Fintechの現状と未来

林俊助氏(以下、林):みなさん、どうぞよろしくお願いいたします。まず最初に、Fintechとは何かということで、全体像や直近の動向をお話させていただければとと思います。

日本だと今年がいわゆる「Fintech元年」と呼ばれ、日経でも取り上げられたり、Fintech協会が設立されたりと非常に盛り上がっています。グローバルで見ても、ここ2年でFintechは非常に盛り上がっています。

これは資金調達総額のグラフなんですけども、2008〜2014年で5倍以上。特に去年あたりからものすごく盛り上がっています。

「Disruptor 50」という、毎年世界でもっとも革新的なスタートアップを50社選ぶという指標があるんですけど、そこでも2012年度には(Fintechスタートアップが)ほぼなかったのが、2013年度から50社中6社出てきて、2014年度に至っては全体の4分の1がFintechスタートアップだと。

2015年度版ももう出たと思うんですけど、これも流れはほぼ変わらずです。Fintechスタートアップは話題的な意味でも非常に盛り上がってますし、実際にスタートアップというもの自体もできあがってきています。

国内でも、ここ1年でものすごく大きなトピックになってます。マネーフォワードさんとみずほ銀行さんが提携されたり、スタートアップだけではなく大手金融機関さん、例えばUFJさんがFintechチャレンジを始めたりとか。

グローバルでは、R3 CEVがブロックチェーンのコンソーシアムを作るということで、グローバルで有名な投資銀行のほぼすべてが参加しています。そういったかたちで非常に盛り上がっています。

Fintechは一時的な流行ではない

ものすごく聞かれるのが「Fintechって一時的な流行なんですか?」という質問。転職で「Fintechは今は盛り上がってるけど、3年後はどうなんだろう」みたいなことを考えたときに、不安になられる方が多いかと思うんですけれども。

僕個人の意見かもしれないんですけども、Fintechは決して一時的な流行ではないです。「Fintech」が言葉としてフォーカスされてますけど、そのものは過去20年に渡って金融の中でも幅広い領域で変革を起こしています。近年はその動きがさらに加速しているという見方をすべきなのかなと思っています。

Fintechの潮流に関して、具体的な事例を交えてもうちょっとお話しさせていただきます。この20年間、インターネットの登場・普及以来、どのようにインターネットテクノロジーが金融業界に影響を与えてきたかというのを簡単にグラフにしました。

例えば資産管理の分野は、これまで個人管理だったのが、直近はモバイルシフトなども始まって、AI技術も進化したことで、PFMツールというのが出てきました。また、資産運用分野は、ネットの普及と同時にネット証券が台頭してきたんですけども、取引部分だけではなく直近だと投資助言の部分もオンライン化されて、非常に裾野が広がっています。

投融資の分野、クラウドファンディングは、2〜3年くらい前からKickstarterのような寄付型のものが非常に注目されはじめたと思うんですけども、法改正とともに今は融資型・株式型と非常に幅広い領域での資金調達も可能になっています。

決済領域に関しては、ECの普及とともにPayPalをはじめとするネット決済が流行したんですけど、これも直近のモバイルシフトの流れでモバイル決済というものも非常に出てきました。

また、ブロックチェーンは本当に直近の今年あたりから……実はシリコンバレーでは去年あたりから騒がれてはいたんですけども、日本でもブロックチェーンという技術が非常に革命的だというところで、新しい銀行間システムを作り上げていくのではないかと騒がれています。

ネットの普及以降、そもそも金融領域にIT、テクノロジーは取り込まれてはいたのですが、ここ3〜4年でスマホ、ビッグデータ、AIなど大きな技術革新がさらに加速的に増えてきた。なので、Fintechが非常に注目されはじめたのかなと思っています。

例えば、資産管理・運用分野。具体的な企業、スタートアップ、Personal Capitalというところを挙げると、これは2009年に設立されたばかりで資産管理+ロボティクスアドバイスをやっている会社です。

まだ設立5年目くらいですけど、資金調達総額が100億円を超えています。実績としては会員が100万人近く、トラッキングしている資産は数十兆、運用する資産も数千億と非常に伸びが早く、かつ既存の金融領域に非常に影響が大きい領域です。

ネット証券業界はFintechの登場によって何が変わるのか? これまで実取引部分、いわゆるオンライン証券はあったんですけど、結局リテラシーの高い人しか使えないところがありました。これからは投資助言部分もオンライン化されて、誰でも簡単に始められる。誰でも理解できるようなインターフェースで、誰でも使えるようなUIで書かれているということで、リテラシーの低い層まで広がるんじゃないかということが期待されています。

これによって一気通貫のネット証券サービスができ上がってくるので、証券のオンライン化は国内だと1パーセントに満たないくらいしか進んでなかったのが、これから非常に伸びていくんじゃないかと期待されています。

こういったかたちで投融資の分野や決済の分野などもいろいろあるんですけど、時間がありますので割愛させていただきます。

サービス・インフラ面の変革とビジネスチャンス

こういう事例がいろいろある中で、「結局Fintechが与えている影響は何なんだ?」ということをまとめさせていただきます。大きく分けると、サービスレイヤーとインフラレイヤーの2つの話があります。

まずサービスレイヤーの話ですけども、これまでは金融機関と個人資産はつながってはいたんですが、個人資産全部とつながっていたというより、金融機関に預けている一部分のみがつながっている形。結局、中心的存在が大手金融機関であったことには変わりなく、サービスも非常に画一的で「一対多」でシステムが構築・提供されていました。

これからは、自分の中で勝手に「Fintech2.0」と呼んでるんですけど、直近の技術進歩によって、サービスを画一的に提供する必要がなくなっていきます。

いわゆるパーソナライズ化・アンバンドリング化と呼ばれていますが、機能の一部がどんどん分散して誰でも使いやすい、軽いかたちになってきます。そうすると今後は何がポイントになるかというと、結局は個人資産全体に対していかに最適なアプリケーションを提供できるか。つまり、個人資産を見てどういうニーズがあるのかをきちんと把握して分析する機能が非常に重要になってきます。これはいわゆるPFM(Personal Financial Management)と言われる領域ですね。

金融領域でも、サービス作りのあり方が大きく変化していくというのが、Fintechの意味合いの1つになります。

もう1つは、インフラレイヤーでも大きく変革していくということが挙げられます。いわゆるブロックチェーンの台頭で、これまで中央管理型のシステムが必要だったところが、必要なくなって分散型のシステムになっていきます。

そうすると、例えば「SWIFT」と呼ばれる国際間の送金サービス……というか組織や、国内で株式や債券を管理する「ほふり」(証券保管振替機構)のような、従来型の中央管理システムが変わっていきます。これにあわせてシステムも作り変わっていくので、どんどん新しいビジネスも登場しますし、この技術によってシステムコストが格段に下がっていきますので、これまで提供できなかった金融領域にもサービスを提供できるようになっていく、そういった大きな変化があります。

このように、Fintechはサービスレイヤーでもインフラレイヤーでも大きな変革を起こしていきます。これは日本のスタートアップにとってどういう意味があるのかということを考えると、本当にたくさんのチャンスがあります。

今の会社ではコンサルティングをやってるので、大手金融機関の方に「うちは何をやったらいいですかね?」と聞かれるんですけど、いつも半分冗談でお答えするのが、「今すぐ100億円くれたら、10億円ずつ10個のアイデアで起業できるくらいやれることはいっぱいありますよ」ということなんですね。

それくらいチャンスがあって、この1年でFintech分野を深く研究すればするほど「これもあるじゃん、これもあるじゃん」と思ってます。

何にもしないと、既存のビジネスは縮小していく一方なんです。これを言うと、金融機関に勤めている方に怒られちゃうのでアレですけど……。

既存のプレイヤーがディストラプトされていったり、先ほど言ったようにシステムコストは下がっていくと保守・運用系サービスの売上が下がっていったりする。また、キャッシュレス化がさらに進むと、極端な話、ATMのビジネスがなくなっていく可能性もありますよね。本当に、何もしないのが一番の脅威です。

ただ、この領域は金融機関だからこそ抱える悩みもありまして、ものすごく大きなカニバリズムが存在します。一歩進むにもなかなか踏み出せないというのが正直なところなので、ここをスタートアップで注力して、加速度的に進めていくと非常にチャンスがあるのではないかと思っています。

最後に、Fintechは本当に大きなチャンスなので、まさに「みなさん、今やるべきですよ!!」ということをお伝えさせていただいて、終わりとさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)