「出戻り」って実際どう? 当事者の声

――本日は、リクルートを一度離れて、別の会社で働いた後、再びリクルートライフスタイルの社員としてご活躍されているお2人に、「出戻りキャリア」をテーマにお話をおうかがいしたいと思います。まず、簡単にこれまでの経歴を教えていただけますか。

石井智之氏(以下、石井):僕は2008年に新卒でリクルートに入社しました。4年半リクルートで働いた後に転職してGoogleに。そこで約1年働いて、リクルートライフスタイルに戻ってきて、今はマネージャーとしてマーケティング全体を統括しています。戻ってきてから、2年半弱くらいですね。

前澤隆一郎氏(以下、前澤):僕は新卒では銀行のシステム部門に入りまして、1年ほどエンジニアをやっていました。やっぱり新規事業作りたいなと思って、リクルートに転職したんです。

それから、旅行の「じゃらんnet」とか、今のPontaポイントのもとになってる全社の共通IDとかポイント作ったりして、最後は「ポンパレ」のプロデューサーを任され、2011年に別の会社に移りました。

2年1ヶ月の間、DeNAにいてサンフランシスコで北米向けアプリのマーケティングを担当して、日本に帰ってきた時に、リクルートに復職したって感じです。だから、僕は石井ちゃんより、ちょっと長い期間、別の会社にいたのかな。

石井:そのほうがすごいみたいに聞こえる、僕より、ちゃんとしてる人みたいな。

(一同笑)

前澤:戻ってきたのは、2013年の秋だから、今、2年ちょっとですね。2011年9月にリクルートを辞めて、2011年10月にDeNAに入ってるので、そんな感じです。

どうしてリクルートを離れたのか

――石井さんは、なんで1回リクルートを辞めたんですか?

石井:辞めた理由はいくつかあるんですけど。1つ目は、もともとリクルートで一緒に働いていた先輩が、転職先にいて、「来ないか?」って言われたからです。その人と一緒に働きたかったというのが1つ目の理由。

あとは、Googleといえば最新のテクノロジーがきっと溢れるほどあるだろう。そういった最先端の技術を学びたいという気持ちが2つ目。

――当時の環境に対して、ネガティブな思いは?

石井:それはまったくなかったです。そのオファーがなかったらずっといたと思います。だから、僕は送別会のときにリクルートの人たちに謝罪したんです。「恩返さずに、すみません」って。

だから正直、また戻ってくることなんて、まったく考えてなかったです。謝罪してまで出て行ってるので、絶対戻ってこれないと思ってました。そんな道理はないだろう、と。前澤さんは、なんで辞めたんですか?

前澤:いや~、その話、本当に困っちゃいますね(笑)。どうしてだったかなって今、考えてたんですけど。ポジティブな話とネガティブな話があるんですけど、嫌な話を先にしちゃうと、やっぱり当時は忙しすぎたんですよね。

自分がやりたいこととか、自分が関心があることに全然時間が割けなくなってしまっていて。じゃあ、自分がやりたいことってなにかと考えた時に、海外で仕事したいっていうのがすごくあったんです。自分のキャリアを考えて、国内でしか仕事できない人材でいていいのかなって。

ちょうどそのタイミングで、海外で働く機会をいただけそうな会社があったから、そこ行ったって感じです。

石井:戻ってくるつもりありました?

前澤:戻るとは思ってなかったですけど……。私が尊敬している先輩で、今Indeed社でCEO&Presidentをなさっている、出木場久征氏がいるんですけど。その人に「辞める」と言ったら、送別のときに「お前とはもう一度仕事する気がする」って予言されてしまっていて。それがいまだに悔しいという(笑)。でも当時は、出たからには戻りたくないという気持ちでしたね。

一度離れて、なにを思ったのか

――違う会社で働いて、客観的に外からリクルートって会社を見たとき、どういうことを思いました? 新しい環境との違いで感じたことってあります?

石井:ありきたりな話になっちゃうかもしれないんですけれど、リクルートでは、やりたいと言ったことを、かなりやらせてもらえてたんだなって思いました。

同じノリのことを他の会社でやると、「あれ? 動かない」みたいなことがやっぱりあって。自分の意思で「あれをこうしたい」とか「これを変えたい」とかって思うことがあっても、「よし、やってみろ」なんていう人ってあんまりいなくて。「そういうルールだから」とか。

例えば、これまでこういうルールでやってきましたということがあっても、「でも、僕はこう変えたほうがいいと思うんです」と言うと、リクルートではそれに賛同してくれる人がいるとすぐに、「じゃあ、変えようぜ」と話が進むんですけど。ほかの会社では、なかなか難しいのかなという気がしました。

――それはリクルートという会社の特徴だったんだな、と。

石井:自分の動き回れる範囲が広かったんだなって、外に出て思いました。前澤さんは、なにかありました?

前澤:この会社で働いている人たちはみんな優しいというか、「人懐っこくて、おせっかいな人」が多いんだなってことはすごく外に出て感じましたね。多分、それって根本的にパーソナリティーが似てる人たちが多いんだろうなって気がします。

別の会社で働いてみて思ったのは、そんなにみんながみんな人懐っこいわけでもなくて、結構ドライというか、ちゃんと業務として仕事している人が世の中には多いんだなぁと。リクルートの人は基本的に和気あいあいと仕事してますよね。

仕事の進め方に関しては、特に困ったことはなくて。ただ、日本語が使えないっていう……。

石井:前澤さん、海外だったから。

前澤:日本語使えないとこんな大変なんだっていうのに打ちひしがられたの、と。

あと、最初は業界が全然違ったんです。ソーシャルゲーム作ってみませんかって事業に配属されたので、「やったことないことやるってこんな辛かったっけ」っていう衝撃があったんですけど。その後、自分がもともとやっていた業務をやり始めてからは特に問題なく打ち解けられたし、仕事はやっていてすごく楽しかったのでストレスは感じなかったかな。

「リクルートにいてよかったこと」とか「リクルートだからできること」って、僕自身はそんなに感じなかったです。あんまり違いはないなって。やりたければやらせてもらえたので、それは変わりない感じです。

内に収まらない視点を持つことの必要性

石井:僕の思想がやんちゃだったってことですかね。今は、いい話しかしていないですけど、結構リクルートはリクルートで独自のルールとか文化がありますよね。

前澤:ある。“リクルート語”みたいなやつとか。

石井:氷山の一角としては、そういうことだったり。

例えば、僕は今マーケティングを担当してるんですけど、マーケティングにおけるリクルートのやり方って、世界標準から見ると結構外れていることもあったりすると思っています。世界標準であることがすべて正しいとは言わないですが、ちゃんと世界を見渡して、自分たちのやってることが常にベストを選んでるわけじゃないということは、みんな認識したほうがいいなってこの会社に対しては個人的に思ってます。

自分たちの考えたやり方がうまくいっていて、「これが正しい」と思うことはそれはそれでいいことなんですけど、一方で外の世界を見渡すと「こんな考え方もある。こんな考え方もある」っていうのが見えてくるので。そうすると全然まだほかにもやりようがある、もっとこうしたいなって思うことはたくさんありました。

出戻りのきっかけは一通のLINE

――お2人が、どういう経緯で再びリクルートに戻ってくることになったのか、すごく気になるんですが。

石井:僕はそろそろ新しい環境を探そうかなと、転職活動を始めようとしてたんです。いろんな会社の求人情報とかを見始めていたぐらいの時期に、昔の上司からLINEが来ました。

「そろそろ飯じゃない?」みたいなことを書いたLINEが来て。なんのことやら、と思いつつ、とりあえず食事に行ったときに「戻ってきちゃえば」とお話をもらったのがきっかけです。

――それは食事をしてるときに、「今、転職を考えてるんです」ってことを……。

石井:言ってなかったです。

――え、言わずに?

石井:言ってないですね。多分、なにかを察したんでしょう。携帯になにか仕込まれてるのかもしれないですね。

(一同笑)

前澤:多分、見てるね。

石井:なにかを見てますよね、きっと。

――すごいタイミングですね。元上司の方に言われたときに、どうお返事されたんですか? 口頭で言われたんですよね。

石井:そうです。ひとしきり食べ終わった後に、「それで……」みたいな感じで言われて、その場ではパッと答えられなかったので「ちょっと1回持ち帰らせてください」って言って。

それで、3日、4日後ぐらいに「お受けさせていただきます」と連絡を。

――元々、そのLINEが来るまでもその方とは細かく連絡を取っていたんですか?

石井:いや、してなかったです。転職して初のLINEです。

その方も言ってたんですけど、「出て行った人に、こっちからコンタクト取ると悔しいから」ってずっと連絡してなかったらしいんです。一度、LINEのゲームで間違ってメッセージが来たことがありましたけど(笑)、それだけです。

戻ってくるときの条件は?

――すごいお話ですね。以前と、同じ部署に戻られたんですか?

石井:そうですね、そのグループはそのときも今と同様にあって、もちろん人が増えたり、1年前とポジションが変わっている人がいたりはしましたけど、そんなに大きくは変わってなかったですね。

――あと、少し下世話な話ですが、出戻りって、条件面はどうなるんですか? 転職するタイミングで給与アップされてる場合もあるかと思うんですけど……。

石井:もちろん、それは人によると思いますけど。僕の場合は転職でアップ、戻ってきてアップです。

前澤:マジ?

石井:はい。

(一同笑)

石井:ただ、前職は福利厚生がよかったので、トータルでいくとちょっとわからない。

前澤:ということは、マイナスかもしれない。

石井:僕個人の例としては、そういうのがあります。でも、そこは、単純に上長がそう判断してくれたとしか思ってないです。転職を挟んだから、どうだとかって話ではなくて。

――交渉されたんですか?

石井:一切、してないです。新宿のカフェで「このぐらいで考えてるんだけど、なんか不満はありますか」みたいなこと聞かれたんで、「いや、一切ないです。そのまま、決めてください」って言って。

リクルートが持つ強みを活かすのが一番いいと判断

――石井さんはLINEがきっかけでしたが、前澤さんは、どういう経緯で戻られたんでしょう?

前澤:僕は前職では、アメリカで仕事をしていたんですが、その仕事が一段落して日本に帰って来いとなって。そこで次、なんの仕事するかなってのを考え始めたときに、今までライフスタイルの領域の仕事をずっとやってきたので、やっぱり頭に出てくるのはその領域のものが多かった。

それで結局、今のリクルートホールディングスの役員の北村吉弘さんに連絡して。

北村さんとは、ポンパレの立ち上げを一緒にしたり、じゃらんでも一緒に仕事してたりしたので、節目、節目で連絡をしてた気はするんですけど。

それで北村さんに「なにかお仕事ないですか?」と言ったら、やっぱり、ほら見たことか、と。

(一同笑)

前澤:会社に来いって、呼び出され。応接室とかで会社の人と会わないところで話しできるのかなと思ったら……、フロアの会議室を指定されたので、みんながいるオフィスのなかを歩いて。「これはもう駄目だな」っていう感じです(笑)。

――ライフスタイル関連の仕事がしたかったから、リクルートライフスタイルというのは確かにあると思うんですけれど、生活に関連する会社ってほかにもたくさんありますよね。やっぱりリクルートにってなった理由は、ほかにもあるんですか?

前澤:社外に出ると、国内においてなにか事業をやるうえでリクルートが持っているアドバンテージがすごく大きいってのはよくわかると思います。

例えば、営業組織がすごく強くて、それが全国に張り巡らされているっていうのはものすごい強みなので。これを活用してなにかビジネスするのが一番いいなと。

石井:ほかは、まったく見なかったですか?

前澤:ほかは、なにも見てないです。石井ちゃんみたいに給料も増えなかったし(笑)。

石井:僕は転職する前は、まだペーペーだったから(笑)。

前澤:そういうことか。僕はそんなに変わりないですね。

石井:僕は、実はほかも含めて転職先を探したんです。ただ、どこにも特に行きたいと思えなくて、「どうしようかな」と悩んでたときの、上長LINEだったんです。なので、「本当に帰ってきていいんだったら、ぜひ!」みたいな気持ちで。

――自分から連絡しようとは?

石井:それは謝罪して出てるので、戻れまいと。

――なるほど。前澤さんは、戻れるだろうと連絡を?(笑)。

前澤:いや、僕もそんな気はないです。

(一同笑)

前澤:聞くだけ聞いてみようかっていう感じでした。

制作協力:VoXT