サービスローンチ直後の苦労

秋好陽介氏(以下、秋好):3人ともそうやって、今までになかった新しいものをつくって……出すのは大変ですけど、出せるじゃないですか? 出した後にある程度使ってもらう、僕は個人的にそこが一番苦しかったんですね。

0から1を生み出してサービスができた。そこから使ってもらうためにどうされたんですか?

佐々木大輔氏(以下、佐々木):僕は最初はそれこそvisasQでモニターになってくれる人にお金払って「使ってください」みたいなことをやりましたね。

その後、実際にリリースしたらすごい口コミで広まったって、とにかく使ってくれる人の数が増えましたと。ただ、その人たちに徹底的に手厚いサポートをして。

もう最初なんで、改善点がいっぱいあるんですよね。まずはそれを徹底的に直して、今たまたま飛びついてくれた1,000人のユーザーたちをどれだけハッピーにできるかっていうところに徹底的に投資しましたね。

どっちかっていうと、最初にたまたま集まってくれたんで、そこから無理にお客さんを増やすっていうところを頑張るんじゃなくて、まずは来た人を徹底的にハッピーにするためにはどうするかと。だから、ウチは訪問営業をしないんですけど。

ただ、最初の頃っていうのは、実際に会いに行って、どうやって使われてるかとか、聞いたり見せてもらったりするっていうのは徹底してやりましたね。

秋好:リリースして「何かいけるな」ってなるまでどのくらいかかりましたか?

佐々木:それは、初日だったんですよ。

秋好:あ、いきなり?

佐々木:いきなり。それはTwitterで「どうやらこんなすごいのが出たらしい」みたいなのがバーって広がっていって。

多分僕たちが出した段階では、ごく一部の人が「こんなものがあったらいい」ってすでに思っていたんですよね。

そういう人たちが広めると、周りの認識もちょっと変わってくるんですよね。「あの人がこう言ってるから、いいんじゃないか」みたいな感じで。

だから全く新しいものに対しては、オピニオンリーダーがどれだけ飛びついてきてくれるかによって、受け入れやすさのレベルが変わってくるのかなと。

コンセプトとしての共感以外に必要な物

松本恭攝氏(以下、松本):そのケースでいくと、Twitterでバズるとか、Facebookですごくシェアされるとか、最初のタイミングで結構バーっと広まるんですけど、実際に売り上げが立ち始めて、本当にお客さんが価値を感じてお金を払ってくれるところで、「これいける」って思うようになるまでに、ちょうど1年かかりましたね。

コンセプトとしての共感はすぐに出るんだけれども、やっぱり1年くらいかけてちょっとずつ。とはいえお金を出すとなると、共感のもう1個難しいところにきていて。

そこは本当に自分でひたすら営業に行って、クレームを受けて、ヒアリングをして、ひたすらお客さんに会って、「何が価値なんだ?」っていうところを見極めて、サービスを創るのに1年かかりました。

秋好:じゃあ、1年後くらいに「いけるな」って感じだったんですか?

松本:1年後に「いけるな」って感じになりましたね。

秋好:なるほど。僕でいうと、2年ぐらいかかったんですよ。

松本さんと一緒で「オンラインで働けます!」って言うと「コンセプトはすばらしい……で?」みたいな感じだったんですよね。

コンセプトはすばらしい。何でも仕事できますっていうサービスだったんで、「コンセプトはいいけど、何発注したらいいのかわからない」と。

最初1000人くらい会員がいたんですけど、デザイナーさんもいれば、ライターさんもいれば、翻訳する人もいて、マッチングがあんまりできなかったんですよね。

これではダメだと思って、最初「ロゴのコンペです」っていうふうに言って、ロゴを依頼したい人と、ロゴができるデザイナーさん。依頼があったら僕がインターネットで検索して、1件1件デザイナーさんにメール送ってたんですよ。ラブレター。

1,000人くらいメール送ったら、700人とか結構な人数が登録してくれて、今もヘビーユーザー。

佐々木:それは登録してない人を新たに登録させた?

秋好:そうそう。「こういう依頼があって、あなたのポートフォリオのこの黄色のイラスト素敵なので、登録して、こちらでやらせてください」っていうメールを送ってたんですよね。

そういうのをカテゴリーごtnロゴでやったり、イラストでやったり、キャラクターだったりデザイン分野で上手くいったら、Web製作やシステム開発のカテゴリーに広げていって。

そうすると、2年くらい経つと、勝手に増えていくようになったんですね。システムも改善していったんで、さっきの話だとフィットするタイミングが2年くらいに来たんだと思うんですけど。

それまでは本当に会社に行くのも嫌なくらい憂鬱でしたね。自分は信じて起業したのに、2年間鳴かず飛ばずで、売り上げも10万くらいで、俺はどうなるんだと。

佐々木:でもそれ、使われた方っていうのは満足してたんですか?

秋好:満足はしていただいたと思いますね。

マッチング系ビジネスの難しさ

佐々木:なるほどね。でも、そういったマッチング系ビジネスって、本当に最初難しいじゃないですか。

両方仕事もなきゃいけないし、仕事してくれる人もいなきゃいけないし。これって、どう火をつけるものなんですか?

秋好:さっきの話とかぶってしまうんですけれども、ランサーズの場合でいうと、完全にシステムでやるのは最初は難しいので、ジャンルをまず絞って、人力でメール打ったり、あまりアクティブでない会員さんがいたら連絡して「提案してください」って言うことによって、歯車をちょっとずつ動かし始める。

それで回り始めると、うまく回るんですよね。依頼がアクティブにあると、デザイナーさんも来るし。

だから、一番最初に人力でやって、それを仕組み化していった。それでうまくいったっていう形ですね。

佐々木:なるほど。松本さんはそういうマッチング要素ってあるんですか?

松本:例えば、新しい市場を創ろうっていう、今まさにやっているところが1つあって。印刷だけじゃなくて、デザインをクラウドソーシングして、そのデザインの効果をクラウドソーシングで事前投票してもらう。

チラシって1回配布してみないと結果わかんないみたいなところを、事前にアンケートを取って、どのクリエイティブが一番いいか評価をして、印刷をして、それを例えば新聞折込だったり、ダイレクトメールだったり、ポスティングチラシだったりで配布するという。広告代理店が当たり前にやってるようなことなんだけれども。

広告代理店に頼むと20〜30万かかってしまうところを、3万円、5万円っていうすごい単価の低い金額帯でできるような、Webサービス。印刷に基軸を置いた集客のサービスをつくってやっているんですね。

実は印刷業界そのものは、すでに一定程度インターネットで印刷を販売するっていう人がいて、eコマースから進んでいたところで、我々実は後発として入っています。

ただ、今やっていることは、他の誰もやってなくて、我々が初めてやった、これまでになかったサービスをやるみたいなチャレンジをしているんですけど。

やっぱりコンセプトはすごくいいし、使いたいと言ってくれる人もたくさんいるんだけれども、お客さんのニーズというか、想定通りには立たないみたいなところがあって。

ニーズは確実にあるし、満足もしてもらえるんだけれども、どうやって裾野を広げていくかみたいなところを、かなり苦労しながら、まさにゼロから1、新しい市場を創るみたいなところをやってますね。

効率化の先にある市場をつくる

佐々木:なるほど、おもしろいですね。そういった意味では、徐々に話を今後に移していけるかと思うんですけど。

今持っている課題は何で、こんなことに取り組んでいきたいっていうところでいうと、どんなことをお考えですか?

松本:今の話の続きなんですけど、市場を創るっていったときに、結構時間かかるなっていうのが僕の感覚で。

多くの人って、市場ってこういうふうに(比例的増加で)立ち上がっていくものだって思ってるんですけど、実際はこうやって(指数関数的増加で)物事って立ち上がっていくと思っていて、この期間に、ちゃんと価値をつくっていくとか、使いやすいものをつくっていく。

結構数字が立たなくてきついんだけれども、一番踏ん張りどころを踏ん張って、ここをちゃんとできるような体制をつくっていく。

やっぱりそういう新しい市場を創っていける会社をつくっていきたいと思っていて、多くの人が新しい市場をつくろうとしたときに、一番多い失敗は、途中でやめてしまうことだと思うんですね。

佐々木:そうですね。

松本:やめなければ大体うまくいくんだけど、やめてしまう。それはみんなが、こういう(比例的増加)期待値を、計画を立てることだと。

エクセルの悪いところだと思うんですけど、変数を置いて、だいたいこういう計画なんですけど、こんな(比例的増加)事業なんてなくて、大体がこう(指数関数的増加)なんですよね。

この、こうなっている(増加過程の)ところをいかに耐えて、数字には出ないんだけれども、ちゃんと事業の進捗があって、お客さまが喜んでくれる改善を繰り返していく。

ここを知っている組織というか、みんながこの肌感覚を持っていて、どんどん新しい市場をつくっていけるような組織をつくりたいなっていうのが、今やってることも含めて、我々が目指していきたいと思っているところですね。

秋好:最初におっしゃっていた、印刷業界のコストカットっていうところの問題意識から始まってるんですけど、そのコストカットのところになっているのかな? それとも、そうではない新しい価値をつくられてるんですか?

松本:インターネットとリアルが融合することによって、もちろん効率化されて、リアルにあったものをより安く、より便利に手に取ることができるようになるんですけど、リアルって結構オペレーションが大きく絡んでいて、人件費が少なくとも発生します。

それがネットになることによって、例えば会計でも、安い税理士は3〜5万でやってくれるけど、システムだと980円でやってくれますみたいな。

こういう市場の効率化っていう話と、新しい市場がインターネットによってできていて、そのコスト削減をインターネットによって突き詰めていくと、これまで料金を出せずに使えなかった人たちのロングテールの市場ができていって。効率化のその先にある市場の創造を目指してやっていきたいです。

そのためには、やっぱり今話したような、耐えることを組織としてラーニングしていきたいなっていう。

佐々木:なるほど。今までのコストカットじゃなくて、新しい市場ができているっていう感覚はありますか?

松本:あります。我々のお客様のアカウントは今15万あるんですけど、半分くらいが従業員10名以下、もしくは個人事業主なんですね。そういった会社に、これまで印刷会社って営業行ってなかったんですよ。

印刷会社の平均的な単価って、例えば商業印刷やってるところだと、15〜20万とか。我々って、単価1万円なんですよね。2千円、3千円で印刷頼む人が山ほどいて、こういう人たちは昔印刷が頼めなかった。

そういう人たちが使えるようになっているっていうのは、1つ新しい市場の創造なんじゃないかと。

佐々木:なるほど。すばらしいですね。僕は本当に中小企業、個人事業主を力づけるっていうのにすごく情熱を持っているので、なんかそういうのいいなあと思います。秋好さんはどうですか? 今後のことは。

新規市場が起こすイノベーション

秋好:そうですね……今の松本さんの話じゃないですけど、ランサーズも、今までだったらロゴを広告代理店さんに頼むと50万だったので諦めていたような。

例えば、野球チームの監督さんが、自分の草野球チームのロゴを、「ランサーズで3万円でできるんだったらポケットマネーでやろう」と。この3万円って、潜在的なお金が顕在化したんですよね。

こういうことっていうのは増えていくと思いますし、インターネットだけじゃなくて……過去の歴史を振り返ると、例えば「電気」。

電気が発明されたことによって、ろうそく業者さんが一瞬でなくなっちゃったんですよね。でも、電気があることによって広がった市場もある。

馬車が車に変わった例であっても、馬車がなくなって自動車になって、ただ馬車の数千万倍くらいの規模になって、自動車が生まれたことで郊外に住むとか、遠くに行けるっていうイノベーションが起きましたね。

僕らがやっているような新しい市場って悩ましい部分もあるんですけど、間違いなくイノベーションを起こしていると思うんで、そこにもスポットを当てていければなと思います。

新しい市場をつくっていく起業家へメッセージ

佐々木:なるほど、わかりました。今日は「新しい市場を創る」ということで、そこに取り組んでいるお二方にお話を伺ったんですけれども、最後に今後新しい市場を創ることに取り組んでいきたいと思っている起業家の方々に向けて、一言ずつメッセージをいただけたらと思います。松本さんから。

松本:ここにいる3人ってBtoBで、インターネット向けに昔からあった産業をやっていて、どうしても昔からあった産業をディスラプト(破壊・変革)とか、そういう言葉ってよく使われると思うんですけど、でも我々が本質的にやっていることってディスラプトではなくて、新規市場の創出です。

ネットとリアルを掛け合わせることによって、世の中をより良くしていくことができると思っていいます。

佐々木:なるほど。秋好さんは。

秋好:今日この日に生まれた赤ちゃんが就く職業の50パーセント以上は、今ない職業って言われてるんですよね。それぐらい、今後新しい市場っていうのは生まれていく。

先ほどの話もそうですけど、基本的にはやらない後悔より、やった後悔のほうがいい。行動によって新しい市場っていうのはできていくと思うので、ぜひそういうことにチャレンジしたい方は、悩まずにまずやる。僕もまだまだですが、一緒にがんばりましょう。以上です。

佐々木:ありがとうございます。今日の僕の感想としては、やっぱり本当に3人とも共通してるのは、「理想はこうだ!」っていうことを定義して、そう思ったらそのために誰が何と言おうとやってみるというようなことで。

新しい市場って生まれてるんだなというのが、ここの3人の事例からわかったってことが大きな発見で、そういったことに取り組んでくれる人が1人でも増えたら、もっともっと世の中が速いスピードで良くなっていくと思うので、ぜひ一緒に頑張っていきましょう。今日はありがとうございました。

松本・秋好:ありがとうございました。