学生は自動車免許取得を最優先すべし

清水亮氏:僕のキャリアなんてなんの参考にもならないと思うんですけど、なぜか、よく大学のキャリアデザインとかの授業に呼ばれるんですよね。

大学生とかから、「どうやってキャリアを組み立てたらいいか?」、もしくは「大学生のうちにできることありますか?」という質問を、必ず受けるんですけれど。

大学生のうちに必ずやっておいたほうがいいと思うことの最優先順位にあるのが、自動車免許を取ることです。しかも、マニュアルね。

なんでかと言うと、海外は車がないとまったく移動できないことがすごく多くて。せっかくチャンスがあって海外に行っても、電車とバスと飛行機で移動するのだと、あまりにももったいないっていうのと。

ヨーロッパは、まだまだマニュアル車が多いので、いざという時に運転できるっていう、バカみたいな話なんですけど。

世界一周は可能か

これ、今日、WirelessWireのブログに書いたんですけど。昔、世界一周したいなと思ったことがあって。子供の頃ですけどね。「果たして、世界一周とはなにか?」ということを、非常に考えたんですよ。

例えば、そのとき、僕は子供だったので、移動範囲っていったら、自転車で移動できる範囲くらいしかないんですね。自動車で移動できる範囲ですら、行ったことないところが結構あるわけですよ。

地面に目を向けたら、いろんな微生物とか、モグラとかミミズとか、田んぼに行けばザリガニがいてカエルがいてってなるじゃないですか。

「これ、見れねえな」って思ったんですね。とても人間は一生のうちに世界一周をしたと言える日は来ないだろうと。むしろ、みんななにを根拠に世界一周をしたと言っているのかなと思うようになりました。

そして大人になって気がつくと、現実には世界何周もしているわけですよね。でも、全然世界を全部見たと思えないし。昔よくいた船乗りとかで、「おれは、世界の果てまで見てきた」とか言っているんですけど、あれは嘘だなっていう。

(会場笑)

果てはないし、見に行けない、みたいな。「果てがある」という思想そのものが、ちょっと歪んでいるのではないかと、最近はちょっと思っています。

低予算だった『ウルトラクイズ』

最近、僕は『ウルトラクイズ』に注目していて。『史上最大! アメリカ横断ウルトラクイズ』ですね。皆さん、知っている世代がどれくらいいるかわからないですけど。

『ウルトラクイズ』がすごいなと思ったのは、最初、実験番組で、2回で終わる予定だったらしいんですよね。2回というのは、今週やったら来週で終わり、みたいな。あんなバカバカしい番組、あんなにお金と時間がかかっている番組なのに、それで終わるスペシャル番組みたいな感じでやる予定だったらしいんですけど。

撮っているうちにおもしろくなってきちゃって、「これ、4週間いけるんじゃないか?」という感じで、どんどん伸びていったらしいんですね。

最初の『ウルトラクイズ』の参加者が400人で、予算が6,900万円とかしかなかったんです。逆に言うと、おれ、今、すごく恵まれているなと思っているんです。

『ウルトラクイズ』をやったときの、福留(功男)さんが35歳くらいらしいんですけど、おれは1億、2億使って、自分の好きなもの作らせてもらっていて、すごく恵まれているなと思って。

その場所の空気を感じ取ることが大事

世界一周って、現実問題、30万円もあればできるんですよね。チケット買うだけだったら、そんなもんですから。滞在費含めても、100万円あればできるわけですよ。100万円なんて、学生で死ぬ気で1年間バイトすれば、貯められなくもなさそうな額じゃないですか。わからないですけど。

ということは、ただグルグル回ることはあまり意味がなくて、むしろ、その世界の風土とか、その場所の空気とか、その場所の生活とかを感じ取るっていうのが、僕は一番大事な気がしていて。

初めてヨーロッパ行った時に、ファンタジーもののゲームを作っていたんで、いろいろな城とか街とか見に行ったわけですね。そうすると、ヨーロッパのお城には当たり前のようにあるものが、日本のファンタジーに翻案された時に、まったく違うものになってて。違うものを、さらに日本人が勘違いして強化してて。「これ、なにか外人が間違って作ってる日本のアレだ」みたいな。

日本のファンタジーやばいみたいなのが、そのとき、すごく実感知としてわかって。

例えば、ドラゴンクエストとかに出てくる、剣とか描いてあるアイコンあるじゃないですか。こういうやつ。

あるんですよ、こういうの。本当に。アイコンみたいなのがあって。刀はないですけど、「BAR」とか書いてあったりとかね。あるんですよ、実際。

ところが、日本に入ってきた時にどうなっちゃったかと言うと、ここ、縁取ったりとか、厚みを持たせたりとかしたでしょ。

実物を見たら、ただの薄っぺらい鉄の板なんですよ。こんな厚み持たせている人、ほとんどいなかったんですね。どっかにあるかもしれないけど、ヨーロッパ中がこうではなくて、むしろヨーロッパの主流っていうのは、すごく薄い鉄板をくり抜く。それはそうですよね。だって、鉄板くり抜いてあげれば、夜中でも後ろ側からロウソクとか松明とかで、「BAR」って文字が読めるけど、書き込んじゃったら、夜、読めないです。「BAR」は、夜読めなかったら意味ないです、とかね。

そういうシンプルなところに、わりと嘘が多いなってことに気付いちゃったんですよ。それって、飛行機で移動しているとわからないんですよね。

ヨーロッパとか特にそうなんだけど、飛行機で行けないところのほうが、はるかにその土地らしいんですよ。実は、先週も西日本を車で一周してきたんですけど、5日間で。そんなスピードで移動して意味あるのかっていう気もするけど。でも、やっぱりやってよかったなと思っているし。

ヨーロッパも、僕は、何度も車であっち行ったりこっち行ったりしているんですけど。ヨーロッパの醍醐味は、車で国境越えられちゃうことですよね。ルパン三世みたいな感じで(笑)。昔と違って、検問所とかもあんまりないので。するっと。気づいたらドイツだったみたいなことがあるんですけど。

違うものをつくるためには違う体験が必要

僕はゲーム屋さんだったんで、特にそう思っているんですけど、人と同じ体験からは、人と同じものしか想像できないんですよ。元ネタの量が同じわけだから。いくらどんなクリエイティビティがあっても、元ネタが同じものから全然違うものを作るのって、相当難しいですよ。

(Surface BookとiPad Proを手に取って)これとこれがいい例ですよ。部品、同じですからね。基本的には。9割方同じような部品、同じような思想、同じようなOSで動いているわけですよ。

もちろんその、できあがったものには大きな差があると考えることもできるけど。

正直、Surface Bookを買うのか、iPad Proを買うのか悩んじゃう時点で、同じものなんですよね。まったく違うものを作ろうと思ったら、人と違う体験をしなきゃいけないのは当たり前で。だって、仕入れ先が違うわけだから。

うまいお店って、値段が高いわけじゃないんですよね。僕はすごい食道楽なんで、いろんなお店行くんですけど、どのお店も、美味しいところっていうのは、仕入れが違うんですよ。普通の店で仕入れていない、普通のやり方で仕入れていない。仕入れたあとも違うし、仕入れも違う。だからうまい、だからユニークであるというのが、僕の持論で。

カレーなんか普通に作ったらCoCo壱番屋と同じような味になっちゃうわけですよね。確かあれは、ハウス食品の子会社だし。

そういう意味で、「車でなるべく移動しろ」というのが。

これは、僕のオリジナルじゃないです。水口哲也っていう僕の師匠が教えてくれたことですね。

僕は、車でアメリカを移動するまで、まったくアメリカっていうのを理解していなかったなって。今も、理解できているかどうかわからないですけど。でも、その頃と今とは、全然アメリカというものに対する考え方が違うなということは思います。

「祭りを起こせ」

もう1つ。

たまに友達とかから、相談を受けるんですけど、「こういう新規事業やろうと思っているんですよ」って。友達なので話は聞くんですけど、なんでやりたいのかわからないことが多いんですよね。新規事業とか、僕の場合はベンチャーだから、「こういうベンチャーを立ち上げようと思うんだ」とか。

結局、目的がお金儲けだったりするんですよ。それはそれで、アリとは思うんですけど。ただ、お金だけが目的で働くのって、僕はすごくつまらないと思っていて。お金って、別に自分が使うだけ持っていればいいじゃないですか。基本的に。だから、「それで大金持ちになって、どうするの?」っていうのはいつも思っているんです。

それよりは、僕はどっちかっていうと、「それ、おもしろいよね」っていう人をいかに巻き込めるかだと思うんです。だから、「祭りを起こせ」って書いたのは、そういうことで。事件とも言いますけど。

とりあえず、「人がしないことをやってみよう」みたいな。「人が、ここはやってこないだろうってことをやってみよう」みたいな。それを、僕は事件と呼んでいるんですけど。

例えば、enchantMOONの話で言ったら、哲学者と映画監督が組んで新しいハード作るって、事件じゃないですか。ただ単に。おかしいでしょ。そんなことするわけないんだから、とかね。

たかが電話に行列を4日前から作るっていうのも事件だし。いろいろですよ。事件になるっていうか、話題になるっていうか。「すごい変なことやっているがやついるな」っていうのが、ただ単に変なんじゃなくて、「こいつら、とんでもないことしようとしてるんじゃないのか」っていう予感をいかに演出するかっていうのが、僕は新規事業で一番大事かなと思っていて。

新規事業で、ヒットを狙う人が多いですよ。「ヒット狙っちゃダメなのか?」っていう言い方もあると思うですけど、僕は、ヒットを余り狙ってなくて。昔のバースみたいに、ホームランだけを狙って空振りするほうが、清々しくて好きだなっていう(笑)。

なにかあると感じさせる井口尊仁氏

例えば、僕の親友で井口尊仁っていうのがいるんですけど。彼は、空振りしかしない男ですよ。ずっと空振りしていると。むしろ、空振り世界記録を持っているんじゃないか。

しかも、あいつがすごいのは、毎回、ちゃんと次の金を出す人を探してくるんですよね。何億か。それは真似できないなと。あんなに空振りしていたら、大人しく他人の会社で働こうかなと思いそうなんだけど。よくもまあ、どんどん会社作るなっていうね。

(会場笑)

セカイカメラ、テレパシー、そしてBABYっていうね。彼がすごいのは、常に事件を起こしていることですよ。

でも、やっぱりあいつは天才だなと思うのは、そんなにオリジナリティはないんだけど、いい線を突いてくるんですよね。冷静に考えたら、セカイカメラって、『電脳コイル』の電脳メガネじゃん。テレパシーなんて、Google Glassの二番煎じっていうか、Google Glass自体がなにかの二番煎じ、三番煎じだから。それ以下じゃん、みたいな。

でも、「なにかあるんじゃないか」っていう。井口の世界には「なにかあるんじゃないかって思うから、WIREDまでが一緒に騙されて、わーいって盛り上げるんだけど、残念ながら彼は中味を考える能力っていうのがちょっと欠けているんで(笑)。

僕は、何度もなんども、そういうのがあるたびに「助けようか、手伝おうか、一緒に考えようか」って言うんだけど、「嫌だ! おれは、自分で考えたい!」と言うから、やらないんだけど。

「祭り」を持続させる井口氏の才能

でも、立派ですよ。そういうenthusiasmで、情熱でもっていろんな人たち巻き込んで、事件を常に起こせるっていうのは、あれだけ事件起こせる人はいないですからね。しかも、犯罪とかでもなくて。訴訟にもなってないですしね。

結局、投資家や社員に関しても井口を信じた自分が悪かったって思うようなロジックがちゃんと組まれていて。

(会場笑)

「こういう契約だからしゃーないな」みたいな。しょうがないよと。あの人を悪く言う人、誰もいないですよ、実は。実際にいるのかもしれないけど、僕の周りには少なくとも井口さんを悪く言う人ってあんまりいなくて。

「取り込み詐欺なんじゃないの?」っていうのは、僕も昔、指摘したことがあるんですけど。井口さんの場合は悪気がないから、詐欺になってないっていうね。悪気があったらダメだと思うんですけど(笑)。

基本的には、「井口さんを信じたやつが悪い」みたいなロジックにどうしてもなるようにできているんで。やっぱり、次は成功してほしいですけどね。そういう意味では、「井口さんみたいになれ」っていうのも、ちょっとおかしな、変な結論になってしまいましたけど(笑)。

あれはすごいと思いますね。やっぱり。とにかく、事件を作るみたいな。しかも、彼の事件って、一発屋じゃないですよ。普通、どんな成功した会社もそうなんですけど、一発屋で終わることが多いんですよ。でかい会社も、そうじゃない会社も。

有名な会社が新サービスリリースして、どーんとやって、ニュースわーっと出て、アクセスがーっときて。すーっといなくなっちゃうっていうのが、インターネット業界には、めっちゃありますよね。そうして、数々の会社が潰れていきました。

ところが、井口の事件というのは、サステナビリティが非常に高い。1年は持ちますから、あいつの祭りは。1年間、「あれはどうなってるんだ、どうなっているんだ!」「やるのか、やらないのか?」「本当にやるのか、やらないのか」「なに作るんだ」みたいな。そういうハラハラドキドキみたいなのが、井口さんはちゃんと作れると。そこがすごいなと思います。

ただ、できれば、製品まで作ってほしいなと思っているんですけど。

ちょっと……、脱線しちゃいましたね。

(会場笑)