児童養護に関する欧州視察の概要

おときた駿氏(以下、おときた):改めましてこんにちは。ご紹介いただきました、東京都議会議員のおときた駿と申します。本日はバレンタインデーということで、バレンタインのお昼間にこんなところに足を運んでいただいて(笑)。

こんな生意気言って失礼ですけど。今日は比較的男性が多いようなので、家に帰るとチョコレートがたくさんあると良いなと思います。ということでさっそく、私は欧州視察の児童養護の分野についてお話させていただきます。

夕方からはメディアフォーラムということで、山田さんが取り組んでおられる表現と自由というところを中心にやられると思うので、いろんなテーマ聞きに来てると思うんですよね。ということで児童養護とか社会養護、この分野の話を今まで聞いたことがあるという方、どれくらいいらっしゃいますでしょうか?

3割、4割。ありがとうございます。逆に言うと半分以上の方がこの分野の話を聞くのが初めてだと思いますので、なるべく基礎知識からていねいに、限られた時間ではありますが、お話させていただければと思います。

まず欧州視察の概要なんですけれども、今回10月の4日から山田太郎事務所のほうで行っておりまして。

今回の訪欧が後編のほうになります。全編で児童養護と里親っていうところをイギリス、オランダ、ドイツで学びまして、次同性婚、尊厳死をオランダで学んできたっていうところになっております。時間ないので先に進みまして、次を出します。

ドイツで社会福祉事業団みたいなところに行って話を聞いたり。オランダでは今日もいらっしゃってるシャボッットあかねさんに通訳をしていただきながら外務省や健康スポーツ省、自主的な生命終了に関する協会なんていう、そのものズバリな会に行ったりですとか。

ハリーポッターの作者が作った福祉事業団体

イギリスでは、児童養護の関連団体、またはオックスフォード大学などで研究をされている教授などにもお話を伺ってまいりました。2枚目めくっていただいて。

これは実際のそのときの写真で、ドイツの児童養護のところなんですが、行って、子供たちと触れ合わせていただきました。ルーモスっていう団体なんですけど。ルーモスはハリーポッターの作者のJKローリングさんが作った福祉事業団体です。

ルーモスっていうのはハリーポッターの中で光を与える呪文なんですけども、ローリングさんは恵まれない子供たちの環境を非常に危惧されて、ハリーポッターのお金の身銭を切って、ルーモスとうい団体を作りました。恵まれない子供たちに家庭環境を与える活動をイギリスで従事していまして。

その団体の中に行ってですね、ローリングさんには会えなかったんですが、非常に多くの方にお話を伺ってまいりました。ということでさっそくですが、日本の現状からお話さしていただきたいと思います。

日本の要保護児童は4万人

日本にはいろんな統計上の数字で誤差はあるんですが、だいたい4万人、要保護児童と言われる子供がいると言われています。この要保護児童というのは聞き慣れない方もいらっしゃると思いますが、何らかの事情で両親、または保護者の方と暮らせなくなってしまって、行政の保護のもとで生活をしている児童のことを要保護児童と申します。

この図を簡単に見ていただきますと、圧倒的に多くが児童養護施設という施設の中で、集団生活を営んでいるというのが日本の現状でございます。乳児院というのもありまして、乳児院というのは0歳から2歳までの小さいお子さんたちが暮らしている施設が乳児院という施設になりますね。

ファミリーホーム・里親というのは個別のお宅のほうで、1人ないしは多くて4人くらいのお子さんを預かっているのが里親・ファミリーホームということになっています。

施設の入所は0才~5才が半分以上

次の方に数字がまた分析をされているんですが。

今ですね、この入所時の年齢というので言うと、0才から5才児というのが半分以上。というのは産んだ瞬間から面倒が見れないとかですね、経済的事情で手放してしまって、行政の保護下に入る子供が圧倒的に多いというのが、今の日本の現状です。

この児童養護というのは、かつては孤児院というのからスタートした制度でありました。まさに戦時・戦後ですね、両親とも戦争で亡くなってしまったと。身寄りのない子供たちが、協会とかで身を寄せあっているのを行政が保護したというのが背景になっているんですが。

現在は、両親の死亡・行方不明で来られる方は全体の6パーセントから7パーセントと言われています。では、ほとんどの理由は何かというと、もう虐待、ネグレクトですね。

今はさまざまなニュースでですね。赤ちゃんが遺棄されたりとか、赤ちゃんを虐待死してしまったというニュースを毎日のようにお見かけすると思うんですけど、残念ながら現代病と申しますか、両親からの虐待などでとてもじゃないが育てることができない。

そういう状態から行政が保護者から引き離して社会的保護の、養護の元にいる子供たちが増えているというのが現状でございます。そこでですね、我が国の一体何が問題かというところからお話させていただきたいと思います。

日本の里親委託率は10パーセント程度

これはすいません、細かくて後ろの方は見づらいと思うんですけど。これはですね、全国の里親委託率ということになています。一番下の赤い棒グラフが日本なんですが、日本では先ほど申し上げた、いわゆる義理の両親がいて、そこに引き取られて、いわゆる家庭環境で育つ子たちっていうのが、12パーセント、10パーセント程度しかおりません。

ほとんどの子達が児童養護施設と呼ばれる寮のようなところで集団生活を営んでいるというのが現状でございます。3年前くらいですかね、『明日ママがいない』というテレビドラマが話題になりまして、児童養護施設で集団生活している子供たちのお話だったんですが。

日本では恵まれない子供というと、そういう施設で暮らしているというのが一般的なイメージになっていると思うんですが、それは極めてイレギュラーな状況でして。先進国は半分以上、平均するとだいたい70パーセントくらいは里親・あるいは両親を利用して新しい家庭で育ってるんですね。日本ではほとんどが施設にいる。

実親の「いつか引き取りたい」という感情が優先されている

それがどういう問題になるかと言いますと、日本では「強すぎる親権によって子供たちが施設に」と書かせていただきましたが。我が国では、先ほど冒頭でも見ていただいたように、ほとんど今、親がいます。親がいるけれども、虐待やネグレクト、経済的困窮などで保護しているという場合が多い。

この場合は、親の意向にそって子供を保護しなければならないと、そういうふうな行政のガイドラインがあります。そうなると、親というのはほとんど育てる能力がないし、育てることもできないんですが、里親とか出すと他の家庭に子供がとられてしまうと。

「そんなのやだ、施設に置いておいてくれ。いつか迎えに行くから」とかですね、「いつか私が引き取りたい」という、そういった感情が非常に優先されるあまり、里親に委託せずにとりあえず施設に置くということが常態化しています。

もうひとつは、戦後にそういった児童養護施設がたくさんできたものですから、子供たちが減ってしまうと運営ができなくなってしまいます。ということは施設も子供が欲しいという言い方は変ですが、子供を預からしてほしいというのが現実ですので。

そういった施設団体が政府に働きかけて「うちに子供をもっと送ってくれ」というロビー活動を行った結果、子供たちが積極的に施設に措置をされて、里親にはいかないということになります。

人との距離感がわからない「愛着障害」の原因に

それの何が問題なのかと言いますと、施設・グループホームでは防げない「愛着障害」と書かしていただきましたが、ご想像していただいたらわかりやすいかと思いますが、10人~20人を1人の保育士さんが面倒を見ているというのが、乳児院であり児童養護施設の現状なんですね。

法律では子供5.5人に対して1人の保育士さんがいなければいけないというルールになっています。となると6人に1人だから良いじゃないかと思うかもしれませんが、しかしこれは、児童養護施設は24時間365日開いてるわけです。

1人の人間が勤務できるのは、1日8時間です。24時間だと3交代しなければなりません。3交代で1人に5.5人ずつしかつかないということは、だいたい1人あたり15人くらい面倒みなければ回らないということになるんです。

そういう状態ですと、笑い話ではないんですけど、子供の利き手がわからなくなると。15人も見てると。それでふと、児童養護施設で過ごした子が里親のところに行って右手で歯磨きしてて、すごくやりづらそうにしてて。

「何でこの子は歯が磨けないんだろう」と思ったら、利き手が実は左手だったとか、そういうことが里親のところに行って初めてわかったりとか、それくらい目が行き届かなくなってしまうんです。

結果としてどういうことが起きてしまうかというと、愛着障害。これはReactive attachment disorderということで、アメリカの医学会とかでは、もう常識のように語られているんですが。

0才1才とかは、もう当たり前のように24時間お母さんとかご両親の愛のもとで育っていくんですが、そういった方との関係が築けないことで、人との距離感がわからないという、そういった障がいをもった子供が生まれてしまうということが指摘されています。

ちょっと専門的な話になってしまうんですが、子供のする人見知りっていうのは、お父さんお母さんがいていて初めて、他の人というのを認識するようになるんですね。「この人知らない人だ、怖い」とかですね、一定の距離感をとってだんだんお友達になったり親戚付き合いしたりして、人間関係の距離感を学んでいくというのが一般的な成長の仕方と言われているんですが。

児童養護施設にいるとその基礎となる両親という存在がありませんので、まず人見知りしないでくっついて行っちゃう。そういう変な女の子になると中学生高校生ですぐに性体験をしてしまって、変な風俗産業にすぐに行ってしまったりとか。誰とも馴染めずに攻撃的になってしまって、1人で孤独になってしまって、仕事ができなくなって生活保護に落ちてしまう。

そういったことが愛着障害の問題点と言われています。そういったことを多く引き起こしてしまうのが、施設での集団生活の問題点だと言われています。

こんなに明確な問題点があるのに何でまだ施設に送っているんだいう話になると思うんですけど、やっぱり親権と既得権益という問題になるんですが。

本当に10年くらい前には、有識者の間でも施設にもメリットはあるんだと、集団生活でしか得られないことがあると平気で論壇で言う方がいて、でもこれは大嘘なんですね。

「じゃあ、あなたたちの子供を施設に預けてみなさいよ」って言うと、絶対に黙りますね。だから誰しもが施設はまずいと薄々わかりつつも、日本では戦後の習慣でずるずると施設を続けてしまった、と。

もう1個、理由があるのが、障がいの有無を見極めるために施設措置をするというのがあるんですが、もう生まれたばかりの赤ん坊、お父さん、お母さんは育てられないということで。

例えば中学生で妊娠してしまった子とかですね、やっぱり施設に、行政に預けることになるんですが、そういう子は障がいがあったり、難病があったりすると里親に預けることができないから、ということで施設に預けてしまうんですが。

こういった障がいの有無でですね、子供から家庭を得る権利をとるということは、後ほど話しますが、欧米では固く禁じられています。しかしながら日本では平気で、障がいのある子であれば、家庭に送り出すのは里親様にご迷惑がかかるからとかですね、やっぱり難しい子は施設が面倒見るのが一番だということで、抱え込んでしまうということになっています。

施設出身者の進路が大きな課題

そういったことが、日本での施設措置が中心となっている原因といえます。これは何が問題になるかと言いますと、措置終了後の進路が大きな課題ということで、施設出身者の方、大学進学率は2割未満、1割程度かなと言われています。

今は約半分の子供が大学進学する中で、非常に低いということになります。あるいは高校にも行かない子供が非常に増えております。そして、この児童養護施設で面倒を見るのは、原則的に18才までというルールになっています。

そうなると、18才で自立をしてくれと言われても、まずお部屋が借りられません。日本で就職するときにも、親の印鑑が必要です。そういうときに誰がこの18才で放り出された人たちの面倒を見るのかということで、魔の2年間と言われています。

成人するまで彼らが路頭に迷ってしまうことになるかもしれないと、そういった問題点も指摘されますし。こういったもろもろの課題を解決するためにですね、今、児童相談所というのを行政がやってるんですが、完全にキャパオーバー。虐待の相談が。

皆さん、たぶん新聞とかで目にしていると思いますが、年々虐待が増えていって、虐待専門ダイヤルというのが、専門の人が数万件くらいいます。でも児童相談所の職員さんっていうのは、そこまで人数が増えていません。もう鳴る電話に対応しっぱなし、虐待通報があれば飛んで現場に飛んで行かなきゃいけない。

そういったことに消耗してですね、一人ひとりの子供たちをケアできていないというのが、我が国の大きな問題点となっております。