amazonの無人機・ドローンが日本の小売業に与えた衝撃

小野:商品の陳列や点数について、いろいろな議論がありましたが、ECでは、物流が命になってきます。海外の事例で、最近動きとして盛んなのは、いかに早く届けるかというところです。たとえば、eBayは、5ドル追加すれば1時間以内に配送するサービスを立ち上げました。それに対して、グーグルも同じように、ショッピング・エクスプレスというサービスを立ち上げています。

そして、つい先日、アマゾンが、ドローン(無人航空機)を使って30分で配達するサービスを発表しました。注文した商品を、囲われた庭にぽこっと落としてくれるサービスです。これは日本でできる、できないという議論はあるんですが。

川邊:爆撃ですね、これ完全に(笑)。

小野:爆撃ですね。アメリカでも航空法的に問題があって、来年からスタートする予定だそうですが、1つの将来像としてはすごいことですよね。特に楽天さんは、自社で配送をやり始めていますが、どう物流を変えていくつもりでしょうか。

北川:こんなの飛ぶんだったら、僕らも使いたいレベルですね。すばらしい考えだと思いました。ほかにアジアも本当に面白いですよね。ブラジルもそうだと昨日聞いたんですが、なかなかロジスティクスが揃っていない状況もあって、物流を押さえてしまえば一気にいく。もう1つ大事なのは、クレジットカード。決済方法を押さえにいく。このあたりは、かなりボールド(大胆)な動きになると思います。

小野:伊勢丹は、ECに限らず、リアルで買った物の配送も含めて、物流に対してどう考えていますか?

大西:これは本当に、ここでお話するのが恥ずかしいくらい、遅れておりまして。ECをもっとちゃんとやると言っておいて、気がついてみたら、物流倉庫がちゃんと整っていなかった、というレベルでした。やっと2013年の秋にEC専用の物流倉庫ができました。今、小野さんから教えてもらったような例については、よりニーズは高まっていくと思いますので、アライアンスを含めて、百貨店として検討していかないといけないと思います。

小野:異種の物流の機能を持っているプレーヤーであれば、積極的にアライアンスの可能性はありうると。ヤフーさんは物流のところに関しては?

川邊:まず、アマゾンの爆撃機については、昨日早速、執行役員間で見て議論しました。ああいうイノベーションやりたいなと。今、空からって結構熱いんですよ。ソフトバンクが気球を打ち上げて、Wi-Fiをまいていて、「空からありだよね」みたいな話をしていました。でもまあ、それはちょっと先の話ですけど。

ヤフーはアスクルに400億円くらい出資をさせていただいて、その大半を使って、ネット用の物流センターを埼玉のほうに作りました。見学に行きましたが、超巨大なものすごい大きさで、(アスクルの)岩田社長がそれをマニアックに解説してくれるんですよ。やっぱり、岩田さんは物流大好きなんだな、と。「こういうのはちょっとよく分からないから、岩田さんに任せよう!」みたいなのがヤフーの戦略ですね(笑)。補足ありますか?

小澤:ご指摘のとおり、物流面での競争ってアマゾンの独り勝ちなんですね。というのは、ビジネスモデルが違って、楽天やヤフーっていうのはマーケットプレイスですが、アマゾンは基本、自社販売ですから、在庫と物流をコントロールできる立場にいるわけです。

我々はどうしても出店者さんから直接送っていただくので、送付までの時間もコントロールできなければ、その送付の手段もコントロールできないということです。今はどうしているかというと、「アスクルさんの倉庫に物を預けてください、そうすれば、発注後、自動的に私どもの作業でお送りしますよ」と言っています。これがフルフィルメント・サービスという形で、この比率を上げましょうと。

アスクルのシステムは素晴らしいので、当日の配送が可能です。10時までの発注であれば、当日に送れます。これを中心に、アスクルの直販事業部である、LOHACO(ロハコ)というサービスがものすごく数字を伸ばしていて、「ああ、やっぱり物流面での改善というのは、明確な意味があるなあ」と。行きの電車のなかでミネラルウォーターを頼むと、帰ったら到着していることになりますので。これは自信を持って、出店者さんのみなさんに物を預けてください、と言っています。

一方で、先ほど言っていた「eBay NOW」、これにも大変注目しています。これはもういわゆる、出前なんですね。食べ物だったら当たり前の、発注後、30分で届けますと。これをいかにやるかということは、とても重要な話だと思っていて、とりあえず、今自転車を3台導入しております。これでまず実験をしてみようじゃないかということです。Yahoo!ショッピングでも、近々何かしら展開したいと考えていますが、これはマジです(笑)。たとえば、特定の場所で、30分程度で配達できないか、ということです。

小野:先ほど説明不足だったんですが、「eBay NOW」というのは、eBayが別に持っていない、全然違う店舗、まあこれはローカルなエリアに限られているんですけれども、「このショップの商品を持ってきて」って頼めば、持ってきてくれる。そういうサービスですね。

川邊:そうですね、我々は社内で「パシリ」って呼んでいます。「パシリサービス」と呼んでいます。でも何だか面白いですよね、アマゾンにしてもeBayにしても。

小野:これは非常に可能性がある分野だと思います。

ネットとリアルの融合はECの分野でも進んでいく

小野:そろそろ残り時間が10分くらいということなので、会場のほうからも質問を受けたいと思うのですけれども、質問があるという方、挙手していただければ。

――フリージャーナリストの林信行と申します。今までEコマースというと、物量で勝負するのが1つの軸としてありましたが、小売店でいうところの量販店を目指すベクトルなのか。

それとも、三越伊勢丹さんがしようとしているように、商品の価値をちゃんと届けよう、商品の1個1個の商品の裏のストーリーまで含め、ちゃんと見せるというベクトルなのか。そこをどう考えているかについて、意見を伺えればと思います。

大西:私どもは、後者の部分を、まずやっていきます。先ほど小澤さんや北川さんからも「キュレーター」という言葉が出たんですが、自分たちが培ってきたものと、その商品の背景をきちっとご説明していかないと、数で勝負するのはもう無理ですから。私の話している数字の桁と、ほかの3人の話している桁が、もう明らかに2桁くらい違いますので。我々としては、この分野に入っていくためには、コンテンツの質や絶対的価値を高める必要があると思っております。

小澤:リアルとインターネットというのは間違いなく融合していくでしょう。今、「オムニチャネル」のような用語も出ておりますが、用語はさておき、間違いないと。で、いくつかの動きがあります。

1つは今、ヨーロッパ中心に出ているのがデリバリーがない世界ですね。家でポンポンポンと注文しておくと、近くのスーパーに行くと、もうそれがピッキングされていて、レジすら終わっていて、品物を受け取るだけ。これはもう非常にわかりやすいですね。

今まででしたら、スーパーに行って、自分でピッキングして、自分でレジを通っていたものが、「どこにあるのかな?」なんて探す手間もなく、インターネット上で近所のスーパーで注文をトントントンとして、物だけ受け取りに自分が行くというパターン。もちろん来ていただくというパターンもありますけども、そもそもスーパーに行くよりも、ピッキングが終わっている分、楽ですよね。こういう流れがもうかなり出てきています。そして、そのレジを通らないでいい、というのも今の延長線上であります。

それから店頭の在庫だけに縛られない、という意味においては、おそらくユニクロさんなどが考え出してはいますが、在庫を共通化して、店舗でサンプルを見ながら、ショールーミングして、店頭でインターネットを通じて決済と発注まで終えて、家に帰ると商品が着いている、みたいな世界観。リアルとインターネットがどんどんどんどん融合していく、というのは間違いないですし、はるかに合理的ということになります。

私どもとして、どこまでリアルの方々とご一緒させていただく余地があるかというと、Yahoo!ショッピングは最初から申し上げているとおり、「共存共栄」という道を歩みましたと。私どもの上でたくさん売っていただける方々をできるだけ増やして、共存共栄の世界観をやるという意味においては、リアルに相当入っていくことになると思います。

ECとリアル店舗の棲み分けのキーワードは「極上」

北川:そうですね、小澤さんのおっしゃっていた、リアルとの融合って面白くて、たとえば、アメリカでは(家電量販店の)ベストバイが盛り返しつつあります。何をしたかというと、オンラインでオーダーをしたあとに、ベストバイのリアル店舗でピックアップするサービスを始めたんですね。彼らの調査によると、今だいたい全商品の50%が「リアルだけ」、30〜40%くらいが「ネットで影響を受けたリアルの購買」、残りが「eコマース利用」だと言っているんですね。

そんな形の融合も出てきますので、三越さんなどと一緒にやっていく中で、僕らとしては、そういった可能性も含めて検討していくんだと思います。

僕らはもう1つ、楽天マートというネットスーパーもやっていますので、余計にそういったセルフデリバリー、グローサリーショッピングといったところにも、すごく思い入れがあります。ピッキングされているだけでなく、ピッキングされている内容が、たとえば、ある料理に使うための食材がちょうどいい分量だけ入っている、といったこともでき始めるんですね。うちでもそういうサービスや商品を売ったりしています。

川邊:ヤフーは最近、ソフトバンクテレコムと一緒に、「ウルトラ集客」というO2O(オーツーオー)のソリューションを提供しているんですね。イオンさんとかユニクロさんとか、いくつかのリアル店舗にクーポンのチケットの発行コーナー、機械を置いて、それを持っていくと何かもらえる、みたいなことをやっています。

これはこれで一生懸命やっているんですが、いろんなデータを見ていて最近ちょっと思うのは、O2Oのオフラインのほうは、値引きや、ジュースが1本もらえる、といったやり方ではネット側に勝てないだろうなと。オフライン側は、極上のものがあって、それに人が来るというのが本当のO2Oなんじゃないかなという気が最近しています。イオンさんともユニクロさんともご相談しなきゃいけないんですけど。

伊勢丹三越さんには、先ほどからずっと「金の風呂を売ったほうがいいですよ」と、大西さんにも迫ってちょっと嫌がられていたんですけれども(笑)。「極上のもの」っていうのがオフライン側の出口にだんだん変わっていくんじゃないかなと。テイルとか、いわゆるそのコモディティ(均質)のものは、やっぱりどんどんネットになっちゃうかなっていう気がしています。

楽天、ヤフー、百貨店 それぞれの立ち位置

小野:では、そろそろ時間もなくなりましたので、4名の方から、今後のEC、小売の未来について締めのメッセージをお願いします。

北川:先ほどから「感情価値」「おもてなし」といった言葉を使ってきましたが、やはり、そういった思いですね。例えば、僕、最近思ったのが、フランスで5大シャトーってあるじゃないですか。5大シャトーは、日本でもフランスでも愛されていますが、フランスのローカルのシャトーの中には、すごいいいワイン作っているんだけれども、たまたまフランス人の口に合わない、みたいなこともあると思うんですね。そういったものが、中国や日本ではバカ売れするかもしれません。

そういった思いを拾っていきたいと思っています。楽天はグローバルで勝ちにいくと高らかに宣言していますので、そういった思いを共有して、店舗さんと一緒にやっていけたら非常に楽しみだと思っております。

小澤:Yahoo!ショッピングは、ここで200〜300億円大損をこきまして、みなさまと共存共栄、我々を使い倒していただきたい。みなさまの発展がECの発展であり、ヤフーは土台で構わないと。こうなります。

ここにいる経営陣(=川邊)が、「201×年までに利益を倍にする」なんて言うものですから、ヤフーばっかり儲けやがって、ということになりますが、大損こいて、Eコマース盛り上げて参りたいと思います。楽天さん、アマゾンさん、伊勢丹のために何ができるか。それだけを考えて、やって参りたいと思います。ここにいらっしゃる皆さまがたも、ひとりひとりが一店舗です。ぜひYahoo!ショッピングにご出店いただき、家計の足しに、企業の収益の足しにしていただければと思うわけであります。今日はどうもありがとうございました!

川邊:10月7日に、孫さんが「今までのヤフーは間違っていた」「Eコマース革命やります」と宣言して、ある意味すごくすっきりしました。おそらく、日本のECもこれで、大仰なこと言うと、すっきりしたんだと思うんです。というのは、今まで、楽天、アマゾンがいる中で、特にヤフーに関しては、楽天と組むの? アマゾンと組むの? どうするの? みたいなことを、ずっと取材などでも言われていましたし、自分たちでも思っていました。今回の宣言で、立ち位置が非常にすっきりしたなと。

今の小澤さんの話にもあったように、日本で物を売る人たちすべてに貢献するという、メディア的な立ち位置が、これではっきりした。我々も、その立ち位置のなかで、タオバオなどとも連携しながら、我々は引き続き研鑽を深めていきます。今8〜9%の日本のEC化率を、まず3割、そのあと50%くらいにまで持っていって、みんなで盛り上がっていきたいなと。ありがとうございました!

大西:当社はECの比率が1%くらいしかなくて、これを少なくとも10%くらいまでに上げたいと思っています。アメリカは、百貨店業態全体の中でEC率が50%ですから。10%まで上げていくために、いろんな方とコラボレーションして、みなさんの技術力であるとかノウハウというものに対し、我々はどれだけコンテンツで寄与できるかというのがポイントになると思います。

あと一つ、(モノの消費の)約135兆円のうち、百貨店は6兆円でわずか5%です。今後その5%をどこでやっていくのか。リアルな店舗がなくなるとは思っておりませんので、リアルの店舗は、自分たちのノウハウで培ったコンテンツを店頭できちっと展開する、ということですね。やっぱり、リアルの店舗の魅力度を増していくということが、大前提としてあるのかなと思います。

いずれにしてもいい経験をさせていただきまして、本当に楽しい会議でございました。これをきっかけに、私も含めて当社の今後の方向性が、少しそちらへ向かっていけるといいなというふうに思います。今日はどうもありがとうございました。