パンダは野生でどうやって生き延びているのか

ハンク・グリーン氏:40年以上にわたる保護の努力と数千万ドルの寄付金。人間のおかげで、ジャイアントパンダが絶滅せずに生き残っているといっていいでしょう。もちろん、中国にあるパンダの本来の生息地を奪っているという点で、人間はパンダたちが暮らす場所に困る原因にもなっています。

今私たちにできるのは、彼らを保護することだと思います。そのための努力は、いくらかうまくいっているようです。現在、約1600頭のパンダが野生で生息し、動物園で飼育されているパンダがそのほかに300頭ほど。パンダほど保護を必要とする動物は他にいません。

ジャイアントパンダは、動物界の中でも不思議で複雑な食習慣を持っています。また生殖に関しても、少し普通ではありません。人間の管理下にあるのなら、人間が食事や生殖の際に助けることはできます。

でも、ここである疑問が浮かび上がります。

「パンダは、野生でどうやって生き延びているの?」

パンダは肉も食べられる

食糧の話から始めましょう。

ご存知のように、パンダは笹を食べます。では、パンダの食事の99パーセントを笹が占めることは知っていましたか? パンダが草食動物であれば、この事実にも納得がいきますが、実はパンダは熊の仲間なのです。

パンダの消化システムは、胃袋が4つある牛のように複雑ではありません。小腸が短く、胃の構造もシンプルな肉食動物に似ています。それから、実はパンダは肉を食べられるのです、ただ、そうしないだけで。

2009年、研究者たちがパンダの遺伝子配列を調べました。そこで、熊は笹に含まれる繊維を分解する酵素をつくるのに必要な遺伝子を持っていないことが明らかになりました。

ジャイアントパンダは毎日9〜18キロの笹を食べなければいけません。また、ジャイアントパンダは1日のうちの16時間を食糧探しと食事に費やし、それ以外の時間はほとんど寝て過ごします。

ただし、ジャイアントパンダが食にうるさいのではありません。昔から笹に頼りっきりだったわけではないのです。しかし、古代の人々が彼らの領域に踏み込んだせいで、パンダは山の上へと追いやられてしまいました。そこで、他の肉食動物との争いを避けるために笹を口にするようになったといわれています。

ここ最近になってようやく、どうやってジャイアントパンダがこのような不可解で、偏った食事で生き延びているのか、研究者たちの手によって明らかになり始めました。

ある研究者たちが、ジャイアントパンダの雄と雌各3頭の生活を6年間にわたって追い、その際、本来の居住地である中国の秦嶺山脈で一体どのような食生活を送っているのかを観察しました。

とくに関心を集めたのは、窒素、リン、カルシウムの量でした。これらは、ほ乳類にとってもっとも大切な栄養素だからです。この観察の結果、パンダは季節ごとに自分たちの味覚を調節し、笹を食べていることが明らかになりました。

彼らの食事の大半は、wood bambooという種類の竹が占めています。季節によって、葉の部分である笹や、新芽の段階である筍を食べています。筍にはリンや窒素が豊富に含まれているのですが、成長するにつれて、もともとの栄養素は失われてしまうそうです。

そのため、パンダはさらに高い場所へ移動し、arrow bambooと呼ばれる種類の竹を食べます。

真夏になると、彼らは食事を再び切り替え、カルシウムが豊富なarrow bambooの葉部分を食べます。夏の終わりに近づくと、雌のパンダたちは子どもを産むために標高の低いところへ戻り、そこではwood bambooの笹を食べて生活します。

笹ばかり食べているため、栄養が乏しい食生活に

ジャイアントパンダの食生活がいかに複雑かおわかりいただけたでしょう。しかし、これで終わりではありません。このような栄養に乏しい食生活が、ただでさえ困難な生殖をさらに難しくしてしまっているのです。

パンダは、4歳から20歳の間に子どもを産めるにもかかわらず、それは1年にたった一度、春に限られます。パンダの雌が妊娠する期間は、約1日〜3日。この点、ウサギとは違いますね。

雌パンダが春に妊娠すると、胎児は未発達の状態で留まることになります。研究者たちによると、妊娠したパンダがより高度の低い場所に行って、arrow bambooのカルシウム豊富な笹から栄養を摂取してようやく、胎児の成長が再開します。カルシウムは、骨の発達と母乳のために必要な栄養素です。

繰り返しになりますが、熊の仲間のわりに栄養の乏しい食生活を送るのがパンダという動物で、このために生まれたばかりのパンダは決して大きくありません。

子供パンダは、「バター1本ほどの大きさ」と表現されることが多く、体重およそ90〜130グラムで生まれてきます。これは、熊の子どもの3分の1以下の重さです。

世話をしてあげたいという人間の感情を掻き立てる、その愛らしさこそがパンダの発展を支えてきたとすれば、私の言えることは1つ。「でかしたぞ、パンダ。よくやった」

そして、人類を代表して、パンダの生活を複雑なものにしてしまったことを謝りたい。ただし同時に、感謝もしてもらわないとね。