一流のマーケターは、マーケティングを広告と捉えない

小野進一氏(以下、小野):安部さん、いかがですか。肩書きで言うと、CEO?

安部泰洋氏(以下、安倍):職位。会社を作って、何でCEOをやっているかという話と、もしかしたらフィットするかなと思うんですが。

僕、個人的な話で言うと、先ほどの話と少しニアリーイコールになりますが、日本はやっぱりマーケティング後進国だといまだに思っていて。

例えば日本の技術がすごく落ちてきた、製品が売れなくなってきたと言われていますが、果たして本当にそうなのかと。

例えば、皆さんが持っているiPhone6、昨年2014年世界で一番売れたスマートフォンですが、その中身、実は日本の村田製作所やTDKが55パーセント、iPhone6の部品をつくっている。これは世界最先端の技術は日本が支えていると言えなくもない。

だから、技術は全然落ちてきていないと思っています。世界の産業用ロボットの33パーセントは日本の企業がそのシェアを占めていると考えると、基礎研究開発を含めて日本は全然負けじゃないと。

ただ、日本ってなぜか、製品をつくった瞬間に売るのが苦手という国の特性を持っていて、これは何かというと、過去に高度経済成長期において、大量生産、大量消費のなかでものをひたすらつくって、ひたすらつくった分だけ売れるという、このまやかしや幻想からまだ脱却できていないスタイルがあるなと。

今後、人口が少なくなっていくなかで日本のGDPを上げていくと考えると、「外貨をいかに稼いでいくか」ということが国家のテーマになる。

そのとき、技術大国と言われたこの国を、「技術×マーケティング」大国にしないと、日本の製品は常に雲隠れしてアップルにどんどんお金が流れていって、気づいたらアップルの売上が20兆円になっているとか。

この現象を逆転するためのキーワードって何かなと考えたときに、僕のなかではそのトゥルーがマーケティングだったというかたちで。

会社を作ろうと考えたとき、どういうバリューを持って市場にメッセージを発信していくかと考えました。

狭義で捉えられているマーケティングを、より広義で捉えることによって、この国の製品やサービスというものが世界中へ広まっていく1つのきっかけになるもの、トリガーを作らないといけないと思って、会社を作ったというかたちですね。

小野:すばらしいですね。どうですか日本って。教育面でいうと……例えば、暗記とか(が重視されて)。なかなかマーケティング人材が生まれてこない。でも、この先の日本の可能性というか、個人的な意見としてはいかがでしょうか。

安部:そうですね。日本がマーケティングに弱いというのは、当然、教育という背景もありますし。でも僕は、ここから大きなイノベーションが起きてくると思っていて、まさに川上さんや西井さんがされていることだと思うんですが。

一流のマーケターは、マーケティングを広告と捉えないんです、絶対に。広く捉えるので。そうなったときに、物流や商品開発に絶対に携わっていかないと。

1つの化粧水を売るにしても、じゃあ100ミリリットルで1カ月使える物を売ったほうがいいのか、50ミリリットルで月1回ユーザーにちゃんとコミュケーションをとったほうが売れるのかを考えないといけない。これって広告だけ見てCPAが上がった下がった言っていたら、絶対に気づかないことがあるので。

世のなかが変わっていく、テクノロジーが進化していくなかで、必然的に、マーケターの視界って上がっていくはずなので。上がったら、広告だけ取りたいっていうような現状維持バイアスと、そうだったら、いわゆる売上が上がっていかないという、そこから脱却していく力学。その力学の観点で言うと、間違いなく後者のほうが強くなっていくはずなので、そういう人材は生まれやすい世のなかになっていくんじゃないのかなと思いますね。

小野:少なくとも、皆さんには是非なってもらいたいですね。

西井敏恭氏(以下、西井):「マーケティング後進国」という意識を持たないとだめですね。

安部:そうですね。

西井:安部さんがよく言っているんですけれども、私も自分で会社を作って、きちんと日本にマーケティングを伝えていきたいという思いがあります。僕らはしっかり現実を見て、そのなかで何をやっていくかということを考えないといけないと思います。

小野:ありがとうございます。

会社でのポジションを得るための資質

小野:川上さんは、最近執行役員に、就任されました。今年ですか?

川上智子氏(以下、川上):今年の4月です。

小野:このなかにも川上さんのように長く勤めていらっしゃる方がいると思うのですが、長く勤めるなか、自分の会社でポジションを得るにはどうしたらいいか伺えますか。

川上:執念というか怨念かなと思っていて(笑)。私の場合、世のなかに必要だと思う製品やプロダクトなりブランドを、必要な人に届けるんだ!という思いが誰よりも強かっただけだと思います。

小野:「会社で偉くなりたい」と思っていたわけではないのでしょうか。

川上:はい。思ってないです。でも女性って、「偉くなりたい」というモチベーションよりも、「何をしたいか」という目的意識のほうがあるので。そのためのスキルやキャリアを経営側が補填してあげるという考え方のほうが、事業部長やCMOがスムーズに生まれるのではという感覚がしています。

小野:日本だと、そういう会社がまだ少ないような気がします。

西井:おっしゃるとおりです。今聞いてて思ったのが、経営者自身が変わらなきゃいけないと思いました。「上に行きたい、行きたい」と言っている人ばかりを上げていくのではなく、全体をきちんと見ている人をしっかりと評価して、職位についてもらうということが大事ですね。

小野:そうですね。

川上:経営者ってコミットしてもらいたいじゃないですか。すごいリスクを背負っていろいろやっているので。なので、コミットしてくる人材を引き上げがちだと思うんですけれども、女性は特にコミットをわかりやすく表現してくる人は少ないかもしれません。そんな中でうちの社長も私も価値を生んでいる人材の見極めを意識して、これからやらなきゃいけないなと思っています。

小野:どうですか、会社のなかでそういう意識は。ちゃんと上に伝わっている感じ?

川上:難しいんですよ、それが(笑)。

小野:ほかの役員の方も若いですよね。

川上:若いですね。うちは30前後です。

小野:女性が多い?

川上:半分ぐらいです。でも、増えましたね。2年前は私1人で、今半分くらいになっているので。社長が意識的に女性の登用をしています。

小野:ターゲットが女性だからというのはありますか?

川上:それはありますね、化粧品なので。

西井:お客様のことをわかってないと。

「認めてもらいたい」より「お客様に喜んでもらう」

小野:西井さん、CMO、マーケターに重要な資質や経験、どう思われますか?

西井:お客さんに使い続けてもらうことがマーケティングなので、僕はお客さんに喜んでもらえるのがうれしいというか、自分ごとになる人がマーケターに向いていると常に思っています。

ほかの仕事ってそうじゃないかもしれないんですけど。例えば、「上司に認めてもらいたい」というよりも「お客様に喜んでもらうのが自分の喜び」と思えるような人が、マーケターとしてはすごく向いている気がします。

経験で言うとマーケティングでは僕は、「広く深く」と。「広く浅く」ではなくて、どんどん広く深くやっていかなくてはいけない。ひたすら経験値を積まなきゃいけないし、勉強しなきゃいけない。CMOになる人だったら、それを覚悟でやるしかないと思っています。

小野:旅人は生きているんですか?

西井:まったく生きていないです(笑)。

(会場笑)

小野:生きているのかなと、思うんですけれども(笑)。

西井:旅人が役に立っているとこを1つだけ言うと、旅行をしているといろんな民族の人に会って、いろんな人がいろんなことをやってくるわけです。

アフリカでは石を投げられたりして、むかついたりするんですけれども、社内でもいろんな人がいて、いろんな経験があって、いろんな考えがある。そのなかで自分とまったく一致しなくてもすばらしいところってきっとあって。日本なら少なくとも日本語通じるから、アフリカいるよりは理解しあえます(笑)。

その人の過去にある背景は違うので、それを踏まえてしっかり一緒にやっていくのが、マーケティングのなかですごく重要なので、これは本当に役に立っていると思います。

小野:旅人っていろんな人種と会う、会社もいろんな人種がいる、というような。

西井:そうですね。「西井さん、よく怒らないね」と、前職でも今の会社でもよく言われます。僕は怒らないマネージメントをするんですけれども、怒らないというのは、そもそも別にイラッとしていない。これは結構、旅で培われたものです。

小野:もともと怒る性質なんですか?

西井:昔はそうです。結構イライラしていたんですけど。旅行してからイライラしなくなりました。

小野:心が広くなった。

西井:はい、そうです。何気に旅人、役に立ってますね(笑)。

CMOやマーケターに求められる経営者に近い資質

安部:僕は視点の高さが重要だと思いますね。マーケティングは経営であり、経営に一番重要なファンクションはマーケティングだと思っています。

そのなかで、マーケターの重要な資質というのは、経営者としての視点を持ちながら、全体を俯瞰的にものごとを見られる力ということ。

今の市場のなかのサービスは、商品のライフサイクルが死ぬほど速くなっていて、一気に売れるサービスは一気に売れなくなるということです。サイクルが速くなってきているなかで、世のなかの経済やマーケットというものを「点」で見るのではなくて、「線」で見ることができるというスキルが大事で、もはや経営者のスキルと同じだったりするので。

企業のマーケティング部門やマーケターの位置づけを、もう少し上にあげていかないと、「マーケターになろう」、「マーケターとして力をつけよう」という意識自体がなかなか根づいていかないと思います。

そういった意味では、経営者に近い資質やスキルがCMOやマーケターには求められるんじゃないでしょうか。

小野:ありがとうございます。川上さん、いかがですか。

川上:今もしここに代理店系の方とかいらっしゃるようだったら、経験という意味でいくと、エンドユーザーの声を浴びるほどわかるような場所には行っていただいたほうがいいかなと思います。

広さっていうのは後々ついてくるとはいえ、肌感覚で消費者のことをわかっているんだということが、点での販売もそうですし、経営といった観点でも、世のなかのことを肌感覚的に感じられるかどうかということは、多分あとからついてくるという感じではないと思うので。

小野:代理店、だめですかね? まったく接点が低い……。

川上:そうですね。広告主は選んだほうがいいと思います。エンドユーザーのことを開示してくれる広告主さんもいると思うんです。私たちは、そうしているんです。お客さんからこういう声が出ているのでと、開示するようにしています。手段だけをつくっていくようなことは、やめたほうがいいかなと。

小野:はい、ありがとうございます。

最後に、「儲かりますか?」という話を入れたんですけれども、私人材の仕事をしているので、マーケター、クリエーター、営業とかって分けると、マーケターの年収は一番高いんです、平均でとると。

広告代理店でも、企業のなかでもマーケターは平均的に高いので、基本的に儲かると思うんですけれども。どうですか、そこは?

西井:儲かりますね。経営そのものなので、マーケティングを動かす人が変われば、売上は上がる。ただ、売上を上げられるCMOじゃなかったら、儲からないと思います。なので、売上を上げるようにすれば儲かるんじゃないか。と、思います。

小野:そりゃそうです。どうですか、安部さん。

安部:全く同じですね。営業では売上を伸ばした分だけのインセンティブもらえるってあったんですけど、CMOって営業よりも上位に立つものなので、西井さんがおっしゃるとおり、その人間が1人入ったら売上が2億円上がるのであれば、年収5,000万円払っても全然安い、という話なので、ここからさらに上がっていくんじゃないかと思いますね。

小野:どうですかね。

川上:同じく、儲かります。

(会場笑)

小野:それでは皆さん、既にマーケターの方も、クリエーターからマーケターへでもいいですし、営業からマーケターでもいいので、儲かりたい人は目指していただければと思います(笑)。

西井:儲かる世のなかにしなきゃいけないですよね。

小野:そうですね。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

制作協力:VoXT