広告業界にとってモバイルブランディングは必須

佐々木紀彦氏(以下、佐々木):今日のテーマが、「モバイルブランディング」ということで、「モバイルブランディング元年」が来るという抽象的な、いかにも当たりそうな予測をしたんですけれども、みなさんはどう思われていますか?

例えば、日本と世界との比較でもお話をおうかがいしたいのですが、世界を見たら、もうモバイルブランディングが来るのは必然だとか、モバイルブランディングという視点で来年はどういう年になるんだというところをうかがってもいいですか?

そして、「何が課題になるか」というところまでうかがえればと思います。御社の製品だけでなく、全体の話でも大丈夫です。小関さん、いかがでしょうか。

小関悠氏(以下、小関):ひとつは、「モバイルブランディング元年」というよりも、ユーザーさんやみなさんもそうですし、私もそうですけど、まず日常的にスマートフォンを使っているという事実があるわけですよね。

テレビを観たり、雑誌を見たり、そこで広告を見たりする時間も当然ありますけども、一番接点の多い時間がモバイルにあるのは間違いないわけです。なので、マーケッターとして、広告業界の人間として、そこにリーチしていかなければいけない。やるかやらないかというより、やらないとユーザーさん、特にInstagramのような若い女性の方にリーチできる手段が他になかなかないんじゃないかなと思っております。

そうは言っても、ひとつ課題の話にさせていただきますと、日本の広告業界を見ると、テレビというのは依然すごく大きいですし、他にも強力なマスメディアさんもたくさんあるわけです。

そこで起きているキャンペーンと比べて、Instagram、あるいはYahoo!さんとか、YouTubeさんとか全部含めて、ネットのキャンペーンというのをどういうふうに進化させていくのかというのは、正直まだまだ遅れているなと思っております。

なので、そのデジタルとマスのギャップを乗り越えて、包括的なキャンペーン、ブランディングキャンペーンをできるところがいい結果が出てくるのではないかと思います。

ネットとテレビの溝は埋まるのか

佐々木:ネットが普及するとテレビがダメになるとか、チープな議論が多いんですけど、実際はそこのシナジーが強いわけじゃないですか。そこの統合した商品や統合した戦略を描いて成功しているところは、まだあんまり日本にはないですかね?

小関:もちろん企業さんとか、キャンペーン単位ではあると思うんですけども、やっぱり我々が直接代理店さんや広告主さんとお話ししても、マスとネットで担当の方が違うんですよね。

担当の方が違っても横でコミュニケーションされている企業さんもあれば、テレビの担当とはコミュニケーションしないというデジタルの方もいらっしゃって、そうするとキャンペーンがすごく作りづらいというのはありますね。

佐々木:小関さん、代理店はどうなんですかね?

小関:代理店も、テレビの代理店とネットの代理店と分けていらっしゃる広告主さんも多いかと思います。ひとつおもしろかった例は、この前ある飲み物の会社さんに行って、Instagramの広告をやりたいけど、やっぱりクリエイティブに悩んでいると。

それで、Instagramのためにクリエイティブを作って、スタジオを取って、タレントどうしようかなというのを考えたけど、難しい。どうしたらいいだろうというのをおっしゃっていたんですけれども。

実はその会議室に、飲み物のポスターが貼ってあって、すごくきれいなポスターで有名な女優さんを使っていらっしゃったんですね。

なので、「これを撮影するときに、違うカットを1、2カットInstagram(用)で撮っておけばよかったんじゃないですか?」と言うと、「これはポスターの屋外広告の担当の」という話になってしまう。

そこで二度手間をしてしまうと、「Instagramってハードル高いね」という話になってしまうんですけど。そうでなくて、Instagramに限らずいろんなネットの広告のクリエイティブキャンペーンというのは、最初に成形してしまえば、そんなに手間をかけずにInstagramも他の媒体も始められるというのはあるかもしれないです。

アメリカのマーケディング業界に浸透する「3つのM」

佐々木:堀さんいかがでしょうか? 「2016年モバイルブランディング元年」や課題について。

堀母日花氏(以下、堀):先ほど、佐々木さんにもシェアさせていただいたんですけど、LinkedInの新しいモバイルのアプリを12月の初旬にローンチする予定です。この開発の背景として、モバイルファースト、デスクトップのツールをモバイルに移すのではなくて、ユーザーのエクスペリエンスベースにモバイル起点にしたアプリをローンチします。

おそらくアメリカのマーケティング業界では、「3つのM」というのがキーワードだと思うんですけど、まず、「モバイル(Mobile)」、「ミレニアルズ(Millennials)」、「マルチカルチャー(Multi Culture)」ということかと思います。

「いかに多様な人々の関係性を高くするか」というデータマーケティングの部分で、もうモバイルなくしては、メッセージあるいはコミュニケーションができないと言えるかと思います。

佐々木:その視点で見たときに、日本はどうですかね? その3Mでいいますと、「ミレニアルズ(Millennials)」というところは、日本はそんなに人口が多くないじゃないですか? しかも、モノカルチャーじゃないですか? そうするとMがひとつしかないじゃないですか。その意味で、新しい波が来るのが遅いということですか?

:そうですね。遅いというよりかは、たぶんまだ自分事としてないんですね。おっしゃる通り、まだモノカルチャーの部分があるので。自分事になってないという事があるのかもしれませんね。

アメリカ・マーケティング・アソシエーションのデータを見ていると、アメリカのマーケッターが自分のターゲットオーディエンスに関連するデーターを200程度持っていると、アジアのマーケッターは40のデータくらいしか集まっていないんですね。なので、そのところでスキルセットがかなり違ってくるかと思います。

佐々木:そういう意味では、それはアジアの中では日本特有ですか? それともアジア全体が日本と同じ状況ですか?

:そうですね。シンガポールは別格かもしれないですけども、マーケティングに利用ができるデータということではアジア全域でそうだと思います。ただ、モバイルでコミュニケーションをする必要があるという意味では欧米もアジアもニーズは同じようにあると思います。

佐々木:そうすると、日本でも来年は浸透して、結論として、モバイルブランディングはけっこう売れるんですかね?

:売れてほしいですね(笑)。

佐々木:わかりました(笑)。

「モバイルファースト」を戦略の根幹に

佐々木:室井さんはどうですか?

室井貴裕氏(以下、室井):まさに今お二人がおっしゃったこと、その通りだと思いました。出がけに調べてきたんですけど、今、日本人は平均して1日3時間半くらいスマートフォンを使っているそうです。かつ、デジタルデバイスの中でもスマートフォンが60%を占めている。

圧倒的に生活間の最大の接触点なんですね。ちょっと語弊があるかもしれないんですけど、事業会社様のマーケッターが、元来マスクリエイティブを中心としたマーケティングコミュニケーション戦略をずっと考えられてきた。

その中で、小関さんがおっしゃった通り、部署の「ブランドチーム」であったり、「宣伝部」、「購買部」、「販促部」みたいな形で、すべてセグメントで切られていて、横の横断がないというのはやっぱり、僕はもったいないなと思います。

その中で、希望を込めてお話しさせていただくと、「2016年モバイル元年」は、まず「モバイルファースト」をマーケティング戦略の根幹に置いて、そこからクリエイティブもSPもいろんなことを考えていくという時代になるんじゃないかと思います。

敷居が高い?  Instagramの広告システム

佐々木:最後に、今日は代理店の方もいっぱい来てくださっているので、代理店の方との付き合い方や方針など、例えば、「ダイレクトに売るのが我々の手段だ」とか、「代理店の方を絞って売る」とか、代理店の方との付き合いについての話を最後にしていただいて終わりたいと思います。小関さん、どうですか?

小関:代理店さんには、本当にお世話になっておりますということを、まず第一にお伝えしたいと思います。

Instagramはこの半年でもいろんなアップデートがあって、いろいろな広告オプションが増えました。Instagramの敷居をなるべく下げて、いろんな広告の目的に対応できるようになっています。ブランドかダイレクトレスポンス化というのもそうですし、大企業さんのすごくお予算をお持ちのところから、小さい予算(の企業さん)でも始められるというのもそうです。

実はこの思想というのは、Facebookと全く同じで、Facebookのもうすでに熟成している広告の配信システム、ターゲティングの機能をInstagramでも使えるようになりました。

Instagramだけを別の広告プラットフォームとして育てることもできたと思います。けれども、早いうちにInstagramとFacebookを広告システムとしてひとつにすることで、多くの方にアクセスしやすいものにしたいとを考えました。この数ヵ月でいろいろとアップデートした結果、ほぼFacebookの機能をInstagram側にも取り込めたんじゃないかと思っております。

なので、代理店のみなさんも、Facebook広告はやっているけどInstagramはまだという方がいらっしゃったら、Facebookキャンペーンを選んで、Instagramでも出すというふうにポチって押すだけで、Instagram広告ができるようになりました。

その上で、やっていただいて、思っていたよりパフォーマンスがいいなとか、悪いなとかあれば、そこからInstagramで調整するとか、Facebookとは別なキャンペーンを作るということもできます。

なので、ぜひ敷居をあんまり高く感じないでいただきたいなというところと、ネットの運用型広告ですから、いろいろトラインアンドエラーをしていただいて、発見があったら私にでも申し出ていただきたいなと思っております。

広告代理店との販売戦略

佐々木:(Instagramは)かなり敷居が高いイメージだったんですけど、意外とそうでもないというか、NewsPicksが出してもいいんですかね?

小関:ぜひぜひ、お願いします(笑)。

佐々木:いくらでしたっけ?

小関:運用型なので、いくらからでも始められます。予算1000円からでも。

佐々木:やってみましょうか。すみません、堀さんどうぞ。

:代理店様とどうやってお付き合いするかですよね。

佐々木:販売戦略という広い意味でも。

:そうですね。冒頭で申し上げたように、今はグローバルの広告のみを販売サポートしている状況なので、限定的な代理店の方としかお話ができる機会がないのですが、そういう代理店さんとはできるだけ戦略的に動くようにしております。

我々の持っている非常にふんだんなデータを共有しながら、特にB to Bのお客様について、どういったソリューション、あるいはコンテンツ戦略を一緒に作っていけるのか? という事を軸に組んで、一緒に働かせていただいています。

佐々木:ありがとうございます。それでは、室井さんから最後にひと言お願いします。

室井:みなさん、よくリレーションとらせていただいていて思われていると思うんですけども、NewsPicksって売りづらいんですよね。なぜかというと、「プラットフォームのコミュニティ醸成って何?」みたいなところから、クライアント様が始まるケースが非常に多い。

こういうことで、「中長期的に御社のマーケティング活動のKPIに合致するんですよ」というお話をしても、「中長期的にって言われても、すぐに2ヵ月くらいで成果出さないと」みたいな話に終始してしまうケースもございました。

ただ、その中で関係性が深いエージェンシーの担当者さまとリレーションをとらせていただくと、「じゃあ、こういうプラットフォームがクライアント様の、このブランド醸成に役立つんですね」というご意見をいただきます。

そういうことを、営業部のみなさまのみならず、マーケティング部の方々であったり、新しいNewsPicksのアドプロダクトを一緒になって作っていこうというような気概を持ってくださるエージェンシーさんもいくつか付き合わせていただいて、ぜひそういった形で今後も深く普及できればなと思っております。

佐々木:ありがとうございます。それでは、これでセッションを終わらせていただきます。みなさん、3名の方々に拍手をいただければと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)