中国は世界最大のGDP国家になる

孫正義氏:我々ソフトバンクが目指す方向性。もう1点目は「アジアを制する者が世界を制する」ということであります。

中国のGDPが今年確実に日本を抜きます。世界で2位になります。で、いったん抜いたらそのまま勢いが止まらないで、アメリカを抜くところまで行きます。中国は世界最大のGDP国家になるということであります。

インターネットの中心も、10年ちょっと前はアメリカが5割でした。アジアは19%でした。それが今や、これからもうじき、アジアが50%になる。アメリカが12%になる。つまりアジアを制する者がインターネットを制するという時代が間違いなく来るということであります。ゲームソフトの市場。これも全部インターネットになっていくでしょう。急成長する中国は日本を確実に抜いていくでしょう。

そのアジアで、ソフトバンクも着々と手を打ってきています。つまり中国が一番大切なんですけども。中国の企業間のEコマース、ナンバーワンのシェアを取りました、99%のシェアです。BtoC、CtoC、いわゆる日本でいう楽天だとか、Yahoo!ショッピングだとか、アメリカでいうAmazon、eBayに相当するのがTaobao(タオバオ)です。

このTaobao(タオバオ)は、中国全部のオンラインショッピングの8割のシェアを取りました。ダントツ最大。オンラインの支払いの決済でも9割シェアを取りました。SNS、ソーシャルネットワーク。日本でいうmixiだとか、Twitterだとか、そういう部分でも圧倒的なポジションを取りました。企業間のEコマースもこういう状態。

もう日本をはるかに越える規模であります。

中国のユーザーがソフトバンクグループだけで6億人

我々のソフトバンクグループのTaobaoはオレンジ色。去年で3兆円、今年は5兆円くらいになりました。楽天がまあ8000億円くらいですから、それを何倍も抜いちゃったということ。同じ日本円に換算しても、もう圧倒的に抜いてしまったということであります。ソフトバンクとAlibabaが50%ずつ出したジョイントベンチャーで作った会社がTaobaoであります。私が言い出しっぺでありました。アリペイのユーザーも、中国全土のクレジットカードのユーザーを抜いちゃった。人人(レンレン)、これは日本のmixiとかモバゲーに相当する会社。これも8割以上のシェアを取って、1億3000万人になった。

そういうものを単純合算すると、ソフトバンクグループの中国におけるインターネットユーザーが、ソフトバンクグループだけで6億人になった。ダントツ最大です。さらにモバイルインターネットとして、中国いちのチャイナモバイル、ヨーロッパいちのVodafone、アメリカいちのVerizonの会長を説得して、4社のジョイントベンチャーを作りました。これが「JIL」です。

この4社の合弁会社の会長を、一応私が初代会長を務めております。まあ一応持ち回りですけどね。初代は私にやってくれというのが皆さんの推薦でしたので。今この顧客規模が10億人おります。ということで、ここからやっていきたい。ここから最後にそろそろ入りますけども、今50代です、52歳ですが。

2018年頃に、コンピュータは脳細胞を超える

60代になったら、61歳から69歳のどこかで皆さんの世代にバトンを渡します。次の時代に経営を移していくということであります。そこで今年の6月の株主総会でソフトバンク30年ビジョンを発表します。

ちょうど30周年になります。今年の9月で30周年になりますので、次の30年分のビジョンを発表します。30年前に掲げたビジョン。それはマイクロコンピューターのチップがあらゆる人類の未来を一新させる、ということでありました。将来必ずそうなるよと言いました。現在、まさにそうなりました。

マイクロコンピューターは自動車にもエアコンにもパソコンにもテレビにも携帯電話にもありとあらゆるものに、もはや入ってます。その時のビジョンがそのまま実現したということであります。もう1つのポイントは30年前に、「数は1兆2兆と数える規模にしてみせる」と言いました。まさに現在、売り上げが2.7兆円になりました。

2兆円の買収も行いました。売り上げも買収も1兆2兆と数える規模になりました。これが今日現在までですけれども、これがこれからどうなるのか。まず大きな枠組みで見る。

コンピューターは脳細胞を超えるということであります。人間の脳細胞には300億個のシナプスというものがあります。これがくっついたり離れたりするわけです。300億個あります。人間の脳は有限です。2000年前も現代も300億個です。今から2000年後も300億個でしょう。つまり人間の脳細胞の数はもう決まったんです、DNAで。でもコンピューターは違います。

2018年にワンチップの中に入ってるトランジスターの数が300億個を超えます。人間の脳細胞もオン・オフで、シナプスがくっついた離れたかで記憶をしたり、考えるということをしているわけです。このようにトランジスターもくっついたり離れたり、電流が流れる・流れないで、オン・オフです。人間の脳もコンピューターのチップも2進法です。ですからハードウェアの面ではコンピューターのチップが人間の脳細胞を機能的に超えるのは、ハードウェアの能力として超えるのは2018年前後です。

この2018年に300億個を超えるだろうということを、私は20年前に計算して予測を立てました。実際に今そのとおりのペースで動いています。もう一度計算しなおしました。2年くらい前に。おんなじ結果が出ました。ですからまさにそのペースで動いているということであります。そのような進化が生まれる時、人間社会がどうなるのか。テクノロジーがどうなるのか。人々のライフスタイルがどうなるのかということを、これからまとめて6月に発表します。

ソフトバンクの目指すべき、21世紀の人々のライフスタイルについてのビジョン。そこにソフトバンクが経営としてどう取り組んでいくのかということを語りたい。志は1回も変わってません。その志を実現させるためのビジョンであります。

人生最後の夢は、次のリーダーを育てる学校の校長になること

で、私は60代で引退したあとに何をするんだ?と。私の夢はソフトバンクアカデミアを設立して、そこの初代校長先生になりたい。それが私のささやかな最後の夢であります。ソフトバンクアカデミアの校長先生になりたい。

何をするところですか?というと、もともとアカデミアの語源、最初のオリジンというのは紀元前387年、プラトンが創設。哲学を教授した。で、15世紀にメディチ家によって「プラトンアカデミー」として復興した。もう一度21世紀に、ソフトバンクアカデミアとしてさらに進化させたいということであります。

そのアカデメイア、最初の入り口に書いてあった言葉。「幾何学を知らぬ者、この門をくぐるべからず」ということであります。ソフトバンクアカデミアの門に書きたい。「デジタル情報革命を志さない者、この門をくぐるべからず」と、こういうことを掲げたい。このソフトバンクアカデミアはソフトバンクグループの経営陣を育てる、リーダーを育てる、そのための学校であります。

お金を残すより、名誉を残すより、人に志を残したい

リーダーに求められる必要不可欠な条件、これは「高い志」であります。皆さん、全員がリーダーになる資格があります。皆さん全員がイコールチャンスを持ってます。ちなみに私の後継者になる人、ソフトバンクグループの社長になる人には、とりあえずストックオプションで100億円ぐらい渡したいと思ってます。ですから皆さんも退職金ソフトバンクに入ると2000万かな、1000万かな、3000万かなと、そういうちまい計算はしないでほしい。やるなら100億円ぐらいちょっともらおうかと、そのくらいの気持ちでいて丁度いい。

でもそれはお金の単位でものを考えてはいけない。さっき僕が言ったとおり。でもやるなら、そのくらいのことは経営者には僕はバトンを渡すつもりですよ。でも僕の直接のグループ全体の後継者にならなくたって、5000社くらい作りたいと思ってますから。ソフトバンクグループで。いま800社です。「800社くらいにしたい!」と、ソフトバンクグループがまだ4、5社の時に僕は言いました。ソフトバンクグループはいずれ800社ぐらいにするぞ、と。

「その800という数字どっからきたんですか?」まだ10社くらいに言ったら部下に聞かれた。何の根拠ですか、と。「そんな根拠なんかない、嘘でも800じゃ!」と言ってたら、本当に800社になりました。800社になりましたが、僕が引退する頃には5000社ぐらいにしたい。あんまり根拠はありません。でもそのくらいにしたいというイメージを持ってる。ですからこのソフトバンクアカデミアのそういう経営陣だけでも5000人になる。皆さんは5000人の社長になる資格がある、と。

5000人のCFOになる資格がある、CTOになる資格がある。財務の責任者、技術の責任者、そういう資格がある。副社長になる、役員になる資格がある。5000社あれば社長だけで5000人ですからね。まあ、大変な数になるということ。経営者道場のようなものにしたい。5000社あれば社長と財務担当総責任者と技術担当総責任者、それだけで1万5000人になるよ、ということであります。

さらにそれはソフトバンクグループを離れて、もう少し多くの人にできたら広めてたいなとは思ってます。まあ、そういうものを21世紀のプラトンアカデミーにしていきたいと僕は思ってます。金を残すより、名誉を残すより、人を残したい。人に志を残したいというのが、私の思いであります。ということで30年ビジョンをこの6月に発表いたします。

「目指すべき山を決めること」だけは忘れないで

30年後のビジョン、その主役はあなたです。今日ご縁あって、これからソフトバンクの新卒の社員として入る人もいるでしょう。あるいはそうでない人も大勢いると思います。でもそういう人にとっては、今日の皆さんとの出会いが、一生の中で初めての出会いで、生で僕を見て「生孫だーッ! 」と、時々Twitter出ますけど。生で僕の声を聞いて、生で僕の目を見て、こういう一緒の部屋で空気を過ごすのは生まれて初めてで、今日が最後になる人が大半だと思います。9割以上。

でも1つだけ、せっかくの機会で同じ部屋にいたので覚えていてほしいことがある。「志高く」。人生1回しかない。皆さんが登りたい山を、自分が登りたい山を、この1年くらいで決めてほしい。自分の人生を何に賭けたいのか心に決めてほしい。

遅くなりすぎ、残された人生の年限が少ないと、実現できる可能性がそのぶん減る。早く志を持った者は強い。自分の人生を無駄にしないということ。ぜひ皆さん、1回しかない人生を無駄にしないでください。大切にしてください。自分の登りたい山を決めないで歩くというのは、さまように等しい。一生懸命歩いたって、みんな一生懸命生きてるんです。皆さんの親も、皆さんの友達も親戚も、みんな一生懸命生きてるんです。

だけど、登りたい山を決めてない人、腹の底から決めきれてない人が実は99%なんです。なんとなく人生を過ごしている。こんなはずじゃなかったと。皆さんのご両親もたいがい言ってるよ。99%の人がしっかりと腹の底から自分の登るべき山、自分の夢、自分の志を決め切れてない、ということ。ぜひこのことだけは覚えといてください。せっかく触れ合った今日の機会ですから、この1点だけ。ソフトバンクのほかの数字なんか全部忘れていい。そんなことどうでもいい。僕の言った話は全部忘れていい。皆さん自分自身のために自分の人生って何だ?と。自分は何の事を成したいんだ?と。その1点だけは決めてほしい。大切ですよ。自分の人生です。目指すべき山、これを決めてほしい。

「Company」の意味は、パンを一緒に食べる仲間たち

起業の思い。私にとってですよ。龍馬の本にめぐりあえた。世に生を得るは、「事を成す」にあり。事を成す、それは自分にとっての志を成すということです。そこでソフトバンクという会社を興しました。

もしご縁あって、ソフトバンクに入社して一緒に山を登ろう。まあなんか孫が面白いことを言うとる。あの男に一緒について山登ろうという人にとっては、より直接的な仲間になりますね。1人で登る山、これはこれで素晴らしいけど、一緒に登る山、これはこれで楽しいですよ。遠足に行っても1人で行ったら楽しくないでしょう。クラスメイトみんなと一緒に行くと、山登りしても楽しいじゃない。

会社とは何か?日本で最初にできた会社、誰が作ったか知ってますか?日本で初の株式会社を誰が作ったか。坂本龍馬なんです。知ってましたか?日本の株式会社第1号、それは坂本龍馬が作った亀山社中、海援隊による亀山社中。これが最初の日本第1号の株式会社です。ですから一緒に山を登るということは楽しいことです。会社とは何か「Company」です。

「カン」というのは「一緒に」、「パニー」は「パンを一緒に食べる仲間たち」。食をともにする。これが会社の語源です。Companyの語源です。Companyとしてもっとも大切なのは食べるパン以上に、志を一緒に食べること。志を一緒に共有すること。これがもっとも大切なことだと私は思うんです。

私は「究極の自己満足」で仕事をしてきた

さっき言いました。会社を始めて1年半で肝臓を患って、3年半、入院出たり入ったりしました。その時に病院のベッドで泣きましたよ。まだ会社始めて1年半ですよ。入院しなきゃいけないない。借金もある。まあ借金はいつでもあるんだけど。会社始めたばかりでお客様も社員もいる。娘も産まれたばっかりだ。で、医者からは「もってあと5年だ」と言われた、命が。こんなに勉強して熱い想いで会社を興して、成したい事があるのに、たった5年で俺の命は終わるんか!と。

もうヤケクソですよ。えーいクソッ!。何のために会社を興したんだ。ボロボロに泣きましたよ、病室で1人でね。もうそれこそ物欲なんか全部なくなりますよ。洋服なんかいらん、家もいらん、車もいらん。命だけほしい。命だけほしい、と。命さえあれば家族に会える。

皆さんもあと5年とか言われたらショック受けるよ。その時に僕は思った。もう会社はどうでもいい。お客さんどうでもいい、と。命さえあれば、産まれたばかりの娘の笑顔をもうちょっと見ていたい、と。その時にね、龍馬の本をもう1回読んだんです、病院のベッドでね。恥ずかしい。龍馬は33歳で死にましたからね。最後の5年でどでかいことをした。じゃあ俺だって5年間で、命残ってる5年間で何かいろいろやれることがあるんじゃないか。頑張って仕事すれば、娘の笑顔をまた見れる。その間は少なくとも。病院のベッドを抜け出して、命縮めると言われて医者から怒られながら、会社の仕事をする。

結局、俺は何のためにやってるんだろうと思ったら、「笑顔が見たい」と。大きな大義名分もどうでもいいと一瞬思ったんですよ。笑顔が見たい。何がほしいか。娘の笑顔が見たい、と。娘の笑顔だけでいいか?いやいや、家族みんなの笑顔がみたい。親もいる、兄弟もいる。みんなの笑顔が見たい。それだけでいいか?一緒に働いてる社員の笑顔もやっぱり見たい。苦労して助けてくれたお客さんの笑顔も見たいなと。

お客さんの笑顔。でもお客さんってどのくらいだって言うと、見もしない知りもしないどっか遠くの国の、カンボジアかどっかの山ん中で、どろんこで顔を汚した5歳くらいのちっちゃな女の子が「ありがとう!」って、なんかこう天を仰いでね、感謝してる。誰に感謝していいかわからないけど、ありがとうってつぶやいている。そんなことができたら、俺にとっては幸せだなと。

そう思うと、やっぱり最後に戻ったのは究極の自己満足。自分が満足するために仕事をしてるんだけど、究極の自己満足というのは、自分のエゴのための満足じゃなくて、自分の物欲とか名誉欲とかじゃなくて、自分の究極の自己満足は、わけもわからない、どこか遠くにいる人から、名前も覚えてもらってなくてもいいから、なんか「ありがとう」って一言ちっちゃくつぶやいてもらえたら、もうそれだけで満足だというのが、僕が入院しながら思った結論でした。

僕に与えられた人生の命題は、ただひとつ

つまり事を成す。カッコいいことを言う必要はない、難しい言葉を言う必要はない。僕に与えられたのはただひとつ。人生の命題は、コンピューターを使って、インターネットを使って、デジタル情報革命を起こす。このデジタル情報革命をすることによって、多くの人々がまさに今のTwitterのように知恵と知識を共有できて、500年後1000年後の人々が感謝をしてくれる、と。

わけもわからずに直接我々に、あるいは間接的に、ありがとうと、ただ一言つぶやいてくれる、それだけでいい。それが僕にとって、そして僕についてきてくれるカンパニーとしてのソフトバンクの社員の人たちに、共有して持ってほしいことです。

ソフトバンクの社員にならなかった人にも、今日ここにいる皆さん、そして今Twitterで僕がしゃべってる内容を一部でも共有していただいた皆さん、Ustreamを見ながら僕の想いを共有していただいた皆さん、みんながなんらかの形で、幸せになってくれればと。そしてみんながちょっとでもそういう気持ちを共有して、残りの多くの人々に少しでも幸せを提供できたら、人類がもっと平和になって、多くの人々がもっと幸せになれる。そんな世の中にできたらいいなと、心から思っています。

そういう想いを込めて、僕の一番好きなビデオがあります。ちょっとそれだけ2、3分見ていただきたいと思います。ありがとうございました。