孫正義氏が語る、リーダー論

ニケシュ・アローラ氏(以下、ニケシュ):アカデミアはすばらしい教育プログラムで、みんな真剣に学べます。

この部屋にいらっしゃる多くの方たちもアドバイスが必要だと思いますから、「ここはどういう意味なのか」というのを教えられる。

みなさんは若いですから、過去のメインフレームなんかも知らないと思います。今後のライフステージの中で彼らは何を準備し、中と外で何をしていかなければならないのか。これから10年15年の中で、何をやっていかなければならないのか。レッスンの中で、何を持ち帰るべきだと思いますか?

孫正義氏(以下、孫):ベストなリーダーというのは、何百万とか何千万のうちの1人だと思ってます。

ニケシュ:リーダーは生まれ持ってのものか、それともつくられるものですか?

:両方だと思います。

ニケシュ:ですからラッキーであればひとりでになれる。そうでなければすごく頑張らないとダメだということですよね。

:生まれながらのリーダーというのは、正しい人格を持ち、正しい感情を持たなければいけない。

ニケシュ:正しい人格というのはどういったものですか?

:リーダーというのは、自分より他の人のことを考えなければいけない。非常に賢くても、自分を一番に気にする人だったら、ベストリーダーとは言えないと思います。賢くて、自分以外の人のことを考えられる人がいいと思います。

スティーブ・ジョブズのリーダーシップ

ニケシュ:起業家は非常に賢い方たちばかりです。でも、いつも世界を変えることに集中したりとかで、「人」についてあまり考えてないんじゃないですか。

スティーブ・ジョブズに会ったことありますよね? 個人的にもよくご存知ですよね。彼は他の人のことを考える人だと思いましたか?

:彼の形で、ですね。

ニケシュ:ああ、やり方が違うんだと。なるほど。人格というよりやり方が違うと。

:彼のやり方で、他の人に気をつかっていたといえると思います。彼のやり方というのは……どれだけひどい言葉を投げつけたり、どれだけ強く殴ったりしたとしても、彼は何百万というお客様、何十億という人の生活を、次の世代でどうやって幸せにできるかということを考えていました。

ニケシュ:それはフェアですね。彼は世界を変えたい、世界の人によりよい生活を与えたいと。

:何十億という人ですよ。

ニケシュ:全員には良い顔をできませんよね。

:時間がないですからね。気持ちいい言葉というのはお化粧と一緒ですよ。

ニケシュ:なるほど。であれば、起業家は「たくさんのパッションがあって世界を変えたい」「何かすごいことをやりたい」という気持ちが大事だということですね。

:ただし、そうはいっても世界をそこまで大きく変えるためには彼をサポートしてくれる仲間が必要なんです。

ニケシュ:そうですね。

:ですから、やはり「彼」を信じてくれるチームが必要なんです。そのリーダーのためには頑張ってもいいと言ってくれる人たちが。

ニケシュ:「彼」でも「彼女」でも、ですね?(笑)

後継者に必要な能力

:「人間」ですね(笑)。「革新的なことをやるんだ」というビジョンを持ち、想像力を働かせられる人。情熱を持つ人。一生懸命働く人。頭を必死に使う人。そして集中して取り組む姿勢がある人。他の賢い人たちを活用できる人。

ニケシュ:とにかく、情熱を持って周りを説得して仲間にして、よりよい世界をつくるために集中して仕事に取り組める人だということですね。そういう人であれば、後継者になれますか?

:組織のマネージャーになり、その組織を大きくしていくことはできるかもしれません。それはソフトバンクという会社かもしれないし、別の会社かもしれません。あるいは自身で会社を設立してもらって、そこにソフトバンクが出資して成長を助けることもできます。

ニケシュ:ジャック・マーはあんなに大きな成功をしましたけど、彼は自分自身が起業家だから後継者にはなれないでしょうね。

:確かに、自分の会社で非常に成功した人は……。

ニケシュ:彼自身が起業家たちのメンターになれるかもしれない。

:もしくは、自分の会社を成功させた人が後継者になれるかもしれない。強い起業家精神を持って、信念があり、情熱がある。そしてその人物が自分で会社をつくるなり、あるいは今の組織の中からどんどん昇進していくこともあるでしょう。

でも、大きなハートを持っているということも大事なんです。他のスタートアップの会社を成功に導こうという大きなハートを持った人たちが集まり、情熱を持った組織になるんです。

グローバルで成功するために欠かせないスキル

ニケシュ:そういう意味では、多くの成功した会社はグローバルに展開していますね。というのも、世界で成功するためには人脈も必要だし、その結果、正しい選択ができるわけです。

では、ここにいる人たちのうち、どれくらいがグローバルな視点を持って事業を行っていけるでしょうか?

:もちろん、コンピュータを使えばさまざまな情報をリアルタイムで翻訳して入手することができますが、やはり自分の言葉でコミュニケーションができるということが、もっと大事だと思います。

そのためには、日本語、英語、中国語。多くの人が使っている言語ですね。中でも英語が一番便利でしょう。英語を話す人が一番多いですから。

あなたはインド人ですが、英語を話す。ジャック・マーも中国人ですが、英語を話します。ですから、言語能力というのもグローバルという意味では非常に重要になります。それは間違いありません。

それから、ニケシュはファイナンスもよくわかってますよね。かつて金融業界で働いていたことがありますよね。あなたは大学でエンジニアリングを専攻しましたから、数字も強いしファイナンスを理解している。そして、私たちの業界のテクノロジーも理解していますよね。この2つというのは、基本的で絶対必要なスキルだと思います。

こうした絶対必要なスキルがないとなると、私の立場、後継者にはなれないと思っています。それは基本の基本で、それにプラスしてやはり情熱、それとスタートアップを理解できるということ。

そのためには自分自身が起業するか、スタートアップ企業と一緒に仕事をすることも重要でしょう。もしくは、新たなプロジェクトを今いる大企業の中で立ち上げるか。

そうしたプロジェクトを通じてどんどん成長していく。そして、ヒーロー・ヒロインになっていくということです。それができる人。

何が言いたいかというと、ゼロから新しいことを立ち上げて、その中で困難に立ち向かって成功させる力がある人。さらに重要なのは、説得力があるということです。

ニケシュ:社長は説得がお上手ですよね?

:ええ。私は「説得するんだ」という強い気持ちがあるんです。そういう強い気持ちがあれば、相手に伝わると思うんです。起業家というのは、たぶん同じような情熱を持っているでしょう。

ニケシュ:2人で話したんですけれど、私はかつてGoogleにいて、なんでGoogleの仕事を捨てて日本に行かなければいけなかったのか。

もちろん私たちにはいい相性がありましたし、お互い好きになってすぐ意気投合しました。カリフォルニアで話したときもすごく盛り上がりました。「日本に来てください」と言われたんですけど、私は「ダメだ」と言ったんですよね。

その後、孫社長はロサンゼルスに行ったんですけど、そこからすぐ私に連絡してきて「ロサンゼルスまでおいでよ。一緒にご飯を食べよう」と言いました。それも孫社長の情熱なんでしょうね。それで私も説得されたわけです。

孫社長自身も、さまざまな困難を克服してきましたよね。順調だったわけではないですよね?

孫正義氏の子ども時代

:山あり谷ありでした。本当に破産寸前までいったこともありました(笑)。でもそこから立ち上がりました。

ニケシュ:山あり谷ありというのは大変ですけど、でもどんな人生も山あり谷ありだと思います。それを通じて成長軌道を描いていくのですが、どうすれば失敗したときに立ち直れるのでしょう。

:私はラッキーだったと思います。神様に感謝したいです。私は子どものときに、非常につらい思いをしました。日本で生まれましたが、日本人ではなかったからです。もう50年前のことですが。

ニケシュ:50年前だと計算が合わないんじゃないんですか?(笑)

:とにかく、私が子どもだったときです(笑)。当時、日本人じゃない子どもとして日本で暮らしていくのは、つらいことでした。差別もありました。そこで私はとにかく一生懸命、他の子どもと同じくらいあるいはより優れているんだと証明しようと頑張ったんです。

私は戦わなければならなかった。私自身に誇りを持ちたかった。私は「自分は劣ってるんだ」と思わないように頑張ったんです。困難に立ち向かうというのが、私の骨格になりました。

日本企業には受け入れられないと思ったので、「彼らが採用したくないんだったら自分で始めるよ」と。なので私としては選択肢がなく、自分の事業を始めるしかなかったんです。

お金をつくって、成長していくしかなかった。いつも戦わねばならなかったんです。新しい社員を雇い、新しいお客様を獲得し、新しい技術を見つけて……というふうに。

「こういった難しい課題がきたら、より早く学び、どうやってそれを乗り越えるか」ということを覚えますよね。ですから難しい時期には、私の頭の中の知性や情熱が最高潮に到達します。もちろん私でも落ち込んだりすることもありますし、失望することもあります。でも翌朝は2倍の力が出ますね。「よし、答えが見つかったぞ」「頭の中でわかったぞ」と。

ですから私としては、難しい時期を持つということ、間違えること、失敗するということは、神様がくれる最善の贈り物だと思ってます。若い頃により課題があり、よりたくさんこなせばこなすほど多くの解決策が見つかりますし、失敗すればするほどよいアイデアが見つかるんです。

どうやって立ち戻るのか、どうやって生き残るのか、どうやって問題を解決するのかを見つけることになります。その上で、より力が強くなると。

スーパーマリオと一緒です。マリオのゲームをやったことがありますか? 次のステージへ、その次のステージへと進むのですが、その度に新しいスキルを身につけなければいけない。ですから、スキルを備えて次のステージに進むことになる。

我々のアカデミアのみなさんにも、自分で自分の人生を選ぶときに、ぜひ難しいほうにいってほしいと思います。ときには自分から手を挙げて「その難しい仕事は自分がやるよ」「難しい起業に挑戦するよ」と。組織の中でも同じで、自分から手を挙げて一番難しい仕事をする。

ニケシュ:リスクをもっと取りにいくと。もっと勉強して戻ってくればいいんだから、失敗を怖れるなということですね。

:そうです。獅子が我が子を千尋の谷に落とすのと同じですよ。子どもの獅子が上がってきたらより強くなっているのと同じで、アカデミアのみなさんにもそういった自発的で難しい選択をしてほしい。

もちろんアカデミアのみなさんは入れ替え制なので、卒業したり新しい人が入ったりという繰り返しがあります。より多くのアカデミアの人たちが卒業していく中で、その何人かが我々の後継者の1人になり得ると。

ニケシュ:人間の平均寿命が200年になるということであれば、それまでに見つけないと。3人で300年、それでおしまいですよね?(笑)

:でも、新しい考え方も必要ですから(笑)。

ニケシュ:そうするとどうなるんですか? 寿命が200年だと、上司がずっと上司のままじゃないですか。ぜんぜん上司が出ていかない。

:そうなると、自分で会社を始めるしかないですね(笑)。

ニケシュ:それもちょっと心配ですね。その問題は我々にはないですけどね。

:我々には死があるというのもいいことですね。

ニケシュ:それがいいかどうかは別ですが(笑)。

今後300年間のビジョン

:おそらくアカデミアのみなさんには、我々の後継者になるというチャンスだけではなく、自分で起業するというチャンスもあると思います。自分で起業して成功することもできますし、我々が投資してソフトバンクのグループ会社として一緒にやることもできる。

ニケシュ:ここ5年間で起きている現象として、多くの方たちが起業家になろうとしていますよね。中間管理職とかではなくて、会社で今働いていても起業的なプロジェクトを情熱を持ってやりたいと。今は何かを始めるには非常に簡単でやりやすくなっているので、大企業で大きな役職を与えられるよりも、2つのチャンスがあると思ってます。

:組織の中で成長するもよし、またはスピンアウトするもよし。その中で我々は、起業家の中で後継者を見つけていきたい。我々の後継者はやはりそういった起業家のうちの1人であるべきだと思います。もしくは、我々のグループ会社のリーダーであるかもしれません。

ニケシュ:ただ、我々のグループ会社で成長するチャンスもあります。プロジェクトをやってみてから起業する、それから他のグループ会社の勉強もして学ぶというチャンスもある。

:子会社の社長になってみたり、2〜3の社長職をやってみてその後でより高い職に就いたりとか、我々の幹部になったりとか、そういうこともあると思います。また、そこから我々の後継者になったりということもあると思います。

ニケシュ:最後のトピックとして、少し触れましたけども300年のビジョン、今後どうなっていくかということと、それから起業家軍団となって300年維持しようという話をしました。

また、成功する起業家になるには何が必要かという話もしましたね。そうすると、今後「ソフトバンク1.0」から「ソフトバンク2.0」、ポートフォリオ会社になるという変革の過程にあるわけですけど、我々はどう変わっていけばいいと思ってらっしゃいますか?

:私はニケシュを見つけたということでハッピーですし、ソフトバンクは今後グローバル企業になっていかないといけないと思います。

ソフトバンクは国内だけの事業をやっていてはいけない。場合によってはグローバルの経験があり見方を持っている人、そしていろんな世界のリーダーとのコネクションがある人(を迎え入れる)。ニケシュにはそういったチャンスがあり、Googleでそういった経験をしてきた。

ソフトバンクは次のステージ、ソフトバンク2.0と呼ばれるものに成長していかなければいけない。ソフトバンクグループという会社が本社になって、そこからたくさんの投資先の会社、携帯事業であったりインターネット事業であったりヤフージャパンであったりしますが、それらをいろんな国で展開しないといけないわけです。

そこから我々は組織をつくり上げ、カルチャーをつくることができる。できればこれから30年だけではなくて、300年続く会社にしていきたい。それが我々の戦略だと思います。

ニケシュ:これまでのソフトバンクについてよく理解してますけど、その戦略の中で年間どれくらいの投資をしていくつもりですか?

:例えばですけど、少なくとも数十億ドルということになると思います。もっと大きくなってお金ができれば、さらに投資をしていきたいと思います。そういった形でより大きく強力な会社をつくっていき、さらによりたくさんの起業家をサポートしていきたい。大きな魚、小さい魚、もっと小さい魚……。

ニケシュ:それがもっと大きい魚になるかもしれないと。どんどん成長させるということですね。先ほど5つのライフステージについてお話しされましたが、40代のときには大きな賭けをするとおっしゃっていました。でも、40代だけじゃなくどのステージでも大きな賭けをしてますよね?(笑)

:5ステージともに賭けをしてると思います(笑)。それを今後、一緒にやっていくということになります。

時間が少ないのでまとめに入りたいと思いますが、アカデミアのみなさん、こういった若い人たちにはチャンスがあります。10年ごとに次の後継者が見つかり、会社のリーダーがどんどん若返っていく。

ニケシュ:そうすると、私はまだ後継者になってませんけど、すでに私の後継者の話をしているということですね?(笑)

:事故がないようにしてください(笑)。

ニケシュ:いつもその話ばかりしてますよね?(笑)

:でも、必ず元気でいてもらわないと。必ず生き残って、事故から免れるように……。

ニケシュ:その話はやめましょう(笑)。ハッピーな話をしないといけないのに、「死んじゃったら……」というのは。

:まあ、そういったことで私はハッピーですし、我々は一緒になってソフトバンク2.0をやっていきたい。2人で次の後継者を見つけていきたいと思います。

こういった中で、ソフトバンクの生き残り方であったり困難を越えてきたことをお話しできて非常によかったなと思います。今になって、そういう先のことを話せるようになったというのは非常に幸せです。ありがとうございました。

ニケシュ:どうもありがとうございます。今、非常に楽しく仕事をさせていただいています。今後もぜひ一緒に仕事をして、アカデミアのみなさんともお話ししていきたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)