「コンピュータの未来を創りたい」 きっかけはアスキー

清水亮氏:皆さん、こんばんは。清水です。今日は、スライドをなるべく使わずホワイトボードで、という話なのでホワイトボードに書きますが、自分の名前を書くって高校の先生みたいですね。清水亮。IDは「shi3z」というのを、かれこれ20年ぐらい使っております。

「しみず」と読みます。あまりにもハマりがいいので、父親が使おうとしていたのを止めたことがあります(笑)。

僕自身は、現在、株式会社ユビキタスエンターテインメント、来年(2016年)の1月から株式会社UEIに変わるんですけど、という会社で、代表取締役社長兼CEOをやっています。

今日のテーマでもある、人類補完計画というか、我々が「人類総プログラマー化計画」と呼んでいる計画を実行するために、いろいろと動いているんですけれども。実のところ、僕が最初に人類補完計画をやろうと思ったときに、なにをやればいいかっていうのは、自分ではよくわかっていなかったんですね。ただ、なにかしたいっていう(笑)。すごくよくある中二病みたいな感じで。漠然と子供の頃から、なにか成し遂げたいなと思っていて。自分が本当になにを成し遂げたいのかということは、まだよくわかっていなかった。

今日、あとでも話しますが、1冊の本が僕の人生に大きく影響を与えたんです。1992年の『月刊アスキー』7月号というのがあって、「2002年のコンピュータ」という特集。10年後のコンピュータはこうなります、という特集だったんですけど、中身は完全に妄想なんですね。なんの根拠もない、ただ、こうなると思います、みたいなだけのやつで、それで大特集を組まれていて、「こういうやり方で未来というものを考えたり作ったりしてもいいんだな」というのが、僕にとって、大きなインパクトがあって。僕もいつかコンピュータの未来を創るような職業に就きたいと思いました。

コンピュータの未来とはなにか

とはいえ、皆さんご存知のように、「コンピュータの未来ってなんですか?」という疑問があります。例えば、今日ここに、今、一番未来に近いコンピュータを2枚持って来ています。これは、iPad Proですね。大きすぎてほとんど使い道がない。

(会場笑)

iPad Proと、これはまだ(イベント開催当時)日本未発売のSurface Bookですね。

多分、この2つのコンピュータが最先端であるということは、皆さん、疑いようもないと思うんですね。ちなみにこれ、ここを長押しすると、ロックが外れて、こういうふうになるんですけど。

これ、結構すごくて。こっち側(キーボード側)は結構重たくて、中にGPUが入っていて、くっついているあいだは、こっちのGPUとバッテリーを使うことができる。

デスクトップ級というか、普通のパソコン級のスピードになるんだけれども、重い。一方、外して、こっち側(ディスプレイ側)だけも十分に動くみたいな。

これはiPad Proですけど、iOSで初めて本格的なペンが使えるようになりました、というものなんです。

ただやっぱり、僕からすると、これって“最新”ではあるけれども、“次世代”ではないんですね。というか、誰もそんなことは考えてないと思います。iPad Proを見て、「あ、これは次世代のコンピュータだ」と思った人はいないと思うんです。「これはでかいiPadだ」と(笑)。でかいiPadであって、それ以上でも、それ以下でもない。ただし、普通のiPadと違って、お絵描きができると。お絵描きができるけど、その本質はただのでかいiPadであるということが問題なんです。

お絵描きができます。でも、これがなぜ新しく見えないかというと、当たり前ですけれど、Surfaceはもう5年前からできたわけです。Surfaceが5年前にできたことを、今、見せられてもね、と。実は、僕が一番恐れていたのは、アップルがiPadではない、ペンコンピュータを作ることだったんです。むしろ、期待していたと言ってもいいんですけどね。iOSじゃない、新しいペンコンピュータを作ると思っていたんです。ところが、作ってくれなかった。そうしたら、じゃあ誰が作るんですかというのが、僕の1つのテーマ。その1です。

次なるコンピュータとはなにか

その2は、そもそも「次なるコンピュータとはなにか?」と。次なるコンピュータ。新しいコンピュータ、次世代のコンピュータとはなにか。

例えば、1つの考え方としては、人工知能、ディープラーニング、ニューラルネットワークとか、いろいろ新しいトピックが出て来ているんですけれども。じゃあ、実際にそれが、我々が普通に使っている携帯電話をどう変えるのか。例えばですけど、ディープラーニングが発達したら、いまのSiriとかCortanaと呼ばれている、会話型の人工知能がより発達するのか。どうもそんなイメージないですよね? なんでだろうと。そういうのが、僕がWirelessWireさんとかでやらせていただいている連載の裏テーマでもあったりするんですけれども。

もう1つは、新技術。例えば、デジタイザーとか。いろんなものが出て来ています。ところがいまだに、アプリケーションはWord、PowerPoint、Excel、Access。もうなんか、マイクロソフトの製品だけでも、すごくたくさんあってわからない。

アドビもそうですね。アドビなんか、今回、iPad Proでまた、さらにアプリ増えちゃったから、収拾つかないですよね(笑)。Adobe Photoshopナントカとか。AdobeナントカSketchとか。AdobeナントカDrawとか。どれで描いてほしいのかわからないみたいな。DrawとSketchの違いはなんだ、みたいなね。つまり、目的に応じたアプリケーションが違うということは、本当に正しいのか。

そういうモヤモヤがあって、きっと今のコンピュータっていうのは、まだ過渡的な段階にあるだろう、と。今のコンピュータっていうのは、まだ我々人類がコンピュータというものを手にして、たった50年しか経ってないわけですね。それしか経っていないわけですから、これからまだまだどんどん発達していく、そのプロセスの途上にあるものだろう、と僕は考えています。

現在のコンピュータは70年代にかたち作られた

よく言われているんですけど、今のコンピュータのかたち。マルチウィンドウとか、マウスとかポインティングデバイス。オブジェクト指向、ネットワーク。これ、全部1970年代に考えられたものなんですね。ゼロックスのパロアルト研究所という、シリコンバレーのど真ん中にある研究所で考えられた。

レーザープリンターもそう。これ、驚くべきことですよね! なんでかというと、レーザープリンターを超えるプリンターが出てないですから、まだ。

ユビキタスって考え方もそうなんですよ。ユビキタスっていうのが新しいと思っている人は、勉強不足なんです、単に。それは80年代からあったことなんです。イーサネット。それも同じゼロックスの研究所で生まれました。

どういうことかというと。逆にいうと、当時、最先端の科学者が夢想したことは、今、全部できるようになっている。今、なにが困っているかというと、そのとき以上のビジョンが出て来ないんですね。その中心になった人物が、アラン・ケイという科学者です。

そのアラン・ケイが、いくつか重要なものを発明します。マルチウィンドウもそうですね。有名な話ですけど、アラン・ケイたちが作った、実験環境。暫定ダイナブック・コンセプトというんですけど、その実験環境を見学に来た2人の起業家、スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツが、それに刺激を受けて、WindowsとMacintoshを作りました。ということが、歴史的事実として知られています。

ゲイツやジョブズが捨てたプログラミングを復権

ところが、問題は、その先。アラン・ケイが考えた先を、誰も考えようとしてない。それがタブーであるかのようにね。まるでなんか、アラン・ケイが神様で、他の人たちはそれを超えるようなことを考えてはいけない、みたいな問題があります。

そこで、僕は、1つ重要な問題が見落とされていることに気づきました。それはなにかというと。まあ、スティーブ・ジョブズ自身も1995年のインタビューで語っているんですけど。

彼は、最初Macintoshを作ります。その前に、Lisaを作るんですけどね。Lisaを作ろうとして、あまりに傍若無人だってんでチームから追い出されるっていう失敗をして、次にMacintoshのチームを乗っ取って、それは最後まで作るんだけど失敗して、さらにAppleを追放された後にNeXTという会社を作って。そしてやっぱり、NeXTというのは会社としては失敗したんですけれども、最終的に、いまの、Mac OSとかiOSの基礎になっているわけですね。このNeXTを作るときに彼が反省したのは、実は最初にLisaを作ろうとしたときに、グラフィカルユーザーインターフェイス、ウィンドウとか、マウスとか、そういうものに目を奪われて大事なことに気づいてなかったと。それは、ネットワークとオブジェクト指向プログラミングなんだと。だから、NeXTでは、最初からオブジェクト指向プログラミングでプログラムを書くようになっているんですね。当時としては、非常に先進的。

ところが、ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも、共に同じものを捨てたんですね。それは、プログラミングです。なぜ、プログラミングを捨てたのか。彼らは、プログラミングというのはあまりに難しいから専門家だけがやればいいと。難しいものにはふたをして、一般市民、愚かな大衆というのは、誰かが作ったプログラムを使えばいいんだ。それが僕たちのビジネスなんだ。そういうふうに考えたわけです。

でも、僕はもしかしたら、これは違うんじゃないかな、と。それが、今、僕が持っている非常に大きな研究テーマですね。それを僕らは人類補完計画、または、人類総プログラマー化計画と呼んでいます。