ストリーミングはダウンロードの敵ではない

鈴木貴歩氏(以下、鈴木):八木さんお話ありがとうございました。ここで野田さんにももう1度戻っていただいて、パネルディスカッションという形式で進めさせていただければと思います。

先ほどのTuneCoreの事例を拝見して「ストリーミングが伸びるとダウンロードも伸びる」っていうのがすごく面白いなと思ったんですけど。

野田威一郎氏(以下、野田):そうなんです。みなさん、特にアーティストさんとかは「どうなるんだろう、これ(ストリーミングで)出しちゃうと」みたいなことを気にする傾向があるんですけど。実際、それで「落ちた」って声はあまり聞いたことがないんですよね。

鈴木:TuneCore使ってるアーティストなので、カタログはそんなないわけですもんね。

野田:そうですね。そんな数があるわけではないっていうのもあるんですけど。ただ、リリースしていて、ストリーミングで認知が上がったっていうことだと思うんですよ。なので、それに応じてダウンロードも上がった。

やはり、消費者側が全員ストリーミングを使ってるわけじゃないってことですよね、単純に。なので、(ストリーミング視聴者とダウンロードする人が)かぶってないんじゃないかなっていうのが、今のところ僕の見解です。

ダウンロードする人はダウンロードするし、CD買う人はCD買うし、ストリーミングサービス使う人はストリーミングサービスを使ってるので。

もちろん、全部使うっていうすごいコアな方もいらっしゃるかとは思いますけど、絶対数的にはまだ意外とかぶってないんじゃないかなって。

違法コンテンツの問題は?

鈴木:なるほど。そういった使い方の話でいうと、KKBOX八木さんが見て、アジアの人ってどういうふうに音楽に接してるイメージですか?

八木達雄氏(以下、八木):アジアの人って、もうCD販売より先に配信が始まってたりとか、逆にCD売るためのプロモーションツールとして(配信を)使ってる場合もあったりとか、随分状況は変わってきてると思うんです。

なので、先ほど申し上げたようにPCでかなり壊滅的な状況があったので。逆にいうとストリーミングサービスができてきて、違法コンテンツがなくなり、CDの市場も若干復活してきているっていう。その前までには戻りませんけどね。トータルでしたら、市場全体では上がってるみたいです。

鈴木:ヨーロッパでも似たような傾向がありましたもんね。アジアもそこに近づいてきてる、というところですかね。

八木:そうですね。もともと市場が非常にちっちゃかったっていう状況で、やっとマネタイズできてる状況が増えてきたのかなって思います。

鈴木:ちなみに海外でも、さっきのなんちゃらミュージックみたいな無料アプリっていうのは、普通に配信されてるわけですよね。

八木:ありますね。そうなんですけど、いちばん大きいのは、アーティストがちゃんとサービスにコミットしてるということ。

そういう意味で、Listen Withのイベントに出たりとかがファンに伝わって「きっちりアーティストがコミットしてるサービスだからこれ使おうよ」っていう状況にはなってるのかなという気はしますけどね。

鈴木:それはアーティストが自ら言ったりするんですか。「ここは使うなよー」みたいな。

八木:いや、言わないですね。ただ、今、日本だと「ITリテラシーが低い」って言われちゃうんですね、有料サービス使っちゃうと。「俺、有料の専用サービス使ってるぞ」って言ったら、「お前馬鹿じゃないの」って言われちゃうんですけど。

向こうでは、さっき言ったように、先行配信をしたりとか、ライブ配信をしたりとか。信頼関係ができてるので、ファンも信頼してこのサービスを使うっていう、いいスパイラルにはなりますね。

鈴木:なるほど。それはサービス側とアーティストとか、業界の中でもしっかりと合意形成みたいなのができてるんですか。

八木:そうですね。だからプラットフォーマーっていう立場だけじゃなくて、コンテンツをレコードメーカーさんとかプロダクションさんと一緒に作ってるっていう状況がうまくできてるのかな、っていう気はしますけどね。

本気マーケティングから鼻歌まで

鈴木:TuneCoreで配信してるインディーズとかのアーティストでいうと、ある種、自分たちの食いぶちというか、そこには結構シビアなイメージでいるわけですよね?

野田:そうですね。ただ、結構な数がいるんで、テンションは大分ピンキリですね。

鈴木:さっきの「鼻歌を配信しちゃおう」みたいなのもいるわけですね。

野田:そうですね。酔っぱらったノリで出してくる人もいるんで。

鈴木:酔っぱらったノリで出してくる。それはどうやってわかるんですか。

野田:わかんないですけど、ちゃんと歌えてない。

鈴木:歌えてないやつもある(笑)。

野田:そういうのもあるんですけど。比較的本気でやられてるなっていうかたちだと、かなりシビアに見ていて。データとかを毎日見て、マーケティングする、「これはこうだのああだの」っていうアーティストも出てきてますね。

鈴木:ちゃんと歌えてない人のプレイリストとかあったら、逆に人気が出るかもしれない。

野田:そうですね。それは考えたりもしてますけど、実際どこまで出すのがいいのかは悩ましいですね。

鈴木:本人たちは狙ってないかもしれないですもんね(笑)。

野田:そうなんですよね。「僕らがやることか?」みたいなね。でも、かなりいろんな種類のアーティストがいるなっていうのは(あります)。正直ネットの文化って、量っていう部分で、誰でも上げられるっていうモデルにはなってるので、「どこでどうなるかわかんないな」っていうのが正直なところではあります。

「風呂ストリーム」に4000人

鈴木:ちなみにKKBOXだと、さっきのListen Withとかいろんな独自の取り組みって、例えば台湾とかだとどれぐらいの頻度でやるんですか? 例えば「毎日帯番組みたいにやってるのか」とか。

八木:そうですね。たぶん週3ぐらい。

鈴木:週3だけやってる。

八木:最近でも11月、12月は日本でも週1ぐらいでトライしようかなって、今スケジュールが(立ってます)。

鈴木:利用者は増えてるイメージですか?

八木:日本国内ではまだまだですけど、台湾ではさっき出てたMaydayっていうビッグバンドがありまして。

例えば、台湾の高雄の5万人のライブ会場を5日間埋めるようなライブをしたんですけど、そういう人たちがやると、システムが落ちちゃったりとか。

普通にオフィシャルでやらない時でも、例えば彼らがお風呂入ってる時にListen With30分だけやったことがあるんですけど、それだけでも3000人、4000人集まっちゃったりとかするんで。

オフィシャルで「イベントやりますよ」っていう時以外に、楽しんでアーティストがやり出してるんで、それを入れると結構頻繁にやっているっていう。

鈴木:Listen Withって、何時からとかって決まってるんでしたっけ?

八木:カレンダーがあって、今日の19時から21時までっていうのはやってるんですけど、これはプロモーションの一環で。それ以外に、結構アーティストが個人的に、実はしてるっていう。

ユーザーがアーティストをフォローしていくと、ポップアップで通知がくるんで、そうするとまた(話題になって)、ファン同士でコミュニケーションして、リスナーが増えるっていう。新しいかたちのラジオみたいな。

ラジオ的な配信の場を

鈴木:なるほど。じゃあ、アーティストが自分の好きなタイミングでもできちゃうっていうことですね。

八木:そうですね。ただ、最近はライブストリームのサービスが、台湾でもそうですけど、日本でも(たくさん出ている)。

鈴木:このあとツイキャスも出ますしね。

八木:そうなんですよ。(その中では)非常に地味に見えるんですよね。なんだけど、僕ちょっと1回、アーティストがやってるところを見て、非常に印象的なのがあって。

インディーズ系のバンドだったんですけど、自分の新曲を初めてそこでオープンしたんですよ、Listen Withで。その時に、自分の楽曲を作ったボーカルの子が、ものすごい緊張して「どういう反応がくるのかな」っていうのを見てたんですよね。

ああいうのってライブストリームとかだと伝わらない。というか、そういう雰囲気って出せないじゃないですか。リラックスした雰囲気なのか、作った顔を出さなきゃいけないとか。結構ラジオっぽい配信の場って面白いなって思ったんですよね。

「自分の曲を使ってください」と直談判

鈴木:そのプロモーションで言うと、TuneCoreを使って上位にいるアーティストっていうのは、最近だとどんなプロモーションをやってるんですか?

野田:TuneCore自体のアーティストで、プロモーションをしっかりやってる個人の人たちっていうのは、意外とそんなに多くないんですね。やっぱり自前でやられてる方が多いんで。

ただ、ソーシャルのネットのサービスを多用してるのと、海外でストリーミングで上位に入ってるアーティストさんとかは、海外のアーティストとコラボを、自分で海外のサイトとかでプロデューサーと知り合ったりして。

鈴木:海外のサイトっていうのは、例えばどういうのってわかったりします?

野田:作曲家が集まるようなコミュニティサイトみたいなのがあるらしいです。それはアジアみたいなんですけど。

ボカロPのフィリピン人と出会って、それが3~4組ぐらい集まってコンピを出すっていうことで。いわゆる、それがプロモーションになってるっていうような状態ですかね。

お金を使ってどうこうっていうことは、どうしても事務所だったりとかレーベルさんが多いんですけど、インディペンデントで動いてる方たちっていうのはそういったかたちでやってますね。

先ほどの台湾の事例の方も、アプリに「直接問い合わせた」って言ってました。

鈴木:そうなんですか。

野田:「僕の曲使ってください」っていうのを単純に連絡して。

鈴木:さっきの、お名前なんでしたっけ?

野田:Miliさん。

鈴木:Miliさん。このゲームが好きだからっていうことですか?

野田:ユーザー目線で行って「自分の曲を使ってくれ」と話をして、直談判で通ったのがきっかけですね。

このツールを使ってプロモーションをしてっていう使い方とはちょっと違うんですけど、それがきっかけになってるっていうような話が、今は多いかなと。

鈴木:それも全部自前でやってるから、小回りっていうか、アクティブにできるっていうことですよね。

野田:そうです。まだそういう事例しか出てないんですけど。ここからそれを期に、どういうふうな展開をしていくかっていうことが出てくるのかな。

国境を超えたコラボでバズを生む

鈴木:今、作曲家の人たちが、コライティングとかって、国境を越えて一緒に曲を作るっていうのは結構あるんで。それ自体が今度は、ソーシャル的なところを使ってプロモーションにつながるっていうイメージですかね。

野田:そうですね。まさに「日本で使われてなくても、海外のユーザーが聞く」っていうことが、海外のプロデューサーと一緒に組むことで自然に行われるので、数ヶ国の方とコラボするとそれが数ヶ国で起きているっていう状態で。それがバズりやすいのがストリーミングサービスかなと。

「ダウンロードで買ってよ」っていう話よりは、友達に共有しやすいので、そういうのが浸透している国では、再生数が勝手に増えてるっていう状況らしいです。

制作協力:VoXT