データロボットは「レンジでチンする機械学習」

石山洸氏:リクルートの石山です。よろしくお願いいたします。会場の熱気がムンムンと伝わってきまして、すごく暑くなっているのでシャツを脱がせていただいて、今日はお話をさせていただければと思っております。よろしくお願いします。暑くなっているので、スーツを着ている方も、1枚脱いでいただいて大丈夫ですので、よろしくお願いします。

本日ですね、まさにデビッド・ブライ、そしてデータロボットが、なぜリクルートと一緒にコラボレーションしているのかについて、なぜだろうと思われている企業のみなさんもたくさんいらっしゃるんじゃないかと思いますので、そのへんの背景をリクルートの目的と合わせて、少しお話をさせていただければと思っております。30分くらいになりますので、よろしくお願いします。

最初に、いきなりオーディエンスに質問なんですけども、今ここに2つの企業があったとします。

企業Aは、10人のデータサイエンティストの人が50個の機械学習のプロジェクを回している。企業Bは、従業員全員が機械学習をできるプラットフォームを持っていて、5000個の機械学習のプロジェクを回している、としましょう。

さて、ここで質問です。企業Aと企業Bが競争した場合に、どちらが勝つと思いますか。企業Aが勝つと思う人? 企業Bが勝つと思う人?

Bのほうが2倍くらい多いですね。僕は企業Bが勝つのではないかなと思っています。例えば、グローバルなプラットフォーマーは企業Bのようなアプローチをしている会社さんが多いと思うんですよね。

最近のニュースでも、例えばGoogleがTensorFlowをオープンソース化したと思います。それからマシンラーニングのエデュケーションプログラムもオープンソース化したと思います。

彼らがなぜそういうことをしているのか考えてみたときに、実はあれ、世の中にオープンにする前に、自分たちの会社の中でそういうことをしていたんですよね。グローバルなプラットフォーマーは、例えば、コードを書かなくても、プログラミングをしなくても、誰でも機械学習ができるようなプラットフォームを自社の中でインフラとして持っていて。

従業員全員が機械学習ができるような状態になっているので、いわゆる普通の企業とは違う数のプロジェクトを回すことができているんじゃないかと思います。

そんなことを言われたって、自社には機械学習のインフラはないですよというところで、僕が今日、このイベントを開いてご紹介したかったのが、まさにデータロボットです。

先ほどみなさん、デモを見られたと思うんですけれども。誤解を恐れず言うと、「レンジでチンする機械学習」みたいな感じだと思うんですよね。

なので、リクルートの中の従業員も、もうデータサイエンティストじゃない人がどんどんデータロボットを使って機械学習をやっているような感じになっています。

最近ですと、1ヶ月に50個くらいの予測モデルを、データサイエンティストの素養のない人が使っている。そのように、リクルートの中では運用として始まっています。

ここまでは機械学習のプログラムの数の話だけをしたんですけども、実は、質の面でもすごくメリットがあるんじゃないかなと思っています。

機械学習ができる人だけが、予測モデルを定式化した場合、データサイエンティストの人たちだけ、少ない人数でやるので、さすがに彼らもそんなにたくさんのドメインナレッジを持っていなかったりすると思うんですよね。

分析に使うリソースを80パーセントから20パーセントに減らした

あるいは、世の中一般的に解くような解法があって、その既存のフレームワークの発想から、問題を形式化しようとしてしまう。すばらしいことなんですけれども、やっぱり限界があって、そのアイデアには一定の偏りが生まれてしまうんじゃないかと思っています。

ですが、機械学習ができない人も、「こういう予測ができたら、もっとこういうビジネスができるんじゃないか」というアイデアを持っていると思うんですよね。なので、みんなで考えたほうがずっと多様なアイデアが集まるんじゃないかなと思っています。

ここまでが、機械学習ができない人の話を中心にしてきたんですけれども、機械学習ができる人、データサイエンティストの人の働き方も、例えばデータロボットを使った場合に、すごく変わってくるんじゃないかなと思っています。

これは、リクルートの中のデータサイエンティストの事例なんですけども、彼はデータロボットを使う前、分析に彼のリソースの80パーセントを使っていました。問題の定式化に使える時間は、たったの20パーセントだったんですね。

今、彼はデータロポットを使い始めて、分析そのものにかける時間は、彼のリソースの中の20パーセントになりました。けれども、作れる予測モデルの数自体は10倍くらいになっています。

残った80パーセントのリソースで、何をやっているかと言うと、いろいろな事業部の人とコミュニケーションをして、新しい予測モデルの問題の定式化をやっているんですね。

これがまさに、いろいろな新しい価値の吸い上げができるので、今まで誰も考えたことがなかったような、「こんな問題も予測できるんだ」「ここにも機械学習が使えるんだ」そういった新しい価値をどんどん吸い上げていって、すごく多様な問題を解くことができるようになってきていると思います。

ここからが、おもしろい話です。ここまでがおもしろくなかったわけではないですけど。

注目すべきはシンギュラリティではなく、マルチラリティ

先ほど、加藤からもお話がありましたが、「マルチラリティ」。「シンギュラリティ」は、例えば2045年に人工知能が人間の能力を超えてしまうかもしれないみたいな話で、日本語でいうと「特異点」という意味だと思うんですが、ここでのポイントはですね、「この特異点は1つなのか」という話です。

シンギュラリティのシンギュラーはシングルなので、特異点はもちろん1つだと考えているんですよね。例えば、一部の人たちが、この問題はこういうふうに最適化していけばいいと考えると、特定の価値観でもって、問題が定式化されているので、おそらく1つの特異点に到達する、みたいなことがあるのかもしれません。

マルチラリティ。これは、先ほど加藤が僕が作った用語だと言ったんですけど、嘘です。マルチラリティという言葉を作ったのは、リクルートのこのAIの研究所のアドバイザーをしているトム・ミッチェルさんが、実はお話をされていました。

彼が去年、日本に来られたときに、たくさん日本のメディアのみなさんから取材を受けていただいたんですけれども、そのときに、すべてのメディアの方が、「シンギュラリティについてどう思いますか」と、トム・ミッチェルさんに質問をされていて、そのときに彼が「来るのは、シンギュラリティではなくてマルチラリティだ」という話をしていたんですね。

これはどういう意味かと申し上げますと、人間の価値観は非常に相対的で、何をハッピーと思ったり、何をアンハッピーと思ったりするかは、人によってぜんぜん違うわけですよね。

あるいは特定の問題を解くときに、定式化したいモデルのかたち、何を評価関数とするのか、何を目的関数とするのか、それ自体も人によってすごく変わってくると思います。同じ問題を解こうとしても。

いわゆるシンギュラリティがテクノロジーとして存在するときに、それを人間がどう認識するかは非常に相対的であって、いろいろな人の複数の価値観に依存しているので、来るのはシングルじゃなくて、マルチ、複数の特異点があるマルチラリティだ、という話を、トム・ミッチェルさんがしていました。

僕はこの話がすごく大好きで、最近、いろいろな講演の際にもお話しさせていただいています。なので、うちの加藤自体も誤解していたんですけど、これは私自身が作った用語なんじゃないかと思っていらっしゃる方もいるんですが、トム・ミッチェルさんが考えた用語です。

前回、先週かな、この話を別のイベントでお話しさせていただいたとき、同じ登壇者の中に魔法使いの落合陽一くん(現筑波大学助教授)がいたんですけれども、彼もマルチラリティが気に入っていらっしゃってですね。

マルチラリティは流行るとTwitterでお話をいただいていたりとか、NewsPicksの中で、マルチラリティが来るみたいな話をけっこうしてくれていて、マルチラリティがいよいよ流行りそうだと思ったんですけど。

さっき加藤が誤解していたみたいに、マルチラリティという言葉を落合くんが作ったというかたちではちょっと困るので、昨日Facebookで、マルチラリティの引用元をちゃんとしてくださいということで、すこし冗談ですけど、コミュニケーションしたりしていました。

なので、「マルチラリティ」はトム・ミッチェルさんが日本に来て語っていた言葉です。いろいろな価値観が生まれていくことによって、これは社会へもすごくいろいろな意味が還元されるのではないかなと思っています。

人工知能によってどんな仕事が新たに生まれるのか

価値観の偏りの話を少しさせてください。例えば、なくなる仕事に関するリサーチ。世の中にいろいろ出ていると思うんですが、人工知能によって仕事がなくなるみたいな話を聞かれたことがある人、どのくらいいらっしゃいますか? すごいたくさんいらっしゃる。

今度は、新しい、こういう仕事が生まれてくるでしょうみたいな、こういうリサーチを聞かれたことがある方はどのくらいいらっしゃいますか?

誰もいないですよね。これ、すごく不思議なことだと思うんですよね。シンメトリーな問題なのに、なくなる仕事に関するリサーチは、すごくたくさんあって、生まれる仕事に関するリサーチはすごく少ない。

これはやっぱり、なくなる仕事に関するリサーチをやっている、要するに人工知能について詳しい人たちが、すごく一部の人たちで、誤解を恐れずに言うと偏っているので、なくなる仕事に関するリサーチはすごく簡単にお話しできるんですけれども。

新しいアイデアをもっとたくさん吸い上げてって、こういう仕事がもっとたくさん生まれてくるかも、みたいな話は、ボトムアップにアプローチしなきゃいれないんで、なかなか難しいんじゃないかと思っています。

トップダウンですと、なくなる仕事のリサーチはすごくできるんですが、ボトムアップじゃないと、生まれる仕事のリサーチはあまりできないんですよね。

例えば、シンギュラリティ。シンギュラリティのベースになっている理論、これは、背景にムーアの法則があると思うんですけど、ムーアの法則に呼応して職業がたくさん創発していると僕は思っています。

例えば、エンジニアリングのコスト自体がムーアの法則によって、すごく低下していったので、昔はいなかった起業するエンジニアの人、たくさん増えましたよね。さらに、そこで生まれたスタートアップからたくさんの雇用が生まれていると思います。

起業するエンジニアの人がたくさん増えたら、もうエンジニアリングだけだとなかなか差別化できなくなったので、次はデザインで差別化しようということで、さらに人間の価値観に呼応して、起業するデザイナーがたくさん生まれてきたと思います。例えば、Pinterestですとか、Tumblrですとか、そういうスタートアップがたくさん生まれたタイミングがありましたよね。

そうすると、今後デザインだけでは差別化できないから、また価値観に呼応しながら、相対的に今度はもっと心理学的にユーザーを増やすようなアプローチをしようということで、グロースハッカーみたいなものが生まれてきて、例えば、SnapChatみたいなものが流行ってきたと思います。

そうすると、今度はそういったアプローチをデータドリブンで合理的にPDCAサイクルを回せるんじゃないかと考えて、データサイエンティストの職業もすごく流行ってきて、世界で一番セクシーな職業だと言われるようになりました。

先ほど、誤解を恐れず申し上げましたデータロボットを使うと、レンジでチンするくらい簡単に誰でも機械学習ができるようになってしまうので、さらに、人間プラス、データロボットで新しいビジネスがたくさん生まれていくんじゃないかと思っております。

トップダウン型未来とボトムアップ型未来のどちらを選ぶか

シンギュラリティ。一部の人が描く、単一の価値観に基づくトップダウン型の未来。それからマルチラリティ。世界のみんなで描く、複数の価値観に基づくボトムアップ型の未来。このどちらを選択するかというのは、我々人間自身の選択になるんじゃないかなと思っています。

先ほど、企業Aと企業Bのお話をさせていただきました。多くのみなさんが、企業Bのほうが勝つんじゃないかなと、手を挙げてくださったと思っています。では、これを我々の社会に当てはめてみましょう。

社会Aと社会Bがあったとします。社会Aは、例えば、一部のリサーチャーの人が100人くらい、すごい天才だと言われている人たちが、500個くらいの新しい価値を創造しているような社会。「この仕事はなくなります。この仕事はなくなりません。こっちの仕事をやってください」ということが、トップダウンで全部決められている社会。

それに対して、社会Bは、世界の全員ががまさにデータロボットを使えるように、AIが共存しながら80億人全員で、例えば800億個の新しい価値を作れるとしたときに、我々の目指す社会が、社会Aになるのか、社会Bになるのか。

そんなことを考えていくことが、シンギュラリティの時代にとっては非常に大切なんじゃないかなと、最近思います。

では、シンギュラリティのようなレボリューションの構図って、昔はあったんでしょうか。

一番わかりやすいのは、アラン・ケイもよくする話ですけど、グーテンベルクの活版印刷技術の話があると思います。グーテンベルクの活版印刷技術ができるようになって、聖書がたくさん印刷できるようになって、それがメディアとして普及して、メディアとして普及したことによって初めて、人は本を読むことができるようになって。

そして、識字率自体が向上していって、その延長線上で、よくよく聖書を読んでみると、なんかちょっと違うなと、カトリックじゃなくて、プロテスタンティズムのほうがいいんじゃないのみたいな話もある中で、宗教革命が起きて、レボリューションが起きました。

これを今の時代に当てはめてみたときに、いわゆるシンギュラリティがあって、人工知能が人間の知能を超えていくということが目前に迫っている中で、例えば、データロボットのようなプラットフォームがあって、我々全員が機械学習のリテラシーを身につけることができて、その先にある新しい価値観でいろいろな価値が創発していく。

そういった社会の構造をどう作るのかということが、今後ますます大切になっていくんじゃないのかなと考えています。

テクノロジーの民主化を目指していきたい

昨年の11月に、リクルートのAI研究所にこの研究のトップとして、アーロンさんを招聘させていただきました。彼は、ビジネスとアカデミック両方得意で、アカデミックは大学の先生を評価するh-indexという指標があるんですけれども、誤解を恐れず言うと、ノーベル物理学賞の平均が45くらいで、アインシュタインが105くらいなんですけど、このアーロンさんは94のh-indexを持っています。

これは、何本以上引用されている論文を何本以上書いているかなんですね。なので、アーロンさんは、94回以上引用される論文を94本以上書いているという意味になっています。

彼自身はスタートアップもやっていて、バイアウトも2回経験していて、そのうちの最後の1社がGoogleに買収されたので、10年間Googleでリサーチャーをやっていたという方で、彼が今リクルートの研究所のトップになっております。

今、彼と一緒に目指している姿が、3つの貢献という話をしておりまして、1つが、リクルートへの貢献、もう1つが、アカデミックも含めた科学への貢献、論文を書いてということですね。それから、社会への貢献。ときには、オープンソースのプロジェクトみたいなものもやっていきたいなと考えております。

この3つの集合部ですね。真ん中にある部分に、我々チームがプロジェクトを率先して、リクルートの中のグループ会社のいろいろな人と、あるいはリクルートの外の、ここにいらっしゃるみなさんもぜひ機会があればオープンイノベーションでコラボレーションしていければとおもうんですが。

プロジェクトを率先して、今お話ししたようなテクノロジーの民主化を目指していきたいと思っております。

この話をすると、すごく社会貢献的なイメージだけが残るんですけれども、これはビジネスとしても、リクルートにとってすごく価値のあることだと思っています。

左側の科学への貢献という部分は、新規性が要求されるわけですよね。右側の社会への貢献という部分に関しては、リクルートの中を超えて、世の中人がみんな使えるようなテクノロジーじゃなきゃいけないので、スケーラビリティが要求されるわけです。

なので、このへんにあるプロジェクトと、ここの3つが重なっているプロジェクトを見た場合に、新規性のレベルが非常に高くて、社会にもスケールするものでなくてはならないので、リクルートの事象の中だけで選んだプロジェクトの中でも、相対的にポテンシャルの大きいプロジェクトが選べる。

我々企業の目線から見ると、新規性が高い、そしてスケーラビリティが高いという制約の中で、必ずプロジェクトを選定していってくださいという話なので、実はビジネスリターン自体も大きくなる構造になっているんじゃないかなと思います。

今日は冒頭で申し上げました、デビッド・ブライさんとデータロボットと、そしてアーロンと、なぜこんなコラボレーションをしているのか。ひとつのビジョンとして、こんなことを考えています。

人工知能を通じて百人百色の自己実現が可能な世界を作る

我々の研究所のヘッドのアーロンさんは、データマネジメントの世界の権威です。彼と一緒に、誰でももっと自由にデータを扱えるような社会を作っていきたい。そう考えています。

そして、デビッド・ブライさんの、まさにLDAを使いながら、自然言語解析あるいは、教師なし学習。もっと簡単にみんなができるようになっていければと思っています。

データがあって、そこからいろいろな特徴を抽出できて、その特徴をデータロボットにかけていくことによって、誰でももっと簡単に機械学習ができるようになっていく。こういった形がインフラとして整っていくと、人工知能のプロダクト自体も誰でももっと簡単に作れるようになる。

我々がパソコンやスマホを使っているくらい簡単に、人工知能の新しい価値を、新しいプロダクトを誰もが作れるようなそんな社会を、リクルートのAIの研究所は作りたいというビジョンを持っています。

「FOLLOW YOUR HEART」。リクルートのひとつのスローガンですけれども、直訳すると、「あなたの心に従おう」十人十色、百人百色の自己実現が可能な世の中、そういった世の中を、人工知能を通じて作っていきたいと思っています。

今日のメッセージ、リクルートのAIの研究所のビジョン。なぜブライさんとデータロボットのみなさまと一緒にコラボレーションをしているのか。マルチラリティな社会。

百人百色の多様な価値の人工知能のプロダクトが世の中に生まれてきて、我々自身の社会がもっと良くなっていく。そんな未来を作っていければと思っています。

ぜひ皆さまともオープンイノベーションで、いろいろな活動をしていきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。