『水中ニーソキューブ』全ページレビュー

本橋康治氏(以下、本橋):それでは後半戦を。

古賀学氏(以下、古賀):まだこの『水中ニーソキューブ』は印刷中なので現物をお見せできないですけど。

水中ニーソキューブ

本橋:今回、8月の展覧会と同時進行しているわけですが、撮れ高が多すぎて、写真集に収録しているものと展示しているものが微妙に違うんですよね。展覧会の方に、写真集に入りきれなかったものがあったり。

それじゃ、試写会みたいな感じで。

古賀:パラパラと進めていきます。

本橋:初公開です。

古賀:ちなみに1冊目からずっと、帯のキャッチコピーは、そこにいる大田君っていう、毎回良いキャッチコピーを書いてくれる人が書いていて。

菊地成孔氏(以下、菊地):大きいですよね。僕は古賀さんが考えていたのだと思ってましたけど、やっぱいろんな才能が集まってくるわけですね。

古賀:すごくアート臭くない、良いコピーを書いてくれるんで大好きなんです。

菊地:すばらしいですね。それを表す字体、フォントもすばらしいですね。

本橋:表紙は右側がしまりすちゃんで。

古賀:白いほうが、猫守ざーにゃ(星守紗凪)ちゃん。

このまま進めていきます。左側は、折り返しのオビの袖がかけてある状態の画像です。右側は扉ページでタイトル。めくります。

TwitterとかFacebookに書いてるんですけど、『水中ニーソキューブ』は、実は『STAYIN’ ALIVE』のMVの、僕なりの2015年版のリメイクなんです。

菊地:ハハハ(笑)。百合だから?

古賀:百合だからというのと、百合もので主観映像を入れた写真集はないと思うんです。

菊地:なるほど、そうですね。

シンクロナイズドスイミングとは違う能力が必要

古賀:女の子のスキルにもかなり頼ってますけど。

菊地:これ、本当にスキルのいるお仕事ですよね。シンクロナイズドスイミングと逆なんだっていうことを強調したいですよね。体脂肪があったらダメっていう。ダメっていうか、浮かんじゃうから。

古賀:シンクロを1度覚えると、スカーリング(水をとらえるための動作)ってあるじゃないですか。あれを使うと簡単に姿勢制御できるので、スカーリングを使われちゃったりするんですけど。

菊地:まあシンクロにしか見えないよね。

古賀:シンクロにしか見えないですよね。しまりすちゃんは「とりあえず天地逆のポーズをとってみて」って言ったら、なんかよくわからないけどとれちゃうんです。

そのときの動きを分析して、「もっとこうすれば」「ああすれば」っていうこともできなくはないですけど、たぶん指導すると、今の良さがなくなっちゃうと思うので。

放置して、ちょっと無茶振りもリクエストして、本人もよくわからないけど、なんか姿勢制御を適当にしてみたら、「あっ、できる、できる」って感じになんとなくできてるんで。これは宝だなと。

菊地:天才ですね。

古賀:ダイビングスキルとも違うし。

菊地:南の島の子みたいな感じですよね。遊んでいる間に覚えちゃう、みたいな。

古賀:そうですね(笑)。

菊地:ダイビングもだいぶやってらっしゃったという話をされてましたけど、それとはまた違いますもんね。

古賀:ダイビングで使うスキルとも違いますね。フィンも姿勢制御に使ってるだけで。実はフィンワークっていう漕ぐことを、彼女はほぼしないんですよ。本当にアニメでいうとアレですけど、ラムちゃんっているじゃないですか。ピロピロピロって飛んでる。あんな感じで、ただその辺に浮かんでる。

女性が前線に立つ時代の予感

古賀:しまりすちゃんを、ざーにゃちゃんが撮影している。こっちの写真が、しまりすちゃんを撮っているざーにゃちゃんなんですけど。向こうがそれの主観映像ですね。

これも思いついたやつで、女の子が女の子を撮影していて、その主観映像を入れると僕の存在が消せるという発見をして(笑)。もう、消しちゃいたいじゃないですか。百合の世界ができたら(笑)。

菊地:そうですね。百合の世界を男が撮ってたら、さっき言ってた「穢れ」がちょっと入ってきちゃう。

古賀:これでカメラマンも女の子でモデルも女の子だと、よりフェムに近い。

菊地:それはフェムですよね。ただ、ポリティカルですよね(笑)。すげぇポリティカル。

古賀:やっていることがね。写真も、前作までは割と1ページにバーンというのが多くて、たまに撮れ高がいいところだけ、たくさん入れてあったんですけど、今回撮れ高が高すぎるのと、もう1つ、もともと写真より前に映像をつくっていたので、映像的な見せ方をしたほうがおもしろいなぁという感じで。

点数を見せたいからたくさん載せているというよりは、シークエンスを見せたいので、漫画のコマ割みたいに載せていって。

菊地:漫画のコマ割ですよね。パラパラマンガというより。

古賀:これはざーにゃちゃんが自撮りをしているところで。実際に自撮りをした写真も載せています。

菊地:やっぱり痩せていくわけね。筋肉量も体脂肪も、なければないほど浮かばない。ウエイトベルトが邪魔だっていうことも出てくるし。

古賀:姿勢制御もスムーズですよね。

菊地:そうだね。

古賀:あと水中ニーソで女の子がカメラを持っているのは初登場なんですけど、女の子がカメラを持っている写真とかポートレイトっていっぱいあるじゃないですか。それがよく撮られる理由が、撮ってみるとよくわかるなと。

銃を持った女の子とちょっと近いんですけど、シューティングっていうだけあって、「撃つ」なんですよね。銃器とか、武装している女の子に近づいていますね。

菊地:これからは戦争のリアライズとして、女性も前線に立つことに。これは完全なフェムですけどね。そのときへの予感のときが1番楽しいっていうか。

水の中で目を開けっ放しでいても目力が弱まらない

古賀:紗凪ちゃんも普通に水中の姿勢が、すげー綺麗で。

菊地:この子も、いい意味でアレですけど、あばらが出ちゃってるよね。ほとんど体脂肪がないんですよね。

古賀:被写体としての能力の高さが水中でも遺憾なく発揮されていて。すごく綺麗で、世界観が僕の撮りたい世界観に近いので「水中ニーソをやってみましょう」という話で撮り始めたんですけど。

古賀:撮り始めた当初は、自分でできるかどうかもわからないし、僕も彼女がその能力があるかわからないですけど、本人は運動神経には自信があって。水中で目を開けっ放しで何時間かいても目力が弱まらなくて。それに関してはやってみないとわからないんですけど。

菊地:それはもう天然の力ですよね。

古賀:そうですね。もう才能としか言えない。それでやってみたら、顔のコンディションが何時間たっても全然変わらないので、じゃあ真面目にモデルとして育てたいと思って、そこからダイビングの講習というか、ダイビング的にこう動くとかっこいいとか、美しい、みたいなことをレクチャーして撮っていったということです。なのでこの子の場合は、モデル技能が先です。

水中ニーソの「オールド・スクーラー」

古賀:これは初代の水中ニーソのモデルのひとみちゃん。これを言うと年齢が微妙にわかるんですけど。『STAYIN’ ALIVE』MVに出てる子です。水中ニーソ自体が彼女によって発見されたようなものなのです。

菊地:なるほど。オールド・スクーラーね(笑)。

古賀:それで今のメインのしまりすちゃんと絡ませて撮りたいという。

菊地:オールド・スクーラーとブランニュー・スクーラーを。

古賀:まぁ鉄板で。どっちもド安定なんです。

菊地:オールド・スクーラーの方のほうが、ちょっとふっくらされているということですね。

古賀:そうですね。ウェイトベルトがないと、さすがに姿勢制御の問題があって。しまりすちゃんが150センチくらいしかなくて、ひとみちゃんが152センチ、紗凪ちゃんも152センチで、超小さい子が集まってるんで。

菊地:そういう意味では、やっぱりいろんなフェチが入っちゃってますよね。

古賀:これがさっき菊地さんに、しまりすちゃんが挨拶しているときに言ってた「私、ウエイトにもなれるんです」っていうやつです。ひとみちゃんがしまりすちゃんを抱っこすることで、ウエイトがなくても2人分の重さを保ってる。

菊地:ポジショニングができることですね。

水中撮影では声を発せない

古賀:これはしまりす先生のソロショットです。もうシンクロもダイビングも逸脱してて素晴らしいですけどね。初心に戻って競泳水着も撮ってみました。

菊地:そうですね。やっぱりなんていうか、すごいナルシシズム、自己愛で泳いでる感じですね。自己愛と泳ぐ力が自然に結びついているというか。ポージングとか。

古賀:すごく綺麗なんですけど。

菊地:陸上ではできないことなんだっていうのが、なかなか伝わりづらいですけど。

古賀:そうですね。顔と尻の両方を1枚の中に入れることが可能だったりするし。地べたでもなく水面でもない、沈んでも浮いてもいない、中層をメインに使うっていう。

菊地:写真を撮られているときって、ファッションモデルさんもそうですけど、自己愛があって、それをカメラに向けて出していくわけだけど、陸上だと、水の中と全然違うじゃないですか。情報が遮断されて。会話できないし。

スタジオで「いいよ、いいよ」と言われながら撮ってるのとは違って、仕草がはっきり。

古賀:僕か彼女について肯定しているのか否定しているのか、僕が声を発せないからわからないですもんね。

菊地:うん、そうですね。

1/10しまりすちゃんフィギュア登場

古賀:これがスクーバで、どんどんしまりすちゃんが小さくなっていく、どんどんカメラが引きになっていくシチュエーションになってるんですけど、この次のページでフィギュアが出てきます。

これ。本物にしか見えないですよね。

菊地:そうですね。すごいよねこれ。

古賀:このフィギュアの現物も原宿に展示します。フィギュア制作者の辻村聡志さん曰く「完成して1カ月経つので、たぶん大丈夫」ってことで、水槽に水を入れて、水の中に入れた状態でフィギュアを展示することを考えてます。

できたてホヤホヤだと塗料が安定してないので、2週間水の中で展示をしたら、たぶん表面がボロボロになるんですけど、1カ月乾燥させた状態ならたぶん大丈夫だと。

菊地:乾きを入れて。フフフ(笑)。

古賀:これは逆転して、170センチオーバーのモデルさんと。体型はしまりすちゃんと同じ、細いかっこいい体型なんですけど。ちっちゃいのを撮った次にでかいのを撮って。

この水着は「REALISE」です。REALISEの長袖競泳水着って、すごくいいプロダクトだと思うんですけど、上だけ長袖で下がハイレグの組み合わせで、REALISE的には伸び悩んだ商品だったらしいです。でも、ニーハイソックスと組み合わせると、実はそんなに変でもない。

菊地:なるほどねぇ。

ナショナルジオグラフィックみたいな映像が

古賀:さっきの背の高いのは、まさじさんというモデルで。前と同じ衣装で。身長が高いなりのかっこよさがちゃんとある。

菊地:普通にもうナショナルジオグラフィックだよね。

(会場笑)

菊地:いい写真ですよこれ。普通にいい写真です。フリーダイバーの人とかをモデルにしてやったようないい写真です。

古賀:ここだけ切り取ると、普通にアート写真。

本橋:このニーハイソックスは古賀さんがデザインしたんですよね?

古賀:そうです。

本橋:これはREALISEの水着に合わせたものではないんですか?

古賀:そうですね。もともと勝手に作ってたデザインで、REALISEとやりとりしてる中で、「これとこれを合わせればいいんじゃないですかねぇ」みたいな感じで。

菊地:単にフェットなものが好きな人の世界だと、これはありですよね。長袖とハイレグだけの水着が伸び悩んでいたのはなんでだったのかな? 陸上で自分のガールフレンドに着せても、あまりうまくいかないんだろうか。

古賀:REALISEさんは面白い用語として「ドメ用」というのを使っていて。本来、REALISEさんの水着は恋人とかにプライベートで着せてドメスティックに楽しむだけで、撮った姿をインターネットで公開するとか、これまでは、ほぼありえないものだったんです。

菊地:なるほど。

古賀:今年になって、「フロントジッパー競泳水着」という胸元がファスナーで開く水着を作ったら、これを着て、自撮りする女の子たちがわーっと増えてきて。

何かが変わって、今、ある種の女の子たちが着たい水着になっている。長袖競泳水着はだいぶ前の製品ですけど、おもしろがられるといいなって気がします。

菊地:そうですね。

おいそれと恋人には着せられない水着

古賀:今度は色がネガになってるんですけど、しまりすちゃんがお腹が開いた競泳水着。競泳水着なのにツーピースって破綻してるんですけど(笑)。

菊地:そうですね。まぁでも、これも定番は定番ですよね。ただ、ちゃんと水の中にいるっていうのがいいですね。

古賀:REALISEの水着って意外と水の中の写真って無いですよね。水着なのに用途が違うっていうか(笑)。

これもしまりすちゃんです。これはさらにハードルが高いらしくて、REALISE曰く、お腹がドンと出ているのでやっぱり腹が引き締まってないと。

菊地:ハハハ(笑)。おいそれと恋人に着せられないっていう。

古賀:かっこいい腹筋だと大丈夫なんですけどね。

古賀:これはもう1人別なモデルで、九十九一六八ちゃんっていう、オリジナルアクセサリーを作って販売したりモデルをしてる女の子で、しまりすちゃんとはこのとき初対面なんですけど、ネットではすでに仲良くしてて。

これはお互いが仲良しだから、僕が撮りたい世界に近いものが撮れるんじゃないかと。一六八ちゃんは毎週髪の毛の色を変えていたので水色の髪の毛はウィッグじゃないです。

菊地:まぁ、居ますよね。

「feast」水着とのコラボレーション

古賀:これは2人のキャストは同じなんですけど、月刊水中ニーソに出ていただいたハヤカワ五味さんの「feast」っていうファッションブランドの水着を着ています。「feast」は胸の小さい女の子が着てかっこよくなるランジェリーをリリースして知られてるブランドです。ハヤカワさんは今テレビとか出たりしてます。

逆に胸の大きい娘が着たときにデザインが破綻するものを作ることで、それこそ劣等感という意味でのコンプレックスを基軸に、劣等感をステータスのほうに変換するようなものを作っています。そこが今年初めて水着を出したんです。

菊地:これは水着なんですね。

古賀:そうです。思い切りフェムの文脈の、フェムから絶賛されている水着を水中ニーソの衣装として使おうと。

菊地:巨乳がコンプレックスになっている人もいるから、なかなか難しいですよね、劣等感は。貧乳を一時的に悪としたときに、これで救われたと。

古賀:いうほど2人とも胸が全然ないわけじゃないんですけどね。

菊地:そうですよね。

古賀:ざーにゃちゃんは、ないですけどね(笑)。

菊地:ハハハハハ(笑)。

古賀:ただ、みんな腹が超くびれてますね。

ざーにゃちゃんはソロもあります。これはオタク的なサービスでもあるんですけど、水中ニーソより前に撮ってた写真のシリーズで、セーラー服を水中で撮った写真があって、それがやたら人気はあって。

でもそれはニーハイを履かせていないので、水中ニーソの中に入れるのはどうだろうと思っていたんですけど、今回セーラー服でニーハイ履いてやりました。彼女はすごくセーラー服が似合うし、モデルとしての能力が高いので、キラキラしている。

水の中の女の子×女の子

古賀:そこにしまりすちゃんがやってきて脱がし始める(笑)。シークエンスものっぽくコマ割りして、途中でレギュレターで息をさせてあげて、さらに続きをやる。

菊地:ここからはかなり具体的に百合ですね。脱がしてるからね。

古賀:脱がされているのに、上からざーにゃちゃんが抱きついているという不思議な絵なんですけど(笑)。だから嫌々脱がされているわけじゃない。苦悶とかSMの要素はなくて、排除してるんですね(笑)。

菊地:まぁそうですね。これで全部脱いじゃったらチューし始めちゃってポルノになっちゃいますからね。

古賀:これ以上やると(笑)。で、ソロショットです。

古賀:パプリカを水の中でかじって中から泡がプクプクって出て。アイドル映像(blue./cuteblue)時代から、水中でなんか食べてるっていうの場面が僕の作品にはたくさんあって。『STAYIN’ ALIVE』でも、光るキラキラした石を食べてる。

菊地:飛行石みたいなやつですね。

古賀:ざーにゃちゃんのと対になってますね。しまりすちゃんも赤いパプリカを食べて、サクランボを食べさせあってる。2人ともウエイトが無くてもいいんですよね。

菊地:ほとんど浮く要素が無い。

古賀:最後の写真です。特撮でやってたことが、彼女たちだとできちゃったという。顔の作りは全然違うんですけど、角度によっては身体がすごく似ているんです。腰からお尻にかけてのラインとか。

正面から見ると2人の体型は違うんですけど、漫画的な、絵で描きたくなるような構図で撮ったときに、「合成なんじゃないの?」ってぐらい体型が同じで。

菊地:顔よりも体型の方が似やすいですからね。情報が少ないから。

水中ニーソキューブ