スモールビジネスの支援は何千億もの人々の雇用を生みだす

ジェリー:初めから一貫していると思うアリババのビジョンは、とてつもないスケールに到達することだと思うんだけど、アメリカやその他の国も含めてグローバルに考えたときのビジョンは同じなのかな? アリババのインターナショナルプランはどんな感じなんだろう?

ジャック:少なくともぼくが引退するときに、「スモールビジネスの経営をより簡単にする」というビジョンが変わっていくのは見たくないな。でも”中国の”スモールビジネスとは言っていない。グローバルに支援するんです。それが我々のビジョンであり、決して変わらないミッションでもあるんです。

でも60年もしたら、ぼくが生きているかも分かりませんし、スカイロケットとか色んなものが出来ているかもしれません。ただ我々のグローバル戦略はアメリカのやり方とは恐らく違います。過去20年間、グローバライゼーションとはアメリカナイゼーションのようなものでした。ビッグカンパニーのビジネスを支援する──もちろん、悪いことではありませんが──ビッグカンパニーがグローバルになることを手助けしていました。

しかしインターネットにより、これから30年のグローバライゼーションは、スモールビジネスのグローバル化を支援すべきだと思っています。中国では、我々の働きによって、少なくとも1400万の雇用を昨年生み出しました。

我々の持つテクノロジーや資源を結集して、スモールビジネスを支援すること。もし我々が世界中のスモールビジネスをもっと支援できれば、何千何億もの人々の雇用を生むことができます。その考え方は変えるつもりはありません。

我々のグローバル戦略はEWTOを形成することです。それがスモールビジネスの販売を支援します。消費者、アメリカの消費者を手助けします。アフリカの消費者も、72時間以内にオンラインで買ったものが届くように支援します。

アメリカのスモールビジネスが農産物を中国に売る手助けもしたいです。過去20〜30年、中国は売ってばかり、輸出ばかりでした。政府にはそれを受け入れるように説得しました。今後10〜20年は、中国は海外からモノを買わなければいけないんです。

現在中国には3億人の中産階級がいます。10〜15年後には、それが5億人になります。彼らは高品質の製品やサービスを求めます。だからもっとアメリカやヨーロッパから輸入するんです。ビッグカンパニーはすでに中国のあらゆる場所にあります。だからスモールビジネスを支援しましょう、というのが我々の戦略です。

我々は競合するためにアメリカに行くわけではありません。なぜAmazonやeBayと競合しに行くのかと聞かれますが、世界はとても広いんです。なんで競争することしか考えられないんでしょうか。スモールビジネスが中国に来ることを考えてみましょう。我々の戦略は世界のスモールビジネスを支えることです。彼らが中国に来る手助けをする。それを考えると、とてもワクワクしますね。大歓迎です。

ジャック・マー氏の世界一ラッキーなところ、アンラッキーなところ

ジェリー:慈善事業についてだけど、中国の環境問題に関してもジャックは個人的に財団を作ったり、リーダーシップを取ってきたよね。個人的な慈善事業の進歩と、中国における一般的な慈善事業の動向についてはどう思ってる?

ジャック:正直に言うと、ぼくはラッキーなんです。もっと言えば、世界一ラッキーか、世界一アンラッキーですね。アンラッキーな面で言うと、どこにも行けないし、プライバシーもない、こんなふうになるなんて思ってもいませんでした。ブサイクだと言われますが、自分ではちょっと顔が特徴的なだけだと思っています。

(会場笑、拍手)

ジェリー:誰もジャックのことをハンサムだとは言わないよね。

(会場笑)

ジャック:ジェリーはひどい目を持ってるね。ぼくの家族や、教育のバックグラウンドで言うと、(手で示しながら)ここがゼロだとすると、ぼくはマイナス2かマイナス3くらいです。本当にね。ぼくは父や母、祖先のことを知っていますが、政府の役人やビジネスリーダーのような人はひとりもいません。

だからこの20年間1セントも政府からは、中国銀行からも、もらうことができませんでした。お金がないなら、ゼロから始めるしかないんです。どれだけ一生懸命働いても、(さきほどのレベルで言うと)2か3ぐらいにしか到達出来ないでしょう。

でも今はレベル6ぐらいにいます。この4つの差をつくったのは、ぼくじゃないんです。人は「ジャックは素晴らしいよ」と言ってくれますが、ぼくはそんなにすごくないんです。まあ「ジャックはダメだな」と言われたら、「そんなに悪くないよ」と言いますが。

(会場笑)

中国人のチームワーク力を向上させる教育を支援したい

特にIPOのときは、「ジャックは本当にスマートだな」と言われましたが…(困った表情をするジャック)。とにかくラッキーだったんです。2〜300万ドル持っていたら、それは自分のものです。でも2000万ドル持っていたら、トラブルになるでしょう。IMBについて知らないし、アメリカドルが上がったり下がったり、銀行や株式市場、大量買い付けなんてことを考えていたら、頭が痛くなってしまいます。10億ドルもあったら、それは自分のお金ではないということを覚えておいてください。

それが人びとから、みなさんに課せられている期待です。人はみなさんに期待しているんです。人はあなたが誰よりもうまく資金をやり繰りしてくれると信じているんです。もしそれを自分のお金だと思ってしまったら、きっとトラブルになるでしょう。

ぼくはそう思ったことは一度もありません。「ジャックは中国最大のお金持ちのひとりですね」と言われますが、ぼくは他の人たちがお金をやり繰りするのを助けているだけです。ではどうやったらもっとうまくお金を使えるのでしょうか。

ぼくが心配していること、やりたいことは教育です。ぼくは教師になるための勉強をしていましたからね。6年間しか学校で教えられなかったことに罪悪感を覚えています。だからどこに行っても、ぼくはCEO(Chief Education Officer)だと言ってるんです。

(会場笑)

コミュニケーションにベストを尽くします。中国の教育システムについて、問題があると言う人もいますが、知識を与えることに関してはとてもよく出来ています。教えることに関しては、中国が世界一です。どこの大学に行っても、テストの出来が一番良いのは中国人の学生です。スタンフォード大でもそうですよね?

(会場笑)

その点はすごく良いんです。ただ文化やチームワークに関してはひどいです。だからそこをもっと努力しないといけません。これがぼくの支援したいことです。

<h2本当に寄付しなければいけない場所>

2つ目は環境について。大気汚染や水など、あらゆる環境問題に懸念を抱いています。だから自然保護協会に入ったんです。

もう1つは、慈善事業に関するインフラです。数年前にビル・ゲイツがウォーレン・バフェットと中国に来て、全財産を寄付しろとぼくを説得しようとしたんです。ウォーレンに「おいくつですか?」と尋ねると、「80歳だ」と答えました。だからぼくは「80歳になったら寄付しますよ」と言っておきました。

(会場笑)

ぼくはまだ40歳ですよ? ぼくにとっての慈善事業とは何でしょうか? 北京や上海は裕福ですが、中国のほんの一部でしかありません。西の方に行くと、たくさんの貧しくてひどい地域があります。だからビジネスマンとして、雇用を生み出し、新たなビジネスを創るんです。

みんなが職を得られるようにして、良い状態で人生を送れるようにするんです。これが鍵となります。

2つ目、みなさんはビル・ゲイツに寄付することができます。ぼくは誰に寄付すべきでしょうか? 赤十字?

(会場笑)

誰に寄付すればいいんでしょうか? お金を使うことは、お金を稼ぐことより難しいんです。特に慈善事業に関しては。良い心を持っているときは、良い知識とお金を使うための能力も持っています。そうでなければ、良い心をもちながら、良いことをひどいやり方ですることになります。

だから慈善事業をきちんとできる人を育てていこうと思っています。それで北京大学と協働しています。初めての慈善事業の学位です。人を育て、お金をやり繰りする方法や、プロジェクトを管理する方法、ものごとを良くする方法を教えます。

政府とも、より良い政策をつくるためのプログラムを一緒に作ろうと思っています。このようなインフラ、才能、政策をつくるとき、中国式慈善事業の時代が来ているのです。その鍵は優れたインフラです。

中国ではビジネスは優れていますが、インフラが出来ていなければ、ビジネスは乱高下してしまいます。だからぼくは教育、環境、健康にお金を使います。我々は健康の問題にも関心を持っています。いま準備しなければ、とても大きな問題になります。すでにいま取り組んでいるエリアですが、残念ながら十分な時間がありません。

だからチームをつくります。慈善事業にとってもっとも簡単なのはお金を寄付することです。逆にもっとも難しくて、価値のあることは時間とアクションです。そこで、環境保護、水の保全に対してアリババの毎年の総収益の0.3パーセントを投入します。

おそらくこれが独特な点ですが、利益ではなく、収益を基準としているんです。ここに株主の方がいたら、すでにIPブックに書いています。我々はこれが正しいと思っています。もしコミュニティが優れていれば、人びとが健全であれば、ビジネスも健全になるんです。

(拍手)