて、そういったことを熱心にやっているということです。

日本では児童福祉司が1人しかつかない

おときた:この、ソーシャルワーカーという、児童福祉司と日本では呼びますけど、児童相談所の職員さんのことですね。日本だとネグレクトとか虐待が起きて、ある家庭で問題が起きたとき、その過程につく児童福祉司さん、ソーシャルワーカーさんは1人だけなんですね。

その人が子供の聞き取りもして親の聞き取りもして、さあその家族どうしようかということでお話をします。ところがイギリス、オランダもそうでしたけど、ソーシャルワーカーが2人以上付きます。

どういうことかといいますと、親の言い分を聞くソーシャルワーカー、子供の言い分を聞くソーシャルワーカー、2つわかれてるんですね。日本の場合だと、どうしても聞き取りをすれば親のほうが弁が立ちますし、親の権利のほうが尊重されがちですよね。

ところが欧米では、子供にも1人専任がつく。それは親につく人とは別なので、その専任の方が子供の権利のために戦うという仕組みになっています。

それによって、子供たちが「私は新しい養子縁組に行きたい」と言えば新しい養子縁組を探すし、「親のこういう所を改善してほしい」と言えば、改善に向けて動くという仕組みが欧米では確立をされているんです。

一番大事なこととして、イギリスとオランダ、今はもう乳児院というものがありません。0才から2才の小さな子供は必ず里親に措置をされます。これはやはり先ほど言ったように「愛着障害」、特定の里親さんとか同じ方々と暮らさないと起きる愛着障害が起きるという問題点が広く認知をされている点。

確かに子供が大きくなれば施設のほうがふさわしいという面もあるんですが、0才から2才の子供たちに関しては、小さい子供にとって施設での集団生活というのはマイナス面こそあれ、プラス面はないというのが欧米ではスタンダードになっておりますので。

必ずこれは里親に措置をされるということになっております。こういった点に関して、我が国も非常に学んでいかなければなりませんし、日本では里親というのは10パーセントしかないということを、しっかりと改善していかないといけないという証拠でもあると思っています。

今のことをまとめると、こんな形になりますね。お手元の表を見ていただくと良いと思うんですが、日本はネグレクト・DVなどが起きるとですね、まず一時保護といって親から引き離します。

そうすると親権優先、親の意見が優先されて、だいたいの親さん、施設が良いと言います。「里親なんてもってのほか」だということを言って、施設で保護をすることになります。

なので施設には平均6年間、日本で入るんですね。子供の6年間というのは長いですよね。しかもこの6年間というのは、0才とか1才の乳児とか、1ヶ月とか2ヶ月で預かってすぐ返すケースとかが非常に多いので、それが平均値を押し下げているので。

6才以上の子がいる児童養護施設とかですと、平均11年間、つまり6才から18才までずっといたり、そういう施設もごろごろ転がってます。

料理の方法もお金の使い方もわからない

おときた:余談になりますけど、こういう子たちっていうのは本当に、ぼくは何度も施設見に行ってるんですが。いわゆるセントラルキッチン、厨房みたいなところがあって、そっから配膳されて給食を取っていたりするので、料理をしたシーンを見たことなくて。

ガスコンロを使えなかったりとか、お金の管理もしたことがない、お小遣いをもらったりお年玉をもらったりっていうのもしたことがないので、もうお金の使い方もわからないので。

いざ18才で放り出されたら、給料もらった瞬間、翌日には全部使っちゃったりとか、そういった社会性が構築できないということで、施設を出てから非常に苦労するということで。

しかもその間は苦学の2年間。未成年でしかも支援がないという状況で、もう本当に生活保護に転落してしまう。しっかりと教育をしていれば良き納税者になってたかもしれない子供たちが、逆に苦しい状況に追い込まれてしまうという現状を抱えているのが我が国の状態です。

日本の一時保護は平均150日

おときた:一方で、イギリスのケースですと、ネグレクト・DVなどがありましたと。そしたら当然、一時保護しますと。日本の一時保護って今、非常に長期です。平均150日くらいかな。

一時保護所というのがあるんですが、ここはなんと、学校に通えません。保護されると。僕は義務教育の権利への侵害だっていうことで、行政と戦っているんですが。

確かに問題のある親とかが多いので、取り返しに来ちゃったり、そういうセキュリティの問題だと言われてはいるんですが、外出することもできません。外出は許可制。「できますよ」って言うんですけれども、事実上冠婚葬祭とか病院に行くとか、そういった用事以外は一切外出をすることもできなくて。

そこに100日間以上滞在する子もいて、下手すると1年以上いる子もいます。1年間教育ができなくて、派遣された家庭教師さんのもとで勉強して、クラスメイトとかも見れないような状況になっているんですけれども。

イギリスとオランダではこういうのは期間限定。一時保護の状態っていうのは1ヶ月とか2ヶ月で決着を付けなさいっていうのが法律で決まっていますので、すぐに親権停止をして、里親なのか施設なのかの判断をして、イギリス側では親権停止をすぐにします。

質疑をして、まず養子縁組を検討して、里親さんの元で18才まで育てて、家庭環境の元で育ててしっかりと社会に送り出しましょうということをしています。

あるいはイギリスですと、一時保護してすぐしたら、親がまだ再生可能であれば、徹底した親のカウンセリングをして、無理なら里親措置ということをしますけれども。

なるべく早く家庭に返すということを徹底してソーシャルワーカーとかもたくさんつけて、子供たちを家庭に返すということになっています。ちょっと私は行ってないんですが、韓国の状況です。韓国は施設保護が多いらしいんですけど、非常に個人に対する手当が手厚いということで。

施設には施設の良い部分はある

山田太郎氏(以下、山田):ここちょっと。韓国のほうは去年末に行ってきまして。ソウルの南のほうにある施設に行ってきました。おときたさんは、「施設はありえない」という考え方なんですが、施設は施設の良い部分があるなというのは私が韓国で見た部分でありまして。

日本と韓国の施設で何が違うかと言うとですね、基本的に韓国も他もそうなんですけど、民間主導なんですね。それぞれの施設において、非常に個性的な運営がされています。

日本ではありえないなと思ったのは、例えば韓国に行くと、すごく成績の優秀な子を徹底的に塾も行かせて、頑張ってソウル大学に入れたと。

そうするとその子の高校のときの成績票を、施設にわざわざ飾ってあるんですね。これは友達の、自分の施設からソウル大学に行くような子が出たということで、自慢なんですよね。

日本はたぶん、「何でその子だけ特別扱いしたんだ」ということになってしまいます。音楽が得意な子は音楽の先生呼んできて、一生懸命そういう音楽家に育てたりということで、個性っていうものを1つ育てていこうと。

これはなかなか里親とかになると、里親の状況とかの個々運不運によって、やっぱりできる・できないっていうのもあります。

ただ何で韓国がそういうことができるかっていうと、キリスト教団体がそういうのが非常に強いっていうことと、もう1つは寄付文化があるんですね。やっぱり国からくるとそれは税金を使ってるから、養護施設っていうのは最低限をサポートするのだっていうような考え方にどうしても陥りがちなんですが。

やっぱり1人の人間をですね、大切に社会が育てていくということに関しては、韓国はそういう意味では非常に豊かにできていますし、海外を見るとわりとそういったところが強いのかなっていうところで。考え方が、日本は孤児院っていうんですか、さっき言った?

おときた:孤児院。

日本の児童養護の問題は50年遅れ

山田:戦後。私もおときたさんとヨーロッパ回ったり海外いろいろ見ましたけれども、日本はこの問題は50年遅れで。

1960年くらいに相当このあたりは、リベラル運動が世界で盛んだったときに多様性の議論っていうのはすごくされて、そのときに児童養護のありかたについてもさんざん議論したんです。

そこから一生懸命韓国が制度を作ってきたんだけれども、日本はまったく変わってないっていうんですかね。そういうことなんだと私も思っておりまして。

私が韓国を見た中で、パターンとして、イギリスはどっちかというと、もう親権を剥奪しても、子供の命を真っ先に確保しようと。オランダ型とか日本がそれに入るかわかんないんですけど、家庭統合っていうのが第1なんで、そう簡単に親権の停止をしません。

親権停止でどれくらいの差が出てきてるかというと、私はオランダのケースはちょっとあんまり知らないんですけど、ドイツは1万5千件から2万件、イギリスは2〜5万件親権停止します。日本は20件そこそこと。

イギリスは逆に言うと、親権停止しすぎだっていうことで、弁護士団体があまりにもやりすぎなので、「親側の権利を守る」っていう弁護士団体もありまして。

そこにも、我々はバランスをとるという意味で会いに行ったらですね、「日本はどれくらい親権停止してるの?」って聞かれたんで「20件から30件いかないです」と言ったらびっくりです。

「それは仕事しなさすぎ」と、逆にこういうふうに言われたりもしんたんですけど。確かにこの問題はそう簡単ではなくて、最後はやっぱり家庭統合できるかどうかっていうのは1つのキーポイントです。

私もいろいろ児童養護施設を回ってますが、やっぱり子供は、どんなに虐待をされても親は親なんですね。親の元に戻りたい、戻ったらすごく大変でつらい、だけどやっぱり本当の親のところに戻りたいっていう子は多かったりするわけでありまして。

家庭統合というところもどうやって考えていくのか、そのことは非常に重要なことなのかなと思っています。

子供を保護の対象から権利の主体に

おときた:ありがとうございます、最後のまとめを言っていただいて。ということで、韓国の状況も山田さんから言っていただいたということで。

最後のまとめなんですけれども、じゃあ我が国はいったいどうやっていったら良いのかという話なんですけども。

子供を保護の対象から権利の主体にっていうことが一番言いたいことであります。日本では、本当に子供というのは支援をされる側、可哀想な子供だから福祉のサポートをしてあげようという目線で戦後の法律や施設というのが構成されてきたんですが、子供っていうのはそういう客体じゃなくて主体なんですね。

子供には幸せになる権利がある、家庭を得る権利がある。子供目線で日本を作り変えなきゃいけないっていうのが、日本が欧米諸国と比べて、乖離している点というか。

そこをリノベーション、改革が必要なんだなというふうに私は思っております。具体的にどういうことをやっていったら良いんだというと、やっぱり家庭養護、里親措置を優先させる原則の確立。

これはちゃんと法制化していくということ。乳児院というのは原則廃止をしていくこと。あるいは障害児の差別の禁止、障害を持ってるからといって、里親じゃなくて施設に行くというのをオートマティカルに、機械的にやるというのは、これはもう、障害者差別規制法、今年の4月から施行されますけれども、それでも厳しく禁止されていることですので、そういったことをしっかりやらなきゃいけないと思っております。

私は何も施設のすべてが悪というふうに言ってるわけではなくて、施設が必要な子というのも一定数存在します。だけど10才とか15才くらいになってくるとなかなか新しい家庭には馴染めないとかですね。

スペシャルニーズって言いますけど、何らかの精神障害、発達障害などがあって、小さい家庭環境に馴染めないという子は、施設の集団生活のほうが良いということもあります。

ただ乳児院というのは0才から2才という大切な期間というのは、個人が預かるべきというのは学術的なスタンダードになりつつありますので。

ここに関してはしっかりと、子供の家庭を得る権利というのが、国連で認められている子どもの権利条約というのがありまして、これで認められている権利でありますので。

その原理原則に基づいて、日本でもしっかりと法整備をしていくべきだと思っております。あと、大きな2点目としては、児童養護の実施主体を基礎自治体への移管とともに、民間団体の有効活用、連携の強化ということを書かせていただいております。

というのはですね、日本は里親になる人が少ない少ないと言われて、4万人の保護児童がいて、里親に登録した人は4000件とかなんですね。

じゃあ欧米はどうやって開拓してるのかというと、民間団体がどんどん里親のマッチングをやるんですね。民間団体が里親をリクルートして見つけてきて、それを研修教育をして、それの里親の委託するところまで全部、民間に移譲しています。

でも日本はこれを全部行政がやって、しかも児童相談所がやろうとしてます。虐待相談だけでキャパオーバーだっていう所が、そんな里親のリクルートから教育からマッチングまで全部はできないんですね。

彼らは、自分たちはオーソリティーって言って民間インデペンデントって呼んでましたけど、インデペンデントの里親が半分くらいで、オーソリティーが半分くらいかななんて言ってるんですけれども。

どんどんそれを民間に移譲して、民間とも協力をしていかなきゃいけないと言っています。あと児童相談所の機能の分化と強化っていうのは、役割がすごく多すぎるので、アメリカだと日本における児童相談所の機能っていうのが、8個くらいのセクターに分かれてるんですね。

日本ではそれが全部児童相談所なんです。親の権利を守るのも児童相談所だし、子供の権利を守るのも児童相談所っていう、相反する業務を1つの所が抱えてたりするので、そこはしっかりと分化していきましょうというのが基本です。

児童裁判所ってい

うのは欧州であったりするんですが、要は家庭裁判所って離婚とかいろんなもの取り扱い過ぎてて、子供の権利を守るための司法っていうのがないんですね。そういうのに特化する児童相談所みたいなところを日本は検討するべきじゃないかなと思っています。

欧州と同じく大学を無償化すべき

おときた:ちょっと飛び出るんですが、最後教育の無償化ですね。さっき言った、大学の進学率も低い。これはやっぱり経済的な問題も非常に大きいです。養護施設を出ると、奨学金とれるほどの成績もなかなかとれないし、進学諦めようかなっていうふうになっちゃいますので。

ところがドイツに聞いたら、「そういうことはあるんですか」って聞いたら、「ドイツでそんなことはないよ」って。「何でですか?」って聞いたらちょっと笑われたんですけれども、「当たり前じゃん、大学無償だから」って言われたんですけれども。

欧州では大学は無償っていうのはトレンドですので、これは、児童養護直接ではないですけれども、教育の無償化をやっていくことで、どんな子供たちも平等にスタートライン立てる。

これは児童養護の世界では非常に重要なことになってくるので、そういうこともするべきだと思います。

最後に、要保護児童当事者の意見を聞く仕組みということで、親の権利ファーストなので、チルドレンファースト、子供が一番じゃないんですね。ところがイギリスでは、要保護児童のとき、確かに5才10才の子供の言うことは聞けないけれども、OB、5才10才越えた子供たちは、「自分のときこうだった」「こうすべき」っていうのを行政に反映しなきゃいけないっていうのが、制度でもうしっかりと確立されてます。

だから、子供たちの意見っていうのがしっかり通るようになってるんですね。日本はもう専門家といわれる人たちがもう60代70代の人も多いんですけれども、そういう人たちはもっともらしく「子供たちはこうなんだ」っていうふうに語るんですけれども、決して当事者の声ではないんですね。

本当の当事者の生の声というのを、しっかりと行政が反映させる仕組みというのを作ることで、今のこういう現状を少しずつでも変えていけるのではないかと、我々はそういうふうに考えております。

以上ざっと駆け足になりましたけれども、日本と欧州の違い、そして今後の改善点をお話させていただきました。

山田さんと連携しながら、今年は児童福祉法の改正なども国会で予定されていると聞いておりますので、こういった子供の権利、子供を保護の対象から権利の主体へっていうことを、私も都政のほうから、国政と連携しながらやっていきたいと思います。

本日はご静聴どうも、ありがとうございました。