昔の巨匠から見る物語のパターン

山田玲司氏(以下、山田):過去に向かって考えた時に、麻酔コンテンツと覚醒コンテンツについて、昔の巨匠はどうしてたかっていう問題について考えてね。いましたよ。『三銃士』書いてたデュマ。『モンテ・クリスト伯』(岩窟王)も当時爆発的にヒットした作品だよ。

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

東村アキコ氏(以下、東村):なんか名前は聞いたことあるような。

山田『岩窟王』の人だよ。フランスでとんでもなく一大旋風を巻き起こした大人気コンテンツだったらしくって、大長編になるんだけど。デュマさんこれで大金持ちになって。

これ、すごい上手いんだよ、引きが。気持ちよくさせるツボと、伝えるっていうところのバランスが非常によくてできてて。

何がいいかって、単純に言うとね、無実の罪で14年間投獄された男の復讐劇なんだよ。投獄したやつのことをずっと恨みながら牢屋にいると、ある爺さんに……。

東村:劇団☆新感線とかの舞台でそういういのよくあったりするけど、元があるんだ。

山田:そう、元がこれ。『三銃士』もそうなんだけどね。元になってるやつなんだよね。その上手さたるや。獄中で出会った謎の老人に「お前に宝の在り処を教えてやる」って言われて。

東村:あー、定番なんだね。

山田:(牢獄から)出ていった後に大金持ちになって、貴族となって、モンテ・クリスト伯となって、自分を投獄していた男に復讐しにいくんだよ。そいつは出世して、ナントカ伯爵になってるわけ。

そこに、「やあ、モンテ・クリスト伯でございます」ってやって来るんだけど。ちなみにこいつの本名はダンデス。2人っきりの時「俺のことよく見ろ」「お前はダンデスか?」みたいになって、見てる方としてはやっちまえ! ってなるじゃん。でこれが延々繰り返されるんだよ。

おっくん氏(以下、おっくん):はー。

東村:すごいよくあるよね。全部そういうの元なんだ。

山田:これが型になってる。これが連載の引きのパターンみたいなのを作ってる。何がすごいかって、やりながら「人生って?」ってチラッチラッて入れてくるの。

おっくん:はいはい。

山田:最後、ライバルを苦しめるために、ライバルを殺さないで、ライバルの妻と子を殺そうとするんだよ。そのとき初めて「俺、やり過ぎなんじゃないか?」って気がついちゃう。

おっくん:あー、自分でね。

山田:そう。だから14年間の恨みをいろいろやって、晴らそうとしたときに「この子供に罪があるのか?」みたいなところに初めて立ち戻る。

これ、意外と人生の真実っていうのを伝えてるんだよ。だから、不朽の名作になってる。

おっくん:意外じゃないですよ(笑)

山田:それがね、その引っ張り方たるや、あざといあざとい。すぐに外伝とかいっちゃうからね。脇道それまくって「あの話、結局どーなったんですか?」みたいな連載いっぱいあるじゃん、漫画で。このパターンみたいなのがあって。

覚醒風麻酔コンテンツと、本音主義

山田:そんで、本題はこれですよ。覚醒風麻酔コンテンツってのがあってさ。「このまんまじゃダメだ」っていう思いがみんなあるじゃん。で、「それに応えてやるぜ、それをお前に教えてやるぜ」っていう自己啓発的な漫画っていうかコンテンツがいっぱいあってさ。

これは言ってみれば『エヴァ』とか『カイジ』とかもそれに入るんじゃないかって思うんだよね。教えを欲しい人たちに、教えてる系のやつで。

「これって、実際のところどうなの?」みたいな。「これでランドから出れるの?」みたいなさ。一見、わかった気にさせてるだけなんじゃないのって気もするし。

これってさ、本音主義で描かれてることが多いの。「人間なんてものは」とか「所詮は金だ」みたいなさ。本音主義は90年代くらいからあってさ、いわゆるぶっちゃけってやつ。君(おっくん)の大好きな粋とかさ。

「武士は食わねど高楊枝」とか「それを言っちゃあお終えよ」とか、結局それを全否定して「結局金だろ」っていうやつが根底にある、わりと浅いやつが多いんだよね。

東村:うんうん。

山田:哲学的にさ。これ、どうなのって思ったときに言語化してしまうのはどうなのって、浅いんじゃないかと思う。これがポイントなんだけど、覚醒風麻酔コンテンツの特徴は「言っちゃってる」。

おっくん:新書みたいな。

山田:90年代からすごく多い!

東村:え、例えばなんの漫画?

山田:や、それは言えない(笑)。もーわかってんだろ!

おっくん:ナレーションで入ってくるやつでしょ。

山田:もー! 悪いなお前ー!

東村:アレとアレとアレかあ。

山田:いわゆるアレとアレとアレですよ。まあ、お世話になってるんで言えませんけど。でさ、俺ら絵とか描くじゃない。なんで絵とか描くかっていうと、言語化できないものを伝えたい。言語化してる時点で疑えよってことなんだよ。

東村:『バキ』とか?

山田:あー! 危ない危ない!

おっくん:『バキ』こそ、まじで、3パーセントの極地なんですよ。

手塚治虫が語る「風刺」とは何か

山田:ここでちょっと神の言葉。「漫画って何か」って聞かれた時に、手塚先生が。これ知ってる? 風刺ですわ。風刺ってなんじゃいと。

マンガの描き方―似顔絵から長編まで (知恵の森文庫)

東村:うちにあの本あるけどそれに書いてあんのかな。

山田『漫画の描き方』の一番最後に、手塚先生にインタビューしてるところがあるじゃん。あれ、「最後に漫画ってなんですか」って聞いたら「風刺ですよ」って答えて終わるんだよ。

あれを小学生の時に読んで、それから「風刺ってなんじゃい?」ってずっと考え続けてきたわけ。でもよく考えたら風を刺すって書く。これは時代の空気ってことなんじゃないのって。みんながなんとなく信じていることにチクリっていくのが風刺精神なんじゃないのか、漫画のやることなんじゃないかと思ってるんだけど、あくまでも「笑いやエンターテイメントの中でやりなさい」って言ってるんだよね。

東村:なんかあのー、満州釣ってる絵のやつ。ちょんまげの人釣ってるやつ。

おっくん:うーん、なるほどね。

山田:俺思ったんだけど、アッコのドキュメンタリー好きもそうなんだけど、現実っていうものが大事な人たちなんだと思うんだよね。現実に期待してるから、夢みたいな世界から外に出て、「私も体験したい」って思う人たちが覚醒コンテンツを望んでるような気がする。麻酔コンテンツに埋れてそのまま出てこない人たちって、現実にもう期待していない気がする。

東村:そうですね、うんうん。

山田:同時に知りたいとか、自分の世界を広げるとか、ランドを出て世界を知るとかそういうことに関しての貪欲さがなくなってく。知的好奇心が減ってるから、この世界にこもってられる。麻酔の中で平気でいられるんじゃないかなーみたいな気もするんですわ。

おっくん:漫画だけじゃないですもんね。

山田:そう。コンテンツって言ってんのは、あらゆることがそうで。映画とかゲームとか。アニメもそうだし。そんなわけで。

東村:いや、でもすごい勉強になりました。ボンヤリと考えていたことがキッチリ、2つの言葉でカテゴリーできたから。ボヤーってやってきたけど、あたしやっぱ覚醒のほうがやりたいんだって。

おっくん:そうですよ。アッコ先生の漫画って基本そうじゃないですか。覚醒ベースで。

山田:そんで麻酔の中に、沼にハマった女性たちを救おうという社会運動をされているわけじゃないですか。

東村:そうですそうです。

少年漫画ばかり読んでいるとバカになる?

山田:それで、ここでちょっとだけ入れときたいんだけど、宮台指摘の絶望っていうのがあって。

おっくん:宮台真司っていうのは社会学者の。

山田:その人が言ってんだよ。「少女は、子供の頃に少女漫画を読んでコミュニケーションを学んでいる。でも少年の方は、勝ったらまた強い敵が現れて倒すっていうバトル漫画を読んでいる。これは社会の何の役にも立たない」。

おっくん:そんなこたあない!!

山田:言ってんの、宮台さんが!

東村:だから女の子の方が社会性あってさ、男の子のほうがバカのかな。漫画しか読んでない子って。

おっくん:浅いなー。浅い浅い。

東村:いや、うちのアシスタントとか女の子はみんな漫画オタクだけど賢い子で、男の子は全員致命的にバカですよ。

山田:うわーっ!

東村:どうしようもなく、アホですけどね。それは言ってますよ、本人にも。女の子はね、みんなオタクだろうがなんだろうが社会性あるんですよ。

山田:こないだのね、あの噂の新人さん。

東村:あの、『僕の変な彼女』を描いたあのモーニングの賞をとって話題になった方ですけど、その子もすごいしっかりした子ですよ。もちろん、不思議なご趣味はお持ちでらっしゃるけど、うちにアシスタント来てくれた時も、ものすごい社会性を発揮してて。私にちゃんとお茶菓子を持ってきてくれて、お姉さんがアクセサリーを作ってるアーティストで、くれてね。

おっくん:三浦さんですよね。

東村:うんうん。

山田:でね、男の子がバカになっていくバトル漫画の系譜っていうのを考えてたの。すごいおもしろくて。まず70年代に『あしたのジョー』で真っ白く灰になりますよね。80年代にはアラレちゃんで無限のパワーがポンとあって、無垢な人がパワーを持ってるって努力の否定で、ケンシロウは指一本で「あたたたたた」。

そんで80年代の『ドラゴンクエスト』、選民思想が乗っかってきてルフィの系譜につながってきて、こっから『聖闘士星矢』とか、『遊☆戯☆王』になってくると、切り札の出し合い大会になってくわけ。そっからね、代理戦争っていうのが始まってくんの。ポケモン。本人戦わないっていうの。

山田:本人戦わなくなっちゃったよ! っていう。大体カードの段階で、だいぶ本人戦ってないんだけど、あんなね、いたいけなね、ちっちゃいピカチュウみたいなので「行け!」って。

おっくん:『遊☆戯☆王』はまだ読み合いがありますよね。

山田:「戻ってこい」って。お前が行けー! ってやつじゃん。

おっくん:サトシ、お前が! って。

山田:サトシお前が行け! 大人たちはずーっと思ってたけど、そういういツッコミがまったくないまま、それを見て育ってきた奴らがもうすぐ30になるわけよ。すごいと思わない? それって。

アイテムを持ってるやつが勝つっていう『デスノート』みたいのが出てくるわけ。デスノート持ったから強いってすごくない? 『遊☆戯☆王』もそうなんだけど、レアカード持ってるから強いって、これって、スネ夫でしょ。

これ否定してたんじゃないの、スネ夫を。親が金持ちだからレアカード買ってもらったからえらいっていうのを全面肯定するっていうのが。

東村:やっぱさ、小説とか映画をいっぱい見なきゃだめなんじゃない。

おっくん:昭和(笑)。

東村:だってさ、やっぱさ、漫画だけじゃバカになっちゃうのよ。

山田:あ、漫画家が言ってる(笑)。(ニコニコ動画のコメントにて)「まとも」って言われてる(笑)。

東村:やっぱ小説を読まないとダメですよ。小説とか、伝記とか。

おっくん:歴史ものとかね。

東村:そう、本当にあったこととか。ドキュメンタリーとかを見ないと、やっぱねー漫画だけは本当に厳しいと思いますよ。本当に。

少年漫画で男の子が学ぶのは「勝ち方」ではなく「負け方」

山田:そうだよねー。そんでさ、『デスノート』まで来ちゃいましたって状況。これっていわゆる「努力の余地がない絶望」っていうのがあるんだなって思うんだよね。

だってさ、親が買ってくれたアイテムで勝負が決まる人生ってさ、最初から決まってんじゃんって。親が金持ちだったらもう終わりって。貧乏人はどうにもならないって絶望感がすごいあるよなーって思って。

ジョーの時は涙橋から始まってっからね。少年院から出てきて何もないところから始まってる。そっから勝ち上がるっていう。

で、ここからですよ、アッコさん! さっきおっくんが怒ってましたけど、確かに女の人は少女漫画でスキル高いものを見てます。70年代系から通ってる人たちは結構まあ。

東村:あのね、女は山岸凉子読んでるから大体大丈夫なんですよ。山岸凉子先生の、あの文庫の短編集を読んでればオールオッケーなんですよ。男はねあれを読んでないからね。

天人唐草―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)

山田:山岸凉子を通ってないから。

東村:そう。だから「あー、そこか」って感じになっちゃうんだけど。山岸凉子で一通り、もうそのどうしようもない世界を1回見てるからね。萩尾望都先生とかね。

おっくん:さっきコメントでおもしろいのがあったんですけど、「女は嘘が上手いから振る舞える」と。だから社会性があるんだと。確かにそうだと。男は嘘つけないんだよね。嘘つくってことがすごいカッコ悪いこと、みたいな。

少年漫画だとそうじゃないすか。基本的に嘘つくやつが騙すやつとか悪いやつって育っちゃってるから、人間関係でどっちが役に立つかって言われたらそりゃあある程度ね、嘘つける人のほうが、振る舞える人のほうが役に立ちますけどね。で、少年漫画で男の子は何を学ぶかって、俺が学んできたのは、勝ち方じゃないんですよ。

山田:なに?

おっくん:負け方なんですよ。負けたときにどう振る舞うか、っていう。そのときにどういうふうに立ち直るかとか、なんて言うのかな。負けを受け容れても潰されない強さ、みたいなものが必要なんだって。必要になるというか。

根本的に出発点が違うから。社会性があるかどうかって確かにそうかもしれない。

りぼん読者は壁ドンを待っていた?

山田:ところでおっくん、ここからなんですけど。

おっくん:はい。

山田:そんな女子、一部の方は確かに賢い。それでは少女漫画ってものは麻酔でないかと。そう言えるかと、そしてりぼん問題ですわ。

東村:おおっと?

山田:あなた(りぼん)通ってきてますよね。

東村:通ってる通っちゃってる! 元400万乙女だからね! りぼん400万部時代に小学生だったからね。

山田:その400万乙女は、壁ドンを待ってたんじゃないですかって話ですわ。だから、一方では山岸凉子を読みながら一方で『ときめきトゥナイト』だったんじゃないですかって話なんだわ。そこで問題なんだけど、これアッコに聞きたかったんだけど、女の沼問題!

東村:沼。

山田:だから、ここが少女漫画における、イケメンがやって来て、ワガママいっぱい聞いてくれて、いろいろあるんだけど結局「俺、お前じゃないとだめなんだよ」ってヤツが現れますよって、延長の話を(タラレバ娘で)されてるじゃないですか。

東村:普通の私をスペシャルな男が見つけて愛してくれるっていう、これが少女漫画。

山田:そうそうそう。

東村:何の変哲もない私を。

おっくん:地味なね。

東村:審美眼のあるイケメンがホッと見つける。

山田:いろんな種類のイケメンが。で、「どっちがいいかな」みたいになったりして。

東村:そう。「どれにしようかな」みたいな。普通なのにっていうね。

山田:それが、タラレバと言いながら訪れなかった人の話だし、海月(姫)もまさにその人たちの話なんだよね。で僕ちょっと沼を考えてきました。

東村:すごーい。

はまると大変! 女の沼問題

山田:沼コレ、いろいろありますね。ジャニ沼はでかいよなと。で、ご存知K沼。

東村:私、ここから、ジャニ沼、K沼、ヅカ沼まで泳ぎまくってたからね。シュノーケルつけて、これで息しながらずっといるみたいなもんですからね。あたしね、フィギア沼入ってないだけまだマシだわ。ギリセーフ。

おっくん:BLは?

東村:あたしね、BL全然通ってないの、田舎者だから。宮崎にまではBLの本が流通してなかったからね、漫画家になってから見てなんじゃこりゃと。

山田:そうなの!?

東村:だからパタリロの意味が全然わかんなかったもん。

山田:え、地域差!?

東村:マライヒって、あれ、男なの? 女なの? みたいな。

山田:そんなことだったの。地域差があったんだ。アッコはV系沼ゴス沼はあんま通ってないよね。

東村:ないけどあたし最近、まさかのVに目覚めてー

山田:今かよ!

東村:すぎむらしんいち先生に「いいじゃん貫けよ」って言われてるんだけど。YouTubeで昔の、V系の伝説の。

おっくん:LUNA SEAのフェス(LUNATIC FEST.)もありますしね。

東村:ルナシーフェスとか、Xとか、それこそYOSHIKIのドラム壊しとか、仕事してて眠くなってくると「YOSHIKIのドラムセット壊し見よう」みたいな。

山田:「紅だー」ってやってんの?(笑)

東村:うん、もう号泣ですよ毎回。

山田:すげー。

東村:あれはYOSHIKIに泣くんじゃない、YOSHIKIの後ろで歌っているToshlに泣いてるからね。

山田:何重にも(笑)。もうおもしろい(笑)。あなた役者沼にも入ってますよね、1回。

東村:いるいる。私、豊川悦司に会いたくて東京出てきただけの人ですからね。会ったことないけど。

山田:すげーな。あとあの、スポーツ選手にもハマってたもんね。

東村:森下広一選手。バルセロナ金メダリストですよ。

山田:1人追っかけしてたんでしょ。

東村:出待ち1人です。

おっくん:徳永英明は?

東村:徳永英明は、小学校6年生の時にエアコンのエオリアっていうね、歳がバレますけど、ナショナルのエオリアってエアコンが出ましたと。そのCMのタイアップソングが『風のエオリア』っていうね。

ギリシアのエーゲ海のミコノス島ね、白い建物の。CMではミコノス島をバックにしててね。私はいつか徳永英明とミコノス島に行くって決めて、未だに行ったことないからね。取っといてるから。

おっくん:それまだキープなんですね。

東村:私たまにヨーロッパ行くけど、ミコノス島はね、いつか徳永英明に匹敵する愛する人ができたら行こうってずっと取っといたら、ギリシア経済破綻しちゃってね。

東村:ミコノス島のホテル全潰れしてんのよ。

おっくん:もー買っちゃえば良いんじゃ。

東村:買っちゃうか。300万くらいで買えんじゃないの!? 熱海だって200万くらいで買えんだからさ。

山田:やべー、これで限定放送にいくっていう恐ろしい、この残酷さ(笑)。ちょっと続きは有料部分でファミリーの皆さんに向けてってことで。