毒蛇に噛まれたら血清を

ハンク・グリーン氏:毒蛇に咬まれた? でしたら、この3分のビデオを見ている場合ではないかもしれませんが、ともかく希望があることはわかってもらえると思います。

動物の中には蛇の毒に耐性を持っているものがいます。

蛇を食べるミツアナグマは、頭をコブラに咬まれても平気な顔をしています。ですが人間はそうはいきません。

以前は毒蛇に噛まれた場合、自然に治るのを待つか、死を待つかの2つしかありませんでした。

しかしそんな状況を、アルバート・カルメットが変えました。

公衆衛生の発展に尽力し、結核のワクチンを共同で作ったフランスの研究者です。

カルメットは1890年後半に初めて蛇の抗毒血清を開発しました。それはカルメットがサイゴン、今のベトナムに、師であったルイ・パスツールに派遣されたときの話です。

微生物学の父の1人であるパスツールは、水疱瘡や狂犬病の培養を行なった人です。ある日、大きな津波がサイゴンの村を押し流し、たくさんのタイコブラに皆が咬まれました。

しかしカルメットは「わ、蛇だ」と笑いつつ、大急ぎでワクチンを作りました。今では抗毒血清と呼ばれているものです。

抗毒血清をつくる4つのステップ

彼の手法は確立されていて、今でも大きくは変わっていません。抗毒血清は抗体の生産を促します。免疫系から放出されるある種のタンパク質が、遺伝子への攻撃を中和するのです。

例えばウイルス、バクテリア、そしてこの場合は蛇毒です。

抗毒血清は毒素自体を破壊するのではなく、毒の影響を取り除きます。作られた抗体は、毒素を覆い隠し、全身に回るのを防いで無害なものにします。

それでは作り方です。

ステップ1、毒を入手。抗毒を作ろうとすれば、まず毒が必要です。

抗毒(anti-venom)を anti-venin と言わないことが不思議ですか?(注:フランス語では毒をveninと言う)フランス人であったカルメットは、最初はanti-venin と言っていたようですが、世界保健機構は英語読みをすることに決めたようです。あまり気にしないでください。

まぁとにかく、解毒剤のためには毒がたくさん必要です。

まず、毒蛇を捕まえたら、口を開かせて優しく握り、蛇の毒液が空っぽになるまで出します。1匹から絞るのに大した時間はかかりませんが、何匹も絞らなければいけません。楽しくなりますねぇ。

1例として、1965年にアメリカ国立衛生研究所は、ビル・ハーストにサンゴヘビの毒を500ml集めるよう指示しました。そのため彼は、3年以上の期間をかけて6万9千回も毒液を絞ったのです。

ステップ2、毒を冷凍。毒液を絞ったら、冷凍することで濃縮して保存できるようにします。

ステップ3、別の動物を使って抗体作成。馬か羊かヤギを見つけてきたら、数週間かけて少しずつ毒を注射します。これによって、動物の体内では毒を中和する抗体が作られます。

抗体は2ヶ月ほどで十分な量に達するので、その時点で採取します。一般的に頸部から最大で6リットルの血液を吸い出します。出血多量で死んでしまうことはないので心配しないでください。むしろもう一度採取できるかもしれないぐらいです。

ステップ4、純化・濃縮・完成。血液採取が終わったら、フィルターにかけて抗体を濾し取り、濃縮したらビンに入れて完成です。必要ならすぐ使ってください。

でも次に毒蛇に咬まれる時まで保存しておきたいなら、冷凍保存しなければいけません。

抗毒血清以外の毒に対抗する方法

抗毒血清を冷凍保存しなければいけないことは、電力不足に悩む発展途上国では死活問題です。しかも残念ながら、そういった場所にこそ毒蛇はたくさんいるのです。

ここまでで、抗毒血清を作ることが簡単ではないことがおわかりいただけたでしょう。お金も時間もかかってしまうことが、全世界で抗毒血清が不足している理由の1つです。

この方法では、抗毒血清1本作るのに1500ドルかかり、患者1人が完治するには20から30本必要になってしまいます。

そこで別の方法です。ビル・ハーストは、毒蛇を使ってミトリダート法を実践しました。これは、致死量に達しない量の毒を自分自身に入れて免疫を作る、というものです。

彼は1日に100匹の蛇を素手で絞り、馬を用いるより単純なやり方で抗毒血清を作り出しました。世界中を飛び回って自分の血を輸血し、毒蛇に咬まれた患者21人を、たった1人で救いました。

彼は172回も蛇に咬まれましたが、指を1本失っただけで100歳まで生きたのです。ヤバイね!