Webデザインの仕事がない! 選択肢は「無職」か「起業」

ブランドン K. ヒル氏(以下、ヒル):こんにちは。猪子(寿之)さんと誕生日が一緒のブランドン・ヒルです。昨日、イベントやってたんですよ。

DC(David Collier氏)が予選1位(笑)。Japan Nightという、スタートアップのピッチコンテストで、12社プレゼンしました。全部英語なんですけど。400人オーディエンスが来て、大盛り上がりでした。すごく激しい戦いだったんですが、DCの今作っている「Comic English」というのが見事1位になりました。

トップ5が来月のサンフランシスコの決勝に行けるという。JALがスポンサーをしているので、トップ5に入ると、フライトマイレージがもらえて行けるという画期的なイベントです。入らなかったところはすごく悔しがってました。それのために今回日本に来ていて、今日が一番疲れてる(笑)。すごく大変だった。

では、本題に。僕はbtraxという会社をサンフランシスコでやっておりまして、実はなんと12年目という感じなんですけど。子どもの頃はほとんど日本で育っていまして、父親がアメリカ人です。高校まで日本にいて、得意だったのが副教科だけだったんですよね。一番得意なのが図工で……やってたでしょ? 図工。でも、日本は図工で大学入れないじゃん(笑)。

(会場笑)

(大学)入れなくてアメリカに行ったんですよ。そしたら今、みんな何か図工をやっていて、時代が追いついてきたなという(笑)。僕は音楽とか、美術、技術・家庭科、図工が大好きだったんですね。大学の受験で、日本でぜんぜん入れなくて、アメリカは受験がないのでアメリカに行きました。

そのままカレッジに行って、音楽を勉強していたんですけど、途中でマルチメディアというクラスがあって、音と映像と画像を全てミックスして表現できるということを知って。もう「これしかない!」と思って。大学2年のときかな? 「もうそれで生きていく」って決めました。

その次の月くらいからWebデザイナーのフリーランスの仕事をやってたんですよ。身につけたい技術を全部履歴書に書いて出したらすげえ受かったんですよ(笑)。「これできる」って(書いて)。受かってから必死になって、「受かったから(身に)つけなきゃな」と思ってやるんですけど、なかなか間に合わないんです。

最初、学校の先生にやってもらってた。仕事受けてプログラミングとかやってたんですけど、わからないからコンピュータサイエンスの先生のところに行って、「これ、自分のプロジェクトでやってるんですけど、ここわからないので、どうですか?」(って聞いたら)、「すごい君頑張ってるね」って言われて。 すごい気に入られて、「じゃあちょっと貸してみな」とガチャガチャガチャってプログラミングを書いてくれて。PHPとか。それでギャラもらってたという(笑)。詐欺みたいなもんです。

(会場笑)

その学校も、ずっとサンフランシスコなんですけど、卒業するまでに、3年生からデザイン科に転換したんですね。アメリカは3年から専攻を選ぶので。デザインを基本から全て学びたいなと思って。その当時、総合大学の中でWebとかマルチメディアとかデジタルメディアとかだけの学部はなくて、インダストリアルデザインだったんですよ。工業デザインだったんですね。物を作るデザインとか。

結果的に言うと、今、僕としてはそれがすごくいい経験になっていて。スクリーンメディアにしか興味がなかったんですけど、仕方なく物のデザインとかプロダクトのあり方とかファンクショナリティとかを学んで。3Dとかもやって。普通のレイアウト、タイポグラフィとかもやりました。

卒業して、デザイナーとして華々しく活動する予定が、時期が悪くて就職できなかったんですよ。「ドットコムバブルがはじけた」とかいうことになって、Webデザイナーの仕事がない。それでそのとき、選択肢が2つあったのね。無職になるか、起業家になるか、という。

起業家のほうがかっこいいじゃない? 響きが。それでそっちを選んで。そのときに、btraxという会社を作った……というか登記をしたと。アメリカはオンラインでできちゃうので。「一応形だけでも無職じゃないぞ」というのをやっていたら、いつの間にか今に至っているんですけど。

軌道に乗り始めた3年目…そして誰もいなくなった

全く無計画で(会社を)始めて。しばらくはアメリカでアメリカのクライアント向けのデザインとかWebの仕事を2、3年やっていて。そのときに、「ああ、日本語できる」って思い出して、アメリカの日本向けのローカリゼーションという仕事を始めたんですよ。そしたら、これがけっこう需要があって。珍しいということもあって、仕事が入るようになってきた。

そこから少しずつ本当の会社っぽくなって。3年目かな? 自宅で始めていたものを、ちゃんとしたオフィスに引っ越して、スタッフも増やして。ここからやろうかなと思ったら、あるときスタッフが全員辞めたんですよ。一気に。誰もいなくなった。

僕はデザイナーではあったんですけど、経営者をやったことがなくて。中途半端なことをやってたら、本当にスタッフがいなくなりまして。そこからまた立て直しみたいなことをやって。まあ、結果的にはそれがすごい良かったんですよ。そのときに入ったスタッフは今でもいるし。今日これから話す内容になってくるんですけど、仕事も少しずつWebデザインからそれじゃないものに変換していったんですね。

ビジネスの中心はシリコンバレーからサンフランシスコへ

今のうちの会社でやっている仕事というのは、ここのスライドで出ているんですけど、イノベーションプログラムというのをやっています。

サンフランシスコで、日本の企業がうちのオフィスのプロジェクトルームでものづくりをするんですね。短いものだったら3日。今日やったみたいなワークショップも含めて。そこからどんどん、時間をかけてやるものであれば2ヵ月くらいかけて、1つのアイデアを出してプロダクトを作るというのをやってるんですよ。

大企業向けにやっていて。デザインシンキングとかユーザーセンタードデザインとか、リーンスタートアップの方式とかを活用してやっていくサービスなんですね。こういうのを提供していたり。

あとは、これも3日前にスタートしたんですけど、D.Hausというコワーキングスペース。うちの会社のサンフランシスコオフィスが……これ言っていいのかな? 8年同じオフィスに入っていたんですよ。SOMAという、サンフランシスコ市内のすごくいいところに。そしたら、最近サンフランシスコはその地域でスタートアップがめちゃくちゃブームになってきていて。

ちなみに、僕がいるのはサンフランシスコでシリコンバレーではないので。よくシリコンバレーとか言われるんですけど、「違いますよ」みたいな。東京ディズニーランド、東京じゃねえ、みたいな(笑)。シリコンバレーからサンフランシスコは車で1時間かかるから。現地はサンフランシスコのほうがすごい盛り上がってて、シリコンバレーはちょっとおとなしくなってるぐらいなんですね。

わざわざサンフランシスコに来る会社が増えていて。例えばGoogleもサンフランシスコにオフィスを出してますし、セールスフォースという会社は本社をサンフランシスコに移してますし、LinkedInという会社も本社ビルを立ててますし、今度Appleがサンフランシスコにオフィスを出すんですよ。

どんどんどんどん、シリコンバレーからサンフランシスコにビジネスの中心が移動していて。理由は、若者が多く住んでいる街ということと、デザイナーがけっこういるということなんですね。ひと昔前はエンジニアがすごく重要で主体だったので、エンジニアが多いシリコンバレーにスタートアップ、テクノロジー企業が多かったんですけど。

家賃高騰のサンフランシスコで見つけたオフィス

最近は、デザインの重要性がすごい高まっている。サンフランシスコは、デザイン会社とかデザインスクールがすごくあるので、デザイナーが育ちやすいんですよ。なので、サンフランシスコに移動してきて。そのおかげでどんどんどんどんオフィスの賃料が上がっていて。僕としては非常にいい迷惑なんですけど。数年前と比べると、リアルに4倍とかに上がってるんですよ。

僕もすごいびくびくしてたんですけど、今年の9月末でオフィスの契約更新だったんですね。いいオフィスですごく気に入っていたんですけど、2ヵ月くらい前に「死の手紙」が届いて。「契約更新しません」って書いてあったんですよ。「家賃上がる」とかじゃなくて。「契約更新しないことにしました」って大家さんから手紙がきて。すごいショックじゃないですか(笑)。

(会場笑)

どうしようかなと思って。タイムリミットもあるし。それで、必死になって探して。50軒ぐらい物件見たんだけど、いまいち。それまで入ったいたところと同じか、いい物件に行きたいじゃないですか。なのに、倍の家賃で半分くらいのスペースとかしょぼいエリアとか危ないところなので、「ああ、もうやだやだ」と思って隣町とかオークランドとか見たんですけど、「いや、サンフランシスコから出たくない」と思って。

それで、大家さんにダメもとで手紙書いたんですよ。1ヵ月ちょっと前くらいに。「どうにかできないか?」という。「もっと大きいスペースでもいいけど」みたいなこと送ったら、「ちょっと明日話せるか?」ってきて、話したら、「お前のところの契約更新はしないけど、実はもう1個、同じビルの同じ階で空いたところがあるから興味ある?」って言うから「ある」って。

行ったら、僕が前からすごく「ここのユニットいいな」って思ってたそのビルで一番大きなユニットが、そこに入っていたスタートアップが急に倒産して、空くことが決まって、それでそこに入ったんですよ(笑)。本当に最高なんですよ。びっくりして。

ただ、大きさが前のところの倍以上あって非常に広いので、どうしようかなと思って。それで考えて、コワーキングやろうと思ったんですよ。日本の企業がよく来て仕事させていただくんですけど、今、海外進出するにあたってすごいオフィスが出しにくい状態なんですね。家賃が高すぎちゃって。うちが大きいところをがぼっと借りたので、そこをデスク貸しすると貢献できるんじゃないかなと思って。それでD.Hausというのを。デザインを主体にしてやってるんですよ。

サンフランシスコってコワーキングスペースたくさんあるんですけど、エンジニアリングシェアだったり、あとはVCとかの投資とかが多いんです。うちの会社はデザインのコンサルティングとかをやっているので、イベントやワークショップやメンタリングのデザインに関するものを提供しながら、地元も含めて企業にサービス提供できればと。スペースとメンタリングとネットワーキングを提供したいなと思っていて。

場所も、スタートアップがたくさんあるど真ん中に存在しております。デザイン会社もけっこうあるんですね。有名なIDEOとかfrogとかそういうところもあるんですけど。そういうところと仲良くしているので、外部のデザイン会社とのコラボレーションもしやすい。

デザイン会社のマップがあればいいんですけど。それでD.Hausというのをやることにして。やるって言ったらオープンする前から7社くらい契約をいただいて。「家賃助かったー」みたいな(笑)。逆転の発想でした。すごいありがたかった。そして、これが1つの良いサービスになっておりまして、注目をいただいております。外部メンターとかもいて。

機械に取って代わられる仕事は辞める

ここからが本題になるのかな。なんでそういうふうにしてるかというと、まず、サンフランシスコという街は、ビジネスをやるにはあらゆる意味でコストが高い街なんですね。人件費も日本よりぜんぜん高い。初任給で1000万とか普通なので。家賃もすごく高い。家賃で言うと、1ベッドルームの平均が40万円ぐらいですね。

なかなか大変じゃないですか。10万円出してガレージに住めるか、ぐらいなんですよね。冗談抜きに本当ですよ。それぐらい大変なので。なんでかというと、世界レベルで活躍している会社がものすごい多いんですよ、サンフランシスコって。85万人ぐらいの人口で、山手線の内側くらいの面積なのに、未上場で企業価値が1兆円以上ある企業がごろごろしてるんですね。ユニコーンって言うんですけど。

世界で一番未上場で企業価値が高い会社はUberという会社なんですよ。これ、(企業価値が)5兆円なんですよ。2番目がAirbnbという会社で、4兆円なんですよ。あとPinterestとかDropboxとかいくつかあるんですけど、これらは全部サンフランシスコにあるんです。あと、もちろん上場しているTwitterもあるし。なので、すごい厳しい世界なんですね。

何が言いたいかというと、中途半端にビジネスをやっていても生き残れないんですよ。「細々と…」と言うと失礼ですけど。うちはいわゆるWeb制作会社で始めたんですけど、それだとコストが全く合わないんですよ。絶対勝てないので。コストが安いところに奪われて終わるというのを3年目くらいから感じ始めて。

スタッフと話して、人がやらなきゃいけない部分だけにフォーカスしようと思ったんですね。機械とか安いところに機械的に発注できるものはそっちに絶対取られちゃうから、それをやっていると絶対会社が死ぬということに時間が経てば経つほど(気づいて)。コストも高いところだし世界で一番競争が激しい会社があるところなので。考えたときに、何が残るかなと思って。

AIとか機械学習とかディープラーニングとか最近言われているけど、「クリエイティブなものは機械には取って代わられない」という結論に至って。やっぱり物を何もないところから考えて作り出すというのは、まあしばらく機械でもできないだろうと。できたものを改善したり、インプルーブとかグロースハックとかはできると思うんですよ。

現に、実はサンフランシスコのとあるスタートアップなんかは、まだリリースしていないからどこまで精度が高いかわからないんですけど、AIでWebサイトを作って、自動的に更新するという会社があるんですよ。これすごいですよ。これが本当に実現したら、Webデザイン会社はつぶれますよ。

ユーザーが文字と写真をアップしたら自動的にWebサイトが生成されて、ユーザーがアクセスしたのを感知して勝手にグロースハックするんですよ。ずっと改善し続ける。勝手に。一番コンバージョン率が高い形に、放っておいてもWebが進化するんですよ。

そういうサービスを作っている会社があったりするので。するともう終わるじゃないですか、Webデザイン会社。なので、機械に取って代わられることと賃金の安いところに投げられる仕事は辞めようと思いました。ちなみに、賃金の安いところに投げるという話で言うと、実は世界的に見るとコスパが一番高いのは日本とかなんですよね。

Web制作とかでアウトソースするときに、日本の会社が払ったお金に対する価値が一番高い。実は世界規模で見ても、インドとかベトナムとか言われてますけど、日本はそういうのを受ける側としては非常に良いんですけど、逆に「それをやり続けてても先はなかなかないよね」とは思います。

企業が気づき始めたデザインの重要性

それでクリエイティブなことにフォーカスしてやりたいなと思っていて。うちの会社は2年前にbtrax Japanという日本オフィスも作りまして。そこで働いている山名啓太が今日来てるんですけど。

彼はうちのデザイナーで、サンフランシスコで1年働いていて、今は日本に所属しています。またサンフランシスコに来月から仕事で行くんですが。日本とアメリカのオフィスでやっています。彼の仕事も、デザイナーで入っているんですけどUXをメインにやっていたり、絵を描くとか制作じゃない部分をフォーカスしてやってるんですね。

制作というのはうちの会社で言うとなくなってしまうものになるんですけど、ユーザーエクスペリエンスやビジネスにおけるサービスデザインとかはこれからどんどん需要が高まっていくだろうと。実際に伸びているデザイン会社はそういうことをやっている会社が多くて。

サンフランシスコで、今どういうことが行われているかと言うと、そういう優れたUXやサービス設計のできるデザイン会社って、大きな企業が目をつけて最終的に買収してるんですよ。ニュースで見たことある人もいるかもしれないんですけど、Adaptive PathというUXの会社が金融に買収されたり。アクセンチュアがFjordを買ったり。最近だとマッキンゼーがLunarを買収したり。

世の中的にどうなってるかと言うと、金融とかビジネスコンサルというすごく大きなお金が動くビジネスモデルのサービス会社がデザインの重要性に気づき始めて、デザイン会社を買い漁っている状態なんですね。Facebookも2年前にHot Studioというのを買った。

なので、デザインの重要性というのは絶対に高まっているんですね。ここにおけるデザインというのは、さっきも言ったようにグラフィックデザインとかじゃなくて、サービスとUXのデザインなんですね。ここは今でもホットだし、これからも絶対伸びていくものだと僕は信じていて、そういう会社作りをしています。

そこにおけるデザイナーというのは、うちの会社のビジョンの1つでもあるんですけど、「スタッフ全員がデザイナーであれ」という考え方があって。いわゆるデザインを勉強したデザイナーが「デザイナーです」って言うのもいいんですけど、それだけじゃなくて。

例えば総務とか営業とか、いわゆる直接デザイナーじゃない人たちにもデザイン的な考え方を常に持って改善や効率化、ユーザー視点で見て最も正しい優れたソリューションを考えることを常に実行するようにしてもらっているんですね。「デザイナー何人ですか?」と言われたら「全員です」というくらいなものなんですよね。

それだけ重要で、根幹になっている部分だと思っているので、ユーザーの視点に立って正しいソリューションを提供するという意味では全員がデザイナーということでやっている会社ではあります。

さっきみたいなJapan Nightというようなイベントも、僕の勝手な趣味で始めたものが、5年前からやってたんですけど、いつのまにか注目が集まって、今回で8回目だったんですよ。スタートアップのイベントって、2010年に始めたら日本にはなかなかその当時はなくて。スタートアップという言葉もあまり知られていなくて、それでなぜか注目されて。

サンフランシスコだったらスタンダードで毎晩やってるイベントなので、これを日本のスタートアップ向けにやったらいいかなと思って。サンフランシスコだけでやってたんですけど、評判が良かったので3回目から東京予選をやったら、やるごとにオーディエンスが増えて。今回420人くらいかな? チケットがSold Outでうれしいんですけど。

日本でも新しいことを作り出す会社であるスタートアップの認識や社会的注目度が上がっていて、すごくうれしいなと思ってやっています。こんな話で大丈夫なんですか? 大丈夫?

すいません、本当に。昨日の2次会3次会ですごい疲れちゃって(笑)。日本に来たら24時間働いてるんですよ。アメリカの時間もあるじゃないですか。日本の昼間も働いてるでしょ。1人コールセンターみたいになって。

(会場笑)