バーチャル空間で生ライブを楽しむ時代

佐藤詳悟氏(以下、佐藤):角田さんがテレビ、いわゆるマスメディアのところでお話ししていただき、前田さんにはライブ動画サービスとしての目線で今後のメディアを語っていただき、米田さんにはWebメディアの編集長として語っていただきたいたいです。

角田陽一郎氏(以下、角田):まず、前田さんの話聞きません? 今、寅さん(米田氏)の話聞いたんで。多分、皆さんテレビはわかるんで、前田さんがどんなことをやっているかを見ると、ちょっとメディアの未来が見えてくるかなと。

前田裕二氏(以下、前田):わかりました。では、スマホの画面、映してもいいでしょうか。

画面で歌ってます。こんな感じで、演者と呼ばれるタレントやアイドルの卵みたいな方たちが、世界中のあらゆる場所から配信をしていて。

角田:これ、今ライブなんですか? こんな時間から。

前田:今、やってます。

角田:へえー、おもしろい!

米田智彦氏(以下、米田):アバターがいるわけですね、お客さんに。

角田:今、ライブハウスということですよね。

前田:そうです。こういうところに投げ銭を送ることができます。歌っている子に対してはあまりインタラクションが発生しないんですけれど、例えば普通にトーク、雑談をしてる子に対しても。

角田:これもライブですか。生々しいですね。

前田:左の後方からですね、いろいろアイテムが飛んできてるのが僕です。このアバターの部分がリアルタイムのランキングになっていて、コメントを書いたり、投げ銭をすると、どんどん前のほうにせり出していくという仕組みになっています。

このバーチャル空間で最前列にいることによって、その周りのファンや演者さんに対して、自己顕示や承認を満たしていく、みたいなことをやってます。

米田:けど、この時間帯でも、このアバターの数、結構な数ですよね、今、ライブでどのぐらいの人が見てるんですか?

前田:今は、200人ぐらいの方が見てます。今この画面上に映っているのは上位の100人だけ。

必要なのはストーリー

角田:今、歌ってる子も、この子もかわいいじゃないですか。さっき裏で聞いたんですが、かわいいアイドルだから人気とかじゃないらしいですね。

前田:人気の要素として一番重要なのは、見た目とかパフォーマンスの良し悪しじゃなくて、感情移入できるストーリーがその人にあるかどうかですね。

米田:そうですよね。プロセスがコンテンツになるって思うんですよね。

角田:おニャン子クラブでしたっけ? さっき、50代ぐらいのおばちゃんが草原のなかで「セーラー服を脱がさないで」を歌ってるのが、すごい人気だっていう話を聞いて。

前田:ちょっと、ここで見せていいのかどうかというのを。

一同:(笑)

前田:結構、エクストリームな事例なので。

角田:エクストリームな事例なんですか?

前田:SHOWROOMはこういうコンテンツばっかなんだな、と思わないでいただきたいんですけど。

米田:でも、けど、誰かを応援したいっていう根源的な欲求は、人間にはあるということですよね。

前田:そうですね。この方は、すごい人気で。どっかの山奥みたいなところで撮影してます。

角田:京都の大原。ご主人が撮影してるって、おっしゃってましたよね。

前田:僕、たまたま、彼女が一番最初にアマチュアの演者として配信するのを見ていて、それが印象に残っているんですけど。そもそもこの方は、34年前におニャン子クラブとかのアイドルに憧れていたと。でも、自分には容姿とかパフォーマンス能力がないから、その思いに30年間ふたをして生きてた。

今の時代になって、SHOWROOMなど自己発信できるツールがでてきました。演者として自分が周りの人を楽しませるというパフォーマンスを、別にテレビに出れなくてもできるんだと気づいて、やってます。

っていう彼女の話を聞いて、彼女の夢をかなえてあげたいと感情移入したファンが応援しているという状況です。

角田:彼女自身も夢をかなえているし、見てる方も「応援したい」という欲望をかなえてるということなんですよね。

前田:そうですね。

いつの時代もリアリティが受ける

角田:これ、すごいですよね。おもしろいですね、インタラクティブというか。TBSでいうと『学校へ行こう!』を先日スペシャルでやってすごく視聴率よくて。軟式globeとか、ジョンレノソとか、すごいのが出てたんですけど(笑)。

あれって昔からある、おもしろい素人さんという、僕らでいうと、ご長寿早押しクイズ。「野球は何人でやるでしょう?」、ピンポン、「6億人」という(笑)、すごいおばちゃんが忘れられないんですけど。ほかにも「和田アキ子さんの一番人気なテレビ番組は?」「アッコに殺される」っていう。とか

こんな、おばあちゃんみたいにおもしろい人がいて、僕らのなかでは「アナログ的に演出をかけて早押しクイズにしておもしろくする」のがテレビだと思うんですよ。

SHOWROOMのように、そういう場を作って「自分で自分の見せ方を演出する」みたいなことができる場というのはおもしろいですね。

前田:そうですね。今後のコンテンツの未来について語る会、というところで、キーワードをお話しすると、「予定調和を壊す」、「偶発性」、あとは「リアリティ」がすごい大事だと僕は思ってるんです。

テレビだとそのリアリティーを担保するのが難しいと思っていて。編集されていたり、さっきの「アッコを殺せ」でしたっけ? それは、ディレクターが指示してるんじゃないかとさえ、僕らは疑ってしまう視聴者になってしまってます。

でも、こういったような演者さんが自分で発信しているものはすべてリアリティーなので、嘘がない。

角田:リアリティーをどう楽しんでいくのかということですよね。

米田:ただ、ライフハッカーでも、記事作って狙っていくと、なかなか「いいね!」が集まらなかったりとか。そういうのって、ネットやWebの世界は顕著だなと。

前田:確かにそうですね。

米田:作為が出過ぎると見抜くんですよね、みんな。

クライアントもユーザーも喜ぶ記事広告を

角田:でも、テレビも本当は一緒で、例えば「この腕時計を『王様のブランチ』で紹介してよ、そうすると売れるんだ」といってみんなが来るわけです。仮に紹介することになったら、この機能が何とか、これはすごい安くてとか、高性能で、とテレビで言ってほしくなるんです。

ところが実は、そんなことしなくても、月9のドラマで小栗旬さんがつけてる時計が一番売れるじゃないですか(笑)。

一同:(笑)。

角田:テレビの反省点でいうと、そういうのが多くなり過ぎちゃっているなと。ライフハッカーさんもSHOWROOMさんも、そういうところを素っ裸で見せちゃうみたいなところがおもしろく見えるんだろうなと、僕は端から見ていて感じます。

米田:僕らはマネタイズの方法として、ネイティブアドというタイアップの記事広告をやってるんですけれど、通常記事と同じような感覚で読んでもらえる記事広告をいかにつくるか、ということに注力してて。一つの記事を作るのに、10倍、20倍の労力かけてつくっていくんです。

これはクライアントや代理店さんがいて、その向こうにユーザーや読者がいるんですけど、クライアントにだけ向いてたらダメなんですよ。

ユーザーだけに向いてても、クライアントが僕を嫌いになっちゃうので。両方を見ながら360度体制で、かつライフハッカーのブランドラインに則った記事をどうやって作るかということが生命線なんですね。

だから、逆にいうと、SHOWROOMさんは、マネタイズをどうされてるのかがすごい気になります。

前田:ユーザー数もふえてきたので、広告とか、いわゆるB向けのビジネスもそろそろ始めようかなと思ったりするんですが。

ただ、事業としては、ユーザーからの課金モデルがかなり回っていて成長しているので、今は広告を入れることでユーザー体験を損なわないという意思決定をしています。

角田:それって要するに、秋元康さんが劇場を作って、AKBを作って、その劇場がSHOWROOMさんなわけですね。

米田:まさにライブハウスですね。

角田:AKBって48人以上いますけど。これ、SHOWROOMでいうとAKB、1億3,000万人みたいな。

前田:そうですね。

角田:そういうことですよね。そのなかで人気があったらセンターに行けちゃうかもしれないとかで、出てる人たちのモチベーションもあがるし、応援して育てていこうみたいな。

前田:おっしゃるとおりです。もっと言うと、そのAKBが60億人みたいな話。

角田:(笑)。そうか、日本に限らなくていいですもんね。

前田:今、海外の演者も増えています。タイとか台湾の演者が増えてきていて、そこでもマネタイズが回るようになってきています。

一つ頭が出た人が本当のプロになっていく、その舞台を提供

米田:でも、そこからクリエーターズじゃないですけど、一つ頭出た人が本当のプロになっていくっていう、Xファクターみたいな、そういう現象も起こるんじゃないかと思うんですけど、その辺どうですか?

前田:実は、実際に我々が意図してマネジメントもやって、昨年、CX(フジテレビ)さんと一緒に生放送番組を作って、そこで選ばれた子たちがCDデビューしました。3カ月前にCDを出したんですけれど、ファーストシングルで1万4,000枚売れて、オリコン10位くらいに入って。

米田:僕らも、雑誌の記事のネタ元がWebということがあって、「ライフハッカーを読んでこの人を取材しました」って、よく言われるんです。昔は週刊誌が先行で早かったんですけど、今はネットが先で、それをネタ元にして紙の記事が作られたりします。テレビもそういうところありますよね。

角田:そうそう。テレビ側として質問していいですか。「ということで人気者になりました。だからテレビ出れるんですよ」みたいな話で、結局テレビってゴールっていうか、認知されたものの権威として思われてるじゃないですか。

ところが、テレビ側の僕でいうと、テレビってそんなものなのかなと。そんなに偉くもないしといいますか。SHOWROOMで人気になることと、テレビで人気になることと、ライフハッカーで人気になることというのは、本当は並列なんです。

よく、「テレビ見ないですよ」って格好つけて言ってる人いるじゃないですか。僕ね、テレビもWebも見ていいと思います。なぜテレビが仮想敵なのかなって。テレビもWebも同じレベルなんじゃないかと。

そうするともう、ただおもしろいものだけが残る(笑)。そのおもしろい人がテレビで人気になってもいいし、ライフハッカーで人気になってもいいし、小説や音楽で人気になってもいいし、SHOWROOMで人気になってもいいし、みたいなことが未来なんじゃないかなと。

スマートフォンがコンテンツを変えた

米田:デバイスの変化も大きいと思います。スマートフォンでの視聴とか、そこで記事を読むこと、コンテンツに触れることがライフスタイルを変えたと思うんですよね。

SHOWROOMさんもそうですし、僕らライフハッカーもやっぱり「8:2」ぐらいでスマホ(ユーザー)なんですよ。8がスマホ。その辺は自分で人体実験みたいにして東京を放浪しながら中継してた時代と、ちょっと違うのかなと思っていて。

昔はツイキャスで回線切れながらやってましたけど、今はiPhone一発でやれちゃうわけじゃないですか。さっきの50歳の奥様のように。その辺は作り手の幅が広がって、表現の仕方が大分変わってくるのかなという気がしますね。

前田:もともと視聴者側だった人が、発信側になることのハードルがすごい下がっているので、コンテンツが広がりやすくなっていると思います。

先ほどのお話に関して思うことがあって、現状と未来なんですけど。まず現状に関しては、僕は、増幅するにはテレビのほうが大きいと思ってます。というのは、その活用の仕方。ニッチな草の根から生まれる局地的な盛り上がりとか、おもしろいものをつくるのはネットのほうが得意だと思います。

それを増幅する装置としては、やはりテレビに代わるものってあんまりない。そのかけ合わせをうまく使っていくのが、プロデュース方法で大事なことだと思っています。

制作協力:VoXT