匂いは、なぜ記憶を呼び起こすのか

ハンク・グリーン氏:匂いは、嗅いだ瞬間に、あなたを幼稚園の教室に連れ戻してくれたりします。その後数分は、当時食べていたこのペースト状の食べ物は一体何なんだといったことを考え始めますが。

このときあなたは、昔の自分の自伝的記憶を呼び起こされたのです。匂いは過去の記憶をあなたに思い出させるのです。それは、嗅覚と記憶とが脳の中で結線されていることによります。

記憶と嗅覚は繋がっていて、しばしばその記憶は強く鮮明です。研究によると、その記憶はあなたが10歳以下のような幼い頃のものが多いようです。これは少しおかしいですよね。なぜなら大人はレミ二センスバンプと呼ばれる20歳前後の記憶のピークを経験しています。しかし彼らは思春期以前の記憶をより思い出すのです。

匂いは記憶を呼び戻すのに有効です。匂いから思い出される記憶は、概念的というよりも、より知覚的なものです。ですから、たくさんのことよりも特定の感覚を思い出すことが多いのです。

研究者によって、なぜ記憶は匂いがきっかけとなって思い出されるのかという理論が考え出されました。視覚や聴覚や味覚、触覚と嗅覚の大きな違いがあります。それは匂いを嗅ぐ過程にあります。

嗅覚以外の感覚はすべて視床と繋がっていますが、嗅覚は違います。嗅覚の回路においては、一度鼻の受容器によって匂いが探知されると、そのシグナルはまっすぐに匂いを分析する嗅球へと運ばれます。そして扁桃体と海馬という記憶と感情を処理する部位に接続されます。

ですから、幼稚園で嗅いだのりの匂いは、記憶と絡み合って、のりだけでなく思い出と一緒に思い出されることが可能になるのです。

嗅覚を利用した記憶法はある?

2013年に、ヨーロッパの心理学者がfMRI(機能核磁気共鳴診断装置)を使ってすべての現象についてテストを行ないました。彼らはガーリックやウィスキー、レザーなどの20個の異なる特定のにおいがあることを発表しました。そして被験者それぞれが古くて肯定的な記憶がそれらによって引き出されたことを確認しました。

そうしたら、彼らの脳をスキャンする時間です。2つの実験的な匂いに加えて、花やシトラスなどの一般的な匂いが用意されます。

研究者はどちらのタイプの匂いでも、記憶に連動する脳の部位が活発になることを発見しました。しかし言語的なサインが脳の中の匂いを処理する部分を反応させたのに対して、その匂いそのものは感情を処理する部分と強く繋がっていたのです。

被験者の何人かは匂いの記憶が10歳以前でした。また、10〜20歳にかけての記憶であった人々もいます。脳の中に眠っている記憶はそれがいつ頃のものかによって、使われる脳の部位も変わってきます。幼少期の記憶を呼び戻すときは眼窩前頭皮質という知覚と繋がっている部位が反応します。

幼少期以後の記憶の場合は、概念的な記憶を司る左下前頭回が活発になります。

さて、嗅覚の力を使って次の試験に備えることは可能でしょうか。たぶんそれはできないでしょう。匂いは、概念的な記憶ではなく、幼少期などの知覚的な記憶を呼び起こす傾向にあります。ですから、のりの匂いはあなたが遊んでいた幼稚園を思い出させるかもしれませんが、マクスウェルの方程式を覚える手助けにはならないのです。