付き合いや頼まれごとの“しがらみ”をどう断ち切るか

齋藤太郎氏(以下、齋藤):それでは、残り時間もあまりないので、質疑応答という形で会場から質問をいただきたいと思います。どなたかいらっしゃいませんか?

質問者1:今日はありがとうございました。 「企画力で勝つ」というのが今回のテーマなので、今日お二人がまだ話していない、企画するときに誰にも門外不出の「ここ、絶対外さなければ勝てるんだよな」というのを、おひと言ずつ回答をいただければなと思います。よろしくお願いします。

齋藤:じゃあ、小山さん。

小山薫堂氏(以下、小山):勝つまでやめないことじゃないですかね。

(会場笑)

秋元康氏(以下、秋元):さっき申し上げたように、他の人とどこが違うか、差別化というか、よそとは違うということしかないですかね。それはもう本能的に思いますね。「これは他とどこが違うのかな」って。そこばっかり考えてます。

齋藤:先ほど言った、カルピスの原液みたいなやつですか?

秋元:そうですね。特許とかね、そういうのがないと、安心できないじゃないですか。

質問者1:ありがとうございました。

齋藤:他にご質問ございますでしょうか? あ、藤田さん(笑)。

藤田晋氏(以下、藤田):お二人とも新しいことが好きなのと、企画するというお話でしたけれども、秋元さんを見てると、毎日締め切りに追われ、いろんな断れない講演も、しがらみと言えばしがらみという(笑)。

(会場笑)

藤田:断れず……みたいな。小山さんも同様だと思うんですけど、いろんな仕事をすればするほど、頼まれごととかが断れない。付き合いとかが増えて。

自分の興味あることとか、好きなことに時間が使えなくなるんじゃないかなと感じるんですけど。僕もちょっとそういうので困ってるのもあって、どのようにしがらみを断ち切っていらっしゃるのか。

企画は人とのつながりから生まれる

秋元:断ち切れないですよね。でも、薫堂くん見てると、本当に人が好きなんですよね。それがたぶん彼の企画とかにも繋がってるのかなと思うのは、薫堂くんは、「人は企画の入り口」だと思っていて。

あるときに、薫堂くんの経営しているかわからない、東京タワーのレストランがあって、知り合いの女の子に「行きたいんです」と言われたので、「じゃあ、予約取ってあげるよ」って言って、薫堂くんにメールしたら、その誕生日の日が休みだったんですね。

「誕生日なんだけど休みなんです、すみません」って言葉が返ってきたんですけど、「その日はダメなのか」と。そうしたら、5分くらいしたらメールがきて、「休みだったんだけど、前の日はどうですか? 前の日だったら取れます」と。

つまり、前の日にいらしていただいて、24時に誕生日を迎えるわけだから、そうすると東京タワーの照明が落ちて、そこでロウソクの点いたバースデーケーキを持ってきたらどうですか、というのをわざわざ送ってくれたんですよ。

そのときに薫堂くんは、アルゼンチンにいたんですね。アルゼンチンにいたのに、たかだか僕の雑用というか、しがらみの誕生日の「こんなレストラン予約してくれない?」ということに対しても、ちゃんと返答して。

返答するだけだったら、ただのしがらみの域なんだけど、そのしがらみの域を超えて、そこに企画が生まれるわけですよね。前日だったら、誕生日当日の夜中に、東京タワーの明かりが消えたとともにバースデーケーキを出すのはどうかと。だからつまり、それが人とのつながり。しがらみから企画が生まれるとか。

よく、若い女の子たちの講演会のときに、僕らが話すことというのが「私たちは普通のOLなので、すごくいいお話だったけど、企画は役に立ちません」みたいなことがあるときにお話するんですけど、全てのものが企画だと思うんですよね。

例えば、OLが朝、それぞれのスタッフにどんなお茶を入れるか。あの人は胃が弱ってるからこういうハーブティーにしよう。あの人は寝てないからカモミールにしようとか、それも企画で、それが「あの子はすごく優秀で、こんなことを考えてる」というのにつながるんじゃないかと。

つまり、人が企画なんだと。だから僕は、しがらみから何かが生まれる人もいるんじゃないかなと思いますけど、どうですか?

小山:ありがとうございました、僕のことを言っていただいて。同じです。

(会場笑)

頼みごとを断れない、いい経営者のポイント

小山:でも、たぶんしがらみだと思うんですよね。今回も熊谷さんに言われて、「行きます!」と言ったんですけど。

秋元:しがらみで言われて?

小山:しがらみというか、それはやっぱり尊敬申し上げている……。

秋元:しがらみ以上? いろんな圧力が……。

(会場笑)

小山:違うんですよ(笑)。たぶん結局、経営者の人とかって、そういう人を何人持てるかだと思うんですよね。これは別に、圧力を感じて「行きます」ではなく、いつもいろんなことをやっていただいたり、「本当に申し訳ないな。何か恩返ししなきゃな」とか思ってるので、そういうときに頼まれたら断れないじゃないですか。

なので、圧力で断らせないのではない、その人から尊敬されて断らせないしがらみをたくさん作るということが、やっぱりいい経営者のポイントなのかなと思ってます。そのための努力はすごくされてると思いますし。

秋元さんも同じですよ。普通の人だったら「いや、その日休みなんです」って返しますけど、秋元さんからそのメールきたとき、今も覚えてるんですけど、アルゼンチンのブエノスアイレスにいたときにメールがきて。

僕としては「秋元さんからメールがきた! 何とか秋元さんを喜ばせなきゃ!」と思うわけですよね。「頼られてる!」。その頼られてることに、相手が想像している以上の答えを出したときに自分が認められるという思いで、「何かいい方法はないかな?」と返すわけですから。そういう人を何人作ることができるかというのが大切かなと。

齋藤:縁の力ですかね。

小山:そうですね。

人脈を作りに行く人は信じられない

秋元:こういうのでよく「人脈を作ろう」みたいなのあるじゃないですか。僕、人脈は作れないと思うんですよね。人脈は、後から気づいたら、それが人脈なんであって、人脈を作りにいく人って、なんか信じられない気がするんですよね。

だから、一番若いスタッフに言うのは、「仕事関係ないときにご飯にいけ」と。「仕事関係ないときにいろいろ遊べ」と。それが最終的に、話ができる関係になるのはいいと思うんですけど、「こういうことが目的で」というのはすごくいやらしいじゃないですか。

齋藤:(下心が)透けますよね。

秋元:そう。だから薫堂くんとの関係も、全然仕事もしてなくても、何となくおもしろいなとか、そういうのが一番大事じゃないですかね。

齋藤:藤田さんの質問、「しがらみを断ち切るにはどうしたらいんですか?」という話なんですけど、「しがらみは作れ」という……?

小山:はい(笑)。

(会場笑)

齋藤:しがらみを大切にしようという。

藤田:ええ、ありがとうございます(笑)。

(会場笑)

齋藤:他に質問のある方? じゃあ、後ろのほうの。

サプライズの成功体験で身につく企画力

質問者2:よろしくお願いします。企画をするときって、どのような気持ちが多いでしょうか? 焦っている、わくわくしている、怒っているとか、いろいろだと思うんですけれども、どういうときが多いのかというのを、ぜひ教えていただきたいと思います。

小山:僕は圧倒的にわくわくしているというか、企画したときからわくわくしていますよね。「これを実現したとき、どうなるんだろう」って、想像するだけでわくわくします。うちの会社は20人足らずの会社なので、全スタッフの誕生日にサプライズを仕掛けるというのを、1つの会社の企画の練習にしてるんですけど。

その社員のサプライズでおもしろいものを考え付いたとき、いいアイデアをひらめいたときの快楽、快感というのがありまして。企画構想学科という、大学の学科長をやってるんですけど、それをまず覚えさせるんですね。

それはたぶん、人がおいしいものを食べたときの味、「あ、これおいしい!」と思うからまたそこに行きたいと思うように、「うわ、この企画すごくよかった!」と思ったら、またそれを超える企画を立てたくなる。

なので、やっぱり企画はわくわくした気分と一番相性がいいかな。わくわくしなければいけないんじゃないかなと思います。

齋藤:ご自身の成功体験で、それぞれの快楽を覚えてるから、そこに達するまでにわくわくするという。

小山:そうですね。ちなみに最近僕が一番わくわくした企画は、うちの会社の副社長の誕生日のときのサプライズだったんですけど、鮫が出るというサプライズをやりまして。

齋藤:(前の話に出た)「ヘビが飛ぶ」じゃなくて?

小山:ええ。泳ぎに連れていって、海で泳いでるときに、向こうから鮫がやってくるというのを、ラジコンで作りまして、結構お金かけました。

(会場笑)

小山:熊本まで行って、漁師さんみんなで、「あ! イルカがいた!」とか言ったら、漁師が「おい、あれイルカじゃなか! 鮫ばい! 鮫ばい!」って言うと、鮫のラジコンがくるという。それで、本当に人ってこうやっておぼれかけていくんだなと……。

(会場笑)

小山:本当におぼれそうだったんで(笑)。鮫がどんどんくるわけですよ。本当にリアルな鮫に見えるんですよ。100万ぐらいのラジコン作って。

(会場笑)

小山:それで、漁師さんが「歌ば歌え!」って言うんですよ。「鮫の嫌がる歌ば歌え!」って。それで、みんなで「ハッピバースデー」って歌うっていう……。

(会場笑)

小山:これビデオでも撮ったんですけど、オンエア的にはたぶん倫理的に難しいなと。鮫で遊ぶのはね。でも、社内でやるには相当おもしろいので、これを作った模型、まだ残ってるので、もし社内で遊ばれるときは……。

(会場笑)

齋藤:鮫レンタルサービス(笑)。

小山:鮫レンタルサービスご紹介しますので。オペレーターも連れて(笑)。すごくいいので、もしどなたか社員サプライズがあれば。

齋藤:秋元さんはどうですか?

秋元:本当に薫堂くんは楽しい生活しているなと。リア充。

(会場笑)

秋元:僕なんかは、本当にサプライズが苦手で、よく誕生日にサプライズされるんですよ。でも俺、(誕生日が)5月2日なんですけど、5月2日近くになって、ちょっと不審なことがあったら、それサプライズだなってわかっちゃうわけですね。その、「わかっちゃったのに驚いた!」というのがすごく恥ずかしくて。

(会場笑)

秋元:この間もAKBのメンバーが、サプライズで誕生日にみんなが集まってくれたんだけど、その時点で不自然な点がいくつかあって、「絶対ここにいるんだろうな」というのがわかるわけ。そのレストランに。そこに入っていくときの自分がすごく苦しくて、辛くて。

(会場笑)

秋元:僕はサプライズが苦手だなと思ったんですけど、そんなことはどうでもいいんですけど。

『恋するフォーチュンクッキー』を生んだ過去の記憶

秋元:僕は企画を考えるのは、全部心の中、頭の中に何がプールされているかだと思うんですよ。だから、よく聞かれるんですけど、企画メモというのは取らないですし、できるだけ自分の中に。

たぶん、みなさんも自然におやりになっていると思うんですけど、自然の中で付箋をつけていく。「ああ、こんなことがおもしろいな」とか「何だろうな」とか、企画にとってそれがすごく大事な気がするんですね。

企画というのは、さすがに何もないところからは生まれないんですよね。だけど、何かがきっかけ、糸口になる。毎日何もしないでぼーっとしてたら、その付箋は付けられないけれども、意識して。

例えばよく、ジムでトレーニングするときに「ここの筋肉を意識してください」って言われるように、意識すると付箋が貼れるんですね。

例えば、もう37年前にロスに行ったとき、チャイナタウンでご飯を食べ終わったあとにチェックしたら、最後、トレーに載せてクッキーが出てきたわけですよね。クッキーを割ると中に占い、要するにひと言書いたものが出てくると。

「これは何ですか?」「これはフォーチュンクッキーっていうんだよ」と。要するに「それを最後食べながら、占いみたいなもんだよね」って話してて。それが何かずっとひっかかってたんですよね。それが三十何年たって、『恋するフォーチュンクッキー』という(曲になった)。

これも自分の中の記憶ですけど、そういえば今のクラブとか行っても、みんなバラバラに踊っててつまんないなと。僕が高校生、大学生の頃はディスコに行くとみんな同じ方向向いて、同じステップで踊ってたのになと。

そういうディスコ音楽をつくろうと思ったのが『恋するフォーチュンクッキー』だし、その詩を書こうと思ったときに「フォーチュンクッキー」という、それが浮かんでくるわけですよね。

だから、企画を考えるときというのは、もちろん薫堂くんみたいにわくわくするのもあるんですけど、自分の頭の中で「おもしろいこと最近なかったかな」とか、そういうサーチしてる感じですかね。

そのためには、何かちょっとしたことでも、不思議だなと思うことがあったらいいんじゃないかな。そういうことを覚えてたり、見たりするといいかなと思うんですよ。

齋藤:常に付箋を貼る準備をしているということですね。いかがでしたか? ご質問には。

質問者2:はい、ありがとうございました。

齋藤:では、最後の質問にさせていただきたいと思います。どなたかいらっしゃいますでしょうか?

差別化を考えるときのポイント

質問者3:今日はありがとうございました。「企画力で勝つ」ということの中で、大事なポイントというのが差別化というお話だったかと思います。

他のサービスとの差別化や他のコンテンツとの差別化、他の企業との差別化みたいな、その差別化を考えるときのポイントというのは、何になりますでしょうか?

小山:さっき秋元さんが言われたことに近いかもしれないんですけど、天邪鬼になってみるということはあるような気がするんですよね。

僕は自分の中で「神様にフェイントをかける」ってよく言うんですけど、「神様とか人々はこう思っているだろうな」ということと、あえて逆のことをやってみるとか。自分が天邪鬼になったつもりでやってみるというのが、1つの差別化につながるのではないかなと思います。

秋元:薫堂くんと前、お互い食べるのが好きなんで、好きなものを送りあったりしてたときに、薫堂くんが名古屋のババロアを送ってくれたんですね。天使のババロアっていうんですけど。

それが、おいしいと。それだけだと僕の記憶には残らないんですけど、そのときに、一輪花が入ってるんですね。それで、「これが枯れるまでにお召し上がりください」という。賞味期限を無粋な「何月何日まで」ではなくて、「このお花がしおれるまで」というのが、「なるほどな」というのが刺さるじゃないですか。それは、差別化だと思うんですよ。

よその「賞味期限がいつまで」というよりは、「この花がしおれるまで」というのを考えた。そういうことが、差別化だと思うんですよね。つまり「自分だったらどうするか?」というのが常にあって、「自分だったらどっちを取るか」。

例えば、昭和の時代であれば、シャンプーは泡立ちがよくて、香りがよくて、エコロジカルであればよかったけれども、今はどれも同じだよね。そうすると、何で差別化されるのか。

もちろんテレビで、誰々さんが使ってるシャンプー(というのも差別化にはなる)。でもそこで、モーニングシャンプー専用の「すぐ乾くシャンプー」というのができたら、それは間違いなく取るだろうなとか。そういう他にはない、オンリーワンであるためにはどうしたらいいかということを常に検証しますかね。

たぶん齋藤さんも、もともと電通のときにそうされたと思うんですけど、僕らはよくそういうコンペがあるわけですよね。そのときに、まず昔はそれを勝つためにどうしたらいいかっていうのを考えてたんだけど、最近は別にコンペじゃなくても、自分の中のお約束としてあるんですけど。

例えば「社歌を作ってください」というのがあったときに、社歌を作るのに、まずよくあることは全部排除しようとするんですね。夢とか、明日とか、希望とか、未来とか。そういう言葉を排除して、どれだけ作れるか。

つまり、先にまず予定調和のものを考えて、あるいは「みんなはこうしてくるだろうな」ということを考えて、それを全部排除すると差別化できるんじゃないかなと。よそはこうするだろうな、こうくるだろうなと思うことを予測して、それとは違うものを作ると、予定調和から外れ、差別化になるんじゃないかなと思います。

質問者3:ありがとうございます。

齋藤:非常に貴重なお時間で、まだまだ2人のお話を聞きたいなと思うんですけども、大変残念ながらここまでで、お時間が迫ってしまいました。秋元さん、小山さん、本日は本当にありがとうございました。

(会場拍手)

制作協力:VoXT