私に合うシューズはどれですか?

松島倫明氏(以下、松島):お話を聞いていると、シューズのほうですと、先ほど藤原さんがおっしゃったように、一人ひとり走り方が違う、着地も違う。これだけ多様性があって、その人が靴に合わせて走るんじゃなくて、「その人に合わせたシューズというのをいかに作っていくか」という、ひとつの方向性があると。

裸足のほうは、「裸足になってちゃんと感覚を足裏から得るようになれば、皆がある程度正しい走り方、人類にとっての(正しい)走り方に収斂していくはずだ」という思想があるように思うんですが、そこの違いというのはどうですか?

吉野剛氏(以下、吉野):多様性のなかにも、多分、原理、原則的なところはあると思うんですけど。その多様性があるなかで、少なくとも裸足は、その多様性をそのままできる。シューズだとそれに合わせなきゃいけないので、ガイダンスが必要になったり。シューズアドバイザーという方がいれば、そのなかでもそれに一番近い状態を選べる。でも実際は、シューフィッターという人がいることはあまりないですよね。

安藤正直氏(以下、安藤):少ないです。ランニングシューズのシューフィッターは、たぶん日本で藤原さんだけです!

藤原岳久氏(以下、藤原):あはは(笑)。

吉野:そう考えると余計に、裸足の状態で自分の動きを理解するという意味でも、裸足になって。自分が実際どうやって走っているかという感覚は、裸足が一番わかりやすいと思うので。そういった感覚を自分で知った上で、シューズを履けばいいのかなと思うんですけど。

そこがやっぱり抜けているので。シューフィッターの人がいるという環境もないので。そもそも走る感覚がない人たちが、どうやって自分に合ったシューズ(を選ぶのか)。

実は、自分、昔シューズ売ってたんです。だけど、ほとんどの人がポカーンとしていて、「私にはどれが合ってるんですか?」「どっちがいいんですか?」って。「あなた感覚ないんですか!?」って思うくらい(笑)。

多分、日本、アメリカとか先進国には、そういった自分の感覚を失っている人たちが多いと思うので。失っているんだったら、シューフィッターみたいな人たちが必要だし。でも失っているからこそ、そういう感覚、センサーを取り戻すという意味で、裸足になって欲しいなとは思います。

正しい、正しくないではなく「スタンダード」

藤原:ある種、さっきの肉食・菜食に近いと思うんですよ。「これだからいい」とか、「これだからどう」とか。「正しいシューズ選び」という言葉は使わないんですよ、基本的にね。正しいって(言葉は)すごく語気が強くて、正しい日本語……はあるのかもしれませんけど。でも、それも間違っているかもしれませんよね。

正しいに対して、正しくないのか。そういうふうに考えると、物事ってすごくややこしくなってしまって。そうではなくて、僕は、「スタンダード」という考え方をお伝えするようにしています。

こういうふうにすれば(という)。さっきの1割という話じゃないですけど。難しいことをやる8割9割の人、もっと少ないかもしれないけど、(その人たちが)ハッピーな状態であれば、それがいわゆるスタンダードに近い状態だと思いますね。

皆さん目的が違います。裸足で走っている方は、月に500キロとか600キロとか走るわけじゃなくて、本当に少ない時間でランニングを楽しんでらっしゃる。なかにはもう、止めても走る。500、600、アスリートみたいに走っている人もいるんですけど。目的が違うから、それに合わせて、そういったものを取り入れていただければな、というところもあるんですけど。

シューズによって誤った方向へ

重心移動の感覚のところで、さっき(「菜食vs肉食」で)原住民の話ばっかりしてたじゃないですか。僕もその話をしていきたいなと思うんですけど。

松島:原住民シリーズ。

藤原:そうそう、原住民シリーズ。そのへん、吉野さんはきっと乗ってきてくれると思うんで(笑)。タラウマラ・インディアンの話は、絶対的にいろいろ出てくると思うんですね。

それはちょっと置いといて。僕は基本的に、体が倒れていって足を支える瞬間が着地だと思っているので。誰しも緊急に着地する場所ですから、ヒールかフォアフットかなんて関係ないと思っているんですね。「危ない!」、ピタッ、と止まるところなので。皆さん、倒れてったら、着くところがあるじゃないですか。これが着地でしかないと思っているので。それに関してはいいんですけど。

いろいろ研究があって。この方(安藤)研究が嫌いなんでアレですけど(笑)。

安藤:いや、好きですよ(笑)。

藤原:タラウマラ・インディアンも、みんなワラーチを履いているわけではなくて、トラディショナルなシューズを履いていらっしゃる方もいるんですね。そういうデータを取ると、トラディショナルなシューズを履く人は、ヒールストライカーが多いんですね。結果としては。

ワラーチ履いている方は、ヒールストライカーはほとんどいなくて。フォアフットとか、ミッドフットもいるんですよね。そういうふうに考えると、シューズが何かしらの影響を与えてしまっている。使い方を間違えると。それはもう間違いないと思います。

ランニングが上手な人とは

タンザニアでしたっけ、ハッザという原住民。さっきの「狩猟・採集」「肉食か菜食か」といったら、そっちの方にも入っていっちゃうんですけど。

ハッザ族の、採集……お芋さんかなにか取りに行っている女性と、狩猟・採集をしている男性を調べていったところ、男性は、フォアフットはたしか皆無だったんだけど、ミッドフットかヒールストライク(が多い)。ミッドフットがほとんど、8割以上、9割かな。9割がミッドフット。女性は9割方、ヒールストライクだったんですよ。

それを考えると、最初にお話しした重心移動という話につながるんですけど。これから走り始めようとしてらっしゃる方が、もしかしたらいるかもしれないですけどね。どっち(靴か裸足か)になるかっていうのがあるんですけど(笑)。

ビギナーという言葉が好きじゃないんですよ。皆さん走ってるんですから、普通に。スポーツとして走ることに向き合った時に、こういうややこしい話になってっちゃうじゃないですか。

そう考えた時に、先ほどもお話ししたように、ランニングが上手な方というのは、重心移動がうまい人だと思うんですよ。基本的に。10年走ってる、20年走ってる、体ボロボロで、こんなガタガタ走っているというのは、それは上級者じゃないと思うんですよ。はっきり言ってね。重心移動がうまい人、ランニングがうまい人というのが、上級者だと思うんですね。

僕は狩りしたことないのでわかんないですけど(笑)。ハッザのデータを考えた時に、彼らは裸足で生活しているわけです。ですから、狩りをすることによって、獲物が来る状態を常に意識しているわけですよね。獲物が来た時に、すぐ状況を変えていかないといけない。ということを考えると、まさにランニングシューズを履いて少し前にいっている状態。プレランニングの状態を続けているような状態だと思うんですよ。

ですから、ミッドフットストライクになっているのも、ランニングが上達していくかたちと非常に近いと思うんですね。獲物を捕まえないといけないんですからね! うまく捕まえるために、どんどん走りが進化していく。ハッザ族の子供は、やっぱりヒールストライク側なんですって。

それはひとつのデータで、それから全体を言えるわけではないんですけど。僕は、重心移動をうまくしていくことが重要なテーマで。「ランニングで怪我をしない」、「楽しく走る」、「記録を伸ばしたい」。それはもう元も子もないですけどね。まとめにはいっちゃう、みたいな感じになりますけど、やっぱりベアフット大事ですね。

シューズも裸足もスタートラインは同じ

松島:ヒールストライクはどうですか? ネイティブな人々の。

吉野:走る、走らないということがあるということですかね?

藤原:一応そういうイメージですね。

吉野:自分もアフリカのデータを見たことがあるんですけど。「実はケニア人はかかと着地だった」、みたいな書かれ方をしていたんですけど、それを見ると、走っていない子どもたちなんですよ。

藤原:そうですよ。

吉野:走りを洗練させていく過程で、そうやっていたらうまく走れる。

松島:狩猟する人が、走り初めて。

吉野:そう。実際に走っている人のほとんどは、着地の位置が前寄りにはなっているんですけど。でも今は自分も言っているんですけど、あまり着地の位置って結果論というか、あとから付いてくるものなので。重心移動をうまくした結果、触れるところが触れる。

一般的なシューズでその状態で走ろうとすると、ちょっとつっかえるような感じになるんですよね。高低差があったり厚みがあると、ちょっと邪魔になってしまう。

さっきの石川さんは、100キロで8時間28分を出していたんですけど、たぶん走りがよくなればなるほど、そういった機能が邪魔になってくる。逆に「そういう(よい)走りをしていって欲しいな」という意味でも、裸足ランニングはすごく有効なのかなとは思います。

松島:僕ちょっと調べたんですけど、たぶん今、100キロの世界記録って6時間半くらいだと思うんですよね。6時間13分? シューズを履いてというか、(裸足も含めて)総合でですね。

そのなかで、裸足で世界記録の8時間半を出されたということで。それは、速さについては別物だとお考えなのか。みんなが裸足で走るようになれば、そのなかからもっと早い人が出てくるのか。それはどうお考えですか?

高岡:それは裸足でも可能だと思いますね。僕もフルマラソンに裸足でチャレンジしてますけど、「裸足で走るとタイムが遅くなりますよね」っていうのが、一番腹が立つんですよね(笑)。「いや、裸足でもいけますよ」っていうところはあると思うんです。

さっきもご質問いただきましたけど、シューズ履いたら早く走れるのかっていうのは、あまり保証がないというか、僕自身、自信がない。あまり変わらないんじゃないかというのが、正直なところですね。シューズを履く、履かないとかそういう分け方じゃなくて。それだと裸足で走ることがハンデみたいな感覚ですよね。そうじゃなくて、全部スタートラインは同じ。

松島:総合で見ていいということですね。

良い走りを覚えるためのシューズ、裸足

吉野:ひとつ自分の経験から付け加えておくと、実際に裸足になって遅くなる人はいっぱいいるわけじゃないですか、現実としては。それってやっぱり、足の裏にマメができたりとか、途中で足が痛くなってというところで。ただ、裸足になって早くなれる人もいるということで、その人次第。

逆に、そういう人がいるのも事実なので。昔で言えば「裸足のアベベ」とか「裸足のゾラバド」という人たち。ゾラバドの記録に関して言えば、今の女子の日本記録よりも早いタイムで、30年前に裸足で走っている。それを考えると、裸足で早く走ることというのは基本可能なんです。けど、それをあなたができるかと言うと、わかりません。その人の走りにもよるし、その人の経験にもよるし。

松島:それって、たとえば吉野さんがその人の走り方を見ればわかったりするものなんですか? 「あぁ、この人裸足でいけそうだな」とか。

吉野:これ、たぶん藤原さんと共通するところだと思いますけど、動きがいい人というのはなんとなく共通する。スムーズに動いている人たち。

松島:やっぱり重心移動ということなんですかね?

藤原:そうだと思います。ほんと吉野さんのビデオよく見てます(笑)。

吉野:石川さんは、100キロで着いていけるところだけ、うしろ着いていったんですけど。ずーっと同じペースで動き続けられるだけの体力と、スムーズさというのを持っているので。そういうのがあれば当然、裸足のほうが早くなるのは、全然起こり得ることなんですけど。

そうじゃない、動きが悪い人ほど、よくなるまではシューズの機能が必要かなと思います。でもよくするための手段として、裸足は使って欲しいなと思います。悪いからこそ、裸足になってのトレーニングを少しでも取り入れて欲しいな、という思いはあります。

安藤:僕、基本的にはウルトラマラソンという長い距離が多いんですけど、今年助っ人で、駅伝に出たんですよ。僕、早く走るの苦手なんですけど、裸足の人に抜かれたんですよ。思いっきり。出てたでしょ、裸足チーム!(笑)。言いたくなかったんですけど、僕を抜いていった人が裸足だったんです。正直ヘコみました(笑)。