ストリーミングの課題

鈴木貴歩氏(以下、鈴木):八木さん、なんとなくまだ日本だと、「バズらせるイコールYoutube」みたいになっちゃいますよね。

お二方の話を聞いてると、(海外では)プロモーション的な意味合いでもストリーミングをちゃんと活用して、そこでの収入を得てるっていうイメージがあるんですけど。それはどうやったら変わっていくんですかね?

八木達雄氏(以下、八木):そうですね。さっき野田さんの話にもありましたけど、ビジネスモデルのところでやっぱりまだまだわかりづらいですね。

「アーティストにどれぐらい還元されるんだ」っていう話はレコードメーカーさんから結構あって。サービス毎にパーストリームの単価が違ってきてるんで。

例えばCD1枚の売り上げを上げるのに、たぶんストリーミングになると1,000回から3,000回ぐらい聞いてもらないといけなかったり。かなりロングタームで見ないと価値がわかんないっていう話もありますよね。

ただ一方で、「YouTubeで出してるパーストリーム単価と(比較)して、どっちが利益になるんでしょうか」と。そういう話を、ちゃんとわかるようにデータとして出していかないと、なかなか難しいかもしれないですね。

目指すかたちは「フィットネスクラブ」

鈴木:ちなみに、台湾とかだとそういう場があったりするんですか。

八木:いや、さっきあったように単純な配信だけじゃなくて、アーティストがファンとコミュニケーションとれる場所を用意したりですとか。なんていうんでしょうね……フィットネスクラブみたいなもんですよね。

鈴木:フィットネスクラブ?

八木:ちょっと話飛んじゃいますけど。僕、聞き放題って言い方は、食べ放題みたいであんまり好きじゃないんですけど(笑)。イメージとして単純に音楽聞き放題っていうのとは、目指してるとこが違っていて。「音楽を楽しむ」「アーティストとコミュニケーションできる」ゲートウェイになってくれればいいな、と思っているんです。

フィットネスクラブって、家で運動しても同じじゃないですか。だけど、お金を払ってマシンがある場所に行って、水泳やったり何やったりってすると思うんですけど。

同じように、単純に音源を楽しむことにプラスアルファ、そこに集う人とコミュニケーション取ったり、ライブに行く導線があったり、そういう設計をしていかないと。

さっき言ったフェーズってあったんですけど、日本はちょっと遅れちゃいましたよね、参入が。そうすると、世界でフェーズがちょっと変わってきちゃってるんで、もう少し音楽を360度楽しめるようになるプラットフォーム。それってサービス単体では完結しないんですよね。

そこからCD買ってもらってもいいし。そういうふうにしていかないと、今のビジネスモデルの差分だけではなかなか語れないというか。

「メディアとしてはYouTubeよりも弱い」「ビジネスとしてはCDより弱い」となってしまうと、なかなか難しいなと思ってるので。

日本のアーティストの閉塞性

鈴木:なるほど。今回の全体のテーマに合わせると、この前SEKAI NO OWARIがKKBOX LIVEに出演したんですよね。

八木:はい。

鈴木:どうでした? 見に行きました?

八木:アーティストさんサイドからは「日本ではあまりプロモーションしないでくれ」って言われて、一切しなかったんですけど。

要は「台湾のファンだけを呼びたい」「現地のファンだけを」っていうので。彼らはCDも向こうでは売ってなかったんで、プロモーション手段としてはKKBOXしかなかったんです。

それですごくうまくいったんですけど、一つ思ったのはやっぱり台湾でちゃんとファンを獲得するためには、日本で活躍している時に、同じタイミングでプロモーションしていかないと(いけない)。

K-popと違うのはそこなんですよね。韓国の人たちは、例えばツアーでも必ず、途中台湾に行ったりとかするんですけど。日本(のアーティスト)って、1回終わって、じゃあ(次に台湾に)行くか」みたいな。

鈴木:そうですね。

八木:連続性がないんですよね。(台湾のファンは)日本で旬の時に、日本の情報を必ず見てるんで。そういう意味ではやっぱりYouTubeも必要だと思いますし、使い方としては。KKBOXみたいなアジアに強いサービスもうまく活用してほしいと思います。

そういう意味ではアソビシステムみたいに、本当に同じタイミングで同じトライを国関係なくやっていくっていうのは重要だなっていうふうに思いました。

テイクを求めない「ギブアンドトラスト」

鈴木:そういう意味だと、アジアで先ほどの「ストリーミングでも売り上げちゃんと上がるんじゃないか」っていうところと、例えば「チケットビジネスとかライブエンターテイメントビジネスとか、トータルで組めるよ」っていうことでいうと、KKBOXって今いいポジションにいますよね。

八木:そう言っていただけるとありがたい。苦しいポジションでもあるんです(笑)、それは冗談ですが。そうですね、だから実績を作っていくしかないかなっていう。

僕としては「日本のカルチャーを世界に」っていう、みなさんと同じなんですけど。それだけだとユーザーからしたら事業者目線になっちゃうんで、基本的にはまずサービスとして成り立たせることに注力したいなって。

でもそのためには、結論は一緒なんですよね。「アーティストから信頼される場所になる」という意味では、今はちょうどアジアに強みがあるので、「アーティストをちゃんとアジアに出していく」「後押しをする」っていうことが重要かなと思っています。

鈴木:でもそれをトータルでやって、先ほどK-popのアーティストがひと繋がりで考えてるっていうところに、しっかりとKKBOXが組み込まれれば、日本の中でのポジションもさらによくなっていくという。

八木:そうですね。なので「ギブアンドトラスト」ですね。「テイク求めない」と。

鈴木:なるほど。KKBOX八木さんは「ギブアンドトラスト」の精神だというところで。TuneCoreも、さっきの「100パーセント還元しますよ」っていうことでいうと、もう「ギブアンドトラスト」みたいな?

野田:そうですね。まさにそんな感じです。やっぱり「デジタルも一緒に」っていうのがもうマストかなって思います。ライブも先ほどいった流れ、「ライブもやりながら全部同時にやらないと浸透していかないな」っていう気は本当にしますし。

むしろ、向こうも情報持ってるんですよね。YouTubeとか見て。それに(日本が)追いついてない感じがするんですよね、海外側で受けてる人に。

僕らには、先ほど八木さんが言ったみたいに、「ちょっとずれてきてる」っていう感覚をファンたちが思っちゃってるんじゃないかな。それはアジアに限らず起きてるなっていう気は若干します。

国内アーティストの「とはいえ」という反応

鈴木:なるほど。ストリーミングが浸透してるか浸透してないかはまた別の問題として、「海外から注目されていることに気付いてない」っていうのは何となくわかるんですけど。それはデータをちゃんと見てる、見てない、とかっていう話ですかね。

野田:そうです。そういうのがあったり、そもそも今まで楽曲が出せてないっていうのは結構大きかったりするんで。そこは出さないと聞かれないですし、積極的に外には出していったほうが。特に海外に関しては、ストリーミングがほぼ主流になってきてはいるので。

国内でいろいろ議論が起きているのは、もちろんそれはそれでいいと思うんです。別に今すぐストリーミングに、コンテンツホルダー側がみなさん乗る必要はないと思うんです、僕個人は。ただ海外に関しては「乗ったほうがいいな」って100パーセント思います。

海外を見てないと、そういう発想にはどうしてもならないんで。そういうふうにアーティストさんには普段から言ってます。

鈴木:アーティストさんには?

野田:「どうせYouTube出すでしょう。じゃあ出しなよ」みたいな感じで、海外の件に関しては言ってます。

鈴木:そういう時はアーティストの方の反応ってどうですか。

野田:半々ですね。「とはいえ」みたいな。

鈴木:「とはいえ」。

野田:出してみないとわかんないですけどね、これは実際。出したからって「ほら、どうなったでしょ」っていうような(わかりやすい結果は)、本人たちもわからないんで。積極的に言い続けるしかないなって思って、普段啓蒙はしてます。

鈴木:でも今日みたいな話を、今日来ているプレスの方にも広げていただいたりして、啓蒙できる部分はありますよね。

野田:日本から出ていく時っていうのは、どうしてもチャレンジだと思っていて。前出し、前出しでやっていかないと、「どうせ知られてないんだから」って思ってるんですよね。それぐらいの感覚でどんどん行かないとっていうのが。

海外でライブとかやってるほうがよっぽど大変なんですけど。デジタルなんかもう、ぴゅぴゅって登録するだけですぐいけちゃうのに、それすらやらないのは「ちょっとまずいんじゃないの」って思うんですよね。

発信しないと来てくれない

鈴木:そうですよね。そこが「本当にメリットあるんだよ」っていうのが、浸透してくるというところですよね、まず。

八木:本当に日本の情報が少ないんですよ、今。TV番組とかでも、11~12年前は日本の番組をたくさん、台湾とか香港でやってたんですけど、今ほとんど韓国のドラマとかになっていたり。

日本のアーティストの人たちって、「その気になればいけるよね」って思ってるんですけど、やっぱりそんなに来てくれないんですよね、発信しないと。思われてるほどクールじゃないっていう。

鈴木:なるほど。

八木:全然クールじゃないって。本当にトライを意識してほしいなっていう気はしますけどね。

鈴木:特にそういう意味でいうと、台湾はやっぱり地政学的にも近いですから。

八木:そうです。さっきの森川さん(C Channel代表)の話にもあったように、日本に親和性が高いというか、日本のファンがまだいる間に、ちゃんとコミットしてあげないと、離れていってしまうかなという気はしますね、見てると。やっぱり行ってみないとわかんないですよね、それって。

鈴木:行ってみないとわかんない。

八木:はい。だから行って、中川さん(アソビシステム代表)みたいにライブとかされてると、「すっごい感じる」って言ってましたね。やっぱり行き続けなきゃいけないっていう。

鈴木:現場を見るっていう。

八木:見てないとなかなか。ただ、本当にデジタルで発信してみて、反応みて、やっぱり対地もありますよね。「このアーティストどこが強いのか」って。

野田:ああ、ありますね。全然違う。

八木:香港だと、ちょっとアップテンポの曲がよかったりとか。

鈴木:そうなんですか。

八木:そうなんですよ。台湾だとバラード系がよかったりとか。「デジタルで発信して、反応を見て、向こうに行ってライブをする」っていう流れを作ってほしいなっていう気はしますよね。

継続的な発信の必要性

鈴木:やったことをしっかりと情報として、音楽ファンだったりアーティストのファンだけじゃなくて、こういうビジネスのポイントからも伝えるっていうことが必要なんですかね。

八木:僕らもデータをちゃんと出してないので。しっかり出していかないと、なかなか理解が進まないんで。僕らもそこの反省はたくさんあります。

野田:そうですね。

鈴木:そういったデータを広げてくっていうのは、今後是非BIG PARADEもお手伝いできれば、と思います。

八木:ありがとうございます。

鈴木:これたぶん継続的にやんないと。

八木:そうです。

鈴木:みんなの意識がいきなり変わるっていうことはないので。

八木:そういうことです。

鈴木:はい、継続性も持って。学ぶことも継続性だし、海外にチャレンジしてくっていうことも継続的にやんないと駄目っていうことですもんね、お二人のお話でね。

じゃあそういうかたちで、継続性を持ってやっていこうということで、セッションのまとめにしようかなと思いますが。みなさんからのご質問あれば受けたいと思いますが、いかがでしょうか。よろしいですか。八木さん野田さん、どうもありがとうございました。

八木:ありがとうございました。

野田:ありがとうございました。

(一同拍手)

制作協力:VoXT