スノピとヤッホーの具体的事例

池田紀行氏:続いて熱狂プログラムの具体的事例です。

ここでご紹介したいのは、キャンプ用品メーカーのスノーピークと、クラフトビール「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイングです。スノーピークは2014年12月に上場を果たし、ヤッホーブルーイングも8期連続赤字から一転、現在は11期連続で増収を続ける注目企業です。

まずはスノーピーク。私も2年前からオートキャンプにはまってるんですが、きっかけは、サーフィンを始めてからほしくなったワーゲンバスを手に入れたことでした。

1964年製のワーゲンバスは、埼玉の、とある空冷エンジン専門店で買ったんですね。レトロカーやビンテージカーは、故障も多いですし、こだわりも強いですから、ショップごとに結構強い絆のコミュニティが形成されています。そのお店も例外じゃなく、かなり濃いコミュニティが存在しているんですけど、その仲間たちと遊んでいると、「池ちゃん、今度みんなでキャンプ行くんだけど、一緒にどう?」って誘われるんです。それがキャンプを始めたきっかけでした。

それで、行ってみたらこれがまたおもしろい。「こんな気持ちのよい時間は久しぶりだ~」って一気にハマりました。それから、本格的に始めようと、ネットで検索しまくって、たぶん80アイテムくらいですかね。買う商品を絞り込んで、Amazonに登録しておいた。あとは買うだけって段階です。

それで、社内で公言したんですよ。「キャンプ始めるぞー!」って。そしたら、社内にも何人かキャンパーがいて、「池田さん、ようやくキャンプのすばらしさに気づきましたか」と言ってくるわけです。せっかくなので、自信もないし、社員の先輩キャンパーに聞いたんです。「これからAmazonでこの商品を買おうと思ってるんだけど、間違いない?」って。そしたら、ある社員が言いました。

「あれ? 池田さん、スノーピークって知ってますか?」って。

「ん? スノーピーク? なにそれ、知らない」と答えると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、「え? スノーピークをご存知ではない!? スノーピークを知らずに、今からキャンプ用品を大人買いしようとしている……」とびっくりしているわけです。

そして、彼は、スノーピークが毎年顧客に郵送している新商品カタログ(注:ファンのなかでは「経典」と呼ばれている)や、スノーピークが特集されている雑誌、動画などを僕のところに持ってきて、「悪いこと言わないから、これを全部見た後でAmazonで買い物しなさい。じゃないと後悔するかもしれませんよ」と。

勉強しました。3日くらいかけて。そうしたら、買おうと思っていた商品の1/3くらいがスノーピークに変わっちゃったんです。本当に。スノーピークの商品は、ものすごく品質がよいので、その分値段も高いんです。通常の商品の2倍くらいするものもザラにある。それでも、「スノーピークの商品の方がいい!」って数十アイテム大人買いです。

熱狂顧客の育成は経営戦略の根幹

スノーピークは、顧客になると会員カードが作れます。僕はAmazonで買ったのでランクは上がっていませんが、金額的にはゴールド会員レベルまで一夜にして駆け上がったわけです。

注目すべきは、同社が決算発表資料のなかでも明記している顧客育成戦略です。「ユーザーがどんどん熱狂的になる」ってそりゃもう明確に語っているわけです。見込み客、顧客、得意客、営業支援顧客、経営参画顧客という育成ステップを狙ってやっているわけです。

僕は気付いていませんでしたが、うちの会社のなかにも「営業支援顧客」、つまりエバンジェリスト(伝道師)が隠れていたわけですね。彼が僕という新規顧客を発見し、スノーピークの営業支援顧客として活躍し、一夜にして数十万円の売上を同社にもたらしたわけです。

そして、現在は私が営業支援顧客として年間数十回、このような場でスノーピークのすばらしさを語る営業支援顧客になっている。すごいことですよね。

ちなみに、IR資料のなかで言われているこの経営参画顧客ってなんだと思いますか? スノーピークは2014年12月に上場しています。だから、僕はこれ、株主だと思うんですよね。熱狂的な顧客が株主になることは珍しいことではありませんよね。同社もそれを狙っているのかな、と。現に僕もスノーピークの株主になっちゃいました(笑)。ほんと、我ながら見事に「思う壺君」になっていると思います。

オフラインイベントで熱狂を増強する

スノーピークは、オフラインの熱狂イベントと、オンラインコミュニティをうまく連携させている意味でも、よい事例です。スノーピークの熱狂的なファンのことを「スノーピーカー」と呼ぶんですけど、このスノーピークが集まるイベントがスノーピークウェイという熱狂イベントです。

スノーピークウェイは、全国10ヶ所以上で行われている2泊3日のキャンプイベントなんですが、ここには山井社長をはじめ、営業や商品開発などの責任者も参加するそうです。キャンプとスノーピークをこよなく愛するスノーピーカーたちと焚き火を囲みながら商品に関することを語り合ったり、新商品をキャンプ場に設営した大画面のスクリーンで社長がプレゼンしたり、顧客と社員が直接触れ合うイベントです。

スノーピーカーが、キャンプ場で、2泊3日、大好きなスノーピーク社員たちと語り合うわけですから、終わった後の熱量たるや、半端ないわけです。

そして、その熱量の受け皿が、こちらのオンラインコミュニティ。以前はフルスクラッチでつくられたブランドコミュニティがあったんですが、システムやデザインが古くなっていたのと、きっとスマホ最適化などの課題があったんでしょう。最近、全面的にFacebookグループに移管がされました。こちらのFacebookグループ、僕も入ってるんですが、非常に活発なコミュニケーションがされています。「ついにヘッドクオーター(注:スノーピークの本社が併設されているキャンプ場)に来たぞー!」「お~! 聖地巡礼ですなぁ♪」なんてやり取りも日常茶飯事です。

新商品カタログが出た時やスノーピークウェイに参加した人たちからの熱量が、しっかりオンラインコミュニティでも共有される仕組みが作られています。

ヤッホーブルーイングのブランド作り

続いて、最近、僕個人も熱狂している「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイングの事例です。

ヤッホーさんは1996年に設立されたクラフトビールの会社です。親会社は、あの有名な「星野リゾート」です。8期連続赤字から一転、現在は11期連続で増収、しかも年率40パーセントの成長を遂げている注目企業です。

ヤッホーの井手社長は、軽井沢の広告代理店を経て、同社に営業担当として入社し、その後ネット通販サイトの担当者を経て、2008年に代表に就任された方なんですが、その経験に裏打ちされた異色のブランド作りの思想がすごいんです。

日経ビジネスオンラインの「僕らが年率40%の成長を実現しているワケ―第2回 ヤッホーブルーイングの井手直行社長に聞く(上)」のなかで、井手社長は、ネット通販サイト担当者だったときのことをこう語ってるんです。

「素人だったので、楽天さんに『ショップは作り手の顔が見える方がいいですよ』と言われたら、バカ正直に顔を出して。そうしたら本当に受けたんですね。ネット通販をやり始めてから、お客さんが何を望んでいて、何を楽しんでくれるかを探求するようになりました。

僕らが本気で面白がらないと、お客さんは面白がってくれないと知ったのもその頃です。ビールはしょせんビール、たかがビールです。でも、そのたかがビールに超楽しいエピソードがあったら、お客さんも幸せになったり、愉快になったりすると思うんです。

そう思うようになった時から、僕らはビール製造業からビール製造サービス業になったんだと思っています」

この、「ビール製造業から、ビール製造サービス業になった」ってくだりが、「まさに!」って思うんです。井手社長は、ビールメーカーに勤めながら、ネット通販サイトの店長を担当することで、「小売業」の経験も積んだわけです。小売業だから、流通のバイヤーさんではなく、顧客と対峙しなければならない。

減収減益を続けるなかで、かけられる広告宣伝予算もない。どうにか工夫してお客さんに買ってもらわなければならない。地ビールブームが終わった頃の時代。「よい商品ですよ」「おいしいですよ」と言うだけでは買ってもらえない。そのときに井手社長が活路を見出したのがメールマガジンだった。

最初は、当り障りのないメールを送っていたけれど、それだと売れない。あるとき吹っ切れて、個人的なエピソードや想いを、等身大で書いて送ってみたら、思わぬ反響があった。顧客を楽しませれば、みんなファンになってくれて、商品を買ってくれることに気がついた。そして、そのファンが熱狂的な顧客になって、ずっと商品を買い続けてくれることがわかった。

それからみたいです。井手社長が率いるヤッホーブルーイングが、徹底的に顧客を楽しませ、それによって愛されて、快進撃を始めることになったのは。

熱狂社員が運営するミートアップ「超宴」

だから、ヤッホーさんは、顧客と直接顔を合わせて、一緒にビールを楽しむ体験マーケティングにすごく力を入れている。全国津々浦々で社員によるマイクロイベントをたくさんやっています。もちろん、工場見学にもすごく力を入れている。

そして、ヤッホーさんが2015年から実施しているのが、新緑の北軽井沢で5月に実施する「超宴」という大規模な熱狂ミートアップ。1泊2日で、北軽井沢のスウィートグラスというキャンプ場で行われます。僕も記事で見て、いつか自分も行ってみたいと思ってたんですが、2016年の超宴に、社員と一緒に遊びに行ってきました。いち顧客として。

これがそのときの僕のFacebook投稿なんですけど、もうね、びっくりしました。「こんなにブランドが顧客と一体になることってできるんだ!」って感動すら覚えました。

2015年は500人、2016年は1,000人の参加者が詰めかけたそうです。来年は3,000人規模を目指しているそうですから、ぜひみなさんも騙されたと思って行ってみてください。熱狂ミートアップイベントとして、すごく勉強になると思います。

なによりびっくりしたのが、このイベント、すべて社員によって企画・運営されていることなんです。駐車場の誘導員から、会場の設営から、司会進行から、ビールのサーブから、なにからなにまですべて社員がやっている。イベント会社には委託していないそうです。

ヤッホーは、現在、パート社員も含めて150名くらいの体制なんですが、実にそのうちの70~80人が総出でやっている。ちょっとすごくないですか。ヤッホーは最近人気企業なので、中途も新卒もヤッホーの熱狂顧客が入社してきます。倍率は100倍以上だそうです。だから、熱狂顧客が熱狂社員になる。熱狂社員だから、熱狂顧客とそれこそ熱狂的にコミュニケーションする。そしてその熱が熱狂顧客の熱をさらに上げていく。そんな状態をイベント会場で目の当たりにしました。

社員が数千人、数万人いるような大企業で、そのまま真似をすることはできないかもしれません。でも、井手社長率いるヤッホーの社内に流れる「顧客を楽しませよう」という徹底した文化作りは、どんなブランドも参考にすべきだと思います。

ヤッホーブルーイングの井手社長がおっしゃった「ビール製造業から、ビール製造サービス業へ」という言葉は、顧客に提供している価値が、製品の持つ機能価値だけでなく、その商品が生活のどんな文脈の中で消費されるときに、その製品の価値は最大になるのか、という文脈価値に注目している点で、非常に示唆に富んでいます。

峠を評価する「86 SOCIETY」

次に、その文脈価値に注目した事例を紹介しましょう。トヨタ自動車の「86 SOCIETY」です。「トヨタ 86(トヨタハチロク)」 というスポーツカーブランドのオーナーズコミュニティですね。

みなさん、ご存じのように、トヨタさんは、技術開発に対して、並々ならぬこだわりを持っていて、テクノロジーに関しては、世界中から認められている会社です。なので、最高のクルマを開発することに全力を尽くし、クルマを開発したら、最高の広告宣伝を展開し、販売店で購入いただいて、アフターサポートをしっかりやるという、モノ中心のマーケティングの考え方がものすごく強い印象を持っていました。

でも、86の販売が始まると同時に、この「86 SOCIETY」が開設されたとき、僕は「あ、トヨタは変わろうとしているのかもしれない」って思ったんです。「86を買ってくれている人たちっていうのは、一体なんのために86を買っているのか?」「86を買って本当によかった、最高に幸せだ、と感じる瞬間っていつなのか?」ということを徹底的に考えた結果、「86 SOCIETY」の開設につながったのではないかと感じたんですね。

では、「86を買ってよかった!」「最高だな、この車!」って感じる瞬間っていつでしょうか。契約の判子を押した瞬間でしょうか? ローンが始まった瞬間でしょうか? 納車のときでしょうか? きっとそうじゃないですよね。86を購入する人たちは「走りを楽しみたい方」や「カスタムを楽しみたい方」が多いので、みんな峠に行きたいわけです。峠に行って、86で走行している時に、「やっぱり、この車最高だな! 86のある暮らしって、最高だな!!」って思うわけですよね。

この「86 SOCIETY」でなにをやっているかというと、「食べログ」の峠版のようなことです。みなさんも、食べログを使ってお店を決めたことがあると思います。食べログのお店のページを開いたら、まずクチコミの平均点を見ますよね。「3.1か……、まあ、普通だな」「3.7……、お、まぁまぁ、高いね」とか、クチコミのポイントを見て、気になるお店を選びますよね。それから、気になったお店の店内の写真をチェックするわけです。料理の盛り付けも見たい。この峠版が「86 SOCIETY」です。

峠を走りたい人は、みなさんが食べログを見てるように、このサイトを見て、各峠のクチコミポイントを比較して、どの峠に行くかを選択しています。路面コンディションとかアクセスのよさ、ブラインドカーブの多さ、コミュニティのオープン度とか、こういったところを、彼らは峠に行く前に見たいんです。その場を、熱狂顧客との共創で作っている。

売った瞬間からマーケティングが始まる

このサイトは、日本の有名な峠のクチコミが網羅されてて、本当に感動ものなので、ぜひ一度見てみてください。また、峠の情報だけでなく、「峠ソムリエ検定」のような峠についてもっと詳しくなる学習コンテンツや、自分のクルマをカッコよく写真撮影するための「写真取り方講座」や、ドライビングテクニックを磨くイベントなど、86を楽しむためのさまざまな企画を提供しています。

これは、「買ってもらうことがマーケティングのゴールである」とする今までの考え方を、「買ってもらった瞬間がマーケティングのスタートライン」である、とする大きなパラダイム転換をしているんです。メーカーだから、よい商品をつくる。そして、コミュニケーションを駆使して買ってもらう。あとはアフターサポートというモノ中心の考え方から、自社が提供する価値は、モノの価値だけでなく、文脈価値が最大になるための「モノをともなったサービスである」とする考え方なんですね。だから、売った瞬間からマーケティングが始まる。

このように、みなさんのブランドでも、自社の商品を買ってもらった後の文脈価値を上げるために、どんなことができるかを考えてもらいたいんです。買ってもらった瞬間がゴールなのではなく、買ってもらった瞬間からマーケティングが始まるんだ、と考えた場合、どんな文脈価値を向上させるための仕掛けが考えられるか。顧客がほしいと思っているのはモノの価値ではなく、モノをともなったどんな文脈を欲しがっているのか。それを突き詰めて考えることに、メーカーのマーケティングの閉塞感を打破するヒントが隠されているかもしれません。

低関与商材におけるFavorite戦略

さて、ここからは、低関与商材の方々の戦略です。低関与商材の場合、熱狂スコアが最高潮に高まる熱狂状態ではなく、「このカテゴリーのなかでは、この商品が好き」というFavorite状態を目指すことをゴールにしたFavorite戦略を採用することになります。

ソーシャルメディアマーケティングと考え方は近いんですが、Favorite戦略においてはAlways On(常時接続)で顧客とつながることによって、ブランドに対する関与度を維持することがとても大事だと思います。

例えば、右はJALの公式Facebookページですね。左はJALのコーポレートサービスサイトです。

JALやANAのサービスサイトというのは、ものすごく科学的に最適化されていて、零コンマ数パーセントの世界でコンバージョンレートを高めるための最適化が行われています。Webサイトに来た人に、一人でも多くチケットを買ってもらえるか、ということに全力を注いでいるわけですね。こちらは買い場であり、狩り場と言えます。

一方、Facebookページでやっていることはその真逆で、ルールは1個だけ。「絶対にプロモーションをしてはいけない」というのが、JALさんのルールなんですね。Facebookページに「いいね!」をすると、JALのキャビンアテンダントさんや整備士さんの顔、仕事に対する真摯な取り組み、そして機体の写真や、旅行先のきれいな景色などをテーマとした投稿がFacebookのフィードに日々流れてきます。この投稿に日々触れることによって、「どうせ行くんだったらほかの航空会社ではなく、JALで行きたいな」という気持ちを毎日少しずつ作ることに特化しているんですね。

そして、気持ちを作ることができた人たちに、航空券を買ってもらう場所がサービスサイトなんです。サービスサイトとソーシャルメディアの役割は明確に分けているんですね。

このように、低関与商材におけるFavorite戦略は、ソーシャルメディアやオンラインコミュニティなど、Always Onで顧客とつながることができる場所で、興味をひくコンテンツや企画を配信することで、「どうせ買うんだったら、このブランド」と第一想起されるポジションを獲得することを目指してください。

カテゴリーメディア共創戦略

低関与商材において、Favorite戦略のほかに、もう1つ、僕ができると思っていることは、「カテゴリーメディア共創戦略」です。

例えば、僕はカレーが大好きなんですけど、NAVERまとめで投稿されている「絶対行っておきたい東京で人気の絶品カレー名店まとめ」。このまとめ記事は、はてなブックマークが1,000件弱も付いてるんですね。1,000件弱のはてなブックマークがついているってことは、相当な数のトラフィックがこのページにきていることが容易に想像できるわけです。多くの人がカレーに興味があることがよくわかります。

一方、家で使っているカレールー。ハウス食品さんや、グリコさん、ヱスビー食品さんなどが販売しているカレールーのことです。仮にハウス食品さんが「バーモントカレーコミュニティ」を作ろうと考えたときに、そのコミュニティは成立するでしょうか? ちょっと難しそうですよね。

家庭の味っていうのは、ソースを入れたり、醤油を入れたり、各家庭でいろいろとアレンジをして作られるわけですね。違うメーカーのルーをブレンドしたり、中辛と辛口をちょっと混ぜたりすることもあるでしょう。例えば、バーモントカレーのコミュニティを作って、ユーザーが「バーモンドカレー(ハウス)と熟カレー(グリコ)をミックスすると、めちゃくちゃおいしいですよ!」と投稿したとして、ここはハウス食品が提供しているコミュニティなので、競合他社の話やめて!」って言えないですよね。

低関与商材の場合、そのブランドだけでファン同士が話せる話題が多い場合は、コミュニティが成立することもあると思いますが、ブランドだけでなく、周辺テーマまで拡張したほうが、顧客の関心に寄り添うことができる場合は、そうすべきだと思います。

つまり、バーモントカレーコミュニティは難しいかもしれないけど、カレーコミュニティは成立するということです。カレーに関連する情報を得たい人はたくさんいます。普通のカレーライスはもちろん、スパイスに凝ったインドカレー。インドカレーだって北インドカレーと南インドカレー、タイカレーといろいろあります。作ることが好きな人も入れば、食べに行くことが好きな人もいる。そのほかにも、カレー南蛮、カレーうどん、カレーパン、カレーコロッケ、カレー味のポテトサラダ、カレー味のお菓子……と、いろんなトピックに対してカレーファン同士が情報提供をし合って、盛り上がることができます。

カレーコミュニティを作ることで、メーカー側にも大きなメリットがあります。バーモントカレーをカレー好きにもっと訴求したいという場合、数万人~数十万人のカレー好きが常に集まってくる場所を自社メディアとして保有しているので、そこで自社のブランドのよさをネイティブアドのように展開をしていくこともできます。また、新しい味を販売した際の感想や、商品をより楽しむためのヒントを、常にコミュニティメンバーに気軽に尋ねることもできます。新商品のテスト販売をして商品改善をすることもできます。

このように、低関与商材の場合、あえてブランド中心にせず、生活者の関心テーマに基づいて、コミュニティのテーマを拡張させることができれば、カテゴリーメディアは成立します。

2000年に雨後の筍のように開設されて、ほぼ全部失敗して閉じられてしまったブランドコミュニティは、低関与商材にも関わらず、「ブランド軸で押し切ってしまったこと」が敗因のひとつだと思っています。

先ほど申し上げた通り、コンビニには3,000種類の商品が置かれていて、総合スーパーには10万種類の商品が並んでいると言われます。10万種類のブランドが1人の消費者とみんな仲良くしたいっていうのは、難しいですよね。みなさんも、10万種類の商品と毎日のように関わり合うことはできませんよね? というか、したくないですよね?

なので、関与度の低い商材はブランドを軸にするのではなく、関心テーマを軸にして攻めていくべきです。競合他社に先んじてカテゴリーメディアの構築に成功することができれば、強力な資産を自社で保有することができます。そして、カテゴリーメディアは、日本にひとつあれば十分ですから、同一カテゴリー内で、どこか一社が成功してしまえば、競合は追随することは非常に難しい。ぜひチャレンジしてほしい戦略です。