もっと冗談を言えるようになることが大事

パトリック・ハーラン氏(以下、パックン):とにかく、アメリカ人と日本人のお笑いの違いは、教育による影響が大いにあると思います。私は、学校でたくさん学びました。ハーバードでも、たくさんの情報を学びました。情報の使い方や、情報を変換して新しいなにかにする方法を学びました。論理的に自分の考えを言い、そしてさらに新しい情報を付け足す方法を学びました。

私が学んだことで最も重要なことは、読まずとも自分なりに“BS”する方法です。知らない人と、自分なりにBSをする方法です。BSは、英語のスラングです(注:嘘、でたらめの意)。BS朝日やBS-TBSのBSとは違います。私たちは、BSでわかりやすく伝えます。ハーバードの教育は、BSを重視します。日本は、冗談を言ったり、アドリブで冗談を言えるようになる必要があると思います。それらは、日本の芸能界においてはとても重要です。

日本の芸能界は、リアリティTVが中心です。アメリカでリアリティTVというと、一般的には普通の素人とクレイジーなスタッフによって作られる番組のことを指します。普通の素人は、本当は普通ではありません。彼らはクレイジーです。彼らは思いきっています。彼らは非常識なことをします。それが観客にウケます。

しかし、彼らはプロの俳優やタレントや芸人ではありません。観客を楽しませるために本当に非常識なことを行います。しかし、彼らはプロの俳優やお笑い芸人ではありません。これがアメリカでの定義です。日本の定義はこれとは異なってきます。

日本では、おおむね台本がない番組を「リアリティ番組」と呼びます。多くのバラエティ番組には、台本があります。転換点があります。キリのいいところや、パネラーに質問をするときに、場面が転換します。しかし、パネラーの反応には台本はありません。テレビで見られるやり取りの多くは、アドリブです。

その理由の一部は、日本にはとても多くの有名な芸人がいることです。しかし、彼らの多くはそのネタで有名なわけではなく、トーク芸人として有名です。テレビやラジオで話すことは、アメリカよりも重要です。

演技への考え方の違い

日本とアメリカの芸能界の大きな違いは、指導やリハーサル、指示の違いです。私は、アメリカでセミプロとして俳優人生をスタートしました。けっして大学でキャリアを築いたわけではありません。しかし、アメリカでは、演技の指導をとてもよく受けました。そして、リハーサルもかなりたくさんしました。舞台の前、10分のシーンのために、1時間もリハーサルをしました。

ここ日本では、俳優は彼ら自身らしい演技を求められます。一般的に、ほとんどの演技は特にしっかり指導されることはありません。これに、私はイライラしました。現場に来ていきなり演技し、監督が良いというまで何回も演技させられました。

「なにを変えたらいいんですか?」と聞くと、監督は、「んー……もっと早く歩いて。もっとゆっくり喋って」と言ってきます。演技についてじゃないんですね。動きの表現についてです。とてもイライラさせられました。昼ドラに出演したときなんて、指示は1つだけでした。

そしてこれは多分、日本に来て5年経ったときのことでした。私はしばらくの間、英語を教えていました。そして、日本人の妻がいました。私は、「アメリカ人で日本に5年住んでいて、英語を教えていて、なおかつ日本人の妻がいる男の役」にキャスティングされました。まさに私が最高のキャストでした!

私はできる限りいい演技をしました。演技が終わったあと、監督がやって来て、こう言いました。「パトリックさん、んー、もっと外人ぽく! んー! リアリティがない」(笑)。リアリティがないって、そのまま外人だけど、と。しかし、指示なしで演技することはとても難しいことです。

ほかにも、日本とアメリカの違いがあります。撮影が終わったあと、反省会が開かれます。これが、アメリカとの大きな違いです。アメリカでは、役者も監督もノートをとります。監督が「オーケー、みんな集まって」と言うと、役者たちはノートをとります。日本では、このプロセスが反省会と呼ばれます。

反省とは、個人個人が後悔することです。ノートはとりませんし、問題を修正することは、悪いことだという空気があります。びっくりしました。いい作品になったのに! それでも反省会が開かれます。「反省することはないんだけど、反省会ですか!?」って。しかし、これが芸能界で生きている日本人の考え方なんです。

人々は彼らに謙虚さや完璧ではないことを期待し、スタッフの迷惑になることを避けようとします。例えば、カメラマンや、照明さんに対してです。日本の芸能界全体に、この空気があります。これには驚きました。アメリカをモデルにするべきです。芸能界では特に、外国の言葉を取り入れると、かっこよく聞こえるんじゃないかと思います。

事務所のチカラ

もう1つの芸能界における違いは、事務所の力です。日本では、事務所の力はとても強力です。番組のプロデュースにおいて、シーンに誰を配役するか、非常に支配的な力を持っています。マネージャーが、これらの大部分を担っています。そして、マネージャーがタレントを管理します。

アメリカでは、タレントがマネージャーや広報担当、弁護士を雇います。基本的に、マネージャーはそのタレントに対してのみ働きますし、マネージャーを変えることが芸能人生の終わりではありません。日本では、自分自身が事務所のオーナーになったり、小さな事務所に所属しているタレントはとても少ないです。

とんねるずやくりぃむしちゅーのサクセスストーリーも、もとは大きな事務所から始まりました。ほかにも、長い間生き残っている芸人がいます。テツandトモです。個人事務所、弱小事務所でここまで生き残ったことがなんでだろ~です(ネタの動きをしながら)。驚くべき話です。

(会場笑)

とにかく、芸能界には大きな違いがあります。マスターするのにかなりの時間がかかりました。

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