ジョブズの記事がバズった「カジケンブログ」

上田岳弘氏(以下、上田):今日、カジケンブログの読者っているのかな?

梶原健司氏(以下、梶原):わからない(笑)。僕昔、ブログをけっこう。毎日更新を2年くらいやってまして。

上田:休むことなく毎日。

梶原:けっこう読んでくれる人が増えて、そのおかげで次に繋がったりとかもあったんだけど。読んでくれました?

上田:読みました読みました。

梶原:そんな、三島由紀夫賞作家に読まれたブログ!

上田:めっちゃ読みました。

梶原:ブログに書いといていい? 三島由紀夫賞作家も愛読しているブログって(笑)。

上田:いろんな人に勧めました。

梶原:小説クラスタの人からTwitterとかコメントきてないけど。

上田:いや、小説クラスタはあんまりブログに反応しないですね。

梶原:そうなの? 何で? バカにされてる?

上田:バカにしてるわけじゃないけど、無料のものより良いものをやらねばっていう自負がある方が多いので。

梶原:なるほど、バカにしてんじゃない(笑)。

(会場笑)

梶原:暗に小説的な言い方したけど、バカにしてるよね(笑)。

上田:バカにはしてないけれども、こういうのがあってさらにという意識が強いんだと思う。

梶原:ちょっと1回だけ、俺のブログにアクセスしてもらっていい? バカにされる要素はあるんですよ、どうしてもね。お恥ずかしいですけどね。岳弘君が小説をずっと好きで、小説家になりたいというのは本人から直接聞いたことはなかったんだけど。

上田:そうだったっけ?

梶原:うん、お母さんとかから聞いて。「岳弘、小説家になりたいとか、そんな夢みたいなこと言ってて」みたいな。でも、賞とったら途端に変わったよな。(ブログを見て)こういう感じのヘッダーなんですよ。

上田:すごいバズってる記事あったよね。

梶原:ジョブズの記事とかね。7400いいね!。

上田:この記事とかすごくて……ジョブズの記事なんですけど、7491いいね!。

梶原:おかげさまでいろんな人に読んでもらって。コメントももらって。ぜんぜん文章の話とか、こういう行動もしたことない。

上田:(自分も)あんまり本自体読んでなかったからねえ。

梶原:そうなの?

上田:うちの姉とか兄のほうが、ぜんぜん読んでた。

梶原:僕もそんなに岳弘君と文章の話とかしたことないんですけど、何となく、書くのは僕ももともと好きやったし、自分もたまたまそういう文を書いたりしてて。

上田:ぜひ読んだことない人は読んでみてほしいんですけど。カジケンブログを。考え方似てるんだって。

空気が読めないやつにTwitterは向かない

梶原:そうだね、ちょっと血を感じるというか。おもしろいなって。そんな話一切したことなかったのにって思いました。ブログはやらないの?

上田:ブログはちょっとねえ……。前にある書評家の方に、「Twitterとかやったほうがいいですかね?」って聞いたときに、「言っていいことと悪いことがわかんない人はやめたほうがいい」と。

梶原:どういう意味?

上田:Twitterで空気を読んでオープンに言っていいことと言わないほうがいいことをちゃんと峻別して判断できる人じゃないと、あれはやってはいけないと。暗に、「お前やめとけ」みたいな。

梶原:ああ、わからないから。

上田:言われたから、やめとこうかなと。

梶原:書いたことはある?

上田:ないですね。

梶原:1回ゴーストライターで書いてみる?

上田:いや、しんどいよね。

梶原:いや、俺が書いたようにしか見えないから。

上田:原稿料もらえるんであれば(笑)。

梶原:そうか(笑)。ピカソにレストランで絵を描いてって言ったら100万円って言われた感じですね。今ね。

上田:素晴らしい。100万とは言わないですけどね。

梶原:1500字書くのに2時間半? 俺もこれ書くのに1記事2時間とかかかってたんで、これがだいたい3000字くらい。

上田:でもこのブログはすごい人気あったし、Twitterとか見てたら変な繋がりというか、繋がっていってるなっていうのは、見ててありましたけどね。

梶原:更新を毎日していた頃は、会ったことないけど読んでくれてる人との繋がりがあって、Twitterとか、メールをくれたり。カジケンブログ知ってるという方いらっしゃいますか? 3、4人。ありがとうございます。血を感じるというのも、こんな天下の大小説家に、たかだかブロガーがすみません。

上田:いやいや、すばらしい。

小説で表現するメリット

梶原:とりあえず今まで話してきたんですけど、こんな感じで良いんですかね? もうちょっとお前こんな話せえよとか、こんなこと聞いてみたいみたいなことありますかね?

あくまで半分自己紹介がてらなんで、こんな感じの話なんですけど。どんなこと考えてるのかとかは、このあと話していきたい。どんな話をしたらいいかわかんないですけど。いったん質問とか、こんな話してほしいとかあれば。なければぜんぜん。大丈夫ですか?

じゃあ、もうちょっと聞きたい話があって。この後の話にも繋がると思うんだけど、「何で小説書いてんの?」というところをすごい聞きたくて。例えば、僕も一応ブログを書いてたんですけど、小説を書こうとはなかなか思わないというか。

上田:逆にそこは、何で思わないんですか?(笑)

梶原:逆質問……。何で小説を書かないか。

上田:文章をせっかく書くんであれば、まとまった作品にしようみたいな。

梶原:小説でしか表現できないものが、あんまりよくわかってないのかな。

上田:小説って圧倒的にコストが安いじゃないですか。

梶原:読むコスト?

上田:書くコスト、作るコストが。

梶原:生み出すコストが。

上田:生み出すコストが。例えば映画だったら、太陽がありますとかだけでも、そのシーンを撮るのにいくらかかかる。CGにするんだったら、すごい作って50万かかると。撮影クルーでいっぱい撮ってやると、けっこうお金かかりますよね。

小説はそれを2文でできる、1人でできるって圧倒的にコストが低いじゃないですか。ものを作る際に。そういうのはちょっとあると思いますね。小説のメリットとしては。

梶原:じゃあ例えば、お金が無限にありますと。そういったら、小説書く?

上田:書きますね。

梶原:そうすると、そこでコストの問題じゃないんじゃないって話になってくる。

上田:つまり、無限にあったとしても管理コストがかかるじゃないですか。じゃあ、どういうふうにやっていこうって時間がかかりますよね。スタッフのモチベーションを上げたりとか、それもコストなんですよ。

梶原:それをじゃあアウトソースできると。組織になってて、「上田監督、もうその辺は全部やっときますから!」みたいな。

上田:その指示書をカットしたら、それはたぶん小説になる。こういうのを作ってくれっていうのを作ったら、それがそもそも小説になる。なので、それで良いんじゃないかなっていう。

めちゃくちゃお金があって、すべて僕の言うことを聞いてくれたとしても。その指示書はやっぱり、そういうものになるんじゃないですかね。

梶原:なるほど、おもしろい。じゃあ自分というものがいて、自分の思いとか思考とか、中にあるわけよね。それを誰かに伝えるっていったときの一番簡単で一番最初の伝え方というか。アウトプットというか。

上田:自分の考えとしてもってるものの、一番近い表現形態が文章だと思います。そういうクッションが入ってという印象はありますけどね。

書き手と受け手の共通認識の違い

梶原:例えばまた別の見方として、テキストってめちゃめちゃ受け手側が想像力を働かせる話じゃないですか。太陽があるといっても、どんな太陽か書かなかったら、受け手側が勝手に想像するわけですよね。そういうのはデメリットと言っていいのかわからないけど、それは特徴としてはあるよね。それはどうなの?

例えば岳弘の中で「こういう太陽じゃなきゃいけない」とか、内的なイメージはあると思うんだけど。それはもしかしたら受け手側によっては伝わってないみたいな。

上田:変な話、色とかも指定しないと。委ねる部分と委ねない部分というのはありますよね。小説を書いてても、(伝えたいことを)わかってもらえてないなというのは日々ありますね。

梶原:ある?

上田:日々ですね。「わけわからん」とかいって(笑)。

梶原:おお(笑)。小説に対してのコメントとして、「わけわからん」と。

上田:よくわかってくれてないなということは、よくありますね。

梶原:それはなんでなん? 何でそうなると思ってる?

上田:共通する認識というか、共通コードが違うのかなというのもあるし。太陽を書いた場合に、太陽を知らない人もいるかもしれないじゃないですか。生まれてこの方ずっと地下室に閉じ込められていたとか。まあ、太陽を知らない人は少数派かもしれないけど、今回『異郷の友人』という作品を書いたときに、モンスターエンジンというお笑い芸人を出したんですけど。

そもそもモンスターエンジンを知ってる知らないによって、変わってくる受け止め方があって。極力それが皆に受け止めてもらいやすいように書いたつもりではあるんだけど。

人によってはそんなお笑い芸人出すなんてダメだって言う人もいれば、あれはお笑いのネタだけど芸術になってるよねって言ってくれる人もいれば、別々なので。ある程度はしょうがないのかなって思いますけどね。

梶原:それはテキストを書く前提条件だったりとか、情報量的にはテキストが一番抽象化されてると思うので。ある意味、解釈を委ねてしまうところが出てくるっていう特徴だと思うんだけど。

上田:受け止め方の上限というか、範囲は指定してるつもりなんですけどね。委ねるけど、ここまででこれ以上の誤解はないって書いてるつもりなんだけど、ちゃんと読んでもらえないと、気づいてもらえない。いい作品っていうのは委ねる部分もあるんだけど、ちゃんとその範囲も指定してる。

小説家の才能とテクニック

梶原:じゃあ逆にいうと岳弘君から見て、この人はそういうのがうまくできてるなっていうのは。

上田:皆できてますよ。いわゆる、評価されてる人たち。

梶原:巨匠と呼ばれてる人たちは。例えば今、誰か名前を挙げるとしたら。

上田:町田康さんの『告白』が好きだっていう記事を前に書いたんですけど、あれって人殺しの話なんですよ。河内十人斬りの話なので。そんな人のことなんてわからないって思いがちなんですけど、さらにそのわからない情念みたいなものを書いてるんですけど。

そこをちゃんと突き詰めていって、限定っていうとアレですけど、ある意味「こういうふうに解釈してください」っていうのがあるので、ぜんぜん自分とはかけ離れた人なのに、何か悲しく感じるとか。良い小説は全部ありますけどね。

梶原:それは、何でそういうことができるの? どうやってそういうのをやってるの? 要は殺人鬼みたいな、普通の平均的な読者からしたら、基本的に今日この場に殺人鬼はいないと思うんですけど。ものすごい遠い存在なわけよね。でもこの人のことを、近い存在として感じないと、泣いたり共感したりできないわけで。

上田:そういうふうに持っていってるんでしょうね。

梶原:それはテクニック?

上田:いろいろだと思います。やっぱり一言では言えないと思います。

梶原:言うてよ(笑)。

上田:才能であったり、テクニックでもあるんでしょうね。

梶原:その才能もどういうものなんかなって思いますけどね。例えばスポーツだと、筋肉量がどうこうってあれは才能じゃない? 生まれ持った初期条件みたいなもんだと思うんだけど、そういうのって何か。

上田:何種類かあるんでしょうけど、1つはジャンプ力というか脚力というか、すっごい遠いところに飛んで行くような、筋肉をもった才能。

梶原:発想ってこと?

上田:そう発想。あと、例えばすごく繊細な目。1つのものを見たときに、すごくいろいろ浮かんでくるっていうものがあれば。いろいろですかね、一概には言えないですね。

梶原:岳弘くんは、自分を小説家の中でポジショニングするとすれば何が強みなの? これは俺、世界的に見てもイケてるみたいな。

上田:枠を決めないというか、純文学っていうポジショニングで、業界デビューしましたけど、あんまり純文学かどうかって思われることを気にしない。そういう意志は強いと思いますけどね。

梶原:純文学ってこうだよねっていうものすら取っ払って。

上田:取っ払った上でおもしろいものを、自分が表現したいものは何だろうというようなことは考えてますけどね。

梶原:それは、そんなことをやってる人ってあんまいないの?

上田:たぶん、珍しいと思います。全部の作家さんはわからないですけど。

梶原:逆にいうと、自分と似てるなっていう(人はいる?)。巨匠でもいいよ。俺はこの巨匠と同じレベルだとかいうつもりじゃなく、方向性として近いなみたいな。

上田:レベル云々を抜きにすれば、カート・ヴォネガットは好きですけどね。

梶原:ごめん、まったくわからない(笑)。

(会場笑)

梶原:知ってる人には「あー、カートね」みたいな感じなんでしょうけど。何人?

上田:ドイツ系アメリカ人。

梶原:生きてる人?

上田:8年くらい前に亡くなりましたね。

梶原:けっこう最近の人か。

上田:最近というか。書く対象として、第二次大戦とかそういうのを書いてる。

梶原:その人もじゃあ、純文学とかのジャンルに……。

上田:SF作家としてデビューしました、向こうでは。日本でもSFの文庫レーベルでたくさん出てる。

梶原:それで、純文学。

上田:今はアメリカを代表する文学として見られてる。

梶原:カテゴリーをつけるのって、自分がやってるわけじゃなく周りが勝手につけてるだけだから。

上田:そうそう、自分からその枠にはまり込んで行く必要はないのかなって。

梶原:なるほどね。

「小説って何で読むんですか?」

上田:ケンちゃん、あんまり小説読まないでしょ。

梶原:読まないね。

上田:何でなん? それって。素朴な疑問として。

(会場笑)

梶原:逆に小説って、何で読むの?(笑)

上田:どうなんでしょうね?

(会場笑)

上田:編集者の方もいらっしゃるんですけどね(笑)。

梶原:(笑)。小説って何で読むんですか?

上田:彼女も編集者。

梶原:そうなんですか!

観客1:私は小説の編集者じゃないんですけど。自分が体験できる範囲って限られるじゃないですか、生きてる時期も。世界も。選ぶ選書にもよりますけど、小説はそれが無限にあるのかなという気は。無限というか、無限に近いところにあるのかなと。

梶原:なるほど。ということは、自分の体験できる世界って、例えば可能性空間みたいなのがあったときに、すごい限られてるわけですよね。そういう意味では、他人の人生を追体験できるとか、けっこう矮小化した言い方になってしまうけど、そういうことですよね。

観客1:そうですね。

梶原:なるほど。他には……(別の観客に)何で小説読むんですか? 僕、本当に小説読まないんですよ。岳弘君の小説がすごい久しぶりで。

観客2:最近の人が小説を読まないというのも、わかるといえばわかるというか。ネットで何でも遊べるし、無料で何でも遊べるソフトがあるから、小説を読まないっていう人も。私も一時期すごい小説読まなかったからわかるんですけど。やっぱり好きな作家ができたりとか。

梶原:ちなみに好きな作家は?

観客2:好きな作家、私はけっこう……。

梶原:(上田を指差す)

観客2:上田岳弘さんです。

梶原:(笑)。

上田:ありがとうございます(笑)。

梶原:予定調和で、すいません(笑)。他に何か読むんですか?

観客2:けっこう詩的な感じの小説が好きで。大江健三郎さんみたいな詩的でもあって、知的な感じの小説が好きです。

梶原:ふーん!(別の観客に)小説って何で読むんですか?

上田:ニシムラさんけっこう読んでますよね、小説。

観客3:最近小説読んでなくて、上田さんが受賞したのをきっかけでまた読み始めたくらいの感じですね。それまでは、他人の妄想に付き合ってる時間がないと思ってて。それで実用書とかブログばっかり読んでたんだけど。いろんな御縁があって、上田さんがこういう賞をとられて読み始めて。

超久しぶりに読み始めてみて、上田さんの小説とか、よく比較されてるウェルベックとかの小説もそうなんですけど、現実と仮想の間をけっこう行き来してるじゃないですか。そういうので思考が整理されてるなっていうのを経験したので、それはちょっとおもしろいなと思って、最近小説を読み始めた。

梶原:前に紹介してもらった『悪童日記』は、読んだらおもしろかった。何でおもしろかったのかな? おもしろかった。

観客3:あれは文章が研ぎ澄まされてるから。

上田:詩的な感じ。