クライアント、利益、創造性のバランス

角田陽一郎氏(以下、角田):僕はそもそもテレビでずっと、バラエティーしか作ってなかったんです。こういうのをやろうと思ったのって、嵐の出た回が視聴率22.何パーセントっていう、ものすごい視聴率だった『フレンドパーク』っていう番組の数字見てびっくりして。

「嵐さんはやっぱりすげえな!」と思ってたんですけど、それ、TBSのスタジオで収録してたんですよ。でも、嵐だったら、国立競技場でやれば7万人が入るじゃないですか。チケット3,000円で売れば、2億1,000万になりますよね。

事務所さんに払うお金とかもあるとは思いますけど、それでも製作費と利益が出るぐらいのお金が残ると思うんですよ。それでテレビで放送しちゃえばいいんだなって、気付いちゃったんです。

なんで僕らは、スポンサーに「CM流してあげるから、中身に関係ないお金くださいっ」てやって、それで番組作っているのか、と。

番組の視聴率をよくするためにってやってたんですけど、その番組自体で自己完結して、お金が集まっちゃえばむしろ本当におもしろいものが出せるんじゃないかっていうことでやってるのが、「ゼロ次利用」という考え方なんです。

佐藤詳悟氏(以下、佐藤):なるほど。角田さんみたいなテレビ局員の方って、今いらっしゃるんですか?

角田:これが、本当にいないんですよ。他局の方とかとも話してるんですけど、構造的な問題で、テレビ作れる人、作れない人って2種類いるんですよ。テレビ局には。

テレビ作らない人は、儲けようという考え方、ビジネスモデルを作っている人たちがいるんですけれど。テレビを作るのは誰かっていうと、例えば今「下町ロケット」という大人気の番組、あれやってる福沢さんは演出原理主義です。いいドラマであればいい、みたいな。

そのほうが格好いいと思っているテレビマンが、たくさんいるんですよ。ところが、ビジネスモデルを組み合わせると、もっとおもしろくできるんだっていうのが、テレビの未来だとは僕は思うんですよね。

だから、ビジネスを考えないでテレビだけ作ってるのが格好いいっていうのがテレビだったんですけど、考えても面白いとなって。得意な部分をもっとミックスしてもおもしろいことが、僕はできると思います。

前田裕二氏(以下、前田):テレビのプロデューサーの方がうまくブリッジに立ってくれるといいなと僕は思ってて。僕らネット側って、局地的で高いエンゲージメントの盛り上がりを作るのは得意なんですけど、それがマスメディアでどのように活かせるかって考えるのは得意じゃないので、そこがプロデューサーの力だと思ってます。

だから、さっきのチヅルさんって50歳の方をそのままテレビに出しても、僕は流行らないと思います。例えば、3人でグループ作りますと。残り2人をテレビで募集して、みんなでグループを結成して、キャンディーズみたいに新しいグループを作って、フィーチャーしていく、みたいな番組を作る。そういう発想が必要なんだろうと。テレビマン的なね。

角田:なるほど。また根本的な疑問になっちゃうんですけど、あるときは素晴らしい、おもしろいものがあるとするじゃないですか。それ、たくさんの人が見たほうがいいのかなって、疑問を感じてて。

それって視聴率とかPV数でアクセス数が多い少ないという話になるじゃないですか。でも、その作品を見て「うわ、すげえ、俺の人生変わっちゃった! 面白い!」と思ってる人がいたら、もうそれでいいんじゃないかなと思ってるんです。

僕が今思ってるのは、視聴率というモデルじゃないとビジネスモデルができないから、それを稼ぐためにたくさんの人に見てもらおうとしてます。そうじゃなくて、見てる一人ひとりにどれだけ刻まれたか。

その人一人の影響力指数みたいなのを、電通さんとかと組んで新しいものを作っちゃえばと思います。

ページビューの競争は新しいものを生まない

米田智彦氏(以下、米田):Webをやってる身としては、すっごい、それはもう思ってて。ページビュー讃歌をもうやめようと。

角田:うん、そっちのほうがおもしろくない?

米田:ページビューの競争って全然新しいものを生まないし、キャッチーな釣りタイトルばっかりで、中身がない人ばっかりなんですよ。離脱率っていうんですけど、僕らが指標にしてるのは、滞在時間。Googleアナリティクスで見れるんですけど。

ライフハッカーって、短い記事も多いんですけど、8,000字とかの原稿もあるんですよ、ロングインタビューとか。8,000字読み終わるまで6分50秒とか、かかってるんですよ。

角田:(笑)。

米田:平均で5分を超える記事とかがあって、ページビューでいうと1万5,000とかなんだけれども、滞在時間が5分以上っていう記事は、読者深度ですね、深さがあるのは全然違う。

それ、プラスαとして、やっぱりシェアですね。ちゃんと読まないで「いいね!」する人っていないと思うんで、「いいね!」されたか、シェアされたかっていうのがひとつ指標になってます。

「視聴率とページビューからいかに脱却してコンテンツ作っていくか」が、今後の未来に影響があると思います。

角田:僕はテレビマンなんで、すぐタイトルをつけちゃうんです。今までは「資本主義」だったわけですよ。お金がどんだけ儲かるか主義だったんですけど、この「し」に点々つけて「時本主義」って言ってるんですけど。

これからは、そのコンテンツがどれだけの時間を、その人の人生にどれだけの価値を与えたかっていうこと。でも今は過渡期で、それを、〇〇だけやったからってお金に換算してるじゃないですか。

米田:本当、そうです。

角田:お金に換算しなくてもいいのでは、と思います。

米田:可処分所得って昔よく言いましたけど、今は、「可処分」=「時間」で、時間の奪い合いじゃないですか。だから接触時間で、「時間」=「お金」=「人生」なわけで、人生をいかに奪えるかの競争なわけですよね。

テレビとWebの“面白合戦”が理想 

テレビと動画とWebって全然食い合わなくて、素人さんを集める母数の広いアンダーグラウンドのステージがあって、僕らみたいなミドルメディアのターゲティングメディアがあって、それでマスのテレビがあってという。出世魚みたいに完了していくというか、ぐるぐる回っていけばいいなと僕は思うんですよね。

角田:そのなかで、すごい天才とかあらわれて。

米田:そうそう。

角田:僕、テレビ作ってて思うのは、やはり「天才」が見たいんですよ。すごい絵を描く人、すげえ歌がうまい、すげえビジネスモデルを作る、何でもいいですけど、天才が出てくるのがみたい。それを紹介したくて僕はテレビ局にいるので。

今は逆でテレビから生まれてない。それは多分、ライフハッカーとかSHOWROOMさんから生まれてくるということがあって。

昔はテレビ局が生んでたと思うんですよね。雑誌もそう。おもしろい人を発掘してるのがテレビだったんです。ところが今は、ネットで話題のあの人をテレビに出そうとか。

米田:そうですね。

角田:最悪なのは、YouTubeのおもしろ映像を全部見せるとか。じゃあ、YouTubeで見ろよと。

米田:バラエティーの後半が全部、YouTubeの動画ってときがあるじゃないですか。もう全部飛ばしちゃうんですけど。

角田:そう。これだけは言わせてください。YouTubeって一時期、(テレビの録画を)無法で置いてるとかで問題になってたじゃないですか。僕らはYouTubeから画像を借りるときって、YouTubeに許可出したりするんですよ(笑)。それ、ちょっと意味がわかんねえなと思うんです。

だから、「YouTube全部見せますテレビ」は、本当にテレビマンとしてやめたほうがいいなって、心から。そこはむしろ同一で戦いたいっていうのがあって。テレビはおもしろいですよ、ネットもおもしろいけど、みたいな「おもしろ合戦」がいい。

その「おもしろ合戦」で、さっきの50歳の女性、僕はそこも未来だと思ってる。若い子じゃなきゃアイドルになれないっていう世のなかじゃなくて変わる。

米田:いや、それはもう変わりましたよね。

角田:そう。お年寄りだって会社作っていいし、お年寄りだってアイドルでもいいし、70歳でラグビーを始めてもいいし。

SHOWROOMで、ラグビーの稽古してるのがめっちゃくちゃおもしろければ、それもコンテンツとして成立するじゃないですか。

SNSの普及で世界の境界線がなくなった

性別とか人種とか年齢とか、そんなことがなくてもいいもの、おもしろいものはおもしろいって、世の中に出現できるみたいなものがあったら、未来としておもしろいし、そうなりたいなって思ってます。

米田:あとはね、国境とか言語を超えていくのが、すごくおもしろくて。この間対談した方が動画サービスやられていて。

群馬県にブラジルの方がすごい移住されてるじゃないですか。サンバのアイドルとか、ご当地アイドルが。ブラジルでYouTubeのアイドルランキングの視聴者数で1番になったと。群馬のアイドルがブラジルでヒットしたというのが(笑)今の時代だなと思って。何とかⅢ世っていう名前でしたけどね。

前田:リンダⅢ世ですね。

角田:Tribeっていう英語あるじゃないですか。あれって集団とか種族……。

米田:はい、種族。

角田:それって同じ意思を持ってる人っていうのが、本来の意味なんですよね。昔、同じ意思を持つには、一緒に住んでいるか血縁じゃなきゃ同じ意思が持てなかったんですよね。ところが今はSNSがあるから、ブラジルと群馬で同じ意思を持てるんですよ。

米田:それから、東京に住んでるとご近所付き合いってあんまりないじゃないですか。今のご近所付き合いって、Facebookですよ。あの人何やってるかなとか、あの人は今疲れてる、活躍してる、昇進したとか。

角田:それってもう、ご近所ですもんね。時空を超えてつながることができるから、それに合わせておもしろいものが出てくるんじゃないかなって思ってるんですけどね。

制作協力:VoXT