痴漢にスポットが当たらない痴漢防止ポスター

小川たまか氏(以下、小川):そろそろ、本日のトークテーマ。じゃん!

バラエティ感覚でお題を出してみたんですけど(笑)。これは順番に話そうということではなくて、話したいテーマをランダムに話していければなと思っています。

まず、田房さん。話したいことはありますか?

田房永子氏(以下、田房):「変なポスター」? 京都のポスターが一番すごいなって思うんですよね。「何これ!?」という(笑)。

「なんだ、これ。何したいの?」という(笑)。なんか楽しんでいますよね、描いている人が。

(会場笑)

小川:この躍動感がすごいなって。

田房:これ、京都の駅にたくさん貼ってありましたね。

小川:「No More 映画泥棒」のような。

田房:あのイメージですね、アメコミでね。これもすごくないですか? これも京都ですね。絶対に捕まえたるでぇって、すごいですよね。他にもありましたっけ? 

これは東京ですね。

前濱:私、その東京のポスター、よく見ますね。

田房:シリーズ化していますよね? 3個目ぐらいじゃないですか、これ? 最初は、昔の少女漫画のような感じで。

これも何がおかしいって、痴漢のポスターには、痴漢の姿が一切描かれてないんですよね。女の人ばっかりなんですよ。困っている女の人とか、怒っている女の人とか、婦人警官とか。痴漢に全然スポットが当たってないというか。そういうのは、とても思いますね。

前濱:そうですね。どこにも犯人が出てこないしね。

田房:それは、もはや痴漢を人間扱いしてないというか、痴漢は害虫扱いされていると思うんですよね。いるんだから、しょうがないみたいな。

それが、最近、だんだん意識的に、加害者をどう治療するかというような記事とかもニュースに載ったりするから、加害者の人間性のようなところにも世間が目を向けているような気がするけど、まだまだ「女の人、気をつけてください」で終わっている感じがしますよね。

イケメンが痴漢の手を捕まえるポスターを

小川:これはもう、遠くから見たらなんのポスターかわからないですよね。こんなピンクで。

田房:単なるつぶやきですよね。「で?」という。

小川:加害者に訴えるものがないというか。

田房:埼京線って(痴漢が多いことで)とても有名だから、赤羽の駅には、巨大な横断幕があるんですよ。「痴漢は犯罪! 痴漢行為は許しません」と書いてあるけど、あれも、常習犯にはなんの効力もないだろうなと思います。

小川:田房さんが案として言っていたのが、イケメン俳優を出して、手を捕まえているところを……。

田房:そう。万引きのポスターで、万引き犯の手を塚本高史くんが捕まえているというポスターがあるんですよ。スーパーとかに貼ってあって。

それ見たときに、「そういえば、痴漢を捕まえている男性のポスターってないな」と思って。イケメンが捕まえているような概念が、まずないというか。

万引きだったら、誰が捕まえてもいいという感じじゃないですか。成宮くんがスーパーにやってきて、万引き犯見つけたから捕まえましたというシーンのように見えるし、私はポスターにイケメン俳優を起用したら良いんじゃないかと思います。山田孝之とかやって欲しいなと思いますけど。

怒りが伝わってこない痴漢撲滅ポスター

小川:駅員へのツバはき行為は、とても怒っているのに。

田房:めっちゃ怒っているよね。

(会場笑)

田房:最近シートを切る人がいませんか? 総武線の窓に貼ってあるんですよ、真っ黄っ黄のシールに黒と赤で書いてあって、「シートを汚さないでください、絶対に犯罪行為です」と。それからはJRの怒りがものすごく伝わってきます(笑)。

(会場笑)

田房:痴漢のポスターからは、怒りが全然伝わってこないんですよね、作っている人たちが楽しそうなんですよね(笑)。「楽しそう感いるかな」というのがありますね。

小川:この間、漫画家の田中圭一さんがTwitterでこれのパロディを描いてらして。

https://twitter.com/keiichisennsei/status/667357309861892096

小川:ご本人の絵柄で「どうしました? 痴漢ですか?」と書いて。「この絵柄ちょっと軽すぎ、なんか緊迫感ないよね」というのを最後に落ちとして言っているのを、田中圭一さんが書いていて。はっ、なんて。

田房:このポスターはいいできだと思いますけど、痴漢のポスターとしてはどうなのかな。

当事者が発案した痴漢抑止バッジ

田房:次のお題、いきます? 何か話したいこととかあります?

小川:前濱さん、何かありますか?

前濱:私、痴漢抑止バッジ気になりますね。

小川:今日、痴漢抑止バッジを(会場受付で)配ったんですが、みなさん、受け取ってらっしゃいますか? 痴漢抑止バッジのニュースをご覧になられた方は、どれぐらいいらっしゃいますか? 11月2日に、女子高生とそのお母さんが記者会見で発表したんですけど。

ずっと痴漢被害にあっていた女の子が、「私は泣き寝入りしません。痴漢は犯罪です」という手作りのカードをカバンに付けたら、それまで毎日のようにあっていた痴漢に一切あわなくなったというカードで。ちょっと改良してバッジにして、今、デザインコンテスト(すでに終了)とかをしているという。

これの優れたところ、話題になった点が、被害者も加害者も作らないと。抑止なので、加害者を捕まえるわけではなくて、声をあげたり捕まえる前にやめてもらう効果があるんですよということらしくて。いつもいらっしゃる「冤罪のほうが大変だ」という人たちも、「これならまぁいいか」と(笑)。

田房:すごいですよね。ニュースを見て、本当に「これすごいな」と思った。書いてあることとか。

しかも、当事者の女子高生とか、リアルタイムで痴漢被害にあって困っている人がやらないと意味がないわけじゃないけど、私とかが「作りました。女子高生のみなさん、付けてください」と言うのと、全然違うじゃないですか。

小川:他の人が「付けてね」とは言えないバッジですよね。

田房:なんだけれども、当事者が作んなきゃいけないというこの非情さというか。それがとてもつらいですよね。あのバッジ、すごいなと思うんだけど、すごいなと思うことそれ自体が悲しいというか。そういうことになっていること自体が。

小川:女子高生がそこまで考えて。

田房:そう。それで、元被害者のおばさんが評価するとかさぁ(笑)。なんか「すごいな」と思ったとか(笑)。それ自体が本当に嫌なんだけど。でも、あれは必要なんじゃないかなと思いました。

「私も許さない」バッジが欲しい

小川:反応としては、私たち世代の人からすると、「私も許さないですよ」という意思表明の別バージョンのバッジが欲しいですね。「被害にあっている人がいたら、私は助けます」というようなバージョンのバッジを作ってほしいというのと……。

田房:今日、私ももらえるから「じゃ、今日から付けよう」と、ここに来るときに思ったんですよ。でも、どこかで、付けていたら「私にさわらないでくださいって思われたら」と、やっぱり思うんですよ。

そこで、「私はそうじゃなくて、この運動に参加したいだけなんです」バージョンのバッジということですよね(笑)。

(会場笑)

田房:それを欲している自分がいて、それも悔しいじゃないですか。これを付ければいいのに、そういうこと考えちゃうのも、ずーっとネットで「ババアなんか、さわんねえよ」なんて言われているから、そう思っちゃうんですよね。

小川:「こんなバッジ付けている人がいたら迷惑」といった書き込みとかも、たまにはありますよね。

田房:どう迷惑なんですかね(笑)。さわれないってこと? そう見えちゃうよね。

(会場笑)

小川:よく痴漢はそういうことを言われがちですけど、今回のバッジに限っては、「こんなん付けている女がいたら、迷惑で寄ってかねえよ」と書いているコメントに対して、「こんなこと言うのひどいでしょう?」という人たちがたくさんいたので、とても前進を感じたというか、「やっぱそうだよね」と思ったりしました。

田房:男性に限らず、痴漢犯罪とか被害とか、あまり知らない人のほうが多いから、そういう人も女子高生の言葉として聞くと、わかりやすいという部分はあるんじゃないかなと思います。

前濱:私、学生のころは「制服マジック」も多分あったと思うんですけど、最近、大人になってから電車に乗ると、逆に私の周りだけ人が減るという謎の事態が起きて。電車にスッて乗って、サラリーマンとかのお兄さんたちが全員サッて引くという。だから、みんな、人のこと結構見ながらやっているのかなと思う気持ちは出てきましたね。

冤罪に偏りすぎている世間の認識

田房:冤罪保険もあるし(笑)。あれ、どうなんですか? なんか、そういうことの前にいろいろやることあるだろと思っちゃうんだけど。保険会社の人に言ってもしょうがないんだけど。

小川:冤罪って、絶対映画の影響が大きいのかなと、私は個人的に思っていて、『それでもボクはやってない』。あれで、一気に冤罪というものがブームになっちゃった気がしますよね。

田房:そうですよね。犯罪被害を話すときに。今、まずその火消しをしなきゃいけないから。

小川:冤罪自体は非常にあってはならないことで、それ自体もすごい問題で考えていかないといけないことなんですけど、痴漢の被害を訴えていたら、「でも、冤罪のほうがひどいからさ」と抑え込まれるのは、やっぱりおかしい。

両方を考えていかなければいけないし、メディアの影響も大きくて、冤罪のほうがセンセーショナルに聞こえてしまうので、そっちのほうを取り上げるメディアのほうが、これまでどうしても多くて。

そもそも、痴漢被害というものの実態が全然知られないまま、「なんか冤罪がひどいんでしょ?」というような認識が一人歩きしているのは、報道の量に、これまでは差があったのかなと。

田房:普通に、「被害は全くないけど、冤罪だけめちゃくちゃある」と思っている人が、いっぱいいるんですよね。まずそんなことになるわけないじゃないですか、被害がないとか。

小川:知らない人がいるというのも関係があるなと思います。電車内の痴漢被害というのが、そもそも首都圏で発生しているし、首都圏の女性が被害にあうことが多くて、しかも、10代の女性があうことが多くて、とても限定的な被害なんですよね。だから、被害にあってない人は、全く知らずに人生を過ごしているので、なかなか意識を共有する機会がない。

男性の性欲が許されている社会

田房:今、その人たちと電車乗っているからさぁ、すごいことだと思うんですよね。全く知らない人たちと一緒に電車に乗って。知らないと絶対にわかんないから、見過ごしちゃうと思うんですよ。全然見えないと思うんですよ。

たとえば、おばあちゃんがATMの前で入金しようとオロオロしていたら、「あっ! もしかしてオレオレ詐欺かも?」と心配になるじゃないですか。そういう人がいたら「大丈夫?」と声をかけましょう、っていう空気もできてるし、他にも銀行員の人に「心配だからあのおばあさん、見てもらえますか?」と言うこともできるし、対応の仕方がパッと浮かびますよね。

でも、オレオレ詐欺についての報道が全くなかったら、なんとも思わないじゃないですか。それと同じ状態だと思うんですよね、今の痴漢のあれは。痴漢の場合はさらに、AVとかの訳わかんないファンタジーのほうが有名だから、痴漢被害自体を「本当にあることなの?」という人も多すぎて。

そこには男性の性欲というものが、ものすごく許されすぎている社会というのも影響していると思う。男性が女性を見ることを、肯定されすぎているというか。

海外のおもしろ画像まとめサイトがあるじゃないですか? この間、「男の子だから仕方がないよね」のようなタイトルで、フーターズのおっぱいが大きい女の人を、外人の少年がじっと見ているという写真ばっかり10枚くらい集めた、どうでもいいまとめがあったんですよ。

そこにコメントで、「男の子だからしょうがないよね」とか、「見たくなるよね」とか書いてあるのね。それ見て、私、小さいとき、女の子だけど、おっぱい、めっちゃ見ていたからさ(笑)。

(会場笑)

田房:私、バレエやっていたんですよ。遅い時間になるとお姉さんたちが来るの。お姉さんたちのクラスになるから。お姉さんたちも24、25歳だと思うけど、その人たちのレオタード姿の股間とかおっぱいとか、めっちゃ見ていたんですよ(笑)。

(会場笑)

田房:エロいとかじゃなくて、そのエロい気持ちの前に、「何あれ? え?」とか、「なんで、おっぱいの形って、人それぞれ違うの?」とか、そんな感じで見ていたんですよね。

だから、女の子だってめっちゃ見ているのに、なぜ、それを「男の子だけが見ている」という話にすり替えるのかと思う。「なんか微笑ましい」とか。

「いつまで経っても、そういうスケベ心を忘れないジジイになりたい」とか普通に言うからさぁ、男の人。40代とかの人も(笑)。それはいいことなのかな?

いつまでも元気でいたいということと、性欲がセットになっていますよね。「男の人たちがそれに対して、どう思っているのかな」と思うんですよ。

それに男の人たちは別にそれで損するわけじゃないから、なんとも思ってないと思うんだけど、でも、それは過剰すぎるんじゃないのかと、男の人同士で話し合いをしてほしいですよね。