ブルガリア人ジャーナリストを殺したのは毒

ハンク・グリーン氏:1978年9月7日、共産党離反者でBBCに勤めていたブルガリア人ジャーナリストGeorgi Marcov(ゲオルギー・マルコフ)がロンドンのウォータールー橋を渡っていたとき、右側がちくっとするのを感じました。振り返ると彼の背後には、地面に落ちた傘を拾う男が。その日の夕方から熱が上がり、4日後、彼は亡くなりました。死因は毒殺。

マルコフは世界で最も強力な天然毒素リシン入りの弾丸が装てんされた傘で、暗殺されたのです。リシンは恐ろしい天然物質のひとつで、動物界には存在しません。トウゴマの種から採取され、人を1人殺すのに、500マイクログラム、つまりペーパークリップの5/10000ほどの量があれば充分なのです。

リシンは地球上最も有毒な天然毒素です。そういった毒性のバクテリア、植物や菌はエキゾチックでトロピカルな地域のみならず、1970年代のロンドンなどどこにでもあったのです。毒性はその化学組成によるものなのですが、その毒はどうやってこれほどまで効率的かつ致命的に人体に働きかけるのでしょう? そしてなぜ私はちくっと感じたのでしょう? 傘だ!

毒性のある植物、キノコ、バクテリアは、吸引したり注入されたりすることで人々に死をもたらします。また変化しやすい性質上、どれがどれほどの毒性を持つのかを定量化するのが難しいのです。被害者の年齢を問わず、人間には身体を守る物質による抗体があります。

ただし、ひとつだけ例外があります。議論の余地はないと思いますが、自然界で生成される人体に対する致死的毒性物質としてよく知られているのは極小のバクテリア、クロストリジウム、ボツリヌス菌です。

ボツリヌス菌の恐ろしさ

みなさんも病気を引き起こすことからボツリヌス菌はご存知かもしれません。

毒にどれだけの致死性があるのかを測る方法として、専門家が用いているのが致死量50パーセントと呼ばれるもので、母集団の半数を死に至らしめる量がそれにあたります。もちろん、毒物学者は人間でこの試験を行なうことはできないので、通常LD50と呼ばれるこの数値を得るのにどこまでも不運な生き物、実験用マウスを使います。

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